成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第85話:南風

 

 

 

 

 8月末、世間ではもうじき子供たちの夏休みも終わろうかという頃になって、サカキさんが正式にジムリーダーに復帰した。それは同時に、俺が正式にジムリーダー代行をクビになったということでもある。

 

セキエイ高原を目指すトレーナーたちの戦いも佳境に差し掛かりつつある時期でもあり、クライマックスに向けて物語が加速、白熱しつつある原作最大の山場を前に、俺は1年半にも及んだ代行生活に別れを告げた。サカキさんに色々と引継ぎを終えた後、思っていたよりは規模がデカくなってしまった退任式典を最後に、俺はジムリーダー代行から肩書のない一般トレーナーに戻った。

 

代行職を解かれた俺は、正式な退職直前の有給休暇を消化するかの如く、少し遅めの夏休みを満喫…といきたかったのだが、そうは問屋が卸さない。サカキさんから半月ほど後にセキエイ高原で開催されるとある会合に、TCP社の人間とし参加するように命じられてしまったのである。

 

この会合は世界各地のリゾート施設の経営者同士の国際的なものだという話で、会場となるのは1泊ウン十万、スイートルームになるとウン百万とかいう、一般人には一生縁がないとしか思えないセレブ御用達の高級ホテルだ。もう腹が痛い。

 

何で俺が…とは思わなくはないが、俺って一応ジムリーダー代行であった以前に、TCP社専属のトレーナーという肩書も持ってたんだよね。代行に就任して以降何もしてないから、キレイすっぱり頭から抜け落ちてた。上で「肩書のない〜」とは言ったけど、実際は社畜の一員でしたっていう。

 

それに、会合に参加する代わりにこの高級ホテルに1週間も宿泊出来るという、少し遅めの夏休みも兼ねてのサカキさんからの贈り物的な側面もある。

 

正直、猫に小判、豚に真珠みたいな場違い感はあるけども、まあ拒否する理由もないし、頼まれた以上はやらねばなるまいよ。シルフカンパニーの件から遠ざかれるなら尚の事。

 

 

 

…実に社畜然とした考えだよな、という思いや、逃げるような動きへの心苦しさもあるが、そこは目を瞑ろう。じゃなきゃやってられん。原作の皆さんに丸投げだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなワケで、代行退任からホントーにささやかな休みを経て、俺は慣れない正装に身を包み、場違いな感じしかしない煌びやかな世界へと足を踏み入れさせられたのである。

 

最初に話したとおり、このイベントは世界各地の有名なリゾート地で宿泊施設や遊興施設などを経営する社長さんたちの会合。会合と名がついてはいるが、実際のところは同業者の皆さんの懇親会のようなもので、参加者のほぼ全てが世間一般に言う『大富豪』のカテゴリーに分類されるような人種。オマケに会場はセレブ御用達の高級ホテル。俺のようなちょいとポケモンが強いだけで、根はどこまで行っても平々凡々な一般ピーポーが間違っても入り込んでいい場所ではない。ないんだけど、なんか入り込んじゃってるんだよねぇ…

 

そんな住む世界が違う存在の皆さんが、見るからに高級そうなスーツやらタキシードやらドレスに身を包み、天井のシャンデリアに照らされて輝いて見える時計・指輪・ネックレスを身に着け、一本おいくら万円するのかも考えたくないワインが注がれたグラス片手に、腹の底では何考えてるのか分からない笑顔を浮かべて、会場のそこここでにこやかに話をしている。

 

そんな様子を眺めつつ、俺は住む世界の違う人たちと同じように渡り合う副社長に付いて回り、その近くで壁の一部、或いは空気と一体化せんと息を潜めていた。サカキさんは、まだ来ていない。

 

 

「アローラ、TCPさん。今日は社長さんの代理ですかな?」

 

「ハノハノリゾートのオーナー様でしたね。ええ、社長は最近何かと多忙でして…この後、途中から参加する予定ですの」

 

 

その中で、特徴的な挨拶で話しかけてきた1人の男が目に付いた。ほんのり日に焼けた肌に、中年としては引き締まって見えるガタイの気風の良さそうな男性だ。

 

その挨拶から、第7世代の舞台であるアローラ地方の人物だというのは一目瞭然だった。そしてハノハノリゾートと言えば、確か…アーカラ島のホテルだったか。隣のビーチでナマコブシ投げのアルバイトが出来たことは覚えている。

 

それにしても、他の経営者との話でも話題に出ることはあったが、ハナダの洞窟の一件はアローラ地方にまで届いていたのか。それとも、単に耳が良いだけなのか。

 

まあ、後者な感じはするな。商売に限らず、情報は鮮度が命とも言われることもあるぐらいだし。

 

 

「まあ、あのような事がありましたし、最近になってジムリーダーにも復帰されたと伺っております。致し方ないでしょう。色々大変かと思いますが、お身体にはくれぐれもご自愛下さいとお伝え下さい」

 

「ありがとうございます、社長の方にもオーナーがそう仰っておられたとお伝えします」

 

「ところで、後ろにおられる方はどなたですかな?ずいぶんとお若いが、御子息はもっと幼かったと記憶しているのですが…」

 

 

俺は出来る限り影を薄くしているつもりだったが、現実はまあこんなもので、敢え無く捕捉されてしまった。

 

 

「こちらは当社の専属トレーナーのマサヒデです。ポケモントレーナーとしての社長の一番弟子ですわ。去年からつい先日までトキワジムリーダーの代行を任されておりましたが、今回は事情がありまして、社長の指示で付き添ってもらっておりますの」

 

「マサヒデです」

 

「おお。何年か前に、史上最年少でポケモンリーグの決勝トーナメントまで勝ち進んだ天才トレーナーでしたか。お噂はかねがね」

 

「き、恐縮です」

 

 

そして、俺のこともキチンと把握している…と。一応は俺も著名人ではあるってことなのだろう。喜んでいいのかは…個人的には微妙なところだけど。

 

 

「私にも彼と同じくらいの娘がおりましてね。実はたまたま予定が合ったので、この会合に連れて来ているのですよ。今は少し席を外しているのですが…」

 

「あら、そうなのですね。御息女さんと言えば、カントー地方(こちら)のゴルフの大会で優勝されたとか。おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。私の趣味に付き合わせる格好になったのが始まりですが、思いの外才能があったようでして…」

 

 

どうやら、娘さんはオーナーと一緒にゴルフを嗜んでおり、つい先日出場したカントー地方の大会で優勝したという。ゴルフについてはあまり詳しくないが、話を聞くにどうやら俺と同年代ぐらいらしい。

 

大会の格とか規模は分からないけど、15、16ぐらいで優勝するのはかなり凄いのではなかろうか。見た覚えはないけど、もしかしたらテレビで放映されてたかも知れないね。

 

 

「…おお、話をしていれば、丁度戻ってきましたよ」

 

 

そう言ったオーナーの視線の先に目をやれば、近付いてくる人影が見えた。

 

よく目につく若干ウェーブがかった空色の長髪に、左目の下の泣き黒子…その全体像を見ているうちに、俺の原作知識が呼び起された。オーナーの髪の色が違うし、原作の衣装とは違うきらびやかなドレス姿もあって、最初は結び付かなかったけど…そう言えばそうだったよな。確かに彼女は、プロゴルファーでハノハノリゾートオーナーの娘だった。

 

 

「ご紹介します。娘のカヒリです」

 

「初めまして。カヒリと申します」

 

 

…後々アローラリーグで四天王の一角を務めることになる飛行タイプ使い、カヒリその人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで副社長に付いてきて分かったことに、会社の経営者同士の話が、立ち話と言えど1分程度で終わる様なものではないという事実がある。挨拶からの世間話に始まり、少しずつビジネスを含んだような会話内容へと変わり、結果1人の方と10分以上も話し込んでいるのは何度となく見てきた。

 

そして、それはハノハノリゾートオーナーとも同様であった。副社長とオーナーの2人が話し込んでしまい、半ば放置されたようになってしまった俺。近くには似たような境遇に陥っている同年代の少女。何か、『後は若い者同士で…』とでも言わんばかりに、自然に話をする流れになってしまっていた。

 

なお、やはりサカキさんはまだ来ない。

 

 

「えっと…初めまして、マサヒデと申します」

 

「初めまして。カヒリです」

 

 

というワケで、カヒリとファーストコンタクト。年齢的にまだまだあどけなさが残る部分はあるが、原作知識の中にいる彼女そのものだ。

 

カヒリは第7世代であるサン・ムーン、及びウルトラサン・ウルトラムーンに登場するキャラクター。前述の通り飛行タイプを専門とし、主人公たちよりも前にアローラ地方のジム戦に当たる島巡りを完全制覇した優秀なトレーナーであり、アローラリーグの四天王の1人として原作主人公の前に立ちはだかる。

 

また、この場にいることからも分かるようにハノハノリゾートの社長令嬢でもあると同時に、プロゴルファーとしても活躍していて、アローラリーグが創設されるまでは、ゴルフとポケモンを極めるために世界各地を飛び回っていたとされている。実際、こちらの世界でもすでにゴルフの方では頭角を現しつつあるようだ。

 

しかし、まさか別の地方…それも時間軸的におそらくだが、10年程度後に登場するはずの原作キャラと、こんな形で出会うことになるとは思わなかった。

 

とは言え、初対面の女の子と、それもこんな場で何を話したものかね…とりあえず、言語が違うせいで話が出来ない、なんてことがないのだけは救いか。

 

 

「今日はオーナーさんの付き添いで?」

 

「はい。元々はゴルフの大会のためにカントー地方(こちら)に来ていたのですけど、パパにせっかくだからと…」

 

「あー…大人の都合ってやつですか」

 

「ええ…本当だったら、この時間も練習していたいのですが…」

 

 

どうやら、参加経緯は彼女も俺と似たような形らしい。若干の言葉の端々に若干の不満がチラチラ見え隠れしている辺り、かなりゴルフに重きを置いた生活をしているんだなということが伺える。俺もこんな所さっさとおさらばして、部屋でゴロゴロしたいんだけどねー。

 

 

「良い経験…ってことでしょうかね。あなたの立場を考えれば、今後同じような状況は多くなるでしょうし。僕もサカキさん…社長に言われて参加させられてる身なので、偉そうなこと言える人間じゃないですけど…」

 

「ふふ…なるほど。つまり、あたしたち似た者同士、ということですね」

 

「立場は違いますが、言われてみればそうですね」

 

「ふふ…あと、マサヒデさん…あ、すいません。お名前でお呼びさせていただいてもよろしいですか?」

 

「…え?ええ、構いませんよ」

 

「ありがとうございます。あたしもカヒリと呼んでいただいて構いません」

 

「分かりました、カヒリさん」

 

 

場の空気にも呑まれ気味で不安ではあったが、カヒリの方が積極的に来てくれたこともあって、まずまず良い感じで取っ掛かりが掴めたのではないかと思う。何か名前で呼ぶ許可も貰えたし。

 

 

「それにしても、カヒリさんはずいぶんゴルフに力を入れてらっしゃるんですね。ゴルフの大会で優勝されたとお聞きしましたし…凄いことじゃないですか」

 

「あら、ありがとうございます。でも、ポケモンリーグの決勝トーナメント進出と比べたら、全然です」

 

「そんなことないですよ。僕も出場したのはその一回きりですし、後は大きな大会での成績はありません」

 

 

小規模な大会には何度か呼ばれたりして参加・優勝したことあったけど、サカキさんからの仕事やら山籠もりやらしてたもんだから、大きな大会にはほとんど出てないんだよな。だから、意外と優勝経験ってのは少なかったりする。

 

 

「生憎ゴルフについては詳しくないのですが、競技、分野関係なく、一番を取ることの大変さは身に染みてますから。上には上がいる。どんなことであっても、頂点を取れるっていうのは本当に凄いことです」

 

「ありがとうございます。ですが、私が勝ったのはあくまで同年代の選手たちとの競争でしたから。カントー地方のポケモンリーグはレベルが高いとお聞きしますし、そこで大人に混じって最年少でのベスト16…1回だけとは言っても、新しい風って感じがして素敵です」

 

「はは、それはどうも。確か、アローラ地方にはポケモンリーグが無かったんですよね」

 

「ええ、よくご存じですね。リーグだけでなく、ポケモンジムもありませんの。代わりに、島巡りっていうのがあるんですよ。子供が一人前に成長するための儀式…とでも言えばいいのでしょうか。アローラ地方の4つの島に、それぞれキャプテンと島キング・クイーンと呼ばれるトレーナーがいて、彼らから課せられる試練をクリアしていくんです」

 

 

島巡り…ポケモンジムに代わる、アローラ地方特有の風習ですね。存じております。

 

 

「あたしはプロのゴルファーを目指していますけど、ポケモンも極めたいと思っているので、いずれ挑戦するつもりなんです」

 

「へぇ…」

 

「マサヒデさんから見て、あたしの目標…無謀だと思われますか…?」

 

「…ハッキリ言って、難しい部分は多いと思います。パッと思いついただけでも、ゴルフの練習に御自身のトレーニング、ポケモンの育成までやらないといけないということですからね。ゴルフに関しては何も言えませんが、そんな簡単に極められるほど、ポケモンバトルの世界は浅くない」

 

「…ですよね」

 

 

プロゴルファーとポケモントレーナー…彼女の例に限らず、二足の草鞋を履く生活と言うのは、決して簡単なことではない。二兎を追う者は一兎をも得ず…なんて諺もあるように、両方を追い求めた結果として、両方とも中途半端終わってしまうことも、目標を達せずに終わってしまうことだって、普通だったら十分あり得る。

 

でも、原作で描かれている数年後の彼女はゴルフもポケモンも一流だ。なら、何も問題はないハズ。そっと背中を押してあげれば、彼女なら成し遂げるだろう。

 

てか、よくよく思い返してみれば、ポケモンと他の仕事や趣味を両立させてる人っていることはいるよな。どちらも一流レベルか?となると微妙な部分はあるが。

 

 

「ですが、世の中トップレベルのポケモントレーナーとの中にも、他の仕事や趣味を両立している人もそれなりにはいます。好きこそものの上手なれ…なんて言葉もありますし、本気で極めたい、強くなりたいという思いがあるのなら、僕個人としてはチャレンジする価値は大いにあると思いますよ」

 

「…!」

 

「そもそも、僕の身近にも似たようなことをやってる人がいるので、あまり頭ごなしに否定もしづらいものでして…」

 

 

サカキさんとかサカキさんとかネ。

 

 

「ありがとうございます、マサヒデさん。そう言っていただけて、少し気が楽になりました」

 

「いえ、僕なんかがあれこれ言ったところで、結局の話、成るも成らぬもカヒリさん次第です。でも、あなたの挑戦を僕は応援しますよ。頑張って下さい」

 

「はい、もちろんです」

 

 

そういった彼女の表情は、どこかやる気が満ちているように思えた。言葉にも力強さがあるし、これなら精神面は問題ない。原作通り、ゴルファーとしてもポケモントレーナーとしても大成してくれるはずだ。

 

 

「そう言えば、マサヒデさんは地面タイプを専門にするジムリーダーをしていらっしゃるとお聞きしました。やはり、地面タイプのポケモンがお好きなんですか?」

 

「正確には、ジムリーダー“代行”です。まあ、それもつい半月ほど前にクビになりましたけどネ」

 

「あら…」

 

「まあ、クビと言っても元々のジムリーダー…サカキさんが復帰することになったので、お役御免ってだけなんですけども。それはそれとして…ジムリーダー代行の立場もあって、最近は地面タイプ中心に扱っていますが、僕自身は別にタイプに対する拘りはないですよ」

 

「なるほど…あたしは飛行タイプのポケモンが好きなのです。大空を華麗に舞う自慢のこの子たちと一緒に、あたしもアローラ、延いては世界へと羽ばたいてみたい…そう思っています」

 

「…良い夢をお持ちだ。素晴らしいです」

 

 

何と言うか、ここまで純粋に高みを目指している人を間近に見るのは、かなり久しぶりかもしれない。

 

お前ジムリーダー代行時代にたくさん見てきただろ…だって?それはそうなんだけど…この後実際にそういう位置まで行くのが分かっているから、そして原作キャラだから贔屓目に見てしまっているのもあるかもしれない。

 

彼女を見てると、周囲に流されるまま生きてる自分が恥ずかしくなってくるわ…マジで。

 

 

「…そうだ。マサヒデさん、不躾で申し訳ありませんが、1つお願いがあるのですが」

 

「お願い…何でしょう?」

 

「もしよろしければ、あたしとポケモンバトルして下さいませんか?」

 

「…え?」

 

「あたしとポケモンたちが、この先トレーナーとしてやっていけるかどうか…カントー有数の実力者であるあなたで確かめさせて欲しいのです」

 

 

 

 

…サカキさんは、やはりまだ来ない。

 

 

 

 




 明けましておめでとうございます。新年一発目です。今年ものんびり書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。そしてゲストとして第7世代よりカヒリさんを引っ張ってきました。何故ここでカヒリなのかと言うと…作者が好きだから。カヒリさん…イイヨネ。まあ、それ以外にも彼女にはちょっとした役割があるのです。本当にちょっとした役割が…というワケで、次回はVSカヒリです。
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