成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

71 / 104
第66話:終わりの地、始まりの街(2)

 

 

 

 トキワジムリーダー・サカキさんとのジムバッジを賭けた、そして俺の今後を占う決戦は、運ゲーを仕掛けたサンドパンが運ゲーの前に倒れ、ラフレシアが仇を取って残りポケモン数2-2で並んだ局面。とは言っても、今フィールドに出ているラフレシアはすでにニドクインの晴れかえんほうしゃをモロにくらって手負い、瀕死一歩手前の状態だ。

 

 

「戻れ、サイドン」

 

 

サカキさんの残る控えポケモンは2体。この内の1体は原作的にもニドキングと見ていいと思うが、残る1体が何なのか…コレガワカラナイ。

 

一応、原作でのエース・サイドンよりも強いポケモンということで、ふといホネガラガラではないか?と考えているが…

 

 

「ニドキング、いけ」

「ギィガァァーッ!」

 

 

4体目はニドキング。予想通りではあるが、同時に今一番相手にしたくなかったポケモンでもある。残っているラフレシア・ハッサムよりも速くて、こっちからは一撃で倒す術がない。

 

ニドクインよりも攻撃方面に優れた種族値をしているニドキング。どうせニドクインと似たようなフルアタ構成だろうとは思うけど、初代・技のデパートなんて呼ばれたそのレパートリーからは、なにが飛び出てきてもおかしくはない。

 

この場面、まず考えるべきは…ラフレシアを引かせるか否か、かな?サカキさんのラス1がダグトリオでない限り、ラフレシアを最後に残せる意味は大きい。ただ、それをすると必然的に後投げしたハッサムがペナルティで一撃貰うことになる。かと言ってラフレシアで突っ張れば、残り体力から考えて上から殴られて何も出来ずに倒される可能性大。仮にニドキングが炎技を持っていたりしたら、目も当てられん。

 

 

「…いや、違うか」

 

 

どの道、ニドキングが炎技を持っていた場合は、どう転んでもその時点で負けがほぼ確定だ。その可能性は切ろう。そして、ハッサムでニドキングを倒し切れなければ、どんなに頭をひねった所で絵に描いた餅。そう考えると、ハッサムに負担掛けてまでラフレシアを残す意味は薄い…か?

 

…仕方ない、ここはラフレシアを切って、ハッサムに全てを託そう。

 

 

「すまない、ねむりごなだ!」

「らぁふぅ~!」

 

 

苦渋の選択だが、捨て気味にラフレシアを突っ込ませる。選択技はねむりごな。

 

 

「"ふぶき"だ」

「ガアァァッ!」

 

 

サカキさんの選択は、こおりタイプの大技・ふぶき。短くも鋭い指パッチンの音がジムに鳴り、風と雪がジム内を舞い始める。明らかなオーバーキルもいいところだ。

 

 

ビュオォォォ…!

 

「らふぅ…っ!」

 

 

地震・砂嵐と来て、今度はこの風雪。こんな向かい風の中では、ねむりごなをぶっ放したところで風に押し流されるのがオチ。それを分かってか、雪が舞う向かい風の中を、ラフレシアは懸命に進んでいく。

 

万が一これが決まるようなことがあれば…だが、ほとんど倒されるための突撃になってしまっていて、申し訳なさが込み上げて来る。神風特攻隊、或いは状況的に八甲田山遭難事件か。

 

そして、そのまま無謀な突撃を敢行してラフレシア。このまま、風雪の中で倒れてしまう…

 

 

 

ォォォ…

 

「らぁふぅぅッ!」

 

 

…吹雪が…止んだ!?倒れない!?

 

 

「なにっ!?」

 

 

サカキさんも驚きの表情。当然、俺も驚き以外ない。

 

その僅かな間に、ラフレシア決死のねむりごなが、ニドキングに降り注ぐ。

 

 

「ギィ…ガァ…ァ……zzz…」

 

 

うおおおおぉぉぉっ!避けた!いや、撃ち損じた!そして通った!この局面、この状況でニドキング、まさかまさかの攻撃空振りからの寝落ちだ!しかもカゴのみも持ってない!

 

まさに天祐、まさに神風。サカキさんは何故じしんではなくふぶきを選んだのか、その胸の内は分からんけども、やはりふぶきよりもれいとうビーム、かみなりよりも10まんボルト。命中率は大正義だ。フロンティアクオリティ?それは知らん。

 

何はともあれ、一気に盤面をひっくり返す大チャンス!

 

 

「ギガドレイン!」

「らぁ~ふぅ~っ!」

 

 

動きを止めたニドキングに、ギガドレインを撃ち込んでいく。

 

 

「ガ…ァ……zzz…」

 

 

まず1発。

 

 

「撃ちまくれ!」

「らっふぅ~ッ!」

 

 

立て続けに2発目。ニドキングさえ倒せれば、ダグトリオ以外は素のラフレシアでも上を取れるはず。ニドキングを倒すのに必要な技の試行回数を考えれば、にほんばれをやってる暇も必要もない。撃て、撃て、釣瓶撃ちだ!

 

 

「ガ……zzz…」

 

 

2発目のギガドレインもHIT。空気は完全に押せ押せムード。

 

 

「ギガドレイン!」

「らふぅっ!」

 

 

再度のギガドレイン。攻撃態勢に入るラフレシア。ニドキングの耐久力は決して高くない。3発も叩き込めば十分倒せると思うし、ダメでも最低限ハッサムのバレパン圏内までは持っていけるはずだ。

 

 

「ガ…ァ……ッ!ガアァァァーッ!!」

 

 

直後、フィールドにニドキングの怒りの雄叫びが響く。もう目が覚めたのか!?

 

 

「ガァ、ガァァッ!」

 

「フッ…ニドキング、ふぶきだ。今度はしくじるなよ?」

「ギィィガアァァーーッ!」

 

 

猛る雄叫びと共に再び猛吹雪が吹き荒れる。すでに攻撃態勢に入っているラフレシアに、回避という選択肢はない。

 

 

「く…もう一回だけ頑張ってくれ!」

「らふぅ~っ!」

 

 

吹き付ける吹雪の中、ニドキングを狙うラフレシア。今回の吹雪は、さっき外した時の攻撃よりも長く続いており、ニドキングがかなり力を込めていることを感じさせる。2度目はないと、思い知らせるかのよう。

 

だが、2回のギガドレインでラフレシアもある程度体力を回復させることが出来ている。一発くらい、何とか受けきれないものか…!

 

 

「ら…らふ…らふーッ!?」

 

 

しかし、無情にも吹雪はその全てを真っ白に覆い尽くし、火力に物を言わせて押し流してしまう。

 

 

「ら~…ふ~……」

 

「ラフレシア、戦闘不能ッ!」

 

 

ラフレシア、敢え無く撃沈。回復出来た体力も、吹雪を凌ぎ切るには足りなかった。

 

くそ、もう少し寝ててくれたら、ラフレシアで押し切れたのに。運が無い…いや、元々はハッサムを万全の状態で送り出すために、一撃で倒されるのも覚悟の上でラフレシアを居座らせたんだ。ニドキングを大きく削れただけでも望外の幸運には違いない。

 

 

「よくやってくれた、ラフレシア!後は頼むぞ、ハッサム!」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

さあ、お前がやらなきゃ誰がやる。俺のラストを飾るポケモンは、騒音弾丸カマキリ・ハッサム。いつも変わらない安心の奇声と共に、リングイン。

 

 

「じしんだ、やれ」

「ギィガァァーッ!」

 

 

開始早々、サカキさんが動く。炎技がなさそうなのはまず一安心だが、一気に詰め切る腹積もりだな。

 

一発では倒れないはずだけど、無駄なダメージを受ける余裕も必要もない。ニドキングはギガドレイン2発でダメージが溜まっている。

 

 

「バ…ッ、メタルクロー(バレットパンチ)ッ!」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

ここでの選択肢と言えば…まあ、これ一択だよネ。ということで、選んだのはメタルクローという名のバレットパンチ。

 

声を大にしてバレパンを叫べる日はまだまだ遠いものの、相変わらずついついバレットパンチと言ってしまいそうになる。そして寸でのところでハッと気づいて堪える。それがいつものことになってしまっている今日この頃。

 

 

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

「ギィガァ…ァァッ!?」

 

 

急激な加速、からの突撃。攻撃態勢に入って一瞬だけ無防備になったニドキングのどてっ腹に、急加速した鋼鉄の鋏が突き刺さる。

 

サカキさんもこの技は見たことあるはずだが、分かっていても対処出来ないのが先制技。"ファストガード"も"サイコフィールド"も、"ふいうち"も時期的にまだない以上、守り技か"しんそく"か、素早さで上取って先制技を叩き込むぐらいしか対応策はない。

 

攻撃を叩き込まれたニドキングは、よろめきながら後退。一歩、二歩…そこで一旦堪えたものの、そのまま前のめりに力尽きた。

 

 

「ニドキング、戦闘不能!」

 

「よしッ、OK!」

 

 

ニドキング撃破!普通だったらハッサムまで押し切られててもおかしくない状況だったから、完全に幸運の女神が微笑んだ結果だ。

 

ほぼ運が味方しただけだが、その一度の幸運をものに出来るのも実力あってこそ…と、思いたいところだネ。

 

何にせよ、これでサカキさんもラスト1体。フルヘルスのハッサムと、ガチンコのタイマン勝負だ。

 

 

「…フッ。これもまた勝負の綾…やれやれ、だな」

 

 

倒れたニドキングをボールに戻して、そう呟くサカキさん。決定的な場面で決め損ね、相手の逆襲を許してしまった状況。かなり凹むと言うか、苦しい局面のはずだが、その口振りからはそこまで追い詰められた感はない。むしろ、その表情は笑っているように見える。

 

これが、強者の余裕…或いは、踏んできた場数がそうさせている?それとも…最後の1体に絶対的な信頼がある?

 

 

「マサヒデ」

 

「ッ…は、はい」

 

「お前は出会った時から、ポケモンの扱いに才を見せていたな。そしてこの半年の旅を経て、私の想像を遥かに超える、驚異的な早さで実力を着けた…ここまでの戦いを見れば最早疑いようもない。見事だ」

 

「…ありがとうございます」

 

「残すは私の最後の1体だけ。才は見た、実力も見た。さあ、後はお前の勝利への執念を、意思を、覚悟を見せてもらおう!」

 

 

原作だったらサカキさんのカットインが入っていた場面だな。

 

そして、勝利への執念…言われるまでもない。俺はあなたに勝って、自由の身になるんだ。控えているのがふといホネガラガラだろうと何だろうと、勝つしかないんだ。

 

 

「いけ」

 

 

絶対に勝つ!さあ、来やがれ!

 

そうしてサカキさんは、最後のポケモンをフィールドに繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズズゥゥ……ン

 

「ガァァネェェェーーッ‼」

 

「なぁ…ッ!?」

 

 

地揺れ地響きとともに、雄叫びがフィールドに響く。甲高く鋭いハッサムのそれとは違い、腹の底に響くような低く重い唸り声だ。

 

俺が今まで実物を見た中でも最大級にして最重量級な、全長数mはあろうかという大蛇の如きそのポケモンを前にして俺は呆然となり、脳内を様々な思考が駆け巡った。この時の俺は、さぞマヌケ面を晒していたことだろう。

 

 

「( ゚д゚)」

 

 

こんな感じで。

 

そしてしばしの後、俺は全てを悟った。

 

 

「\(^q^)/オワタ」

 

 

この時はさらにマヌケ面になっていただろう。何故かって?ハハ、分かるだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物理耐久の鬼(ハガネール)にハッサムで挑むしかないとか、絶望以外の何でもないんですけどおぉぉぉぉぉ!!!!?

 

サカキさんのラスト1体の名は、てつへびポケモン・ハガネール。攻撃種族値がポッポと同じということでよくネタにされているイワークが進化した姿。いわ・じめんタイプからはがね・じめんタイプへと変化し、大きな鉱石を数珠のように繋ぎ合わせたかのようなその巨躯は、身体を構成する鉱石1つ1つが金属質の輝きを放っている。

 

ハガネールに進化したことでイワークが持っていた俊敏性を見る影もない程に失ったが、その対価として驚異的な物理耐久能力を手にしている。その防御種族値は圧巻の200。その他の素早さ以外の能力も必要最低限レベルまで伸び、生半可な物理技では弱点突いても平然と耐え切ってしまう。

 

しかし、物理防御が優秀でも、攻撃面は若干力不足という印象だ。じめんもはがねも有力なポケモンが多い激戦区なこともあって、ハッキリ言って俺の知る直近の対戦環境ではあまり見かけなかったポケモンではある。第7世代でメガシンカも獲得しているが、実際ガブやらグロスやらドリュやら、同タイプの有力処と比べると攻撃面で見劣りしていたのは否めない。

 

もっとも、この状況下では絶望以外の何物でもないんだがね。

 

 

「ククッ、驚いているな?コイツはハガネール。お前のハッサムと同様のやり方で、イワークが進化した姿だ」

 

 

はい、存じておりますッ!!そして絶望しておりますッ!!!!と言うかサカキさん、なんでハガネールなんて持ってんですかねぇ!?

 

 

「このハガネールが、お前のポケモンリーグへの切符を賭けて立ち塞がる最後の壁だ。この半年間の全てを賭けて、越えて見せろ」

 

 

はい、無理ですッ!!もっかい言うけど、物理耐久の鬼にハッサムで挑むしかないとか、絶望が過ぎるんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!防御種族値200だぞ、200ゥ!!!!?しかもハッサムのメインウェポン両方半減じゃねぇかあぁぁぁぁッ!!!!どうやって突破しろっていうんだよおぉぉぉぉッ!!!?

 

 

 

「じしんだ」

「ガァネェーーッ‼」

 

 

…とまあ、散々に悪態を(心の中で)ついてはみたものの、勝負中である以上は問答無用。如何に絶望的状況だからと言って戦うことを止めるわけにはいかない。サカキさんの前ではなおのこと、そんな無様を晒すわけにはいかない…!

 

 

「ぐ、ハッサム、れんぞくぎりだ!」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

俺の指示で、全長も体重も自分の数倍はあろうかという相手に、果敢に切り込んでいくハッサム。進化したことで俊敏さを失ったハッサムだが、ハガネールにもイワークが持っていた俊敏さは無い。ハッサムでも悠々と上が取れる。

 

 

「ラアィッ!?」

 

「ガァァネェーッ!」

 

 

しかし、ハッサムと同様に進化、そしてはがねタイプとなったことで得た耐久能力という壁は、如何にも荷が重い。重過ぎる。そもそも相性からして最悪だ。切り付けられたと言うのにハガネールは何のリアクションも示さず、反撃に転じている。まるで意に介していない辺り、ハッサムの攻撃なんぞ蚊に刺されたようなものなんだろう。

 

ホント「鬼、悪魔、サカキ」と声に出して叫びたい気分だ…!

 

 

「空だ、空に逃げろ!」

「ラアァァァァァイッ!!」

 

 

攻撃動作もやや緩慢なハガネールを見て、タイミングを合わせてハッサムを空中へ退避させる。元がひこうタイプのストライクなハッサム。ひこうタイプを失った今も、飛ぶこと自体は短時間であれば出来る。

 

 

「"アイアンテール"だ」

「ガァァネェーッ!」

 

 

それに応じて、サカキさんは攻撃をじしんからアイアンテールへ。

 

 

「こうそくいどうで回避ッ!」

「ラアァァァァァイッ!!」

 

 

ハッサムが飛ぶ場所よりも高い位置から、鞭のように振り下ろされる鋼鉄の尻尾。これを素早さを上げて回避する。目標を外した一撃は轟音を上げて地面を叩き、辺り一面に砂埃を撒き散らし、土塊が飛ぶ。あれはマチスさんのライチュウだったか。以前に見たアイアンテールとは比べ物にならない凄まじい威力だ。

 

ハッサムにはタイプ相性の上では効果今一つなのだが、データとしては知っていても、攻撃をくらったら苦もなくペシャンコにされてしまいそう。実際、確率で防御は下がるわけだし。「これで攻撃力大したことないとか嘘だろ?」と言うのが率直な感想。もし仮にあんな攻撃を人間が受けたら…想像しただけでも恐ろしい結果にしかならんだろうな。

 

 

「れんぞくぎりッ!」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

そんなパワーを見せつけられても、もうとにかく相手の攻撃は避ける、こちらの攻撃は当てる。それ以外に勝ち筋はない。連続して当てることで威力が強化される技、れんぞくぎり。こうそくいどうで得た勢いを乗せて、ダメージを稼いでいく。

 

苦しいが、この世界はゲームとは違うんだ。圧倒的に不利な状況下でも、絶望的な状況でも、やり方次第でまだ逆転出来る可能性は0じゃない。

 

 

「いわなだれだ」

「ガァネェーッ!」

 

 

じしん、アイアンテールと来て、今度はいわなだれ。蝶のように舞い、蜂のように刺す、と言うか切り込んでくる蟷螂に業を煮やしたか、こちらの攻撃に合わせて面で圧し潰すつもりのようだ。

 

攻撃のタイミングに合わせられて避けることは出来ない。なら、無理にでも道を切り開くのみ。

 

 

「怯むな、いけぇッ!」

「ラアァァァァァイッ!!」

 

 

行く手を塞ぐように降る岩塊の大雨の中に、いつもと変わらぬ様子でハッサムが突っ込んでいく。

 

 

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

地面スレスレを飛びながら、降ってくる岩塊をヒラヒラと避け、避けられぬ物は自慢の鋏で粉砕しながらの突撃。このまま切り抜け…

 

 

「ラァッ!?」

 

 

…られるかに思えたが、避け損ねた大岩がハッサムを直撃。失速したところに容赦なく残りの岩石群が降り注ぎ、あっと言う間にハッサムは大岩の山の中に埋もれた。

 

 

「…ァアラアァァァァァイッ!!」

 

「ガネェーッ!」

 

 

しかし、流石はハッサム。ハガネールほどではないが、進化したことで得た耐久力はこちらも伊達ではない。圧し潰していた大岩を難なく跳ね除け、再びハガネールに攻撃。一撃を加えた後、叩き落そうとするハガネールの攻撃を躱して離脱した。

 

 

「いいぞ、ハッサム」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

…いいぞ、とは言ったものの、ダメージがまるで通ってなさそうなのはキツイな。実際効いてないんだろうし。

 

試したことはないから上手く想像出来ないが、ハガネールをハッサムのれんぞくぎりで攻撃していったら、何発で落とせるのか。十数発は必要になるんじゃないだろうか。そう考えると、絶望的状況の度合いがハッキリ分かるな。

 

…余計に辛くなってきた。

 

 

「…なんて、だからって勝負の最中に勝負投げ出しちゃダメだよな。サカキさんに怒られちまう」

 

 

まだこの旅に出る前に言われたっけな。勝負を捨てるな、勝利に貪欲であれ、と。ちょっと違ったっけ?

 

 

「さあ、まだまだ先は長いぞハッサム。気合い入れていこう」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

「…フッ、良い表情(かお)だ。来い」

 

「行きます!ハッサム、れんぞくぎりッ!」

「シャアラアァァァァァイッ!!」

 

 

どうであれ、今俺が意識するべきは最後まで諦めずに勝利を目指すこと。そして何よりも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…サカキさんの前で無様を晒さないこと、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の試合経過は、機動戦を仕掛けて隙を突いて果敢に攻撃を仕掛けるハッサムに対して、その耐久力を盾に迎え撃つ構えのハガネールという構図が続いた。

 

サカキさんが相手なだけあって乗ってくれないことも多々あるが、機動力を駆使して動き回り、後ろや側面を取って速攻を仕掛けたり、フェイントを混ぜてハガネールの攻撃を誘い、攻撃後の隙を突いて切り込んだりと、あの手この手で攻撃のチャンスを窺う。一撃くらうことの重さに天と地ほどの開きがある現状、とにかく攻撃をくらわないよう細心の注意を払いつつ、ヒットアンドアウェイでダメージを刻んでいく。

 

しかし、タイプ相性もあって火力の出ないハッサムと、機動力に着いていけずに振り回され気味なハガネール。互いに決定打に欠け、戦いは案の定の泥沼の千日手の様相を呈し、長期戦へ。時間の上では数分間の出来事だが、体感だともう30分とか1時間戦っているような気分。

 

そして、長期戦は地力の無い方、運動量を要求された方により重くのしかかってくるのが常。

 

 

「シャァ……ラァ…!」

 

 

ここまでハガネール相手に機動戦を続けてきた結果だった。言うまでもない、スタミナ切れだ。

 

 

「じしんだ」

「ガァネェーーッ‼」

 

「ハッサム!」

「ラァ…!」

 

 

そしてサカキさんは、息切れして動きが止まった一瞬を逃さない。そろそろ感覚が麻痺しそうになってくる、本日何回目かの大地震。巻き込まれたハッサムが倒され、グラグラと揺れる地面の上でお手玉される。

 

 

「ラァ…シャラァ……」

 

 

揺れが治まり、ハッサムは何とか立ち上がった。しかし戦闘不能まではいかずとも、これまでに攻める過程で積み重なったダメージも含めると…

 

 

「…ここまで、かな」

 

 

流石にあと一発もらったらアウトの状況から、ハッサムでハガネールを削り切れるビジョンは見えない。

 

 

「シャァ…ラァイ…ッ!」

「…」

 

 

それでも、ハッサムの闘志はまだ消えちゃいないようだ。だったら、俺も最後まで戦う姿勢は見せないとな。可能性なんぞ無いに等しいけど、最後まで何が起こるか分からないのが勝負ってもの。ここからの攻撃が全部急所に当たって倒せちゃう、なんて未来がないことも…いや、やっぱあり得ねえわ。

 

あと、サカキさんに後で何言われるか分かったもんじゃない。

 

 

「れんぞくぎりだ」

「シャラァイッ!」

 

 

その一言で、ハッサムはボロボロになった身体に鞭を打って動き出す。あとはトドメを刺されるだけっていうような状況にあった、それでもなおもハガネールに向かって突っ込んで行く。ラフレシア以上に、まんま旧日本軍の神風特攻隊みたいなものだ。

 

我が子可愛さってワケじゃないけど、この姿勢と言うか、闘争心は素晴らしいものだと思う。そして、その心意気に報いてやれないことに、トレーナーとしての無力さを痛感する。

 

すまないハッサム。そして、先に倒れたキュウコン、サナギラス、サンドパン、ラフレシア。

 

 

「…フッ」

 

 

ハッサムの最後の突撃を前に、サカキさんが笑う。俺の心の中の決意を、鼻で嗤われたかのようだ。

 

…いいんだ。今回の負けは、まだまだトレーナーとして俺が未熟な証左。今回はダメだったけど、新戦力も含めて鍛え直して、次こそは…次こそは何としてでも悲願の勝利を…!

 

 

 

 

 

 

その間に、サカキさんが勝負の〆をハガネールに命じる。そして、それはこの状況では完全に想定すらしていない技。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハガネール、"じばく"しろ」

「ガァァネェェェーーッ‼」

 

「…は?」

 

『チュドォォォォォォォォン!!!!!』

 

 

サカキさんの選択に呆気に取られている内に、ハガネールは内部に貯め込んでいたエネルギーを一気に放出。至近まで迫っていたハッサムを巻き込んで大爆発。爆音と強烈な閃光が迸り、爆風と砂煙が視界を奪う。あまりの衝撃に反射的に腕で顔面を守ると、時折飛んでくる土塊が腕や腹、足を打ち据えていく。結構痛い。

 

 

ズズゥゥ……ン

 

 

それらが徐々に治まっていく中で、重い何かが地に落ちるような音と僅かな地響き。これを最後に、フィールドには静寂が訪れた。

 

ガードを解いてフィールドに目をやれば、まず目に付くのは爆発によって出来た大きなクレーター。その中心では、自爆したハガネールが力なく横たわっている。最後の鈍い地響きは、ハガネールが地に沈んだ音だったんだろう。

 

自爆に巻き込まれたハッサムはかなり離れた位置で、こちらもフィールドに横たわっている。流石にあの距離で爆発されては避けようがなかったはずだ。あの動いてないと死んでしまうような気さえするハッサムがピクリともしないのは、きっちり体力を削り切られた何よりの証拠だ。

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ハ、ハッサム、ハガネール、両者戦闘不能!この場合、ポケモンリーグ公式戦の規定により自滅技を使用した側の敗北となります!よってこの勝負、勝者は挑戦者・マサヒデ!」

 

 

 

 

 

 

 




爆発オチなんてサイテー!というワケで、これにてサカキ様戦は終了です。勝ったしバッジも手に入れたけど、内容的には誰がどう見ても敗北という結果…最後、自ら敗退行為を行ったサカキ様の思惑や如何に?
勝敗、バッジの扱い、延いてはポケモンリーグ出場の可否をどうするか…少し悩みましたが、サカキ様の威厳と言うか、目標としての立場を残しつつ、主人公を次のステージへ…と言うことで、こういう形になりました。そして、サカキ様のラス1をハガネールに設定。これが読めてた人はいたのだろうか?

なお、ハッサムvsハガネール、れんぞくぎり、両者6V補正無し努力値無振りでダメージ計算すると乱数14発という結果でした。れんぞくぎりの補正が乗ってないような気がするので、実際はもうちょっと良いのかもしれませんが…まあ、誤差の範囲でしょう。分かりやすく絶望ですねぇ。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。