成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第62話:超知識(チート)vs超能力(エスパー)(延長戦)

 

 

 

 

「…いらっしゃい。お早いお帰りね」

 

「………はい?」

 

 

ヤマブキジムリーダー・ナツメさんを激戦の末破り、6つ目のジムバッジを手中に収めた俺。達成感の余韻に浸り、勝利の美酒に酔いしれ、幸せの中気持ち良く眠りに就く…そんな感じの予定を立てていた。

 

…はずだったのだが、そんな考えはケーキよりも甘いとばかりに、ほんの数秒前に木っ端微塵に粉砕され、現在、俺は何故かナツメさんの前に立っていた。

 

直接的な原因はたぶん、ポケセンで俺を呼び出したあのスタッフが連れていたフーディン。あいつにテレポートさせられたものと思われる。が、分かったことといえばそれぐらいなもので、何故ナツメさんの前にいるのか?誰が仕向けたのか?その他一切の理由は不明のままだ。

 

 

「…さ、それじゃあ約束通り延長戦と行きましょう?」

 

「は、え…?」

 

 

全く以て状況が呑み込めていないが、とりあえずナツメさんも確信犯、敵だということは何となく察した。あと、それは聞いてないですナツメさん。

 

 

「あら、私言ってなかったかしら?『色々聞きたいことはあるけど、試合中だから後にしましょう』って」

 

「……あー…」

 

 

延長戦ってのはそーゆーことッスか…そりゃまあ、試合中の諸々についてナツメさんに大部分筒抜けだったし、「後で聞く」みたいなこと言ってた記憶も確かにある。

 

「…そのために、あんなことを?」

 

「…さて、何のことかしら?」

 

 

しかし、しかしですよ?問答無用でいきなりこの仕打ちはいくら何でも酷いと思いませんか?それにこれは世間一般に言うところの誘拐、もしくは拉致ってヤツですよ。犯罪ですよ。全然良くない。マサヒデさんはそう思います。

 

 

「とりあえず、貴方が勝手に私の部屋に入り込んでいたところを見つけて現行犯逮捕…って筋書きで行きましょうか」

 

「いやいやいや!女性の部屋に無断侵入とか、不法侵入者で変質者以外の何者でもないじゃないですか!」

 

 

そんなシナリオ拒否!断固拒否だ!ふざけんな!俺は犯罪者じゃねえ!

 

…保護者の方は、まあ、うん…

 

 

「…まあ、そんなことはさておき、私は貴方に聞きたいことがたくさんあるの。貴方が試合中に考えてた原作とは何?性格補正とは?努力値とは?私も知らないその出所不明の知識の数々はどこで手に入れたの?教えてくれないかしら?」

 

 

あ、これはアカン。このおねーさん、まともに話聞く気がない件。しかも、拉致の件についてはすっとぼけてやがる。こんなことしでかしといて“そんなこと”扱いは…

 

くっそ、最悪のシナリオがもう目の前だ。このままでは、あることあることガッツリゴッソリ根掘り葉掘り隅から隅までずずずいーっと吐かせられてしまう!その中でもサカキさん絡みの話は特にマズい!バレた時点でどう答えても俺の社会的立ち位置に致命的な致命傷が入る未来しか見えない…っ!

 

 

「…えー…お、お断りします…?」

 

「ダ・メ。貴方に拒否権はあげない」

 

「理不尽!?」

 

 

くっ…ダメ元でお断りしてみたけど、。歳下の子供に向かって何という横暴。アンタもサカキさんと同じか…っ!(最大限の侮辱)

 

…おーけーおーけー、こういう追い込まれた時こそ沈着冷静にいこうじゃないか。ナツメさんの様子から見て、話はするだけ無駄。どうあっても俺に吐かせるつもりらしい。幸い俺の背後はガラ空き。俺を帰す気がないと言うのなら、俺がとるべき手段はただ一つ。

 

クルッと回れ右して…

 

 

 

全速前進DA☆!

 

三十六計逃げるに如かず。駆け出せ未来へ、駆け出せ迷わず。動かにゃ何も変わらない。動けば何かが変わるだろう。

 

さあ、自由で素晴らしい世界へ、いざ…!

 

 

「ディン!」

 

「………」

 

 

…なーんて思ったのもほんの束の間の夢物語。駆け出そうとしたその瞬間を狙いすましたように、突如目の前に音も無くフーディンが出現し、俺を睨んで仁王立ち。

 

かくして、脱走計画は敢え無く頓挫した。もやしみたいにヒョロガリと思っていたけど、至近距離で相対すると普通に背丈あるし威圧感もパネェッス…!

 

 

「フーディン、案内ご苦労様」

 

「ディン!」

 

 

そしてこのフーディン、どうやらナツメさんのフーディンであり、俺をここに拉致した実行犯でもあったようだ。

 

と言うか、お前さん今朝のバトルでスピアーに吹っ飛ばされてたやんけ。何でもう回復してるん?こっちのスピアーたちは未だポケセンで治療中だというのに、おかしない?

 

 

「…で、次はどうするのかしら?」

 

 

ナツメさんが、氷のような眼差しで俺を見つめている。片や俺は打つ手が思い浮かばず、身動きが取れない。つーっと額から冷や汗が滲む。蛇に睨まれた蛙と言う表現がピタリと当て嵌る状況だ。

 

美人であることは間違い無いので、そっちの界隈の方であれば「我々にとっては御褒美です」とでも宣えるのかもしれない。が、生憎俺にそんな趣味はない。

 

くっそ、スピアーだけでも手元にいれば軽く吹っ飛ばして逃げられると言うのに…!前門のナツメさんに後門の狼フーディン…突破口は完全に塞がれた。

 

うむ、これはアレだ。いわゆる詰みってやつだな。

オワタ\(^o^)/オワタ

 

 

 

「…ああ、もう。分かりましたよ、降参です、降参…」

 

 

打つ手もなく進退窮まった俺は、ナツメさんの絶対零度のようにしか思えない視線に対し、大人しく両手を上げるジェスチャーで応じるしかなかった。

 

 

「褒められて悪い気はしないから、逃げようとしたことは許してあげましょう。ここじゃゆっくり話も出来ないし、こっちへいらっしゃい」

 

「ハイ…」

 

 

20歳ぐらいの女性、それも相当な美人の部屋にお呼ばれする…以前の俺では有り得ない、男としては中々に胸躍るシチュエーションだ。が、こんなに嬉しくない場合もあるとは…浮気がバレた時とか、こんな感じなんだろうか?この期に及んで頭に浮かんだのは、そんなしょうもないことだった。

 

ポケセンからの一連の流れ、このマサヒデさんの目を以てしても(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、じゃあどこから話を聞こうかしら…?」

 

「お手柔らかにお願いします…」

 

 

 完全包囲され降伏した捕虜に待っているのは、地獄の尋問のお時間である。全てを諦めた俺は促されるまま椅子に腰を下ろして、机を挟んでナツメさんと向かい合う。席に着いた時にお菓子と一緒に淹れたての紅茶も出してくれたが、それどころではない。

 

何を聞かれるのか、どこまで掘られるのか…でも、逃げ場がないので打つ手もない。

 

 

「どっからでもどーぞ…」

 

「…それじゃ、核心的そうな所からいきましょう。貴方が度々思考の中に挙げていた【原作】とは、何?」

 

「………」

 

 

…どうにでもなれとは言ったが、情け容赦一切無く一番言い辛いところからブッ込んで来たなぁ…

 

 

「…言っておくけど、嘘・誤魔化しは私の超能力の前には無意味よ?」

 

「分かってますって…」

 

 

ナツメさん相手だとこれもあるからなぁ…考えただけでアウトとか、隠蔽のハードル高すぎてどうにもならん。どないせいっちゅうねん、ってレベルの話よ。テレビ番組の企画よろしく、隠蔽出来たら100万円でも貰えないとやってらんねーわ。

 

ただ、こんな与太話としか思えないことをバカ正直に話した所で、普通だったら待っているのは良くて哀れみ、悪けりゃドン引きの視線なんだよなぁ。あたおか認定くらって部屋が凍りつくわ。俺の話がぜったいれいど!ってな。仮に俺が友人からそんな話されたとしたら…まあ、今後の付き合い方について悩むことになるだろう。

 

さて、実際どう説明したものか…

 

 

「…まさか、誤魔化そうなんて思ってないわよね?」

 

「この期に及んで、そんなこと出来るとは思ってませんよ…」

 

 

ハァ…まともに相手してもらえん可能性も多分にあるが、やらぬ後悔よりやって後悔。当たって砕けろだ。悪い方向の予想しか出来ないけど、まあそうなったらそうなった時だ。なるようになるさ。全ては終わってから考えよう。何なら呆れたナツメさんに早々と開放してもらえる可能性も…

 

ただ、流石に関係のない他人に聞かれるような事態だけは避けたい。ナツメさんが話したらそれまでだけど、それ以外で外部に漏れるような可能性は極力排除すべきだ。

 

 

「…その前に、人払いだけはお願いします」

 

「…良いでしょう。フーディン」

 

「ディン!」

 

 

ナツメさんから指示を貰って、フーディンがどこかへとテレポートしていった。部屋の入り口でも見張っててくれるのか?

 

 

「…さ、これで良いかしら?」

 

「ええ、ありがとうございます。では…【原作】のことについて話す前に、ナツメさんは…俺が『異世界から来た』と言ったら…どう思います?」

 

「………」

 

 

意を決して話し出したものの、俺からの逆の問い掛けに、ナツメさんは押し黙ってしまった。

 

まあ、いきなりこんな話されりゃ、誰だってそうなるわな。それに、ナツメさんは超能力で俺が真実と言うか、本気で話していることは分かるはずだから、余計に真意を量りかねているのではないだろうか。気まずい空気が広がる部屋の中、その表情には困惑の色が明らかに見て取れた。

 

しばしの沈黙の後、ようやくナツメさんも口を開いた。

 

 

「冗談はほどほどにして…と鼻で笑い飛ばすのが普通なのでしょう。けど…」

 

「ええ、冗談でもなんでもありません。書類上はトキワシティ出身となっていますが、それはこの世界で生きていくための真っ赤な嘘。本当はよく似た別の世界からやってきた異世界人…ってワケです。自分で言うのも気狂いのような感じがして嫌ですけど」

 

「………」

 

 

俺の与太話のような現実の話に押し黙って考え込むナツメさんを横目に、ナツメさんが入れてくれた紅茶を一口。紅茶は普段飲まないので詳しくはないが、口の中いっぱいに広がる淹れ立てで熱いぐらいの温かさと香りが徐々に全身に染み渡り、未だ残る緊張感を少しずつほぐして和らげてくれる…そんな気がした。

 

 

「いつの間にかこの世界に迷い込んだのが、今から3年ほど前の話。トキワの森を彷徨った末にサカキさんに保護されて、現在に至る…というワケです」

 

「…貴方が異世界人だと、証明出来る証拠は?」

 

「着の身着のままで投げ出されたもんで、物的な証拠は何もありませんよ。もし俺を飛ばした黒幕がいるのなら、『もうちょっとサービスしろよ』って文句言いたくなりますよ、ホント」

 

 

あの時はホント焦った。せめてもうちょっと難易度下げて欲しかったと本気で思ったわ。最初からキャンプ道具一式とか、ゲームから1体でもポケモン連れてこれる特典とかさ。最悪、財布だけでもあればまだ色々と違ったはずだ。と言うか、そもそも元の世界に戻せって話だよ。

 

 

「…仮にその話が事実だとして、それが貴方の言う【原作】と、どう関係があるのかしら?」

 

「俺のいた世界に、ポケモンはいなかったんです」

 

「…!」

 

 

まあ、この世界の人には『ポケモンのいない世界』なんて、衝撃以外の何物でもないんだろうな。俺の答えに、目を僅かに見開いて驚いたような表情を見せるナツメさんを見て、そう考えながら再び紅茶を一口。

 

 

「現実にポケモンは存在しませんでした。しかし、ポケモンと、ポケモンと共に生きる人々の姿、世界を描いた物語は、広く普及し世界的な人気を得ていました。そしてナツメさん、貴女もその物語の中に登場人物の1人として描かれている。私が言う【原作】とはその物語のことであり、その中に登場していた貴女のことなのです」

 

「俄かには信じられないけれど…つまり、貴方にとって私、そしてこの世界は、物語の中の存在…ということかしら?」

 

「ええ。そうだった…んですが、まあ、現状はこの通りです。さっき俺自身を異世界人と言いましたが、より正確には『本の中に入り込んでしまった』とでも言った方が分かりやすいし、適当でしょう」

 

「…その物語の中で、私は鞭を持って女優をしていた…と?」

 

「あー…まあ、そんなところです。もっとも、今よりもだいぶ未来の時間軸の話ですが」

 

 

そこまで言って、さらに紅茶を一口。その様をナツメさんは変わらずジッと見据えている。ここまでゲロっちまったら、後はもう溜まってるもん全部吐き出すしかない。そう考えたら、幾分気持ちは楽になる。深酒して二日酔いが酷い時と一緒だな。

 

 

「じゃあ、性格補正に努力値に個体値…だったかしら?ポケモンに関する専門用語みたいだけど、私は聞いたことさえないわ。どういうものなの?」

 

「それは俗称ですが、俺のいた世界でポケモン育成に絡んで浸透していた用語です」

 

「…ポケモン育成?貴方のいた世界、ポケモンはいなかったんじゃないの?」

 

「ポケモンのいる世界がゲーム…仮想空間…遊びのための箱庭…とでも言えば良いんでしょうか?そんな感じになっていて、そのゲームの中でポケモンを育てたり、対戦させたり…色々やって遊んでいたんです。こちらの世界との違いは、現実か仮想か、本気か遊びか…ってところでしょうか?まあ、中には本気でやってる方々もいましたが」

 

 

廃人とか廃人とか、も一つオマケに廃人とか。ホント、ポケモン廃人の皆さんの世界は魔境過ぎる。

 

 

 

その後、ナツメさんとのお話は性格補正の説明に始まり、種族値・個体値・努力値の通称3値の解説、物理技・特殊技の分類方法、ポケモンが持つ特性etc…ナツメさんによって、この時代の人たちにとっては革新的なポケモンの新情報やらなんやらを、片っ端から俺は吐き出した。

 

 

「…どうでしょう?かなり大雑把に分かり易く噛み砕いた説明をしたつもりではありますが…お判りいただけたでしょうか?」

 

「…トンチキな世迷い事を、延々と聞かされた気分ね」

 

「まあ、この世界の常識からはだいぶ乖離したこと言ってますからね…普通はそうなって、突き放されてお終いですよ」

 

「…でも、貴方のいた世界ではそれが普通なのよね?」

 

「ええ。いずれ研究者の皆さんが解明して、世に発表されていくんじゃないでしょうか?俺の持つ知識に世界が追いつくまで何年かかるかは分かりませんけど」

 

「大した自信だこと」

 

「そりゃあ、積み重ねた年季ってもんがありますから。因みに今でこそ何故かこんな成りですけど、元の世界ではいい年した社会人だったんで、精神年齢は今の貴女よりも上だったりしますよ」

 

「……貴方の言動や考えてることは子供らしくないとは思ったけど、本当に年寄りだったのね」

 

「That,s right。いや、まあ年寄りと言っても30には届かない程度なんですけどね?仕事終えて家で寝てたはずなんですけど、気付いたら子供(こんな身体)になって、トキワの森に身一つで投げ出されてました」

 

「…何故そんなことに?」

 

「さあ?それは俺が知りたい」

 

 

大人のままであれば、自分で働き口の確保とかも出来たかもしれないのに、このおかげで成り行きのままサカキさんの世話にならざるを得なかった。不便なことこの上ない。

 

…いや、戸籍やらトレーナーカードやらのことを考えると、どの道世話になるしかなかったのかな?少なくとも、生活基盤を確立出来るまではもっと時間が掛かっていた可能性はある。

 

 

「…トキワジムリーダー、ね。そう言えば、そこにも何か秘密があるようね?」

 

「……あ」

 

「………」

 

「えっと…ですね……」

 

 

まずい…ついつい話の流れで思考の俎上にサカキさんを挙げてしまった。つい目を背けたくなるが、氷のような絶対零度の眼差しはそれを許さない。

 

 

「…………ノーコメント、ってのは…?」

 

「………」

 

 

その圧力から逃れるように、頭を掻きつつどう答えたものかと知恵を絞るが、失策に気付いて返事に窮する俺に、嘘・誤魔化しの類は認めないという強い意志と言うか凄み込めて、ナツメさんの氷の眼差しが突き刺さる。

 

と言うか、さっき「誤魔化すつもりはない」って答えちゃったよ…どないしましょ?追及の手が伸びてしまった以上は、正直に全てを話す…ワケにもいかねぇよなぁ。

 

ああは言ったものの、これは今までの原作知識云々が些細な事に見えるほどに特大の爆弾案件だ。原作はもちろんのこと、今の社会情勢すら盛大にブッ壊しかねない。何とか波風立たせないように話を済ませたいが…ピンポイントでその話をする辺りナツメさんは俺を逃すつもりはないんだろう。

 

沈黙は意味を成さず、打つ手はない。最早これまで…

 

 

「……まあ、良いわ」

 

「………え?」

 

「そこまで話たくないと言うのなら、聞かないでおいてあげましょう」

 

 

…と思ったら、寸でのところでナツメさんが折れてくれた。助かった…のか?

 

 

「カントー最強の呼び声高いジムリーダーで、大企業の社長でもある人物が、実は悪の秘密結社・ロケット団のボスだった…興味深い話ね」

 

「………」

 

 

Oh…どうやらそれは早とちりだったみたいだ。言うまでもなく全部バレテーラ。

 

詰まる話、俺の足掻きは全て無駄だと、そういうことなんだな?

 

………

 

……

 

 

 

 

…いいでしょう。

 

 

「……ああ、もう!分かった、分かりましたよ!話せば良いんでしょう、話せば!後悔しても知りませんよ!?」

 

 

もうお終いだ、何もかも!後は野となれ山となれ、どうにでもなーぁれ☆

 

 

「トキワジムリーダー・サカキはポケモンマフィア・ロケット団のボスである…それが、俺が知っている事実です」

 

「…それは、貴方の知る物語でそうだったから…かしら?」

 

「………ええ。少なくとも、俺のいた世界で描かれていた物語ではそうでした。恐らく、こちらでもそれは変わりないハズですよ…」

 

 

…ああ、やってしまった…ついに言ってしまった…少なくとも、今の段階では決して誰にも言うつもりのなかった特大級の爆弾を、勢い任せに俺は世に放ってしまった。

 

この瞬間、俺の細やかな守秘努力は儚い露と消えた。さらば、俺の平穏無事なポケモンワールド生活…

 

このことがサカキさんにバレたら、俺の身に降りかかる悪い未来は容易に想像出来る。同時に、俺のみならずサカキさんの魔手はナツメさんにも伸びる可能性が十分にある。下手な動きはしないように釘は刺しておきたい。

 

むしろそうしてくれないと色々と拙いです。お願いします何でも(ry

 

 

「…で、ナツメさんはこれを知ってどうなさるおつもりで?」

 

「……心配してくれるのは嬉しいのだけど、どうもしないわよ」

 

「…え?」

 

 

どうもしない…のか?本当に?

 

 

「何故です?」

 

「…私、そういう事にあまり興味がないの」

 

「…はい?」

 

 

え…これはこれでとんでもない発言な気が…そもそも、貴女さっき「興味深い」って…

 

 

「それは貴方から話を引き出すための方便」

 

「…左様で」

 

「まだ見習いと言うか、仮の立場だもの。そんな大きな話、証拠もなしにどうこう出来るはずないでしょう?そもそも、私戦うこと自体あまり好きじゃないもの」

 

「えぇ…」

 

 

戦うことが好きじゃないって…原作でもそんなこと言ってたような気はするけど、戦うことが主なお仕事のはずだろ。そんなんでいいのかジムリーダー。

 

 

「構わないわ。私、別になりたくてジムリーダーになったワケでもないから。周りの人が推してくれるから、今の立ち位置にいるってだけよ。実力があるなら誰も文句は言わないわ」

 

 

…まあ、ジムリーダーって実力が無いと就けない仕事ではあるから、間違いではないんだろうけど…『好きこそものの上手なれ』って言葉もある。そんな調子で大丈夫か?

 

 

「超能力の修行の一環と思っているから、好きではないけどそこまで苦でもないの。それに正式なジムリーダーになったとしても、私の管轄はヤマブキシティが中心。ヤマブキで揉め事を起こすなら対処するけれど、わざわざ他所の管轄区域の出来事にまで口出しするつもりは無いわ」

 

「…さいですか」

 

「それに、無いのでしょう?その話を証明出来る物」

 

「…確かに、サカキさんとロケット団の関係を裏付けられる物的証拠はありません」

 

「でしょう?訴えたところで、証拠が無ければ貴方のこれまでの話と同じでしかないわ。決定的な証拠が無ければ…ね。いくらジムリーダーと言っても、証拠がなければ周りは動かない…それぐらい、私でも分かるわ」

 

「まぁ…それはそうでしょうが…」

 

 

…そうなんだよな。何も知らない人から見れば、サカキさんとロケット団を結び付けるような物的証拠は現状何もなく、あくまで俺が知識として知っているというだけの話でしかない。下手に訴えたとしても、なしのつぶてが関の山だろうな。

 

それに、ロケット団の手がどこまで伸びているかも分からない。最悪、嗅ぎ回っていることをロケット団側に察知されるだけだ。

 

そう考えると、逆に外部に全く悟られることなく動けているサカキさんの、リスク管理能力の高さの一端が窺い知れる。おそロシア。

 

でも、それも数年後までの話だ。

 

 

「…それは、ロケット団がいずれヤマブキシティで何かトラブルを起こす…そういうこと?」

 

 

…ここまで来た以上、ナツメさんも無関係じゃいられなくなるハズだから、下手に隠すよりも素直に全部白状した方が良いのかもしれない。

 

 

「…俺の知る物語では、ロケット団はシルフカンパニー本社ビルを襲撃していました」

 

「……へぇ」

 

「正確な日時は分かりませんが、たぶん、この世界でも数年後には起こるのではないか…そう考えています」

 

 

シルフカンパニー本社ビル襲撃事件…シルフカンパニーが開発していた究極のモンスターボール、【マスターボール】を狙ってロケット団が起こした大事件。原作ではあと一歩のところで主人公に狙いを阻止され、その後トキワジムに引き籠っていたサカキさんが再び主人公に敗れたことで、ロケット団は解散することになる。

 

原作では描かれていなかったが、規模から考えてヤマブキシティ全体を巻き込んだ一大事件だったハズ。それが失敗に終わって以降、サカキさんとロケット団は色々と追い詰められていったことは想像に難くない。そこにはたぶん、ヤマブキジムリーダーであるナツメさんも大きく関わっていたはずだ。

 

 

「……まあ、心には止めておきましょう」

 

「…出来れば、時が来るまで心の奥にしまっておいてもらえると助かります。それはもう、色々と。いずれ、否が応でもその時は来るハズですから」

 

「…いいでしょう。今は貴方を信じてあげる」

 

「ありがとうございます。是非に、お願いします」

 

 

結局、俺が抱える秘密の類は一切合切ナツメさんにバレてしまったが、それでも何とか穏便な方向に話を持っていくことが出来たので、一応は何とかなった…ってことでいいのだろうか?

 

いや、何とかなったと思おう。うん。臭い物には蓋したくなるし、見たくないものには目を瞑りたくなるものさ。そう思わないと後が怖くてやってられん。

 

 

 

 

 

 その後、色々ゲロったことで心の重石がとれたと言うか、開き直ったと言うか、自然と余裕が持てるようになった。ナツメさんも聞きたいことが聞けたからか、それまでの氷の女王の如き剣呑な雰囲気は消え、かなり遅め…それこそ夕飯直前のティータイムが始まっていた。

 

手持無沙汰に周りを見れば、全体的に明るめの色調で暖かな印象の空間が広がっていた。鏡やら化粧品やらぬいぐるみやら、女性らしいグッズも小綺麗にまとめられている。部屋の空気もオシャレな芳香剤でも使ってるのか、少し甘い香りが漂う。

 

改めて見てみると、なんと言うか…普通の女性の部屋って感じ。

 

 

「…そんなに不思議かしら?」

 

「……ええ、そうですね。少し驚いてます」

 

 

原作での個人的イメージやらあの不気味な笑顔やらもあって、もうちょっと冷たいと言うか暗いと言うか、落ち着いた大人なイメージの部屋か、私物があまりない無機質なイメージの部屋を想像していたが、思っていたよりもずっと女性らしい部屋だった。

 

実際、表情は薄かったりキツい印象だけど、話してみると案外感情豊かなのは分かる。ただ、どうあっても笑顔が怖い印象は拭えない。

 

 

「…私の顔、そんなに怖かった?」

 

「そりゃあもう、一睨みで背筋がゾクリと底冷えするような。ナツメさんもそういうこと、気にしてたりするんですね」

 

「…私だってそういうの、気にしたりはしてるのよ…?」

 

 

まあ、女性ってのはみんなそういうもんなんだろうか?女優として見るなら、それも一つの武器なのかもしれないが。

 

というか、原作での登場シーン的に、むしろそういう感じな役の方が嵌ってる可能性もある。

 

 

「そう言えば、黙っているのなら何でもしてくれるのよね?」

 

「…え?」

 

 

いや、確かについつい心の中で口走っちゃいましたけど、アレは言葉の文と言いますかネタと言いますか、一種のお約束みたいなものでありまして、そこまで深い意味があったワケでは…

 

 

「じゃ、貴方ポケギア持ってるわね?」

 

「は、はい…」

 

「番号、教えなさい」

 

「イ、イエス・マム…」

 

 

どんな無茶を言われるかと思ったが、まあそれぐらいなら…軽い気持ちで、ポケギアの電話番号を伝える。

 

 

「じゃ、お返しにこれを受け取ってもらおうかしら」

 

 

そう言って、ナツメさんが俺に渡してきたのは一切れの紙片。

 

 

「これは…?」

 

「私のポケギアの番号。無理に話聞いちゃったし、何か困ったことがあったら連絡しなさい。出来る範囲でだけど力を貸しましょう」

 

「…ありがとうございます」

 

「フーディン、彼をポケモンセンターまで送ってあげて」

 

「ディン!」

 

「…それじゃ、改めてだけれど、ヤマブキジム突破おめでとう。次のステージでの貴方の活躍を祈っているわ」

 

「…はい」

 

 

 

…そのやり取りの直後、再びの僅かな浮遊感。一瞬の後、景色はナツメさんの私室から黄昏時の街中、ポケモンセンターの前に切り替わっていた。

 

やっと終わったという安堵感、洗い浚い秘密を吐いてしまったことへの罪悪感、この先起こり得る未来への恐怖感…様々な感情と同時にドッと押し寄せた疲労感に、心身ともに圧し潰されそうになる。

 

プラマイゼロ…と気持ちを切り替えることが出来ればよかったのだが、現実はそう気楽に考えられるものでもなく、中々上手くは出来ない。時が過ぎれば朝は来る。しかし、勝利と引き換えに大き過ぎる代償を払った俺の心の夜明けまでは、もう幾分時間が必要だった。

 

或いは、このまま夜が明ける日は来ないのか…そんな暗澹たる思いの中で、ヤマブキシティ、決戦の1日は暮れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後・4番道路ハナダシティ側ポケモンセンター~

 

 

 

 

『…続いてのニュースです。昨日、ニビシティとハナダシティを結ぶオツキミ山トンネルで発生した崩落事故。事故の原因を調査していた警察並びにニビジムの関係者によりますと、事故現場のすぐ近くでポケモンが掘ったと見られる空洞が見つかりました。このポケモンはイワークと見られ、一部にそのイワークが暴れたと見られる痕跡も残っていたとのことで、警察ではイワークが何らかの理由で暴れた結果崩落が発生したとの見方を強めています。この事故ではトンネル内を走行していたバスなど車両8台が巻き込まれ、バスの乗客など、合わせて27人が重軽傷を負い病院に搬送されています。この事故の影響でハナダシティ-ニビシティ間は全面通行止めになっており、現状で復旧のメドは立っていないとのことです』

 

「…嘘だろ」

 

 

 

…そして、こういう時に得てして悪いことは重なるものである。がっでむ。

 

 

 

 




と言うワケで、ナツメさんに主人公の抱える機密事項ほぼ全てがバレました。興味は無いとか宣ってはいますが、この先どうなることやら。

なおこの作品でのナツメさんは、JK卒業したての19歳で、表情薄くて第一印象怖いけど感情は割と豊かで、トレーナーとしては普通に強い上に反則気味の自前の超能力で相手の戦術を読んでくる鬼畜チートだけど、バトル自体はあまり好きじゃなくてジムリーダーとしての自覚にやや乏しい…そんなキャラになりました。

そして、新作発表来ましたね。また今冬が楽しみになりました。
そしてこの作品はまた1つ時代遅れに…
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