成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第82話:加速する物語

 

 

~タマムシシティ・ロケット団地下アジト~

 

 

 

 

 

「「「お帰りなさいませ、ボス」」」

 

「出迎えご苦労」

 

 

 カントー地方を中心に、世界を股にかけて暗躍する悪の秘密結社・ロケット団。その首領であるサカキの姿はこの日、自らが主導し調査団のリーダーとしても現地で指揮を執っていたハナダの洞窟ではなく、タマムシシティのロケット団地下アジトにあった。

 

居並ぶ幹部たちの出迎えを受けると、そのままエレベーターに乗り込みアジト最下層にあるサカキ専用の一室へ向かう。そして、黒革のボスチェアに腰を下ろして一息吐く。

 

 

「ボス、お疲れ様です」

 

「フ…やはり、帰ってくると落ち着くものだな」

 

 

正体不明のポケモンによって調査班1つが壊滅、人数にして約20名が死亡するという大惨事。この事態を受けて、ポケモン協会からは調査を一時休止するという判断が下り、サカキは報告や今後の確認等のため、対応を余儀なくされていた。

 

それらは未だ終わってはいないが、スケジュールの合間を見て、このタイミングでタマムシシティにあるTCP本社にも顔を出し、諸々の報告を受けた彼はそのまま極秘裏にロケット団アジトへと足を運んだのである。

 

 

「こうも忙しないと息をつく暇が無くていかんな。鍛えてはいるが、今回は中々に堪えたぞ」

 

「何か、お飲みになられますか?」

 

「いい。それよりも、早速で悪いが報告を聞きたい。この後すぐ、またとんぼ返りしなくてはならんのでな」

 

 

ロケット団ボス、TCP社社長、そしてトキワジムリーダーという三足の草鞋を履くサカキ。その内、トキワジムリーダーに関してはマサヒデにほぼ丸投げ、TCP社社長の業務も副社長に丸投げしている。一見余裕がありそうにも見えるが、サカキが自ら判断ないしは動くことを求められる場合も少なくない。加えてハナダの洞窟調査のために現場で指揮を執っていたこともあり、現状について詳細には把握出来ていなかった。

 

そして、今の状況的に無駄にできる時間はない。

 

 

「まず、先日のオツキミ山の件だ。あれからどうなっている」

 

 

そんな中での懸念事項の1つ。それがオツキミ山での一件だった。

 

 

「はっ…すでに御存知のこととは思いますが、極秘裏に採掘を行っていたことが露見し、任務に当たっていた団員のほとんどが検挙されました。加えてニビシティとハナダシティでは複数の拠点が摘発されております」

 

 

化石や月の石等の採掘を行っていた者たちが、ニビジムリーダーによって一人残らず検挙され、挙句複数の活動拠点が押さえられてしまった。この事態が発覚した当時、ハナダの洞窟内で調査に当たっていたサカキには第一報が届かず、連絡を受けた時には全て終わった後のことだった。

 

 

「対応が後手に回ってしまったこともあり、勝手ではありますが、ニビ・ハナダ両都市の人員は一部を残して拠点ごと引き揚げさせる対応をとりました。今回の失態、並びにボスの判断を仰ぐことなくこのような勝手、申し訳ございません」

 

「元々が以前のこともあったし、私へも連絡がつかなかった以上は致し方あるまい。それよりも、今後をどうするかだ」

 

仕入れ先(ルート)が1つ潰れる形にはなりますが、最低でも当面の間は中止せざるを得ないでしょう。仰る通りに小規模にしか活動させておりませんでしたので、潰したところで全体への影響は軽微と見ています。収支のマイナスも誤差の範囲で、他で十分に補えるかと」

 

「まあ、それが妥当だろう。それと、我々に繋がるような致命的な証拠は掴まれてはないだろうな?」

 

「重要な書類等は優先的に処分を命じた上で引き上げさせました。大した物証は無いはずですし、処分が間に合わなかった物がいくらか押さえられた可能性はありますが、仮に捕捉出来たとしても、末端の団員が精々かと」

 

「ならばいい。今後も公安の動きは注視しておけ」

 

「はっ!その代わりと言いますか、シオンタウンでの活動を強化しています。カラカラ・ガラガラの骨が良い値段で売れるので、多少なりとも損失の穴埋めにはなるかと思います」

 

「うむ」

 

「では、それに関連しまして、次に私の方から今年第一四半期の活動状況について報告をさせていただきます」

 

 

続いて、ロケット団を取り巻いている状況についての説明が始まる。本作においてはTCP社の影を司る組織と言う一面もあるロケット団だが、その主な活動はと言えば、盗みや密猟と言った違法行為に、それら違法行為で得た物やポケモンを売る闇取引、倫理的にアウトなポケモンの研究や実験、他社への企業スパイ等々多岐にわたる。

 

それら活動の中において、ここ数年で殊更に大きな利益をロケット団にもたらしていたのが、ポケモンの密猟と闇取引だ。安定した利益をもたらす大口の顧客がいたことも大きかった。

 

 

「オーレ向けの出荷が前年比27%の伸びを記録しており、全体の収益でも1割強を占めるほどとなっています。提示したものを手当たり次第購入していただいているような感じです」

 

「手当たり次第か。向こうは土地柄もあるとはいえ、数を集めるのに躍起になっているようだな」

 

 

オーレ地方に根を張る秘密組織【シャドー】。地域のほとんどが荒涼とした砂漠地帯であり、野生のポケモンがほぼ生息していない、もしくは人前に姿を見せることがほとんどないため、オーレの人々には野生ポケモンを捕獲するという習慣がほとんどなく、ポケモンの多くを他地方からの輸入に頼っていた。

 

そして、シャドーは特殊な処置を施すことで凶暴性・攻撃性を高め、自らが傷付くことを顧みない、さながら戦闘マシーンの如く改造したポケモン、通称【ダークポケモン】の研究・生産を行っていた。その被験体として多くのポケモンを求めており、そこにロケット団の商売がドンピシャでハマった。

 

 

「失礼。ボス、それに関連する事項で、研究・開発班よりご報告がございます」

 

「アテナか。聞こう」

 

「先方から提供されたポケモン…通称・ダークポケモンについて、一通りの試験運用と調査が完了しました」

 

「人工的に心を閉ざし、戦闘マシーンに改造したというアレか…」

 

 

ロケット団は捕獲したポケモンをシャドーに輸出することで資金を荒稼ぎしていたが、同時にその代金の一部の代わりとして、シャドーからダークポケモンの提供も受けていた。無論、その運用データはシャドー側にも提供されている。

 

 

「確かに向こうで見た時は凄まじいパワーだったが…どうだ、使い物にはなりそうか?」

 

「触れ込みどおり、同種・同レベルのポケモンと比較して、ステータス、瞬発力、闘争心など、戦闘用のポケモンとしてはどれを取っても上回っています。能力は間違いありません。戦力化出来れば、大いに我々の役に立ってくれるでしょう」

 

「それは重畳」

 

「ただ、そのためにはまだ色々とクリアしなくてはならない課題もあります」

 

 

ダークポケモンは確かに高い戦闘能力を有しているものの、引き換えに様々な制約があった。

 

1つ、レベルが上がらない。

1つ、覚えている技の変更が出来ない。

1つ、時間経過でリライブが進行して処置の効果が弱まる一方で、時折暴走状態になりトレーナーの指示を無視ないしは制御不能になる。

 

…等々、戦力とするには無視出来ない問題点が多々あった。

 

 

「…以上のような問題点があり、これらの点を完全にとまではいかずとも、ある程度改善する必要があると判断しております。先方とも改善策について情報交換をしておりますが、使役するトレーナーにも一定の素質・技量が求められ、現時点での実戦投入は限定的とせざるを得ません。戦力化にはもう少し時間が必要かと」

 

「フン…なるほどな。引き続き、実戦投入に向けて調整と整備、それと運用者の選定を進めろ」

 

「かしこまりましたわ」

 

「話が逸れてしまったな。続きを聞かせろ」

 

 

ダークポケモンの戦力化にはまだ時間がかかるとの説明を聞いたサカキは、次の報告を促す。

 

 

「はっ。では…捕獲したポケモンの売却も変わらず好調ですが、ボスに卸していただいているハナダの洞窟産のポケモンは、高レベル個体が多いこともあって、目玉商品としてかなりの高値で売り捌けております」

 

「それは結構だ。だが、これ以上は難しいだろう」

 

「ボス、断片的には情報が漏れ聞こえておりますが、今後はどうなるのです?」

 

「流石に死人まで出てしまってはな…ベースキャンプだけは残すようだが、調査自体は無期限で休止する方向で話がまとまった。当面、大きな動きはないだろう」

 

 

ロケット団はシャドーも含めて多くのポケモンを闇取引で売買しているが、中でも最近目玉商品として人気を博していたのがハナダの洞窟産のポケモン。サカキやその息がかかった調査班員が捕まえて、密かに裏ルートで流されたこれらのポケモンは高レベルの個体が多いこともあり、かなりの高値でも出した傍から飛ぶように買い手がついていた。

 

しかし、そんな金の卵たちも調査班壊滅事件によって調査そのものが無期限で中断される事態になり、今後の入荷は極めて難しくなってしまった。

 

 

「伝え聞いてはいましたが、やはりハナダの洞窟は相当に過酷な場所ですか…」

 

「うむ。だが、それよりも大きな収穫もあった」

 

「と、言いますと?」

 

「これはここだけの話に留めておいてもらいたいが…」

 

 

ここだけの話…そう前置きしたうえで、サカキは続ける。

 

 

「ハナダの洞窟には化け物がいるぞ。手練れのトレーナーたちを手もなく捻り潰せるだけの強さと、人語をも操る知能を持つ未知なるポケモンだ」

 

「人の言葉を話すポケモン…ですと!?」

 

「ああ、無線の交信記録にハッキリと残っていた。恐らくコイツが諸々の元凶か、元凶にかなり近しい存在と見て間違いないだろう。コイツを捕まえることが出来れば…フフフ」

 

 

20名弱もの調査員を全滅させ、人語を話す正体不明の新種のポケモン。もしも手中に収めることが出来れば…戦力としては勿論のこと、ポケモンを凶暴化させる例の遺伝子を無制限に入手することが出来る可能性がある。サカキにとって、大きな力になることは間違いなかった。

 

 

「なるほど、それは面白いことになりそうです。そうなりますと…」

 

「うむ…アポロ。例のシルフが開発中だという新型モンスターボール、状況がどうなっているかを聞かせろ」

 

「はっ!」

 

 

突如話を振られたアポロが受け持っていた『例の新型モンスターボールの件』。これは、カントー屈指の大企業・シルフカンパニーへの工作であり、開発中だとの情報があった『どんなポケモンでも捕獲出来る究極のモンスターボール』についての調査のことだ。

 

この時点で、ロケット団側はこのボールについて、「どんなポケモンでも捕まえることが出来る究極のモンスターボールである」という大まかな概要は把握していたが、詳細はシルフカンパニー側が厳重に守秘しており、ほとんど分かっていなかった。

 

 

「シルフに対しましては、これまでS-1からS-3プランに基づき、核心部分の情報を手に入れることが出来ないかと動いておりました。結果、開発がすでに最終段階にあり、完成まで秒読みの段階にあると見られることぐらいまでは掴めました。ですが、流石は天下の大企業です。ガードが堅く、それ以外の性能面等の詳細については完全に秘匿されており、これ以上の情報は得られませんでした」

 

「フン…まあ、そうだろうな」

 

 

アポロの報告に、サカキは然も当然のようにそう吐き棄てた。

 

 

「シルフが開発中の新型モンスターボールが情報どおりのシロモノなら、今回のハナダの怪物も含めて、我々は世界中のありとあらゆるポケモンを手中に収めることが出来るだろう。何とかして現物、ないしは開発情報の詳細は欲しいところだが…」

 

「合法的な手段では、これ以上入り込めそうな余地はありませんでした。このままでは我々が望むモノが得られる可能性は低いかと」

 

 

それぐらいのことはサカキとしても容易に想定出来ることであった。元々がアポロからの報告を受けて調査していただけのものであり、さして重要なことでもなかった。

 

しかし、ハナダの洞窟での一件を受けた今のサカキには、シルフが隠す新型モンスターボールは喉から手が出るほどに欲しい代物となっている。それを手に入れるためならば、あらゆる手段を取る必要があると考えるほどに。

 

そして、ロケット団という力を持つサカキにとって、合法的かつ穏便に入手が難しい以上、多少のリスクを負う方法…即ち、非合法な手段は十分に選択肢足り得た。

 

 

「…アポロ、S-4はどこまで進んでいる?」

 

「…!S-4プランですね。現時点では、大まかな方針及び目標の選定、必要戦力の算出、敵勢力の動きを想定したシミュレートなどを行っている段階にあります。もう少し具体的な検討・調整が必要ですが、基礎となる部分は概ね出来上がっていると言ってよい状態ですが…」

 

「結構だ」

 

 

アポロからの説明を受けて、サカキはそう言って満足そうに頷くと、徐に立ち上がる。

 

 

「ロケット団ボスとして、この場を以って、今後のシルフへの対応はS-4プランの発動を前提とすることを宣言する」

 

『…!』

 

 

その一言で、集った面々に緊張が走る。S-4プラン…それは即ち、シルフカンパニー本社を襲撃・占拠し、必要な物と情報を頂戴するという、全てが上手くいかなかった時のための、まさしく最終手段と呼べるプランである。

 

 

「ボス。S-4プランを発動するとなりますと、ほぼカントー全域のジム・公安を相手取る大規模な作戦になります。我々の総力を結集して作戦に当たらねばなりません」

 

「分かっている。各員、今後の活動は当面の間、S-4プランに向けた準備・対応を最優先とせよ。アテナ」

 

「はっ」

 

「使えるだけでいい。プラン実行までに、ダークポケモンを可能な限り戦力になるようにせよ」

 

「かしこまりました。調整を急ぎますわ」

 

「アポロ」

 

「はっ!」

 

「プラン実行に向けた準備を加速させよ。人員・物資は優先的に回す。足りない物、必要な物があれば上申せよ。それと後日でいいので、現時点での計画の進捗状況を聞かせろ」

 

「はっ!」

 

「よろしい。プラン発動はシルフが開発を完了、ないしは完了まで秒読みの段階にあることが確認出来次第だ。各員、そのつもりで備えるように」

 

「「「ははっ!」」」

 

 

…この日を境に、ロケット団はシルフカンパニー襲撃計画発動に向けて、本格的に動き出した。

 

運命の日は、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 




ロケット団のシルフカンパニー襲撃計画が一気に加速。原作から色々と手を加えています。乗っ取りから占拠&強奪へと目標変更、ダークポケモンがまさかの参戦か?

さあ、どうなる原作、どうする主人公?
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