成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第65話:終わりの地、始まりの街(1)

 

 

 

「いけ、サンドパン」

「キュウコン、ゴーッ!」

 

「ギュイィッ!」

「クォンッ!」

 

 

 審判の合図と同時に、俺とサカキさん双方の先発のポケモンがフィールドに姿を現した。こちらの先発がキュウコン。対してサカキさんの先発は…まさかのサンドパンという。これは俺への試練、もしくは当てつけのつもりなのか?流石にそれは考えすぎか?俺の主力の一角にサンドパンがいることを分かっている上でのこの選出。普通にじめんタイプだし、何も不思議なことではないが…

 

でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要なことじゃない。サカキさんの意図はともかく、ここからどうするか、どう動けば有利に試合を進められるか考えるんだ。

 

先発の対面は決して良い盤面ではないが、キュウコンなら想定したポケモンのどれが来ても、最低限の仕事は出来るはずだ。最悪というほどでもない。最悪は回避出来る可能性の高い選出をしただけとも言う。

 

で、サンドパンが相手となると…エナボも無いし、サカキさんから見れば有利な対面。初手から攻めて来る可能性大。と言うか、サカキさん自体そういう小細工を弄するより、真正面から圧し潰しに来る方がしっくり来る。

 

…なら、キュウコンには予定通りに最低限の仕事をやってもらうとしよう。

 

 

「キュウコン、にほんばれ!」

「クォーン!」

 

 

甲高い鳴き声と共に創り出された疑似太陽が、ジムの天井付近まで撃ち上げられ、フィールドを照らし始める。ジリジリと焼き付くようなその日差しは、季節的に残暑が厳しいと言うか、夏が戻って来たような感じ。

 

 

「"じしん"だ」

「ギュイィーッ!」

 

 

US・UMでも見た指パッチン。その小気味の良い音を合図に、フィールド全体がグラグラと揺れ始める。頑丈なはずのジムの建物が嫌な音を立てて軋み出し、同じフィールドにいる俺には、立っているのもやっとな状況に。それでも戦況から目を離すまいと懸命に踏ん張ってフィールドに視線を向け続けていると、次々と地割れが走り、隆起、陥没。流石はじめんタイプの大技と言うべきか、それともサンドパンがよく鍛えられてると言うべきか…どちらにせよ、凄まじい威力だ。

 

そして、ようやく揺れが治まった頃には、キレイに整備されていたはずのフィールドは、砂煙の舞う無惨な姿に様変わり。そのボコボコになったフィールド、砂煙の中で、キュウコンは倒れていた。

 

 

「キュウコン、戦闘不能!」

 

 

じめんタイプ最強クラスの大火力、弱点も突かれたキュウコンに為す術は無かった。文句のつけようもないワンパンKOだ。

 

ここは流石のジムリーダー、流石のサカキさん。一発耐えてもうワンアクションとか皮算用していたが、甘すぎる考えだった。

 

 

「…キュウコン、ご苦労さん」

 

 

キュウコンを戻して、まずは一本先行された形。それでも、キュウコンに最低限させたかったことは出来ている。これも折り込み済みな事態。場は整った。

 

 

「んじゃ、行ってこいラフレシア!」

「らっふ~!」

 

 

2番手として送り出すのはラフレシア。特性を活かして晴れ下で上から殴り倒す、対サカキさん用パーティの1つ目の要だ。まずはラフレシアでどこまで行けるか、何体抜けるかが勝負。

 

 

「ラフレシア、ギガドレイン!」

「らっふぅ~!」

 

 

弾かれたようにラフレシアが動き出す。荒れに荒れたフィールドを飛び跳ねるように、必中の距離まで接近。そのままサンドパンに仕掛けた。頭に咲き誇る重厚な巨大な花、その重さを感じさせないウサギのような敏捷さだ。

 

 

「迎え撃て。じしんだ」

「ギュイッ!」

 

 

それを見たサカキさん、落ち着いた様子でサンドパンに再度じしんを指示。しかし、些か機敏さが足りない。なんならうちのサンドパンよりも動きが緩慢だ。そんなスピードでは、キュウコンが残した疑似太陽の光を受けたラフレシアは止められん。

 

 

「ら~、ふぅ~ッ!」

「キュ…ィ…ッ!」

 

 

予想通り、サンドパンの攻撃よりも先に、ラフレシアのギガドレインがサンドパンに撃ち込まれる。迎撃態勢のサンドパンは、踏ん張り切れずに吹き飛んだ。

 

効果抜群。しかも、ラフレシアの持ち物は草技の威力を底上げする【きせきのタネ】。サカキさんのポケモンとレベル差がある場合を考えて、少しでも火力を…と考えての持ち物選択だった。サンドパンの特殊耐久は大したことないので、確定一発も十分狙えると思うが…?

 

 

「…サンドパン、戦闘不能!」

 

「よしっ!」

 

 

まずはノーダメージで1体。キュウコンが先に倒されたが、その犠牲に見合うだけの順調な立ち上がりに出来た。

 

それにこのまま晴れが続くのなら、大半のサカキさんのポケモンには先行ギガドレインを叩き込めるはず。ラフレシアで行けるところまで行くぞ。

 

 

「得意の天候操作か。手慣れたものだな」

 

「別に得意というワケでは…」

 

 

手持ち的にそれが一番勝ちに繋がり易いと思ってるからそう組んでるだけの話でして。あとは選択不可な選択肢が多いってのもある。未発見の技とか他地方の技マシンとかタマゴ技とか。手慣れてるのは否定しない。

 

そう考えると、他地方のポケモンも欲しくなっちゃうんだよなぁ。

 

 

「だが、1体無傷で突破したからと、この程度で満足してはいないだろう?」

 

「もちろんですよ。どうすればサカキさんに勝てるか考えて、勝つために来たんですから」

 

「それは私も同じこと。その戦術、どこまで通じるかな?いけ、ニドクイン」

「クィィーン!」

 

 

こちらの手の内はほぼ丸裸、ってか。そんなことは百も承知の上で、俺は勝ちに来たんだ。

 

そんなサカキさんの2体目として出てきたのはニド夫婦の妻の方、ニドクイン。言うだけあって、俺の好き勝手にさせてはくれないらしい。まあ、カントーのじめんタイプで草技等倍で受けられるのはこいつらしかおらん以上、順当な選択か。後はどんな技を持っているかだが…さあ、どう来る?

 

 

「かえんほうしゃだ」

「クルィィーッ!」

 

 

かえんほうしゃ!

 

 

「回避ッ!」

「らふ~!」

 

 

ラフレシアが力強く軽快に飛び跳ね、その場所を一歩遅れて太いぶっとい火線が通過。流石は初代技のデパートの一角。この晴れを逆に利用されてしまうか…

 

あの一撃をまともにくらえば、致命傷になり得る…だったら!

 

 

「ねむりごなだ!」

「らっふ~!」

 

 

取り敢えず撃っておけば何とかなる、困った時の安定択ねむりごな。出来るだけラフレシアの体力は温存したいから、燃やしてくるニドクインの相手はしたくない。

 

高速で接近して、頭部の花から盛大に催眠効果のある花粉をまき散らす。さながら、花粉の大噴火。

 

 

「クィ…」

 

 

ニドクインはその噴火半径から逃れられない。いや、なんなら逃げようとすらせず、降り積もる粉塵の中で眠りに…

 

 

「…ィイイーン…ッ!」

 

「…当たっただろ!?」

 

 

…落ちない。外したワケではない。確かに当たっているはずだ。何故…

 

 

「クィ、クィン!」

 

「ッ…、木の実か…!」

 

 

当たったのにまるで効いていないニドクインをよく見れば、何かを食べているような仕草をしていた。カゴのみか、ラムのみか…どちらにせよ、ニドクインの持ち物が効果を発揮し、ねむりごなが無効にされたことは間違いない。

 

 

「そう来ると思って持たせておいて正解だった」

 

 

サカキさんのその言葉で、してやられたことを理解した。自分が出来ることは他人にも出来る。サカキさんには何度か見せている戦法である以上、十分あり得ることか。

 

これまで他のトレーナーが目に見える形で持ち物を使ってくることがあまり無かったので、すっかり意識から抜け落ちていた。

 

反省。

 

 

「ニドクイン」

「クィン!」

 

「らふっ!?」

 

 

ラフレシアはようやくねむりごなが不発に終わったことに気付いた。そこを狙ってか、眠気を振り払ったニドクインは再び攻撃態勢。口元でオレンジの炎が渦巻き出す。

 

 

「焼き払え」

「クィイーンッ!」

 

 

満を持してとばかりに、放たれたかえんほうしゃがラフレシアに迫る。

 

回避…は間に合わないか…!

 

 

「く…ッ、ラフレシア、もう一度ねむりごな!」

「ら、らふっ!」

 

 

ニドクインへの有効打は等倍で入るギガドレインのみ。このままやっても押し負ける。回避不能なら、もう一度挑戦する他ないだろう。

 

 

「ら、ふ…ぅ…っ!」

 

 

直後、灼熱の光線がラフレシアを襲った。

 

しばらく踏ん張っていたが、弱点である炎とその圧に耐え切れず、大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「ラフレシア、立てるか!?」

「ら…ふぅ…!」

 

 

俺の呼び掛けに、ラフレシアは蹌踉めきながらも何とか立ち上がった。戦闘は続行可能だ。良かった。

 

しかし、晴れ下での炎技。大ダメージは疑いようもない。

 

 

「クィ……ン…zzz」

 

 

しかし、その大ダメージと引き換えに、何とかニドクインを眠らせることには成功。ギリギリで技の発動が間に合っていたようだ。

 

それだけ確認して、俺は迷わず動いた。

 

 

「戻れ、ラフレシア!」

 

 

傷付いたラフレシアを一度引っ込める。ラフレシアはこのバトルの最重要戦力。そのために重点的にレベル上げもしたんだ。こんな序盤で無理をして失うワケにはいかない。

 

ラフレシアをボールに戻した後、一瞬の逡巡。そして…

 

 

「頼んだぞ、サナギラス!」

「ギィ…ッ!」

 

 

フィールドに送ったのはサナギラス。

 

 

「ギィ!ギィィーッ!」

 

 

フィールドに出ると同時に相手に向かっていこうとするサナギラスだが、交代ペナルティがかかってその場に拘束される。それを強引に振り払ってでも前に進もうとする姿勢は、旺盛な闘争心の表れだろう…と、好意的に思うことにする。

 

気性難で扱い辛いところのあるコイツだけど、攻撃面に関しては間違いなく優秀なんだ。その激情を勝利への原動力にするんだ。

 

さあ、見せてみろ。お前のパワーを!

 

 

「じしんだ!」

「ギィィッ!」

 

 

ペナルティが解けて最初の一手。選択したのは本来ならレベルアップで自力習得出来るところを、この一戦のために大枚叩いて技マシンを購入して覚えさせた大技・じしん。トキワジムを、本日二度目の大揺れが襲う。

 

ニドクインは…目覚めない。痛い出費だったが、それに見合うだけの価値はあるはずだ。いや、無いと困る。

 

 

「z…クィ……クィ…ッ!」

 

 

眠っていたニドクインは当然、避けることも防御姿勢も取れず、まともに巻き込まれて転がされる。しかし、弱点を突いた一撃だったが思ったほど効いているように見えなかった。しかも、ダメージを受けた衝撃でか、目を覚ましてしまった。

 

 

「ニドクイン、十分寝ただろう?やり返せ」

「クルィィーーンッ!」

 

 

眠りから覚めたニドクインから、お返しのじしん。

 

 

「くっ…こっちもじしんだ!」

「ギィィ…ッ!」

 

 

サナギラスも再度じしんで応戦。俺とサカキさんの双方が、同じ技をほぼ同じタイミングで撃った結果、三度大揺れのトキワジム。2つの地震が同時発生ということで、その強度は最早立っていることが出来ないレベルになった。元の世界だったら、緊急地震速報が連発して大変なことになってそうだな。

 

そんな状況なので、不格好と言うか情けないと言うか、片膝着いて両手も揺れる地面にという、陸上のクラウチングスタートみたいな体勢で揺れが治まるのを待つ。なお、そんな状況でもサカキさんは微動だにしていない。審判役のジムトレーナーも平然と試合の行方を見守っている。このジムの人たち、フィジカルまでヤバすぎな件。

 

 

「ク…ルィ~…」

 

「ギ…ィ……」

 

 

もっとも、その最前線を戦うポケモンたちの方はそうもいかない。ニドクインは前のめりに倒れ伏し、サナギラスは地震で出来た裂け目にスッポリと嵌まって横たわっていた。

 

互いに相手の弱点を突き合う形。起き上がるだけの体力は…流石に無理か。

 

 

「ニドクイン、サナギラス、両者戦闘不能ッ!」

 

 

サナギラスとニドクインは相打ち。持たせていたきあいのハチマキは、残念ながらその役割を果たすことなく終わった。まあ、仕方ない。やっぱハチマキよりもタスキだわ。

 

 

「すまん、サナギラス」

 

 

半ば出落ちのような形になってしまったことを謝りながら、サナギラスを戻す。それとほぼ同時に、ジムの天井で煌々と輝いていた疑似太陽の光が急速に弱まっていく。こっちも時間切れか。

 

さあ、互いにフィールドのポケモンがいなくなり、サカキさんの次のポケモンは?…と、言いたいが、妻がいて夫がおらんなんてことはなかろう。

 

 

「サンドパン、頼んだぞッ!」

「キュイィーッ!」

 

 

こちらはニドキングを読んでのサンドパンを選択。

 

 

「いけ、サイドン」

「グォオォォーッ!」

 

 

そしてサカキさんの選択は、ニド夫婦の夫の方…じゃねーのかい。腹の底に響くような雄叫びを上げて現れたのは、サイホーンが進化した姿のサイドン。読みが外れた。

 

しかし、ゲームではエースだったサイドンが3体目で出て来るか。今まで何度かサカキさんのジム戦を見学した時は、普通にエースだったはずだが…ニドキングはいるとして、後ろに何が控えてるんだ?初代、第2世代辺りでサイドンよりも強い地面ポケモンって何かいたっけか?

 

…あ、ガラガラか!?それも第2世代で猛威を振るった、持ち物【ふといホネ】を持たせたガラガラ。カラカラ・ガラガラのこうげきを2倍にするその効果により、生半可なポケモンはおろか、ある程度耐久のあるポケモンですらも、平然と確定1、2発で持っていく超火力で歴史に名を刻んだ存在だ。それならサイドンを差し置いてのエース扱いも納得出来る。

 

或いはダグトリオも可能性としてはあるか?素早さは初代のじめんタイプとしては突出しているし、攻撃も十分ある。上から殴れる分においては十分フィニッシャーになり得る。

 

 

「きっついなぁ…」

 

 

自分の中で見つけた推測に、つい顔が歪む。仮に、サカキさんのラストをガラガラと想定したら、今の俺の手持ちでは、たぶんその火力を受け止められない。ダグトリオと想定したら、素早さで上を取られて圧し潰される。

 

頭の片隅に浮かぶ嫌な予想に勝ち筋を見出すには、現状ではサンドパンが積んだ状態で運ゲーに持ち込むか、残っている3体掛かりでどうにか抑え込むか、何とかにほんばれを再展開した状況下でラフレシアと対面させるか…それぐらいしか思いつけない。そして、現状サカキさんの残る3体を完封出来るかと言われればそれは高望みであり、ラフレシアは相手の攻撃を1回受けること前提で交代させることが出来ない。

 

よって、ここはそれまでに何とかサンドパンで【すながくれ+かげぶんしん+ひかりのこな】で運ゲーに持ち込み、あわよくばつるぎのまいまで積んで、迎え撃てる状態に持っていくのが最適解と判断した。

 

 

「すなあらし!」

「キュイ!」

 

 

何はさておき、まずは元々の予定通りすなあらしを発動。特性すながくれを発動させる。運任せになるが、運も実力の内なんて言葉もある。それもまた勝負だ。

 

 

「サイドン、すてみタックル」

「グァアッ!」

 

 

砂塵に紛れようとするサンドパンに向かって、唸り声を上げながらその巨体を弾ませて、サイドンが突っ込んでくる。

 

「ギュキュ…ッ」

 

 

これにサンドパンは捉えられた。勢いよく弾き飛ばされて砂嵐の中を俺の近くまで転がってくる。

 

サイドンの能力的には無視出来ないダメージ…と言いたいが、受けるサンドパンの物理方面の耐久力も中々のもの。何発も耐えられるワケじゃないが、戦闘にはまだまだ支障はない。それでも受けられて3、4発が限度かな。

 

しかし、技のデパートと呼ばれたニドキングやニドクインには若干及ばないが、サイドンも技のレパートリーは豊富だったはず。れいとうビームとか"なみのり"などを撃ってこないところ見るに、弱点を突ける技は持ってないと見た。

 

 

「かげぶんしんッ!」

「キュ、キュイッ!」

 

 

まあ、だからと言って安心出来るもんでもないし、立ち止まっている暇はない。即座にかげぶんしんを指示。サンドパンの分身が2体、3体と現れる。

 

 

「すてみタックルだ」

「グォアァッ!」

 

 

サカキさんの選択は再びすてみタックル。しかし、今度は砂塵と分身に惑わされたか、サイドンの突撃はあらぬ方向へと向かい、空振りに終わった。

 

 

「まだまだ、かげぶんしん!」

「キュッ!」

 

 

サイドンがサンドパンの姿がないことに困惑している間に、着々とかげぶんしんを積み上げていく。せめて3回は積みたいところ。

 

 

「…なるほど、な。サイドン、ここはじしんだ!」

「グルゥガァーッ!」

 

 

ここでサカキさんは攻撃技をすてみタックルからじしんにシフト。点の攻撃では効果が薄いと判断したのか、面で制圧しに来た。

 

本日4回目の大揺れ。ジムの建物が軋み、フィールドは隆起したり捲れ上がったり、陥没したりひび割れたり、この世の終わりを想像させる破壊的な力が全てを襲う。

 

 

「キュ、キュ、キュイ~ッ!」

「…よ、よし!いいぞサンドパン!」

 

 

このまっ平らな場所がほぼ残されていない荒れ果てたフィールドを、サンドパンは転々としながらも平然と攻撃をやり過ごしていた。「地震なんてどうやって避けるんだろう?」とか思っていたが、何故か回避出来ているようだ。やるな、サンドパン。

 

 

「もう1回かげぶんしん!」

「キュッ!」

 

 

3回目のかげぶんしん。これで砂嵐の中で生み出されたサンドパンの分身は、サイドンの攻撃で搔き消された分を除いても全部で20体を超えた。ここまで積めば、砂嵐が晴れてもそれなりに安心出来るのではないだろうか。

 

 

「…チッ、これは一筋縄ではいきそうにないな。面倒なことをやってくれる」

 

 

当たらない攻撃、3回目のかげぶんしん。この状況に、サカキさんはそう吐き捨てる。

 

 

「やむを得まい。サイドン、"じわれ"だ」

「グラアァッ!」

 

「ッ!?まず…っ!」

 

 

サイドンがじしんの時よりも、気持ち大きな動作でフィールドを踏み抜くと、そこから大きな地鳴りと共にパックリと地面が真っ二つに裂け始めた。

 

 

「避けろ、サンドパンッ!」

「キュッ!?」

 

 

地割れが一直線にこちらのフィールドまで向かってくるのを見て、俺は思わず大声で叫んだ。だが、幸い地割れはサンドパンからは離れた場所を進み、サンドパンに当たることなく、その大きく長い口を閉じた。

 

確かに思い返してみれば、初代ではトキワジムでサカキさんに勝った後にくれる技マシンはじわれだった。だから、使ってくることは何もおかしくない。おかしくないが、ここでこれはいくら何でも心臓に悪過ぎる。

 

 

「じしんだ!」

「キュッ!」

 

 

一撃必殺技は仕様として、命中率は相手が同レベルなら3割、自分よりもレベルが上の相手には効果がなく、相手のレベルが自分よりも低いほど命中率が高くなる。そして、回避率の増減は命中率に全く関係がない。つまり、サンドパンのここまでの積みが意味を成さない。

 

流石にじわれを見せられて、悠長につるぎのまいまで積んでいる余裕は無かった。

 

 

「グォォ…ッ」

 

 

6回目の地震が、ジム全体を揺らす。受けるサイドンは割れたフィールドに足を取られて転倒し、揺れる地面にお手玉され、苦悶の呻き声を上げている。

 

しかし、物理方面は流石の高種族値なサイドン。サンドパンを以てしても、一撃で倒し切るには火力が足りない。

 

 

「立て、サイドン。じわれだ」

「グゥオアァァーッ!」

 

「こっちもじしんだ!」

「キュィィーッ!」

 

 

激しい揺れに、大きな地響き。砂嵐が吹き荒び、大地は裂ける。

 

 

「うおぉ…っ」

 

 

この世の終わりか終わった後か、そんな気すらしてくる大揺れを何とか堪えながら、戦いの行方を固唾を飲んで見守る。

 

その内に徐々に揺れが小さくなり、それとほぼ時を同じくして砂嵐も止み始めた。

 

そうして揺れが治まり、砂嵐も止んだフィールドに立っていたのは…

 

 

 

 

 

 

「グ…ラアァーッ!」

 

 

…サカキさんのサイドン、だけ。

 

サンドパンはどうした。そう思って見渡すと、フィールドに走った一筋の亀裂に挟まり、ぐったりしているサンドパンの姿があった。

 

 

「サンドパン、戦闘不能!」

 

「…サンドパン、ご苦労さん」

 

 

一撃必殺技、炸裂。サイドンとの撃ち合いにあと一歩及ばなかった。ついさっき運も実力の内とは言ったけど、まさか運ゲー仕掛けようとしたこっちが分からされる側になっちゃうとは…ツイてない。

 

これで残るポケモンは2体。エース格のサンドパンが運ゲーの前に散り、ラフレシアは手負い。まだ後ろにニドキングやガラガラがいると考えると、かなり厳しい状況に追い込まれた。

 

 

「もう一回頼む。いけ、ラフレシア」

「らふぅ~」

 

 

まあ、それでも1つずつ前に進んでいかなきゃ道は開けない。まずはラフレシアを再投入。

 

 

「ギガドレイン!」

「らぁ~ふぅ~!」

 

「れいとうビーム」

「グガ……ガァ…ッ!」

 

 

先手を奪ったのはラフレシア。サイドンもラフレシアを狙う動きは見せたが、サイドンが攻撃を放つよりも先に、ラフレシアの問答無用4倍弱点ギガドレインがヒット。後ろに仰け反って静止。堪えたかと思わせたが、そのまま背中からフィールドに沈んだ。

 

 

「サイドン、戦闘不能!」

 

 

サイドン撃破。ついでに体力も微回復。サンドパンのじしんが2発入ってるから雀の涙程だけど、無いよりはマシ…と思いたい。

 

これで残るサカキさんの控えポケモンがサイホーン+ゴローニャ、なんて組合せだと最高なんだけど、まぁ、そんな美味い話はないだろう。ホント、ここでサンドパンを失ったのは痛い、痛すぎた。

 

何にせよ、互いに半数のポケモンが落ちて、バトルもいよいよ終盤に差し掛かりつつある。残るポケモンは2体…厳しい状況に変わりはないが、それでも、もう少しでサカキさんの喉元に喰らい付くことが出来るんだ。

 

まだここからだ、気合い入れ直せ。そして頼むぞ、ラフレシア、ハッサム…!

 

 

 




 今回はサカキ戦前半戦をお送りしました。サカキ様の控えポケモン、何なんでしょうね?
やはり、バトルの話になるとどういう展開にしようか、どうしたら面白くなるのか、色々考えちゃって進みも遅くなります。それがラスボス相手となればなおのこと…え?バトルに限らずいつものことだろって?いや…まあ、そうなんですけども…()
ただ、ラスボスとは言え原作前の今の段階では通過点に過ぎません。原作時間到達まであと少し。頑張っていきますので今後もよろしくお願いします。

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