成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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閑話:破壊の遺伝子

 

 

 

 

 

~タマムシシティ某所~

 

 

「…以上です」

 

 

 ヤマブキシティと並んでカントー地方を代表する都市・タマムシシティ。煌びやかな世界が広がる大都会、その地下深くに密かに巣食い、蠢く者たちがいる。

 

ロケット団。TCP社という表の看板の裏に隠れて、カントーの闇を支配する悪の秘密結社。その本拠地の1つが、タマムシシティロケットゲームコーナーの地下アジト。

 

この日、アジトではロケット団ボス・サカキを筆頭に、各部門の幹部を集めて定例の会議が開かれていた。

 

 

「潜入している工作員からの情報を総合しますと、シルフの新型ボール開発計画…通称・Mプランは幾つかの課題は残しているものの、着実に進展しつつある…と判断しています。進捗率は60%前後と見ております」

 

「アポロ、内部への工作はどうなっている?」

 

「はっ。現状、数人を内部資料を閲覧出来る立場に送り込めており、いくつかの試作品に関する資料データの持ち出しに成功しています。ですが、いずれも断片的であったり、機密性や重要度は然程高くないものがほとんどです。Mプランに関しましては特に厳重に管理されているようで、現状以上となりますとかなりのリスクがあります」

 

 

カントー地方を代表する大企業であるシルフカンパニー。モンスターボールの開発・生産で独占的な地位を占めるこの大企業が、新型のモンスターボールを開発しているとの情報を掴んだのが数年前。そこからあの手この手でその進捗状況を注視していたが、そこは天下の大企業・シルフカンパニー。ロケット団の能力を以てしても、その防備に穴を穿つことは難しかった。

 

 

「今は無理な動きは控え、内部で不満を抱えている者の抱き込みを図っております。並行して使えそうな者の選別も行っておりますので、今は機を待つべきかと」

 

「流石は天下のシルフカンパニー…か。分かった、その方針で進めろ。無理はしなくていい」

 

「はっ」

 

「次は…」

 

「では、私から」

 

「アテナか」

 

 

手を挙げたのは、開発・研究部門の幹部・アテナ。

 

 

「調査を続けておりました個体識別番号・L33−4Hについて、まだ途中ではありますが調査の進捗状況について、ご報告が」

 

「L33−4H…と言うと、ハナダシティ近郊にて捕獲された、例の異常個体のケンタロスか」

 

 

それは、ハナダシティ周辺を暴れ回った末に捕獲されたケンタロスに他ならない。この件について、第一報…マサヒデが病院送りにされた…の連絡を受けた時はさしものサカキも多少驚いたものだが、事のあらましを聞く内に、興味はケンタロスの方へと移っていった。

 

このケンタロスはカントー最高位の大学であるタマムシ大学にて調査・研究がなされることが早々に決まったが、サカキはTCP社においてもその調査を請け負うことが出来ないかポケモン協会に掛け合い、捕獲に際して彼の愛弟子と言ってもいいマサヒデが大きく関わっていた縁もあってか、一枚噛むことに成功していた。

 

 

「調査に参加している研究員からの報告では、このケンタロスはやはり野生の個体ではないようです。首輪や鼻輪等、人間の世話を受けていた形跡が残っていました。半年ほど前に4番道路にある牧場から逃げ出したまま、行方不明になっているケンタロスが何体かいるそうですので、その中の1体ではないか…というのが、大筋の見解とのこと」

 

「ふむ…まあ、そんなところだろうな」

 

 

元々、ハナダシティ周辺に野生のケンタロスはいない。年単位での時間経過による環境変化等で、生息域が変化することはたまにあり得ることではあるが、今回の件に絡んでそんな報告は、サカキも聞いたことが無かった。

 

 

「レベルも59とかなり高い域に達しています。ただ、牧場主からの聞き取りでは『元々のレベルは30半ばぐらいだったはず』とのことで、逃げ出してからの半年ほどで20程度レベルアップしている計算になります」

 

「…ハナダの洞窟だな。ハナダの洞窟に逃げ込み、そこで生きてきたと考えるなら、それだけの急成長はあり得ない話ではない」

 

 

半年という期間での急激な成長。野生化であることを加味すれば、その伸びは異常の一言。そして周囲の環境から見て、カントー地方屈指の魔窟でもあるハナダの洞窟にその理由があることは、自明の理。

 

 

「だが、そもそも30代そこそこのポケモンが生き残れるような場所ではなかったはずだが」

 

「その点についても調査が進んでおりまして、このケンタロスは何らかの理由により、本来持つ力の倍の能力を常時発揮出来る状態だったことが分かりました。つるぎのまいを1回使った状態が、このケンタロスの通常状態だった…と言い換えれば分かりやすいでしょうか」

 

 

牧場から逃げ出し、ハナダの洞窟に逃げ込み今日まで生き延び、逆に人に害を為すまでに至ったケンタロス。常時つるぎのまいを使った状態…ある程度バトルに関する知識がある者なら、それだけでその強さ、恐ろしさは簡単に理解出来る。

 

 

「なるほど。マサヒデも手こずるワケだ。そしてハナダジムリーダーは就任早々の仕事がこれとはな…マサヒデもそうだが、彼女もまた災難だったようだ」

 

「ええ、そうとしか言えませんわ。それに、どうやらこのケンタロス以外にも、同様の状態で暴れるポケモンが何体か確認されておりました」

 

 

そんな特異体質を持つ個体が、ハナダの洞窟の環境下に適応したうえで、ハナダシティ近郊で暴れ回ったのだから、たまったものではない。そんな怪物の相手を、就任早々にすることを余儀なくされたハナダジムリーダーに、僅かながらもサカキは憐憫の情を禁じ得なかった。

 

 

「…それで?そんな特異体質とも言えるものを、ケンタロスが手に入れた理由は分かったか?」

 

「ええ。それにつきましては、こちらを…スクリーンにご注目下さい」

 

 

スクリーンに映し出された2つの映像。

 

 

「これは?」

 

「ケンタロスの細胞を拡大したものになります。左が通常のケンタロス、右が今回の個体です」

 

 

アテナ曰く、両方ともケンタロスの細胞を映したものであるという。しかし、2つの映像には誰の目から見ても明確な違いがあった。

 

指し示したのは、右側の画像にのみ存在し、ウネウネと激しく蠢動して存在感を誇示する、それこそ寄生虫のようなナニか。もっと言うなら、細胞そのものも右と左では別種のもののようにさえ見えるぐらいに変化していた。

 

 

「通常のケンタロスと比較して、L33−4Hから採取したほぼ全てのサンプルがこのように変異を起こしていたことが確認出来ました。また、細胞内で活動しているこの細長い寄生虫のようなモノは、通常のケンタロスには全く見られないものでした。次に、こちらをご覧ください」

 

 

アテナの指示で、映像が切り替わる。

 

 

「これは、タマムシ大学から提供を受けたL33−4Hから採取したサンプルを、試しで移植してみたコラッタの細胞になります。左が移植前、右が移植後です」

 

 

映し出されたのは、コラッタの細胞とされる2つの映像。先程のケンタロスの物と同様、左右で明確な違いが生まれていた。

 

 

「移植して程なく、細胞の変異及び驚異的な勢いでの増殖が始まりました。それと同時に、筋力の増強と代謝機能の異常な活性化等の身体面の変化、行動面でも同族…と言うよりも、目に付いたもの全てへ攻撃しようとする異常な攻撃性が確認されています。そして、サンプルを移植した個体は、1日足らずでその全てが死亡しました。これらの結果を踏まえるに、この寄生虫のようなこれこそがL33−4Hの特異体質の根源、元凶と断定してよいかと考えます」

 

 

その一言で、会議室内がざわつく。

 

 

「この細胞を利用すれば、ポケモンを簡単に凶暴化させて尋常ならざる強力を発揮し、己の身体が傷付くことすら厭わず、本能の命じるままに戦い続ける戦闘マシーンの完成か!」

 

「もし、この技術を確立させることが出来れば、ポケモンに商品としてこれ以上ないほどの付加価値を付けることが出来るぞ!」

 

「カントー地方を、延いては世界中を裏から牛耳るという大望の大きな力となるだろうな。そして実際、原因はほぼ特定したも同然の状況…素晴らしい成果だ」

 

 

会議場に座る面々からは、笑顔と同時に明るい未来への展望が聞かれた。

 

事実、移植、ないしは投与すれば高確率でそれらの効果を発揮させるそれは、ポケモンの大半を単なる道具として扱うロケット団において、間違いなく理想的な商品と言えた。

 

しかし、今聞いた話だけでもクリアしなければならない問題があった。

 

 

「死亡した原因については分かっているのか?」

 

 

努めて冷静にサカキが尋ねる。全ての個体が1日足らずで死亡したという問題点。この謎の細胞を商品とするには、出来る限り生存率を高めるか、生存期間を延ばす対策が必須だった。

 

 

「今の所、死因は2つ。1つは変異細胞によって引き起こされた急激な変化が原因で起きた、体内での多量出血による失血死。比較的小さな個体に多く見られ、移植から程なくして死亡してしまうようです。そしてもう1つが、増殖したこの変異細胞がほぼ一斉に活動を停止し死滅することで引き起こされた多臓器不全。移植による変化を乗り越えた個体も、現状では1日生きるのが限界だと報告が届いております」

 

「ふむ…」

 

「極論すれば、どちらも変異細胞が引き起こした変化にコラッタが耐えられなかったためと考えられ、現在はそのメカニズムについて詳細な調査を行っている段階です。ですが…その供給に関しても、問題が」

 

 

そしてもう1つ、この変異細胞そのものの安定的な入手方法。ケンタロスから採取すればよい…かと思いきや、ここにも何やら問題が生じていた。

 

 

「サンプルの供給元でもあるL33−4Hの変異細胞の活動が、徐々に鈍化しつつあり、合わせてL33−4H自体も衰弱しつつあります。数日の内にL33−4Hは死に、変異細胞もその全てが活動を停止し死滅するでしょう。実験・調査に数をこなさなくてはならないのでもっと変異細胞が必要なのですが、このままですとその入手手段がなくなります」

 

「…培養などでは増やせないのか?」

 

「我々も何度か試みているのですが、すぐに死滅してしまい増やすことが出来ていません。タマムシ大学の方でも似たような状況だと聞き及んでおります。別の方法も模索中ですが、いずれの手法もまだ目処は立っておりません。また、ケンタロス自体の治療も実施しようとしているとの報告も届いていますが、効果は薄く、報告を聞く限りでは、絶望的な状況かと」

 

「………」

 

 

アテナから示された結論を前に、黙り込むサカキ。合わせて会議室は、しばし静まり返る。トン…トン…と一定リズムで指で机を叩く音が、時計代わりに時間を刻む。

 

この謎の変異細胞の商品価値がとんでもないものになることは、サカキから見ても明らかだった。しかし、新しい変異細胞の入手方法がなければ全て無意味な話。捕らぬ狸の皮算用で終わってしまう。

 

いずれにせよ、このままではこれ以上の新たな発見・進展は難しく、研究が暗礁に乗り上げることは確実。何とかこの変異細胞を手に入れる手段はないか。

 

 

「…ハナダの洞窟を一度調査する必要があるな」

 

 

しばし考えた末に、サカキは一筋の可能性に賭けてみることにした。

 

 

「ハナダの洞窟の調査を行うよう、ポケモン協会に働きかけてみるとするか。今回の一件で生じた被害も小さくはない。容認はされるはずだ」

 

 

今回のケンタロスは、元々飼われていた個体が逃げ出し、ハナダの洞窟の環境下で変異・凶暴化したものと考えられる。ならば、求めるモノの答えはそこにあるハズだった。

 

 

「はっ。では、必要な機材と物資の手配を進めておきます。それと、人員はいかがいたしますか?調査員はともかく、緊急時に生半可な腕の者では対応が難しいのでは?」

 

「私が直接指揮を執れるよう掛け合う。アポロ」

 

「はっ」

 

「腕の立つ者を20名程度リストアップしておけ」

 

「了解いたしました。期間としては、どの程度を考えておられますか?」

 

「む…アテナ、どうだ?」

 

「そうですね…可能であるならば2~3ヵ月は欲しい所ですわ」

 

「2~3ヵ月か…分かった。その線で調整しよう」

 

「ありがとうございます。ただ、それほどの長期間サカキ様が不在となりますと、時期的には会社にジムと、色々問題もあるのでは?」

 

 

ハナダの洞窟の調査実施は妙案ではあったが、仮にすぐにポケモン協会に調査実施の容認を求めたとして、許可が下りるまでは多少かかるだろう。さらにそこから調査に向けての準備期間がいる。TCP社だけで調査を行うなら不要な時間かもしれないが、今回の件はタマムシ大学を始めとした学術研究機関や企業も参加するであろうことは目に見えていた。

 

となると、調査が始まるのはどんなに早くても年が明けてから。新年度が始まるぐらいが現実的な開始時期だ。その時期に社長とジムリーダーを兼任するサカキが長期不在になるのは、確かに問題が多いと思われた。

 

 

「会社の方は副社長以下に任せればどうとでもなるだろう。ジムの方に関しても手は打つので問題ない」

 

 

しかし、当のサカキは何も問題が無いという。元々会社の方は数年前にトキワジムリーダーに就任した時点で、業務の多くを副社長に委任する措置を取っていた。そして、トキワジムについても考えがあるようだった。

 

 

「分かりました」

 

「では、この件については以上としよう。とりあえず、研究班は今出来ることに全力を尽くせ」

 

「はっ」

 

「次の報告を」

 

「はっ。では、ナナシマでの活動状況について、ご報告を。5の島に建設した秘密倉庫では…」

 

 

その後も、七色の大都会の地下深くで謀議は続いた。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして年も明けた頃、トキワジムに関して1つのニュースが報じられ、トキワシティを中心にカントー地方全域で俄かに話題を攫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【デイリーカントー】

『セキエイ大会最年少ファイナリスト、トキワジムリーダー代行就任へ』

 

 カントーポケモン協会は昨日、3年前のポケモンリーグセキエイ大会において史上最年少での本戦進出とベスト16入りを果たしたマサヒデさんが、今春よりトキワジムリーダー臨時代行に就任することを発表した。ポケモン協会は先立って、昨年ハナダシティ周辺を中心に大きな損害を出していた暴走ポケモンによる各種事件に関連して、ハナダの洞窟の調査を行うことを発表しており、現トキワジムリーダーのサカキ氏を中心とした調査隊を組織することも併せて公表していた。サカキ氏がハナダの洞窟調査に参加する関係で、業務に支障が出るトキワジムの運営を不在のサカキ氏に代わって今春より担う。

 

臨時代行への就任は現トキワジムリーダーのサカキ氏の推薦を受けてのもので、これまでの活動と実績、及びテストを経たうえで、ポケモン協会の臨時理事会で承認された。就任期間は今年の4月から1年間。

 

マサヒデさんは現在15歳。8歳時よりサカキ氏の指導を受け、トキワトレーナーズスクール初等部を卒業後、すぐにポケモンリーグセキエイ大会への出場を目指し各地のジムに挑戦。史上最年少でのセキエイ大会出場権を掴むと、予選を危なげない試合運びで突破し、史上最年少での本戦出場記録と最高位ベスト16を記録した。その後の公式大会への出場はないが、他にポケモン協会が主導したシロガネ山の長期調査に参加するなどの活動・実績がある。

 

本誌記者の取材に対してマサヒデさんは「まだあまり(代行就任の)実感がありませんが、今年1年、サカキさんが不在の間だけということですので、任された以上はしっかりと努めたい」と答えた。

 

カントー地方では昨年ハナダジムリーダーが交代し、今年はニビジムリーダーも交代となることが先に公表されており、今回臨時代行とは言え、1年間で3人の新人ジムリーダーが誕生することとなった。

 

 

 

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サ「お前来年からジムリーダーな」
マ「………はい?」

こんなやりとりがあったとかなかったとか。

とにもかくにも、破壊の遺伝子は無事(?)ロケット団の手に渡りましたとさ。そして主人公はトキワジムリーダー(仮)就任し、サカキさんはハナダの洞窟へ。どうなるミュウツー。
なお、破壊の遺伝子は色々と考え効果をこねくり回した結果、一時的な超パワーと引き換えにポケモンを死に追いやりかねない、麻薬と同然かそれ以上のやべぇシロモノになってしまいました…どうしてこうなった。まあ、第2世代以降の作品では削除されてるし…ね?
なお、変異細胞による云々は別に作者にそんな知識はないので割と適当です。

あと、遅ればせながら阪神タイガース日本一おめでとうございます。

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