成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第67話:レール

 

 

 

 

「…ハ、ハッサム、ハガネール、両者戦闘不能!この場合、ポケモンリーグ公式戦の規定により自滅技を使用した側の敗北となります!よってこの勝負、勝者は挑戦者・マサヒデ!」

 

「………嘘…だろ…?」

 

 

 俺が全身全霊を賭けて臨んだ運命の一戦が、激闘の末に迎えた思いもしなかった結末。内容は誰がどう見てもほぼ完全な負け試合。そのはずだったのに、何故か俺は勝利を手にしている。何も知らない人が聞けば首を傾げるしかないような状況を前に、唖然とする俺はこの一言を絞り出すのがやっとだった。

 

じばく・だいばくはつ等の、自ら瀕死となる攻撃技。これらを最後のポケモンで使用した場合、仮に相手の最後のポケモンを倒せたとしても、ゲームにおいては攻撃した側が敗北となる。そして、審判の説明を聞く限りではこの世界でも同様の裁定がなされているようだ。サカキさんがそのルールを知らなかった、なんてことは考え辛い。

 

何と言っていいのか分からないけど、ここまで後味の悪い勝ち試合は初めてだ。こんな終わり方、納得出来るか。

 

 

「マサヒデ」

 

「…サカキさん」

 

 

俺を今そんな気持ちにしてくれた元凶であるサカキさん。試合が終わった今、聞きたいことが次から次へと溢れて来る。どうして敗退行為なんてしたのか?勝ちを譲ったのか?何故?俺をセキエイ大会に出場させるため?いや、あのサカキさんだ。そのためだけにこんな露骨なやり方をするはずがない。でも、ミスと言うのは考え辛い。何か裏がある、そのはずだ。でも、それが何なのかは分からない。

 

色々と聞きたいことはある。聞きたいことが頭の中をグルグルと回っている。しかし、サカキさんを前にすると言いたいことも言えなくなる。威圧感が半端ない。そもそも聞いていいことなのかどうか、聞いたが最後…なんてことが無いとは言い切れないのがサカキさんの恐ろしいところ。

 

そんな中で、やっと口から出て来た疑問。

 

 

「…なんでハガネールなんて持ってるんです?」

 

 

それは、このハガネールをどうやって手に入れたのか?ということ。

 

…ハイ、日和りました。まあ、まずは様子見に軽いとこから、ネ?

 

 

「…その様子だと、お前はコイツのことをすでに知っているようだな?」

 

 

う…これはやらかした…か?まあ、ハッサムが世界的には新発見みたいなもんだったから、当然進化方法が同じハガネールも扱いとしてはそうなっててもおかしくはないか。

 

 

「どこで知識を仕入れているのか、前々から気にはなっているところだが…まあいい。コイツは夏旅行の時世話になったオーレ地方の企業から贈られたポケモンだ。じめんタイプということで使ってみている」

 

 

そしてまたお前らか、シャドー。お前らのせいで泣いてるかもしれない人がいるんですよ。具体的には現在進行形で俺が。あとはミカンさんとかミカンさんとか。お前ら今全世界1億人のミカンファンの皆さんを敵に回したぞ。第2世代のはがねタイプという貴重なアイデンティティを奪わないであげて。

 

まあ、それを言ったらハッサム・レアコイルと2体も持ってる俺も大概なんだが。と言うか、そのハガネールまさかダークポケモンだったり…いや、流石にそれはないか。

 

…ないよな?だって、ダークポケモンだったらそれこそ制御不能なくらい凶暴なハズだから。サカキさんと言えども完璧に制御出来るとは思えん。

 

 

「だが、あまり私の好みではないな」

 

「…何故です?じめんタイプなのに」

 

「鉄壁の防御力は素晴らしいものであるし、動きが鈍重なのもまあいい。だが、あの図体の割に火力が無いのは気に入らん」

 

 

…確かに、その点に関してはサカキさんに同意するわ。ハガネール、あの見た目に反して火力無いんだよなぁ。まあ、元が攻撃力ポッポ(イワーク)と考えれば推して知るべしではあるか。

 

 

「それと、ジム公式戦で使用したのはお前が初めてだ。喜んでいいぞ」

 

 

別に嬉しくもなんともないっす。

 

 

「…じゃあ、もう一つ。何故、あの場面でじばくを?」

 

 

そして本題へ。サカキさんがルールを知らないなんてのは考えられないし、他のトレーナーもしくは観客に見られていたら、八百長、ヤラセだと言われていたかもしれない。

 

俺が朝一の挑戦者トップバッターかつ、トキワジムが観客を入れないという方針を採っているから大丈夫だったものの、ジムリーダーとしてのサカキさんのイメージダウンに繋がりかねなかった選択だ。

 

 

「…なに、うっかりしていただけだ」

 

「いいえ、サカキさんが公式戦の規定を知らなかったとは思えません。それに、じばくでなくとも安定した選択肢が他にありました。何故、わざと負ける選択を…」

 

 

人間誰しもミスはする。でも、あの場面でわざわざじばくを選ぶ理由がない。選ぶのは、何も分かってない子供ぐらいなものだ。

 

…ハイ、苦い経験談です。

 

 

「…フ。まあ、そうなるか。すまないが、この後も挑戦者の相手をしなくてはならない。夜にまた話をしよう」

 

「……分かりました」

 

 

予定を盾に取られては邪魔をするわけにはいかないか。仕方がないので、夜にまた話をしてくれるという約束を信じてこの場は一旦引き下がることに。

 

 

 

 

 

 

 その後は奮闘してくれた仲間たちを回復させ、テレビを見たり、今日のことを振り返ったりしながら過ごした。

 

思い返せば、天狗になってる部分もあったのかもしれない。トキワシティにサヨナラバイバイしてから約半年。各地のジムリーダーを負けなしで撃破していって、仲間を増やして次の街へ。旅に出る前よりも目に見えて強くなったし、採れる選択肢も増えた。それでも見せつけられた今の俺とサカキさんとの純粋な実力差。しかも、ジム戦用でベストメンバーではない可能性もある中でのこの結果だ。

 

最後に勝ちを譲られた件を抜きにしても、運に助けられなかったら苦しい場面もいくつかあった。たかが半年程度で超えられるほど、現実は甘くない…そういうことなんだろう。この先さらに上のステージを目指すのなら、もっとレベルを上げて、頭数も揃えないとな。

 

 

 

…さて、サカキさんはどんな話をしてくれるだろうか。色々とやって夜が来るのを待ったが、心のモヤモヤは一向に晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同日、夜~

 

 

 

 

「失礼します」

 

 

 そうこうしているうちに夕飯も終わって、世の皆様がのんびりと1日終わりの(くつろ)ぎタイムを過ごしている頃になって、俺はサカキさんからの呼び出しを受けた。

 

場所は現在の我が家と呼んで差し支えない、TCP社旧本社で現社員寮。忙しいであろうに、わざわざ話をするために来てくれたらしい。

 

 

「来たな。まあ、座れ」

 

「はい」

 

「さて…お前が聞きたいのは、何故私がわざと負けたのか、だな?」

 

「…はい。ですが、そう言うということは…」

 

「お前の考えた通りさ。あの時、私は負けると分かっていてわざとあの技を選んだ」

 

「…ッ」

 

 

そして、思いの外アッサリとサカキさんは故意の敗北を認めた。

 

 

「元からおかしいとは思っていました。でも、何故…」

 

「実力があると分かっている者を、無駄に足踏みさせるのはジムリーダーの役目ではない。それだけのことだ」

 

「でも、それなら普通に勝った上でバッジを渡せばいいじゃないですか。規則上ではそれでも問題ないはず。わざわざ負ける理由が…」

 

「…フ。マサヒデ、お前は賢いな。いや、賢すぎる、と言うべきか」

 

 

そう言うと、サカキさんは徐ろに席を立った。コツ、コツ、と靴の音が静かな部屋に響く。そしてサカキさんの手でカーテンが開かれ、漆黒の夜空と浮かぶ月が窓から覗く。綺麗な夜空ではあるが、それを気にしている余裕は今の俺にはない。

 

 

「まあ、それはお前を私の庇護下に置いた時点で分かっていたことか。だから敢えて正直に言おう。全てはビジネスのためだ」

 

「ビジネス…?わざと俺に負けることが、サカキさんにとって利益になると?」

 

「そうだ。ただし、私が負けることではなく、お前が勝つことが、だがな」

 

 

俺が勝つと、サカキさんが儲かる…?どういうことだ?別にロケット団に肩入れするような予定は1mmたりともないぞ。あってもお断り…出来るといいなぁ(希望的観測)。

 

 

「時にマサヒデ、お前は自分が世間からの注目を集めつつあることを知っているか?」

 

「…取材を受けたことは何度かありましたし、多少は」

 

 

確かにクチバシティの大会後に、タマムシジムやヤマブキジム戦の後等、この旅の中で何度かそういうことはあった。『11歳、最年少新人トレーナーの躍進!』みたいなタイトルでニュースや記事になっていたことも承知はしているが…

 

 

「お前の次の舞台となるポケモンリーグセキエイ大会。その長い歴史の中で、10代の若者が本戦まで進むことは珍しい。中には数年前のドラゴン使いのように、頂点に立った者もいるにはいるが、出場資格を得ることが出来る下限の弱冠11歳で本戦出場まで果たしたトレーナーはいない。今のところは、だが」

 

 

ワタルさんですね。存じております。

 

 

「お前はすでにニビジムを制し、今日にはトキワジムをも突破した。後はチャンピオンロードを越え、期日までにセキエイ高原に到達出来れば、立派な本戦出場者だ。これが世間に知れ渡れば…どうなると思う?」

 

「…つまり、今の僕は『ポケモンリーグ本戦出場最年少記録』の更新を世間から期待されていると?」

 

「詰まる所、そういうことだ。『トキワシティのマサヒデ』の世間の認知度、注目度は間違いなく大きく上がる。もし決勝トーナメントまで駒を進めるようなことになれば…一躍、お前も人気者の仲間入りだ」

 

「……まあ、何となくですが、想像はつきます」

 

 

うわぁ…それって早い段階から才能の片鱗を見せるスポーツの将来の有望株とかが、『○○の天才少年!』って持ち上げられるみたいな、よくある感じのアレだろ?過度に注目されるのは嫌なんだけどなぁ…元が根暗なもんで。

 

 

「フ…で、本題はここから。歴代最年少でのポケモンリーグ出場を決めたお前が、世間から注目を浴びるのは決まったも同然。良績を残せば集まる注目はさらに大きくなる。ポケモンリーグが終わった後も、しばらくその熱が冷めることはないだろうな」

 

「………」

 

「そうなると、世の中の目聡い連中がお前を放っておくことはない。あの手この手で、お前を取り込み、囲い込もうとするはずだ。スポンサー契約…お前のトレーナーとしての活動を支援する。その代わりに、自社製品をお前の活動の中で使わせたり、CMに出させて宣伝させたりする。そうやって会社の利益に繋げるワケだ」

 

 

なるほど、プロスポーツ選手とかでよくあるヤツだな。それは確かにビジネスだ。

 

 

「その影響を見越して、お前の保護者として、そしてTCP社社長として、先手を打っておく必要があると考えた」

 

「…と、言うと?」

 

「お前は来年以降、我がTCP社が全面的にサポートする。そのサポートを受けて活動してもらうことにした」

 

「つまり、来年からサカキさんの会社が正式なスポンサーに着くから、大会とかに出た時にその宣伝をしろ…と?」

 

「…まあ、身も蓋もない言い方をすれば、そういうことだな。こういう時のお前は、話が早く済むから良い」

 

 

企業の宣伝と引き換えに、サカキさん側からのまとまった資金・アイテムの提供が安定的にあると考えると、一見悪い話ではない。問題は、俺が原作知識持ってるせいで、提供されるであろう資金に裏がありまくるようにしか思えないってこと。

 

 

「…それは決定事項ですか?」

 

「ん?嫌か?」

 

「い、いえ…」

 

 

うぅ…サカキさんの口振りからして俺に拒否権無さそうなのは分かっていたが…まあ、気にしてもしょうがない。サカキさんだし。サカキさんだしっ!

 

 

「先に俺を囲い込みたいというのは分かりました。でも、ポケモンリーグに俺を出場させるだけなら、わざわざ負ける必要はなかったんじゃないですか?」

 

「勝ちを譲ったのは、お前の箔付けだ。敗北したものの実力を認められてのバッジ獲得したよりも、勝利によって全てのジムを突破した…としておいた方が、世間一般からの受けは良いだろう」

 

「………」

 

 

ああ、所謂イメージ戦略ってやつかぁ…そのために、俺は勝ちを譲られたワケだ。完全にサカキさんの掌の上で踊らされてる気分。

 

ここまでのサカキさんの説明をまとめると、ポケモンリーグに出場すると否が応でも俺は注目されるから、他社に手を付けられる前に囲い込んで、会社の広告塔として利用したい…と言うことね。

 

 

「…何と言うか、人気の子役みたいな感じですね」

 

「みたい、なのではなく、そのものだろうな」

 

「ポケモンリーグが終わった後に、アイドルデビューでもさせられるんですか?」

 

「…フ、似たようなものではあるかもしれんな」

 

 

…え?マジですか?つまり、何?俺、このままいったら最年少天才トレーナーとしてテレビに雑誌に引っ張りだこってか?その内密着取材とかされて、『未来のチャンピオン候補、その私生活に〇〇日間密着取材!』みたいなドキュメント作られたりしちゃうん?

 

…何となく想像してみたけど、プライベート全部見られて丸裸にされるとかクッソ嫌だなぁ。まあ、ただの俺の想像と言うか、妄想でしかないんだけども。

 

と言うか、サカキさんは俺に何をやらせるつもりなんだ…

 

 

「ともかくだ。トキワジムリーダーとして、お前の実力を認め、グリーンバッジを授与する」

 

「…ありがとうございます。素直には喜べませんが」

 

「この半年間、合間合間でお前の成長度合いは確認させてもらっている。今のお前ならポケモンリーグでも無様な戦いはしないだろう。そこはお墨付きをくれてやるから、自信を持って戦ってこい」

 

「…分かりました。でも、次はちゃんと勝ちます」

 

「クク…良い返事だ。では、次に戦う時はもっと成長していることを期待しよう」

 

「はい」

 

 

それを最後に、サカキさんへの尋問は終わった。いや、俺が良い様に言い(くる)められただけか。後に残ったのは、サカキさんから渡されたグリーンバッジと技マシン26、そして実質的な未達成に終わったこの旅の最終目標。勝ちはしたが、お情けと言うか、サカキさんの都合で勝たされただけだ。この結果には釈然としない気持ちは強い。

 

『打倒・サカキさん』をスローガンにここまで突っ走ってきた身としては、正直ポケモンリーグとか二の次なんだが…まあ、いいや。次だ、次。サカキさんには次の機会に勝てばいいんだ。そのためにも、こんな所で止まってちゃいられない。今よりももっと強くならないと。

 

この世界におけるポケモンリーグ大会は、ジムバッジを8個集めないと出場出来ないのは原作通り。原作では四天王とチャンピオン合わせて5人と連戦して勝ち抜けばクリアだったけど、こちらでは参加登録出来た全てのトレーナーをブロックに振り分けての本戦…ブロック内で参加者の総当たり戦を行う。

 

その本戦で上位の成績を修めた32人が決勝トーナメントへ進出し、そこで最後まで勝ち残ったトレーナーが優勝だ。四天王もチャンピオンもいることはいるが、それはこの上、マスターズリーグの話。ポケモンリーグには全く関係がない。

 

ここまで来てしまったなら、後はもうやけっぱちだ。チャンピオン目指して突っ走るしかない。優勝トロフィー掻っ攫って、トキワシティに持ち帰ってやんよ!ポケモンリーグ何するものぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、不満の残る終わり方ではあったが、俺はカントー地方の全てのジムを制覇。次なるステージ、ポケモンリーグセキエイ大会へと駒を進めることとなった。

 

 

 

そのトキワジム戦から2日後…

 

 

 

「…では、行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい。頑張るんだよ」

 

 

激闘の疲れを癒し、最後の旅に向けた準備を整え、ルートさん他、顔見知りの人々の見送りと声援を背に、俺はポケモンリーグの舞台・セキエイ高原を目指してトキワシティを旅立った。

 

西へと延びる22・23番道路を駆け抜け、その先に待っているのがポケモンリーグへの最後の関門・チャンピオンロードだ。

 

原作では、23番道路と洞窟内のギミックを攻略するのに"フラッシュ"だの"かいりき"だのと言った秘伝技が必須だったが、幸いなことにこっちでは特に必須というワケではないようだ。"なみのり"出来るポケモンがヤドンしかいなかったから、少し足止めくったりはしたけど。

ヤドンいなかったら詰んでた()

時々あったオニドリルや水ポケモンたちの襲撃も、レアコイルが完全にシャットアウトしてくれたので、快適な水上の旅だった。俺を背に乗っけて超ゆっくりと川を渡るヤドンは、今までで一番頼もしかった。

 

 

 

そうして辿り着いたチャンピオンロードは原作通り、これまで旅してきたどの場所よりも、現れる野生ポケモンのレベルは高い。それ故に、チャンピオンロードはポケモンリーグに挑むトレーナーたちの鍛錬・調整の場としても機能している。この険しい巨大洞窟内の山道を、襲い来る野生ポケモンたちや、時折勝負を持ちかけて来るトレーナーを返り討ちにしながら、仲間たちと力を合わせて登っていく。

 

ただ、俺がチャンピオンロードに突入したのは大会開幕が目前に迫っているギリギリの時期。鍛錬・調整しているトレーナーも大会本番に備えて徐々に切り上げ始めている頃合いで、そうでないトレーナーも、期限の迫る本戦への出場登録に滑り込むために道を急いでおり、原作のように次々バトルを挑まれることもほとんどない。なので、順調に行程を消化出来た。寒さだけは身に堪えたが…キュウコンがいてくれて助かったわ。

 

それら色々なちょっとした困難を乗り越え、登録締め切りの3日前にセキエイ高原に到着。出場登録も無事に完了し、数日間の休息と軽い調整で本番に向けて英気を養うことに。

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

「カントーポケモンリーグ・セキエイ大会の開会を宣言します!」

 

 

数万人に及ぶ観戦者たちの大々々歓声と共にポケモンリーグ・セキエイ大会は幕を開けた。サカキさんからのお情けとお墨付きを貰ってこの場に来た以上、無様な姿は見せられない。

 

さあ、やってやろーじゃねーか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 時は流れ、季節は春。麗らかな陽気の中、長閑な風景が広がるカントー地方の小さな田舎町・マサラタウン。その町外れ、1番道路へと繋がる場所に、1人の少年の姿があった。赤を基調としたモンスターボール柄の帽子に、これまた赤を基調とした服装は、新緑の風景の中ではよく目立つ。

 

この少年の名はレッド。このマサラタウンで生まれ育ち、先日トレーナーズスクールを卒業したばかりの少年だ。言葉はないが、どこか決意を秘めた瞳で遠くを見据えるこの少年は、この春からトレーナーとして新たな一歩を踏み出すことが決まっていた。

 

レッドは1番道路の先に広がる景色を眺めしばらく佇んでいたが、やがて一度大きく息を吐くと、意を決したように、眼前に広がる広大な世界へと第一歩を…

 

 

「おぉーい!待て、待つんじゃあレッド!」

 

 

…踏み出そうとしたのかしていないのかは定かではないが、その姿を見た人物が呼ぶ声によって、レッドは行動に待ったをかけられた。

 

 

「…博士?」

 

 

レッドを呼び止めたのは、マサラタウンに研究拠点を構えるポケモン研究の権威・オーキド博士。レッドにとっては幼馴染(グリーン)とその(ナナミ)の祖父であり、研究所にも度々出入りしていたため、幼少の頃からよく知る人物だった。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

「…博士、どうしたの?」

 

「ハァ…レッド、「どうしたの?」ではない!草むらでは野生ポケモンが飛び出すから危ないと言っておるじゃろう!?」

 

「うん」

 

 

そうキツめの口調で窘めるように話すオーキド博士だが、当の本人は不思議そうな表情を浮かべ、我が事に非ずといった様子。

 

 

「…だから、景色を見てただけ」

 

「………はぁ」

 

 

マイペースなレッドの返事に、オーキド博士は肩透かしを食らったようでガックリと肩を落とす。が、すぐにいつものことと気持ちを切り替える。

 

 

「トレーナーになることが決まって、舞い上がって先走ったかと思ったわい」

 

「………」

 

 

オーキド博士はマサラタウンにおける新人トレーナーのサポートをポケモン協会から委託されており、その業務の中に、最初のパートナーとなるポケモンの譲渡があった。そして実はレッド、この時点ではまだポケモンを持っていなかったりした。

 

つまり、レッドは自身の新たな旅立ちに先立って、その一歩を共に踏み出してくれる最初のパートナーとなるポケモンを、オーキド博士から譲り受ける約束をしていた。それが今日のこと。

 

しかし、約束の時間になってもレッドが現れないため、オーキド博士が探しに来たのだ。

 

 

「…まあ、いいわい。ほれ、グリーンが待ちくたびれておる」

 

 

今日トレーナーとしての一歩を踏み出すのはレッドだけではない。オーキド博士の孫でレッドの幼馴染でもあるグリーンもまた、スクール卒業と同時にトレーナーとなる道を選んでいた。

 

 

「さあ、行くぞ」

 

「……(コクリ)」

 

 

そうして2人は連れ立って、研究所へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

マサラは真っ白始まりの色。まだ何物にも染まっていない少年たちは、新しいスタートラインの上に立つ。無口で素直だが、気分屋でイマイチ掴み処のない天才肌なレッド。自信家で努力家、お喋りでお調子者なグリーン。幼い頃から競い合い、切磋琢磨してきた2人が歩む、無地のキャンバスに描かれる物語。そこにはどんな道があり、どんな景色が待っているのだろうか。今はまだ、何も見えない。

 

 

 

 




これにてマサヒデくんのカントージム攻略の旅、終了です!サカキ様からの脱出を目指すマサヒデくんですが、逆に沼に引きずり込まれて行っている気しかしないのは何故でしょうねぇ()
…え?ポケモンリーグ?物語の進行上、さして重要ではないので全カット、次回の閑話でサラッと流して終わりです。

そして、いよいよ原作主人公・レッドさんとグリーンの物語も始まります。と言っても、基本的にはマサヒデ視点なのであまり本筋で語られることはないでしょうが。ともかく、これでいつでも原作の時間軸へとキンクリ出来る格好になりました。ただ、その前にキンクリしてる間の日常編的なのも何話か入れられたらなぁ…とも思っております。
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