シロガネ山に籠もっての修行を始めて1カ月。主目標として進めて来たスピアーの努力値稼ぎは、まずまず順調だった。石を投げればポケモンに当たる…と言うのは流石に言い過ぎかもしれないが、野生ポケモンの楽園なだけあり、また主目標となるポケモンが生態系の頂点に立っているだけに、戦う相手には困らなかった。
ただ、全てが順調だったかと言うと、そうでもない。攻撃の数値に関してのみは確かに順調だった一方、素早さの努力値を持つポケモン…シロガネ山周辺で言えばポニータ・ギャロップがターゲットになるのだが、こいつらは遭遇しても、向かってくる個体より持ち前のスピードを活かして逃げる個体が多く、努力値稼ぎが思ったように進まなかった。
そこで、この問題を解消するための手として、昼間に活動するポケモンよりも夜間に出現するすばやさの努力値を持つポケモンに狙いを切り替え、2週間ほど前に活動時間の重点を日中から夜間帯に移した。
シロガネ山の夜は人工物が何一つない暗黒世界。月明かりと星々の煌めき、そして俺や時々やって来る調査員と思われる誰かが起こした焚火が灯火の全てだ。その内幽霊の1つ2つでも出そうな雰囲気で、複数人で活動していた調査隊の時と比べて、正直心細くて仕方がない。
…いや、実際幽霊出るんだけどな。ムウマっていう可愛らしいヤツが。暗闇の中、背後から耳元で「ムゥ~マァ~…」って一鳴きしては消えていったり、目の前にいきなり現れては"くろいまなざし"やあやしいひかり撃ってきたり、やることは全然可愛くないけど。特にくろいまなざしを撃たれた時がヤバい。真っ暗闇の中で金縛りくらったみたいになって、身動き出来ない状態でムウマが迫ってくる…文字通り寿命を削られてる気しかしないんだが。ホラーだけはガチであかん。
ムウマによる妨害行為の他、視界不良などの夜ならではの障害に見舞われ、夜間の活動は手持ちメンバー総動員じゃないと安心出来なくなりながらも敢行した夜の努力値稼ぎ。諸々の不安要素や精神的ダメージを抱えながらの続行だったが、この選択は結果的には吉と出た。
ゴルバットやニューラ。これらはいずれもシロガネ山に生息するポケモンであり、素早さの努力値を抱えるポケモンである。そして、これらのポケモンに共通するのは、夜間や洞窟などの暗い時間帯・場所を活動範囲にしている点。シロガネ山の昼の支配者をリングマやドンファンとするなら、夜の支配者は彼らだろう。それは、今の俺にとってはこれ以上ないぐらい都合が良かった。
加えてゲームでは野生ポケモン相手は基本1対1だが、現実にはその固定観念に囚われる必要がないのもある。どちらもスピアー単体では相手にしづらいひこうタイプのポケモンだが、スピアーを中心に据え、サンドパンやサナギラス、レアコイルやドガース改めマタドガスなど、飛行タイプ相手に優位に戦えるポケモンで脇を固める陣形で1対多の構図を作ることで、成果は目に見えて上がった。
夜に現れるポケモンを狙うというこの思惑は、これ以上ないぐらいに見事にハマったのである。俺の精神がジワジワ削られた以外は。
なお、この精神的ダメージには味方からの
そんなこんなありながらも、活動時間を夜間に移したことで努力値稼ぎは再び順調なペースになりつつあった。そしてそんな中で、その時は突然訪れた。
それは、ゴルバットをスピアーとサナギラスが連携して撃破した、もう数十回も見た光景の直後のこと。明け方の早い時間、夜間帯に活動するポケモンたちはそろそろ住処に戻って眠りに就き始め、昼間に活動するポケモンたちが動き出す頃合いだった。ちょうど、太陽が森林地帯の向こうから顔を覗かせ始めていたのはよく覚えている。
半ば夜型の生活を送っていた俺にとって、最近の日の出はお休みなさいの合図も同然。今日はここまで…そう考え、引き上げにかかろうとしていたていた時。
「……ギ…ィッ!」
「…サナギラス?」
サナギラスが普段聞き慣れない鳴き声を上げた直後、身体が朝日に負けないぐらいに眩く輝き出した。その光のシルエットは、みるみるうちにより高く、より大きく変わっていく。
そして…
「ギィラァァァーーーーッ!!!!」
サナギラスを覆っていた光が弾けると同時に、朝焼けの空を特大の咆哮が切り裂いた。そう、不安を感じつつも待望だったサナギラス進化の瞬間である。
サナギラス改め、よろいポケモン・バンギラス。長い忍耐の時を経たサナギラスが遂に到達した最終進化形態。図鑑の説明では、攻撃性が非常に高く凶暴で、弱い相手には興味を示さないと言われる一方、強敵には積極的に喧嘩を売りに行くなど、本性はかなり好戦的であるとされる。そして、その好戦性をさらに危険なものとするのが、バンギラス自体が持つパワー。その力は山を崩し、地形をも変えてしまうほどと言われ、【歩く災害】とも表現されることもある。
ゲームにおいては、通称・600族とも呼ばれる高いステータスを有するポケモンたちの一角としても知られる。素早さが若干低めなものの、攻撃を中心に高水準でまとまったステータスを持っている。その高ステータスと積み技を活かしたエースとしての役割は勿論、特性"すなおこし"で砂パの起動要員、"ステルスロック"やでんじはを撒くサポート要員等々、物理格闘技で消し飛ぶ以外は何をやらせても優秀なポケモンである。
「ギィ……」
「おぉぉぉ…!」
朝日に照らされ、大自然の中に悠然と佇むバンギラス。ゲームやってた時からずっと思っているが、艶のある緑がかったボディに大きく重厚感のある体躯、背中から突き出した多数の棘。日本人の大半が思い描くであろう怪獣然としたそのシルエットは実にカッコいい。男心にぶっ刺さりだ。
ここ1年全く兆候もなく半ば忘れかけていた中でのことだったが、いつ進化するかと楽しみにしていたことは間違いない。ゲームの中であればいざ知らず、現実にいざその時を迎えたとなるとトレーナーとして感動も
思い返せばヨーギラス時代にオーキド博士のとこで出会ってから2年と半年。色々手こずらされはしたが、打倒・サカキさんの道を共に歩んできた大事な仲間だ。この反応も、バンギラスなりの信頼の表現だと思っていたり…するんだけど、実際の所どうなんスかね…?
「やったじゃないか。おめでとさん、バンギラス」
朝日を背に悠然と佇むバンギラスに歩み寄り、心の底からの祝福の言葉を掛ける。
「…………」
しかし、バンギラスはこちらをチラッと一瞥しただけで、何とも素っ気ない反応。敵意を感じる…とまではいかないが、まるで俺のことなどどうでもいいとでも言っているかのようだ。
…まあ、これもバンギラスらしさってことでよし。早速600族の超パワーを実戦で実見…といきたいところではあったが、流石に日付が変わる前から活動していれば、朝日が昇れば眠くなるのが道理。この時は自重し、再び夜に向けて身体を休めることにした。
かくして、ついに手にしたバンギラスという強大な存在。間違いなくこのシロガネ山での生活、延いてはトレーナーとして生きていく上で、俺にとって欠かせない大きな力になる。朝は自重した俺だったが、眠りから覚めた後、食事を挟んですぐにバンギラスを実戦投入した。この例えが適切かは微妙なところだが、言うなれば新しい玩具のようなもの。子供みたいと言われるかもしれないが、手に入れれば使ってみてたくなるのが人間の性ってもんでして。
ただ、進化時に見せた態度から少し不安な点もあった。以前から気になってはいたんだけど、果たしてバンギラスは俺の言う事を聞いてくれるのか?その答えを知るためには、やはり実戦で使ってみないとわからない。
かくして早速実戦投入されたバンギラスは、その期待に十二分に応える圧倒的なパワーを、まざまざと見せつけてくれた。
「ギィラァァーッ!!!!」
「ちょっとぉぉーー!?」
…お察しの通り良い意味でも悪い意味でも。攻撃種族値134から繰り出される規格外の圧倒的パワーを、俺の指示も静止も聞かず、辺り構わず振り撒いたワケだ。
一度戦闘モードに入ると、その特性が即座に発動。俄かに風が吹き始め、かと思っている間に風に砂が混じり出し、その腕の一振りは易々と地を砕き、尻尾の一振りは木々を数本まとめて圧し折り、相手ポケモンに向かって大きい物で直径1mはあろうかという岩石の雨を浴びせ押し流す。見ていて相手となる野生ポケモンの命が危ぶまれるレベルだ。こっちの都合で攻めかかっておいてなんだが。
オーキド研究所で初めて会った時から、我が強いと言うか何も信用出来ないという意思を明確に示す、一匹狼な暴れん坊だったバンギラス。タマムシシティでのサカキさんのシゴキに、サナギラスへの進化を経て幾分か落ち着いてくれたと思っていたんだが…最終進化を遂げたことで、身を潜めていた生来の超絶気性難が再び鎌首をもたげてしまったらしい。
「ストップ!やりすぎだ!止まれバンギラス!」
「ギラァッ!」
「ぬぉぉッ!?」
やりすぎだ、と何とかバンギラスを止めに入ろうとはするものの…その返事は、相手を攻撃した際の流れ弾、顔面真横を突き抜ける岩塊火の玉ストレートで返された。命の危機に流石にちょっとちびった。
「おい…」
「…ギィィ」
「…!」
当たっていたら軽く死ねるのは流石に洒落にならないので、バンギラスを睨み付けるが、当のバンギラスはと言えば、僅かに顔を動かして流し見るように視線だけを俺に向けると、ニヤリと鋭い牙を見せる。そして、何事もなかったように前を向く。
何だかんだ2年以上付き合ってきたのでよく分かる。これ、明らかに俺を舐め腐っている態度だろ…
「スピッ!スピィッ!」
その様子を見ていたスピアーが、すかさずバンギラスに対して咎めるような声を上げる。戦闘直後だというのに、うちのエース・リーダーとして、俺や他の仲間を気に掛けるその姿勢は素晴らしい。流石は相棒、頼もしいぜ。
「ギ…ギィラァ!」
「スピ…ッ!?スピ、スピィッ!」
なんて思ったものの、スピアーでもこの場は収まらない。始まる2体の激しい鳴き声の応酬。空気が一瞬の内に、重苦しい険悪な雰囲気に変わる。
互いに額を合わせてメンチを切り合って一触即発みたいな状態…と言うか、バンギラスとスピアーの体格差が大きすぎる。傍目には小学生がヤクザに喧嘩売っているようにしか思えん。
「キュイ…」
サンドパンが寄って来て、心配そうに様子を窺っている。
「ビビビ」
「ド~ガァ~」
レアコイルとマタドガスも固唾を飲んで…いるかどうかは2年以上付き合ってなおイマイチ分からないが、プカプカ宙に浮いたまま、2体の口論?の行末を興味深そうに見守っている。
「…………やぁん?」
そんでヤドンはいつも通り…っと。"あくび"があればこの状況を鎮める救世主足り得るんだろうが、残念ながら非搭載なのであまり役に立ちそうにない。
時期的に、そろそろ第3世代の技も解禁していい頃合ではある。レベル的には当の昔に通り過ぎている筈なので、頑張って思い出させたいところ。仮にもしダメだったら、原作的にはキノコ持ってナナシマ行かなきゃダメなんかね?若しくはハートのうろこ持ってジョウト地方のフスベシティ行くか。
…てか、実際にそういうことが出来る人がいるのかどうかも分からん。
っと、そんな未来のことより、今は目の前の事態への対処だ。ラフレシアがいれば、ねむりごなで
頼む、スピアー。何とかバンギを抑え込んでくれ。
「スピィ!スピィ!スピィーッ!」
「………ギィ」
「スピィッ!」
そんな願いが通じたのか、体格差を物ともせず詰めよるスピアーに、渋々なのが目に見えて分かるものの、バンギラスは引き下がってくれた。俺を舐め切っているこの態度はいただけないが、最悪の状況まではいかなかったことに、取り敢えず胸を撫で下ろしたのだった。
俺、一応バッジ8個持ってるはずなんだけどなぁ…原作じゃ言うことを聞くレベルの上限が上がる効果があったけど、まあ現実じゃ所詮飾りでしかないってことか。
そんなこんなありつつも、高レベルの野生ポケモンに襲い襲われる努力値稼ぎの日々は続く。高い種族値から繰り出される圧倒的なパワーを武器に、周辺環境諸共相手を薙ぎ払い、指示を聞かなかったり無視したりするバンギの制御に苦心しつつも、スピアーの再育成は進んでいった。
バンギラスだけに関して言えば前途多難ではあるが、育成自体は概ね順調。
…そのはずだった。
…えー、はい。大変お待たせいたしました。年度末目前になっての今年一発目、サナギラスがバンギラスになり、サトシのリザードンじみて来た、という感じのお話でした。ちょっと短いですが、生存報告も兼ねて投稿です。
スカバイやったり、コロナ等諸々の事情でリアルが多忙だったり、別のトレーナー業に精を出したりしてたらご覧の有様です。モチベが…モチベが上がらん…!
まあ、そんな言い訳は置いときまして、今年も何とかマイペースに書いていきたいと思いますので、程々に楽しんでいただければ幸いです。今年もよろしくお願いします。
レッドがオーキド博士から貰ったポケモンは?
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フシギダネ
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ゼニガメ
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ヒトカゲ
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ピカチュウ
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イーブイ