成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第75話:狂牛デスマッチ

 

 

 

 

「ブモオォォォォォォーーーーーーッ!!!!!」

 

「…!?」

 

 

長閑な昼下がりの空気を切り裂く大咆哮。反射的に顔を上げ、音のした背後に目を向ける。そこにヤツはいた。

 

 

 

 時に、遅ればせながら皆さんは【ぬしポケモン】という存在をご存知だろうか?

 

原作的には第7世代のサン・ムーン、及びウルトラサン・ウルトラムーンにて登場した存在で、アローラ地方において【キャプテン】と呼ばれる各地の選ばれたトレーナーたちが世話をしている野生ポケモンの総称である。通常の野生ポケモンと比較すると、一般的な個体よりも一回りから二回りぐらい大柄で、バトル開始時にオーラを纏って自身の能力を上げて来る、という特徴がある。

 

ゲームにおいては、それまでの作品には必ず存在したポケモンジム的な立ち位置である各地の試練において、ジムリーダーに代わるボスとして島巡りをするトレーナーたちの前に立ちはだかった。

 

個人的には、中でもエンニュートが特に強敵だったと記憶している。能力や技構成、増援のヤトウモリは勿論だが、それ以上に腹筋的な意味でサン・ムーン最強のぬしポケモンであった。まあ、その主な原因はエンニュートよりも、試練の途中でなんの脈絡もなしに乱入してくるやまおとこにあるワケなんだが。

 

おいでませ、やまおとこ!…ちょっと思い出して笑いかけてしまった。あれは流石に卑怯だろゲーフリ。

 

で、そんなアローラ地方から遠く離れたここカントー地方にも、ぬしポケモンと呼ばれる存在が現れることがある。とは言っても、こちらのそれはアローラ地方のそれとは違い、完全な野生のポケモンだ。

 

人里近くに出現して人間社会に大きな不安、衝撃、被害を与える、もしくは与える可能性がある個体や、各地でのボスクラスの強さを持つ個体がそう呼ばれることがある。他のゲームで言うところのユニークモンスター、あるいはネームドモンスターと言い換えたほうが適当だろうか。

 

シロガネ山で戦った野生のバンギラス。あれも"ぬし"と呼ぶに十分値する個体だと思う。てか、そう思ったからヌシと呼んだワケなんだけども。

 

 

 

 

「ブモオォッ!!」

 

「ケンタロスか…!」

 

 

今、己の存在を強烈に主張するように急な斜面の上にただ1体佇み、俺のことを見下ろしている大咆哮の主・ケンタロス。コイツもたぶん、そう呼ばれるべき個体なんだろうな…と、一目見て漠然と思った。

 

理由は…雰囲気?何と言うか、どこか変な感じがするんだよな。少なくとも、高レベルの個体であることだけは間違いない。と言うか、こんなところに野生のケンタロスなんて生息していたっけか?

 

 

「ブモオォォォォォォーーーーーーッ!!!!!」

 

 

そんなことを思っているうちに、ケンタロスは動き出した。源義経の鵯越(ひよどりごえ)よろしく、斜面を滑り落ちるように迫って来る。明らかに、俺を撥ね飛ばして轢殺する気満々だ。

 

 

「…って、ヤッバ…ッ!!」

 

 

一直線に突っ込んでくるケンタロスとの距離が半分を切った辺りで、ようやく身体が現実に追い付いた。

 

 

「うおぉっ!?」

 

 

間一髪のところで突進を回避。すぐ真横をケンタロスが突き抜け、遅れて突風が吹き抜けていった。思わず顔を(しか)めるほどの強い突風だ。

 

ケンタロスは勢いそのまま、盛大に水柱を上げて川へ突入…したかと思えば、器用に方向転換。そのまま回り込むように移動し、俺の前に立ちはだかった。

 

 

「ブモオォォッ!!」

 

「あ…まっず…」

 

 

そして、回避のために俺が逃げた方向。咄嗟の判断だったとは言え、これがまた大失敗だった。

 

ゲームの24番道路のマップを思い出せる人は思い出してほしい。ゴールデンボールブリッジを渡った西側に、山肌に沿って南側に突き出た細長い草むら地帯があったと思う。俺が黄昏れていたのはそこで、回避した先はさらに南側。で、ケンタロスが川から上がって立っている位置がその北側になる。

 

詰まる話、退路が塞がれた。

 

 

「ブモオォッ!」

 

「く…っ」

 

 

水も滴るいい男…というには厳つすぎる形相のケンタロス。よく見れば身体全体が生傷だらけで、充血と言うにはあまりにも赤く染まり過ぎた双眼を俺に向けている。と言うか、これもう間違いなく異常個体だろ。絶対に何かある。そして、まだまだやる気は満々だ。やる気を通り越して殺る気だ。

 

鼻息荒くにじり寄ってくるその姿を前に、俺はスピアーのモンスターボールに手をかけ…ようとして、無を掴んだ。

 

 

 

 

……………

 

…………

 

………

 

……

 

 

…そういや、皆ポケセンに預けたまんまだった…

 

その事実を思い出した瞬間、全身からドッと冷や汗が噴き出て、血の気が引いていく感覚に襲われる。動揺を隠せないまま、それでもケンタロスから視線を外すことなく、必死に現状を打破する術を模索する。

 

逃走経路は西は山、東は川と言うことで、北か南の2択しかない。

 

南はすぐにでも行けるし街までの最短ルートだが、川を泳いで渡る必要があり、移動速度はたかが知れている。そもそも、ケンタロスも泳げるかもしれない。それ以前に、ケンタロスが遠距離攻撃手段を持っていたら、直撃すればもちろん危ないし、気絶ないしは泳げなくなるだけでも溺死コースが待っている。

 

北は陸路だが、こちらに逃げるためには躱すなり越えるなり倒すなり、このケンタロス自体を何とかする必要がある。そして仮に越えられても、その追撃を躱せるかはまた別問題…と。

 

 

 

 

 

…うん、無理ィ!

 

本能的にじりじりと後退る。これはマズい、本気でマズい、ガチのマジでマズい、過去一でマズい。絶体絶命の大ピンチだ。初日無一文トキワの森とか、シロガネ山のバンギラスとか、暗黒オーレ旅行とか、色々命の危険を感じる時はあったが、これは今までのとはワケが違う。

 

 

「ブモオォォーーーーッ!!!!!」

「うおおおっ!?」

 

 

必死に考えているところにも、ケンタロスは容赦なく突っ込んでくる。間一髪で躱した後を、ゴォ…!という突風が吹き抜けていく。

 

 

「ブモオォォーッ!!!」

「くぅ…っ!」

 

 

突き抜けていったケンタロスは、そのまま大きく回り込んで再度突っ込んで来る。これも必死の思いで避ける。

 

ケンタロスは突進の勢いそのまま、半ば自爆気味に切り立った山肌へと突っ込んだ。衝撃で山肌が大きく抉れたかと思うと、山肌の広範囲にヒビ割れが走る。自動車のフロントガラスが砕け散る事故の瞬間の映像を見ているようだ。

 

その次の瞬間には、ヒビ割れた箇所がガラガラと音を立てて瓦礫となって雪崩れ落ち、ケンタロスを巻き込んで砂煙で覆い尽くした。

 

 

 

…あれ?これ、手を下すまでもなく何とか…

 

 

 

 

「ブモオォーーッ!!!!!」

 

 

…まあ、なってるワケもないわな。砂煙の中から瓦礫の山を掻き分けて、再び姿を現すケンタロス。怒り狂ったように雄叫びを上げ、周囲に散乱する大きな瓦礫に当たり散らすように突進したり踏み付けたりして、目に付く端から破壊して回っている。

 

"とっしん"か、それとも"すてみタックル"か…どちらにせよ、もし仮に突撃を避けられなかったら、グシャグシャに轢き潰される未来しか想像出来んな。ダンプカーに真正面からぶち当たるようなもんだろ、これ。

 

しかし、高レベルの異常個体と見られるとは言え、いくら何でも威力高すぎないか?まさか、本当のぬしポケモンよろしく、攻撃が2段階上昇とかしてたりする?

 

 

 

 

…っと、事実なら由々しき問題ではあるけど、それよりも今はこの状況を打開する策だ。ケンタロスが瓦礫の破壊に夢中になっている間がチャンス。何か、何か良い方法はないか?逃げ道は塞がれ、助けを呼ぶ暇もなし。おまけに手持ちポケモンもいn…

 

 

 

 

……いや、いるにはいる…か。そう思い至り、唯一持ったままになっているボールに手を伸ばす。その中にいるのは、ハナダジムで単騎駆け全抜きさせるつもりで連れていた、唯一の存在。しかし…

 

…いや、それでもどの道やらせなきゃ、やってくれなきゃ俺に未来はない。

 

 

「っ……いけ、バンギラス!」

 

「……ギ」

 

「ブモオォッ!!」

 

「ギ…ィ……」

 

 

一瞬の躊躇。ほんの数カ月前までは闘争心の塊のようで、スピアーと並んでこれ以上ないほどに頼もしかった存在。でも、今のバンギラスは…以前のような溢れるほどの闘争心が全く感じられない。

 

その背中は、俺の全て…命までをも託すには、あまりにも心細いとしか感じられなかった。

 

「頼む、バンギラス…!」

「………ギ」

 

「ブモォ…ッ!!」

 

 

そんなバンギラスに対して、ケンタロスはヤル気満々。瓦礫を破壊し尽くしたこの狂牛に、尻込みする気配は全くない。それどころか、充血したように真っ赤な目で睨み付けるケンタロスの威嚇で、逆にバンギラスが怯んでいる。以前までのバンギラスのそれを上回るぐらいの闘争心が、オーラとなって見えるような錯覚すらしてくる。

 

 

「ブモオォォォーーーッ!!!」

 

 

ついにケンタロスが動き出した。大きく吠えて、バンギラスへと一直線に突っ込んでくる。バンギラスも迎え撃つ姿勢は見せている。

 

 

「ブモオォッ!!」

「ギ……ギィ…ッ」

 

 

しかし、やはり反応が幾分か遅く、そこからの行動もどこか緩慢であり、消極的。あっさりと懐までケンタロスの侵入を許し、突進をほとんどモロに受ける格好に。重量級のバンギラスの身体が一瞬浮き上がったような形になり、そのまま押し込まれる。

 

どちらかと言えばすてみタックルだとは思うが、ケンタロスの能力の高さを思い知らされる一撃だ。

 

 

「バンギラス、かみくだく!」

 

 

ただ、それでもバンギラスは健在。しかも、折角向こうから飛び込んできてくれたこの状況、活かさない手はない。威嚇を貰っているのは痛いけど、ケンタロス相手ならどうにかなる…と信じたい。

 

 

「ブモォッ!!」

「ギ、ァ…!?」

 

 

…が、バンギラスは逆にケンタロスから頭突きを受けて、仰け反って上体を起こされてしまう。噛み付きに行こうとしたところを、ケンタロスから先手を打たれた。

 

 

「ブモオォォォーーーッ!!!」

「ギアァ…ッ!」

 

 

頭突きで体勢を崩され、そこをさらに押し込まれ、バンギラスはそのまま押し倒されてしまった。

 

 

「ブモォッ!!ブモォッ!!」

「ギ、ギィ……ギ…ッ!」

 

「ダメなのか…ッ!?」

 

 

倒れたバンギラスに馬乗りになったケンタロスは、そのまま後ろ脚で立って両前足を振り上げ、踏み付けるように力任せに振り下ろしていく。いいようにされるがままで、さしものバンギラスからも苦悶の声が漏れている。

 

 

「バンギラス…ッ」

 

 

パッと見て分かりやすい不利な状況。救援は期待出来ず、必殺のモンスターボールもこの状況では弾かれるか、即刻壊して脱出されるのが関の山。何でもいいから、この状況を脱する手が欲しい。

 

でも、身一つの俺に出来ることなんて……体張って、囮になるぐらいか?死にそうな気しかしないし、そもそも本末転倒になっちまうけど。

 

 

 

…でも、バンギラスがやられたら俺もお終いだ。だったら…やられる前に、やれる内にやるしかねぇ…!

 

 

「フゥーー……やったらぁ!」

 

 

大きく息を吐いて腹を括って、俺は走り出す。目標は今もバンギラスに馬乗りになっているケンタロス。正直どう転んでもロクでもない結果になるとは思うけど、手を打たなきゃどの道お終いだ。

 

 

「ぉおおぉーーーーッ!!」

 

 

そのまま身体を投げ出すように、右肩からケンタロスに飛び込んでブチ当たる。バンギラスを甚振ることに夢中なケンタロスの横っ腹に、全身全霊を込めた"たいあたり"だ。

 

 

「ぐ…っ!」

 

「ブモォッ!!」

 

 

そして、筋肉質なケンタロスの肉体に弾かれ、逆に俺が転がされてしまった。

 

 

 

…まあ、無茶なことだとは分かり切っていたことだ。体重100㎏オーバーのケンタロスに、10代前半の子供が1発見舞ったところで、こうなるのは当然の帰結。むしろ、転がされた俺の方がダメージデカいかも。

 

しかし、雀の涙ほどもダメージを与えられずとも、俺の方がダメージが大きくとも、本来の目的を果たすには十分な一撃ではあった。

 

 

「ブモォ……!」

 

 

体当たりを受けたケンタロスが、どこぞの超戦士よろしく「なんなんだぁ今のはぁ…?」とでも言いたげなように俺の方を向く。どうやら、ヘイトを稼ぐことは出来たらしい。

 

まあ、それ以上出来ることは今の俺にはないんだけども。至近距離で見るケンタロスは、それはもう恐ろしい。鼓膜が破れそうな大咆哮に荒い鼻息、充血し切った目に筋肉の塊のような図体、力強く太っい四肢…そんな殺る気マシマシの怪物が迫ってくるのは、恐怖以外の何物でもない。死神から死の宣告受けてる気分。

 

だから後は…もう祈るだけだな。上手くいかなきゃ死あるのみ。闘牛士よろしく、華麗に躱して…

 

 

 

 

 

「ブモォォーーーッ!!」

「がァ…ッ」

 

 

…と思った次の瞬間には、強い衝撃。浮遊感と共に、俺の視界はぐるんと回った。

 

 

「ぁ…が…ぐゥ……ッ!?」

 

 

敢え無く撥ね飛ばされてしまったらしく、宙を舞った俺はそのまま地面に叩きつけられた。衝撃で肺の中が空になり、身体のあちこちが鈍痛という形で悲鳴を上げ始める。額からは生温い何かが垂れる感触がして、手をやればべったり…という程ではないが、それでも結構な血が付いていた。

 

それでも今は戦闘中。泣き言を吐く余裕があるなら動け。過去一痛む身体に鞭打って、行方を追う。

 

 

「ブモォォ……」

 

 

少し離れた位置に轢き逃げ犯(ケンタロス)を確認。狩りの邪魔をされてご立腹なのか、すでに方向転換を済ませ、俺に向かって来ようとしていた。

 

何とか逃げたいが…足が痛い。特に左足。落ちた時に捻ったか…骨折まではいってない…と思いたいが、それ以外にも身体中ズタボロだ。立てない…ケンタロスが地を蹴る音が、死刑執行へのカウントダウンに思えて来る。

 

これは…早まったかね。バンギラスからタゲを逸らすためとは言え、俺がやられてちゃ意味ないよなぁ…

 

 

「ブモォォーーーッ!!」

 

 

終わった…そう思った。

 

 

 

 

 

 

「ギラアァァッ!!!」

「ブモゥ!?」

 

 

そんな俺の覚悟は、寸でのところで杞憂に終わる。

 

 

「ギラァッ!!」

「…ッ、バンギラス…お前…!」

 

 

横から飛び込んできたバンギラスによって、そのケンタロスが吹っ飛ばされたことで、死刑執行(とつげき)は、阻止された。

 

遅かったじゃないか…危うく死ぬところだったぞ。

 

 

「ブモ、ブモォォーッ!!」

 

 

吹っ飛ばされたケンタロスは、その勢いでぐるんと一回転。再び立ち上がり、バンギラスへと狙いを戻して再び突進した。

 

 

「ブモォォーッ!!」

「ギィラァーッ!!」

 

 

それを、今回のバンギラスは正面から完全に組み止めた。さっきまでほとんど受け身一辺倒で、全く覇気が感じられなかったバンギラスだが…闘争心の塊だった頃のバンギラスが戻ってきている。そんな雰囲気が感じられた。

 

やれば出来るじゃないか。

 

 

「ギィィ…」

「ブモ、オォッ!?」

 

「ギラァッ!!」

「ブモオォォッ!?」

 

 

組み止められて完全に勢いを殺されたケンタロスの筋骨隆々な巨体を、バンギラスは軽々と持ち上げて見せる。ケンタロスは前進しようと4本の脚を頻りに動かしているが、その動きは空を切るだけ。

 

そんな抵抗などお構いなしとばかりに、そのままケンタロスを投げ飛ばした。

 

 

「ブモォッ!?ブモオォォーーーッ!!!!」

 

 

瓦礫の山に投げ飛ばされたケンタロス。だが、バンギラスを力尽くで押し込めるほどの実力のある個体だ。これだけでは倒すまでに至らず。

 

投げ飛ばされたことに怒り心頭か、これまでで一番の雄叫びを上げて、再びバンギラスに突っ込んで来た。

 

 

「ギラァッ!!!」

「ブフォッ!!?」

 

 

それに合わせて、バンギラスが尻尾打ちを見舞う。横っ面を鋭く打ち抜かれたケンタロスが、またしても宙を舞う。

 

 

「ギィラァ…!」

「ブ、ブモォ……ッ!!」

 

 

久しぶりに聞く獰猛な唸り声を上げるバンギラスを前にして、初めてケンタロスがたじろぐ姿を見せた。

 

今のバンギラスの瞳には、ハッキリと燃え滾る闘志が感じ取れる。そうだよ、それでこそバンギラスだ。本来のバンギラスはシロガネ山の王。たかが野生のポケモンにここまで好き放題やられて黙ってる玉じゃない。

 

 

「ブ…ブモオォオォォーーッ!!!!!」

 

 

バンギラスを前に狼狽えたケンタロスだったが、それも一瞬のこと。再びバンギラス目掛けて突っ込んで来る。

 

萎びれて頼もしさを失っていたバンギラスの闘争心に、再び火が灯った。何がトリガーになったのかはイマイチ分からないけど…この機を逃す手はない。闘争の火を絶やさぬように上手くエスコートしてやるのがトレーナーの役目。

 

そしてその一番の燃料は、やはり勝利に勝るものはない。

 

 

「いわなだれ、だ…!」

「ギィラァーーッ!!」

 

 

身体中に奔る痛みを堪えて、指示を出す。即座に大岩の濁流が生み出される。

 

その大岩の濁流の中を、ケンタロスは被弾などお構いなしに突き進んでくる。狂ってるようにしか思えんもんが…よく見るとあちこちボロボロ…なのは元からだったのでよく分からんけど、立派な角が片方根元からポッキリ折れてしまっている。ダメージを受けてないなんてことはないはず。

 

…或いは、痛みを感じてない?流石にあり得ないか?

 

 

「ギラァッ!!」

「ブ、ブモオォォ…!!」

 

「よし…ッ!」

 

 

降り注ぐ大岩の濁流を物ともせず突き抜けたケンタロス。しかし、それでも突進の勢いは削がれており、難無くバンギラスが受け止め、再び抱え上げた。

 

 

「ギラァァッ!!」

「ブモ……ォ…ッ」

 

 

そのまま、思いっきり地面に投げ落とした。さしものケンタロスもこれには堪らず呻き声を漏らす。

 

バンギラスはすかさずのしかかって、馬乗りと言うより柔道の抑え込みみたいな格好だが、ケンタロスの上を取る。

 

 

「かみくだく、だ…!」

「ギラァッ!!」「ブモ…ッ!?ブモ…オオォ…ォォ…ッ!」

 

 

押さえ付けたケンタロスの太い首筋へ噛み付き、鋭い牙を突き立てる。ケンタロスは振り解こうと右に左に身体を捩って暴れ回るが、食い付いた獲物をバンギラスは離さない。

 

 

「ギィ…ラァッ!!」

「ブモ……ォ…ォ…ッ」

 

 

逆にケンタロスに対して2発、3発と拳と爪を叩き込み、瞬く間に黙らせてしまった。さっきまでの苦戦は一体何だったんだと言いたくなるぐらいだ。

 

この様子を見て、俺は空のボールを用意する。身体中痛いけど、ここしかねぇ!

 

 

「フ…ッ!」

 

 

バンギラスに噛み付かれ続けて、徐々に抵抗が弱まっているケンタロスにモンスターボールを全力投球。ボールはガッチリホールドされたままのケンタロスの頭に吸い込まれるように命中し、光となってボールに吸い込まれた。

 

カタカタと揺れるボール。緊張と静寂の中、固唾を飲んでボールの動きを見守る。

 

 

 

 

 

 

 

『カチン!』

 

 

そして、甲高いロック音を最後に、ボールは動きを止めた。ケンタロス、GETだぜ…!

 

何とか、何とか乗り切れた、助かった。その事実を実感して、全身から力が抜けたように大の字で草地に沈んだ。

 

緊張が解けたせいか、ちょっと間が空いてようやく身体が認識したのか、身体中の痛みがまあ酷いこと酷いこと。

 

 

「……ギ」

 

 

そんな俺を、傍まで来て覗き込むように見下ろしているバンギラス。

 

 

「何だ、心配してくれてんのかい?」

 

「……ギ」

 

 

いつも通り、素っ気ない返事のバンギラス。でも、バンギラスが頑張ってくれなきゃ、間違いなくやられてた。復活の兆しも見せてくれた。だからこそ、そんな返事でもありがたく、嬉しかった。それに、ちょっとだけ心の距離も縮まった。何となくだけど、そんな気がする。

 

 

「サンキューな、バンギラス。助かったよ。やっぱり、やれば出来るじゃないか」

 

「……ギ」

 

「ハハハ…っつ~…ぐぅ……!」

 

 

ちょっと笑ったら、脇腹の辺りにズキンと刺されたような鋭い痛みが走る。

 

…と言うか、流石に、生身の人間がケンタロスの突進を正面から受けるのは無茶が過ぎたよな。

 

さて、何とか助かったはいいけど、ここから何とか病院まで行かなきゃならんワケだが…痛みが酷くて動けん。流石にバンギラスに街まで運んでもらうのはちょっと…だし、救急車にお世話になるのも何となく気が引ける。

 

 

 

…痛みが引くまでちょっと休んで、何とか戻れないかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、何よこれ…!?ちょっと!あんた大丈夫!?」

 

 

そんな状態で川縁に横たわる俺が、ケンタロスの後を追いかけるような格好で斜面の上から現れた人物に声を掛けられたのは、程なくしてのことだった。

 

 

「よっ…と!」

 

 

ケンタロスの破壊活動によって、ちょっとした崩落事故現場と化した斜面を、危なげなくスルスルと降って俺の所までやって来たのは、1人の女性。いや、同年代ぐらいだからまだ女の子って言った方がいいのか?

 

 

 

 

…うん、見たことある人なんですけども。

 

オレンジの髪をサイドテールで結び、どこか水着っぽいヘソ出しタンクトップにホットパンツという、健全な青少年はちょっと目のやり場に困りそうな露出高めな服装だ。

 

と言うか、下から見上げる感じになってるので本気で色々見えそうでヤバい。痛みもヤバい。

 

 

「凄い音がしたから急いで来たけど…これ、あんたがやったの?」

 

「…違いマス」

 

 

斜面に関しては。周りの大岩?それはまぁ…うん。

 

 

 

 

 

 

 

その後、彼女の手配で俺はハナダシティの病院に担ぎ込まれた。

 

 

 




バンギラスに復活の兆しを持たせるVS ケンタロス(特異個体)戦でした。あと、タケシに引き続きアニポケでもお馴染みの原作キャラもちょい出し。次回で今回の後始末つけて、閑話挟むか挟まないかして、それでようやく原作に行ける算段となっております。

…ここに来るまでに流れてしまった2世代分の仕様やら知識やら、使いたい部分が色々あるけど…どうしたもんかなぁ…!

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