~トキワの森~
そんないつも通りの今日は、定期のトキワの森巡回に来ている。ジムは1日お休みだ。が、基本的に何か大きなトラブルがなければ半ば自由時間のような部分もあり、その時間を利用してジム戦では(タイプの制約から)使えないポケモンを鍛えたりもしている。レッドのピカチュウの件もあって前回大規模に巡回を行ったが、特に異常は検知されず、あの一件は本当にただの偶然という形で一先ず決着している。とりあえずは一安心と言ったところ。
その問題の発端になったレッドはと言うと、少し前に用があってタケシと電話した際に、グリーン共々ジム戦を突破して行ったと聞いている。時間的に今は…そうだな、ニビシティからハナダシティに向かっている辺りだろうか。ロケット団絡みで言えば、次はオツキミ山での盗掘部隊との戦いで初コンタクトしたかどうかという段階。或いは、すでにハナダシティに到着して、金t…ゴールデンボールブリッジか民家で戦っているかもしれない。
何にせよ、俺に出来ることはほとんどない。数少ない出来ることと言えば、矢面に立たざるを得ないであろうナツメさんと緊密に連絡を取り合うことと、あとは来るべき日に備えて、戦力の拡充を図るぐらいだ。
「ヤドランはなみのり、ギャラドスはたきのぼりだ!」
ヤドランとギャラドス。ともにジムを巡った旅の中で出会った仲間だが、時間やスケジュール等、色々と問題があって嚙み合わず、結果として片やパッと見で何考えてるのか分からん存在、片やピチピチと飛び跳ね続けるだけな虚無の存在として、長期間手持ちの中で賑やかし、マスコット的な立場に甘んじていた。
しかし、それも今となっては昔の話。
「…やぁん」
「ギャラァッ!!」
ヤドン改め、ヤドランが巻き起こした大波に怯むことなく、コイキング改めギャラドスが真正面から突っ込んで真っ二つに波を割る。そのまま水面下から突き上げるようにヤドランに突撃し、ヤドランは少し押し込まれたもののこれを平然と受け切る。
2体の現状が、こうなっている。
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ヤドラン ♂
・Lv:57
・性格:のんき
・親:マサヒデ
・技:なみのり
サイコキネシス
あくび
なまける
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ギャラドス ♂
・Lv:53
・性格:すなお
・親:マサヒデ
・技:たきのぼり
じしん
りゅうのまい
でんじは
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このとおり、額面上では十分戦力に数えられるぐらいにまで成長してくれた。トキワの森の奥地、普段は人の立ち入ることのない大自然の中で、2体のポケモンが技をぶつけ合う様は迫力満点で、それぞれヤドン、コイキングだった頃を思うと大変感慨深い。
スピアーで確認出来たことも踏まえて、ヤドランは物理耐久面、ギャラドスは物理攻撃面を重点的に伸ばすことを考えて育ててきたが、どちらも仕上がりは上々だ。特に対サカキさんということを考えると、来るべき時には大いに頼りになるハズだ。ここまで来れたことにも一安心だ。
…まあ、その時俺自身に出番があるかどうかも分からんのだけど。あと、ついでにアンズ6タテ計画もいよいよ最終段階まで来たと言える。首を洗って待ってろよ忍者娘。
そもそも何でこんな計画立てたんだったっけ?とりあえずギャラで6タテかまして泣かせることだけはハッキリと覚えているが…正直原因が何だったか、覚束なくなってきたのは内緒である。でも鋼の意思で完遂はする。
「…よーし、今日はここまでにしよう!」
「ギャラァッ!」
「……やぁん」
それを合図にヤドランもギャラドスも戦いを止め、戻ってくる。
性格も種族値もとてものんびりしている緩慢な動きのヤドランと、魚…と言うよりは蛇…いや、竜?人魚?例えようとすると言葉に詰まるが、宙を泳ぐように身体をくねらせて移動するギャラドス。ギャラドスって普通に空飛べたんだ…と、初めて見た時は思った。違和感が凄かったんだよな。鯉のぼりと思えば不思議ではないけど。戦闘になったら高速で空を泳ぎ回るし、そもそも飛行タイプだし。
そうそう。ギャラドスと言えば、種族として凶暴なポケモンであることは色々なところで言及されているし、誰しも簡単に想像がつくことだと思う。そんななので、俺としては進化するまでバンギラスの轍を踏むこと、すなわち「バンギラスと同様に制御出来ないんじゃないか?」という懸念が常に頭の片隅にあった。
しかし、俺のギャラドスは【すなお】な性格だったことも幸いしてか、進化してもそういう気性的な面で問題になるようなことはなかった。これもまた一安心である。
あと、制御出来ないと言えばレッドのピカチュウも気になっている。レッドは上手いこと指示聞かせてたけど、完全に指示に従わせられているかと言うと…俺が攻撃されかけたことを考えると、まあ、かなり怪しいところだとは感じた。捕まえてから日も浅いようだし、信頼関係が築けてはいないんだろう。仕方のないことだとは思うけどな。うちのバンギ程じゃないにせよ、レベルが高いこともあって、完全に手の内に入れるには中々苦労するんじゃなかろうか。
そして、ピカチュウが使えないことで攻略スピードにどう影響が出るかも気になっている。ステータスやレッド自身の成長などの観点から、しばらくは使わない方がいいと助言したけど…最初のポケモンがヒトカゲだったし、タケシで躓いてるかな?それともアッサリ突破してるかな?
…まあ、なんて言ったって主人公だし大丈夫でしょう。そもそもやってくれないと原作ストーリー的に困る。だから、これも一安心と言うことにしておこう。頼むぜ主人公。
…ところで最近、原作が始まったこともあってふと考えるようになったんだ。俺は、ロケット団をどうするべきなんだろうか?どうなって欲しいんだろうか?
ロケット団自体が犯罪組織であり、色々と悪事に手を染めているのは言うまでもない。そして原作に沿うならなおのこと、このまま潰れてもらうべきであることも間違いない。
しかし…ロケット団を潰すということは、サカキさんを表舞台から蹴落とすということでもある。こっちに来て7年か8年か…それだけの月日を、本意ではない部分も多分にあったとはいえ、行く宛てのない俺はサカキさんの下で過ごしてきた。色々と目をかけてもらっていたのも…まあ、事実だろう。端的に『恩人』と言っていい。そう思うと、自らサカキさんを手にかけるようなことを躊躇する感情が、その時を目前に芽を出してきてしまっている。
深く考えれば、サカキさんの庇護下というぬるま湯に少しばかり浸かり過ぎた、とも言うことが出来るんだろうとも思う。ぶっちゃけ、これは俺個人が勝手に抱いているだけのだだの恩、ただの情だ。だからと言って、そう簡単に割り切れるほど簡単な話でもない。ふとした拍子に鎌首をもたげて、原作に沿うストーリーを思い描く俺を悩ませる。
実際、俺は今まではシルフカンパニー襲撃・占拠事件が速やかに解決されるよう、ナツメさんに協力してきた一方で、シルフの件以外でロケット団の動きを潰すような動きはしていない。立場や状況から大々的には動けないってのもあるし、元々がナツメさんに色々と詰められて仕方なくって感じでもあった。
そういう経緯もあって、元からそこまでする気もなかった。ナツメさんに話した以外、特にロケット団を潰すような方向には動いてないんだ。何ならサカキさんの言いなりになっている分、サカキさん、延いてはロケット団の利益になる行動を取ってるまであり得る…かも。
…なんにせよ、今からあれこれと考えたところで、ストーリーを捻じ曲げたり巻き戻せるような時機は疾うの昔に逸している。ゲームだったらヤマブキジムを開放する、マスターボールを入手するなどの目的で潜入することになっていたが…何らかの理由付けというか、要因が準備されるんだろう。恐らくは、このまま原作通りにシルフカンパニーはロケット団の襲撃を受け、レッドvsサカキによる決戦が起きることになるという前提は揺るがないはずだ。
最早賽は投げられており、時間的猶予もそこまでない。どんなに苦しかろうと、心が痛もうと、道は定まってしまっていて、立場的に出来ることも……探せばあるような気がしないでもないけど、限られてくる。少なくとも多くはないと思う。
「お疲れさん。さ、戻ろう」
「ラァ!」
「………やぁん」
だから、腹括れ、俺。
まあ、出来るなら俺が手を出す必要もなく、関係もないところで勝手に全て終わってくれるとありがたいんだけどねー。こんな危険なことに、わざわざ首を突っ込む理由がない。やっぱ原作主人公ってすごいわ。
あー、そんな都合のいいこと、あってくれたりしないもんかなー。
~同時刻:オツキミ山トンネル:第三者視点~
ニビシティとハナダシティを繋ぐ3・4番道路。その2つの都市・道路を分断するように聳え立つのが、オツキミ山である。遥か昔には多くの隕石がこの場所に落ちたという言い伝えがあり、それを証明するように月の石や隕石、さらには化石などもよく採れることで知られている。
以前、ポケモンリーグ出場を目指して各地を巡っていたマサヒデは、山越えを目前に坑道内の崩落事故により足止め、からの迂回を余儀なくされたことがある。もっとも、その崩落事故はロケット団が組織的に盗掘を行った末に引き起こされた人災という側面もあり、言ってしまえば身内によって邪魔されて予定が狂わされたとも言える。
そんな事故があってから数年が経ち、オツキミ山は何事もない時間の経過とともに平穏を取り戻した。事故後より実施されるようになった盗掘対策の監視の目も、何も起こらない日々の前に徐々に緩み出した。
そして、事件後より息を潜めていた悪党たちは、その油断・慢心を見逃さない。隙を突いて、見つからぬよう少しずつ、しかし確実に、その悪意は再びの蠢動を始めていた。
だが…その動きは、彼らも想定していなかったであろう形で潰えることとなる。
「リザード、ひのこ」
「リザァッ!」
「ラァ……ッ」
この日、オツキミ山内部の坑道の大空間を利用したトンネルでは、いつも通りに盗掘に勤しむ黒服…ロケット団の大人たちを相手に、1人の少年が大立ち回りを演じていた。
少年の名は…言わずもがな、レッド。ロケット団が人目を盗んで盗掘を行っていた所に、偶然彼が通りすがったことが全ての始まりだった。この時、ロケット団側が何もしない、もしくは口だけの威嚇で追い払おうとすることに留めておけば、何事もなく終わったのかもしれない。
「リザード、メタルクロー」
「リザァァッ!」
「ど…がぁ~…」
「な…クソッ!」
「何だこのガキ!?やけに強いぞ!?」
結果としては、盗掘の現場を見られたロケット団側からポケモンを嗾けてしまったのが誤りだった。最初に仕掛けた団員はレッドに手もなく捻られ、それを見て動いた増援の団員たちも片っ端から千切り捨てられ、今やその戦力の大半を無力化されてしまった。
「リーダー、もう戦えるポケモンが…」
「チッ!役立たずどもが…!」
戦える戦力を失ってしまっては、如何にロケット団と言えども出来ることが大きく制限されてしまう。仮にこの状況でジムリーダー、ないしは警察等の公安組織に見つかってしまえば、ここまでの積み重ねが再び水泡に帰してしまう。
一旦引いて体勢を立て直す…そう考えた彼らだったが、彼らの命運は、この時点ですでに尽きていた。レッドを年端もいかぬ少年だからと油断した結果、戦闘に大いに時間を取られた挙句に戦力の大半を削がれ…
「見つけたぞ!覚悟しろ、盗掘者どもッ!」
…その騒ぎを聞きつけた、巡回中のジムリーダーに現場を押さえられるという、彼らにとっては最悪の状況に。
「ニビジムリーダーだと!?」
「クソッ、やむを得ん!お前ら、撤退だ!」
ニビジムリーダー・タケシの登場に、形振り構わず蜘蛛の子を散らすように脱出せんとするロケット団員たち。
「そうはさせん!イワーク!バンギラスッ!」
「イワァッ!」
「ギラァッ!!」
その行く手を遮るように、イワークとバンギラス、2体のポケモンが立ち塞がる。
「2体とも、いわなだれだッ!」
「イワァァーーッ!!」
「ギラァッ!!」
大空洞の内部を埋め尽くさんばかりに雪崩れ落ちる岩石の奔流。すでに戦力的には半壊状態のロケット団に、この一撃に抗しうるだけの力はなく、巨岩の波を前に逃げ場を失い、或いは吞み込まれ押し潰されていく。
攻撃が収まった後には、標的となった者で立っている者は1人もいなかった。この後、ロケット団員たちはタケシの後を追って来たニビジム所属のトレーナーたちによって一人残らず捕縛され、その身柄は警察に引渡されることになる。
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その後、捕らえられたロケット団員の警察への身柄引き渡しと後片付けが恙無く進むオツキミ山トンネル内にて、2人のトレーナーが再会を果たしていた。
「ロケット団相手に単身で戦っているトレーナーがいると報告を受けて急いで来たんだが…まさか君だったとはな。大の大人、それも犯罪者たちを相手に、大したもんだよレッド君」
「……いえ」
原作主人公・レッドと、ニビジムリーダー・タケシ。2人は数日前にジムバッジを巡って手に汗握る熱戦を繰り広げたばかりだった。年端もいかぬ少年・レッドの巧みな采配と立ち居振る舞いは、タケシにとってはトレーナーズスクールを出たばかりだという前情報、そして友人でもあるトキワジムリーダー代行・マサヒデが気にかけていたこともあって、強く印象に残っていた。
「ロケット団…は、流石に知っているよな。奴らはどんな悪事でも平気で働くとんでもない連中で、何年か前にも盗掘でオツキミ山トンネルを崩落させたことがあるんだ。その事件以降、俺たちニビジムのトレーナーなんかが見回りするようになったからか、大きな動きは無かったんだが、最近になってまた盗掘した痕跡や、それらしき動きをしている怪しい集団に関する通報があって警戒していたんだ」
「………」
差し出されたタケシの手を握って、ガッチリと握手を交わすレッド。タケシがレッドのことを覚えていたのと同じように、レッドもまた、大苦戦した強敵として鮮烈に記憶に刻まれていた。
最初に挑戦した時は、マサヒデの助言に従ってピカチュウ抜きで挑んだレッドだったが、オーキド博士から譲られた最初のポケモン・ヒトカゲから進化したリザードは、タケシが操る岩ポケモンに対してメインウェポンの炎技は半減され、抜群が取れるメタルクローはその堅牢な物理防御の前に致命打足りえず、返しの岩技で敢え無く粉砕。その他のポケモンたちも岩ポケモンの重い一撃の前に次々と倒され、この旅の中で初めての敗北を喫してしまったのだった。
グリーンが一発で突破していたこともあって、悔しさから「ピカチュウを使えていたら…」と一瞬マサヒデに不満を覚えたものの、よくよく考えてみれば岩タイプを相手にするならピカチュウもリザードとレベル以外は似たようなものだったので、それ以上思うことはなく、数日間ポケモンたちを鍛えて再度挑戦。2度目の挑戦で、見事勝利を掴んだ。
まさしく最初の壁と呼ぶに相応しい存在だったと言える。
「君のおかげで、こうして連中を一網打尽に出来た。協力に感謝するよ。ただ、今回は俺たちがいたからスムーズに事態を収拾出来たが、相手は何を仕出かすか分からない集団だ。君のような子供が相対するには危険すぎる。今後はもしロケット団を見かけたら、可能な限り他の人を頼るんだ」
「………(コク)」
「では、後は俺たちの方で後始末をしておこう。ハナダシティ側の出口はすぐそこだから、今からでも日が暮れるまでには麓のポケモンセンターに着けるだろう」
「………」
「ハナダジムリーダーのカスミは水タイプの使い手だから、炎タイプのリザードが中心だと厳しい戦いになるとは思うが…マサヒデの奴も君のことは高く買ってるみたいだし、今日のことを見ても、君なら何とか出来るさ。頑張れよ!」
「………(コク)」
レッドはタケシに別れを告げ、ハナダシティを目指して再び歩き出した。そして、タケシが言っていた通りに、その日の夕方にはトンネルを抜けて麓のポケモンセンターに到着。一晩休んで翌日の昼にはハナダシティに入り、ハナダジム挑戦に向けて動き出すことになる。
一方のタケシはハナダシティのカスミ他とも協力し、入手した情報等を頼りに近隣に潜むロケット団の拠点を次々と潰して回った。また、無事にハナダシティに辿り着いたレッドがハナダジム突破を目指す中で、拠点潰しから逃れていたロケット団員をチマチマとだが各個撃破してしまう。
この結果、以降ロケット団はニビシティとハナダシティ周辺での活動に一時的だが著しい制限がかかり、低調にならざるを得なくなってしまったのだった。
お久しぶりです。大変長らくお待たせしてしまいました。今後のストーリーをどう持っていくか、構想を練り直したり書き直したりとだいぶ悩んでいて、結果ここまで遅くなってしまいました。まだ完全に構想が固まったわけではありませんが、出来た分から投稿していきます。
返信が出来ておらず申し訳ありませんが、もらった感想は全部読ませていただいております。感想を下さった皆さん、ありがとうございます。とても励みになってます。
一応ストックが出来ましたので、しばらく1週間に1話投稿します。少しでも楽しんでいただければ幸いです。