「マサヒデさん、お疲れ様です。手合わせ、ありがとうございました」
「こちらこそ対戦ありがとうございました、カヒリさん」
思いがけず始まったカヒリ嬢との一戦は、俺の負けで幕を閉じた。バトルを終えた俺は、高貴な観客の皆様方の拍手や歓声を浴びながら、フィールド上にて勝利の余韻冷めやらぬ様子のカヒリと再び向き合っていた。
「まさかジムリーダー代行も務められた方に勝てるとは思いませんでした。望外の勝利です」
「いえ、そんなことはありませんよ。ゴルフとの両立を公言されているだけあって、ポケモンはしっかり育てられていますし、コンビネーションも見事でした。特に最後のケララッパはカヒリさんとの信頼関係がハッキリと見て取れて、素晴らしい戦いぶりだったと思います」
実際、俺と同年代のトレーナーとして見れば、間違いなく最上位の上澄みに食い込むだけの実力と資質を、彼女はすでに兼ね備えている。まあ、原作四天王と考えれば当然のことではあるが。
「そうですか!ケララッパは、あたしの一番のパートナーですから。いつかこの子と一緒に世界に羽ばたければ…そう思っていますの。ゴルファーとしても、トレーナーとしても」
「私はトレーナー一本の人間なので、ゴルフの方に関しては何も言えませんけど、トレーナーとしてはカヒリさんは間違いなく上を目指せる、より高みへと羽ばたくことが出来る。そこは確信を持って太鼓判を押せますよ」
「そう言っていただけると、励みになります」
そりゃあ、原作知識持ってますし…ねぇ?
「まあ、とは言ってもたかが一地方の元ジムリーダー代行の、もっと言うならカントー地方のポケモンリーグ大会でベスト16に1回だけなったのが最高実績の若造の戯言ですけどね」
「それでも凄いことだと思うのですが…」
「どうなんですかね?それはともかく、カヒリさんがこの先さらに舞うことが出来るかは、結局のところ貴女ご自身のこれからの頑張り次第です。差し当たっては、島巡り…でしたっけ?それに挑戦してみられるのも良いのではないでしょうか」
「もちろん、そのつもりです。今はゴルフに重点を置いていますが、状況が落ち着けばいずれ…」
「ええ、良いと思います。今日たまたま縁があった1人のトレーナーとして、応援させていただきますよ。それに、一期一会と言う言葉もありますし」
「一期一会…ですか?」
「その出会い、縁は一生に一度のものと思って大事にしなさい…という意味の言葉です」
「なるほど…良い言葉ですね。ふふ、ありがとうございます」
「とりあえず、ポケモンたちを回復させに行きますか」
「ええ」
このホテルにはポケモンを回復させる設備はないが、代わりに【元気の欠片+回復の薬+PPリカバー】のフルコースで回復させてくれる、宿泊客であれば誰でも無料でやってくれるサービスがあるらしい。流石はセレブ御用達、やり方がリッチである。
あまりの豪華と言うか、ゲームでのプレイヤーでも若干躊躇するレベルの力技っぷりに若干気が引けるが、頑張ってくれたポケモンたちを休ませてやることが大事だ。さも当然のように自然な流れでスタッフにポケモンを預けたカヒリ嬢に続いて、疲弊したニドクインたちをスタッフに預けた。
「カヒリ、お疲れさま。素晴らしい勝負、素晴らしい勝利だったよ!」
「パパ!」
ちょうど預け終わった頃になって、オーナー登場。ニッコニコで戦勝報告するカヒリを笑顔で褒め称えている。こうして見ていると、父娘で仲が良いのがよく分かる。カヒリ嬢を労い褒めるその姿は、良い父親の姿そのもので、実に微笑ましい。
その光景に、ポケモン世界に来る前の家族をフッと思い出す。もうずいぶんと朧気になりつつある過去の記憶、遠い昔の思い出だが、それでもジワリと郷愁の念が湧いてくる。
俺も子供の頃は、勉強とか部活とかで良い成績を残せたら、ああやって両親だったり祖父母だったりに褒めてもらったものだった。最後にあんな風に誰かに褒めてもらえたり、喜びを共有出来たのはいつのことだったか…
「マサヒデさんもお疲れ様です。娘が不躾なお願いをしてしまい、申し訳ありません。そして、勝負していただいてありがとうございました」
「いえ、これぐらいでしたらお安い御用ですよ」
「それで…どうですか、娘は?」
オーナーからの質問。カヒリ嬢のトレーナーとしての資質は、原作知識を抜きにしても、疑うまでもないことだろう。
「参考になるかどうかは分かりませんが…お強かったですよ。いずれ地方の頂点を狙えるだけの素質は持っておられると思います」
「おお!」
「ええ。僕自身まだまだ未熟な身なので、こういう大それたことを言うのはどうかとも思うのですが、カヒリさんの努力次第では、世界も見えるのではないでしょうか」
「そうですか!」
そう伝えると、元々誰が見てもご機嫌そうだったオーナーはより一層笑顔になった。背後からでもオーラだけで機嫌の良さが分かりそうなぐらいだ。
「自身の娘が、ジムリーダー代行を務めるような実力のある方にそう言っていただけると嬉しいものですな。私も父親として鼻が高いですよ」
「たまたまジムリーダー代行を任されただけで、そんな言われるほどの者ではありませんよ。若輩者の他愛もない戯言として、聞き流していただけると」
「いやいや、そんなことはないでしょう。ジムリーダーの代わりは、並大抵のトレーナーに務まることではありません。やはり、今日は娘を連れて来て正解でした。あなたに胸を借りることが出来て、あの子も自信になったと思います」
「…そうですね。トレーナーとしてのカヒリさんのレベルアップ、その一助になったのであれば幸いです」
自信になった…かぁ。未来のことなどエスパーではない俺には分からんものだけど、本来の物語にいないハズの俺という存在との今日の縁が、カヒリ嬢にとって良かったのかどうか…どうなんだろうね?
カヒリ嬢に一期一会とは言ったものの、世の中には切った方がいい縁、持たなかった方がいい縁というものも存在するワケで…
「お疲れ様です、マサヒデ」
「…!副社長」
その本来持たなかった方がいい縁であろう、サカキさんに繋がるうちの副社長。オーナーからかなり遅れる格好で姿を見せた。
「おお、副社長さん。娘の我儘でマサヒデさんを貸して下さり感謝します。ありがとうございました」
「いえいえ。私の方も、御令嬢のバトルには楽しませていただきました」
「マサヒデさんと戦えたこと、そして勝てたこと。大変貴重な、得難い経験だっと思います。あの子を連れてきた甲斐があったというものです」
「お恥ずかしい限りです。しかし、腕が立つとは噂で聞いておりましたが、まさかうちのマサヒデに勝ってしまうほどとは思いませんでしたわ。正直驚きました」
「そうでしょうそうでしょう!マサヒデさんにも褒めていただきましたし、父親としてとても誇らしい気分です!」
「パ、パパったら…~〜もうッ」
オーナーと副社長、そして流れ弾で話題に上がって多少照れを見せるカヒリ嬢。俺を半ばいない者のようにして、その後もしばらく話は進んだ。
「…おっと、これは話が少し長くなってしまいましたな。遅くなってもいけませんし、そろそろ会場に戻りましょうか」
「ええ、そうしましょう。マサヒデくん、戻りますよ」
「ア、ハイ」
手持ち無沙汰に突っ立っていること少々。ようやく話は終わり、会合の会場に戻ることになった。
正直言って、出来るならこのまま帰ってしまいたいところなんだけど…まあ、そう言うワケにもいかねぇよなぁ。
その後、会場に戻った俺を待っていたのは、参加者からの称賛の雨。代わる代わるやって来ては「いい勝負を見せてもらった」等と声を掛けられた。まあ、元々は懇親会と言う名の皮を被った情報交換・ビジネスの場だし、色々と思惑があったんだろう。
それぞれの事情は俺の知った事ではないけども、住む世界の違う皆さんとの交流は、とにかく想像以上に気疲れするものだった。こういう場はポケモンリーグで決勝ラウンドに残った後から何度か経験したが、ジムリーダー代行に就任してからはほぼ無く久しぶりのことで、経験など無いに等しい。
そして、そんな俺以上に大人気だったのがカヒリ嬢。ゴルファーとして将来有望で、すでに実績もある。トレーナーとしても元ジムリーダー代行にバトルで勝てる実力を持ち、加えて容姿端麗…お近付になっておいて損はないし、放っておく人がいないのも当然と言えば当然なんだよなぁ。
四方から次々と押し寄せる人の波を華麗に捌いていくその姿は、如何にも「場慣れしてます」という風格を漂わせていて、良家のお嬢様だというのをこれでもかと見せ付けられた。
結局、思っていたよりも遥かに多くの人の波に気力も体力も削り切られてしまった俺は、副社長に許可を貰って会合を途中で抜けさせてもらい、一足先に部屋へと戻った。参加前に渡されて袖を通した慣れない高級スーツを脱ぎ捨て、フッカフカのベッドへダイブ。勢いで2、3回軽く弾んだ後、そのまま布団の中に吸い込まれるように沈んだ。
なお、結局俺が会場にいる間にサカキさんとは会うことがなかった。聞いたところによれば、
…そして、目が覚めた頃には窓の外は暗闇に染まっていた。どうやら、派手に寝過ごしてしまったようだ。
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「うわ…もうこんな時間かよ…」
やらかした…時間を確認して、俺は肩を落とした。夕食の時間になるまでの仮眠のつもりだったが、予定の時間を大きく超過して、ホテル内の店はほぼ営業終了が目前と言う時間帯に差し掛かってしまっていた。慣れないことをやらされて、思いの外ストレス・疲れが溜まっていたのかもしれない。
ただ、幸いなことに…と言っていいかは分からないが、会合で出されていた料理を多少摘まんでいたからか、思ったよりも腹は減っていなかった。案内を見る限り、一応まだ行けなくはなさそうだが、そう長居も出来そうにない。開いている店もあるにはあるが、未成年が訪れるだけでも問題になりそうな、大人向けの店ばかり。
「…朝まで我慢するかぁ」
しばしの逡巡の末、その考えに至るまでそう時間はかからなかった。
そうなると、じゃあ何をしようか?ということが問題になった。夕食はたった今諦めたし、頭もしっかり覚醒したので二度寝する気にもなれない。
考えていると、汗ばんだシャツが肌にピッタリ張り付く不快感を覚え、シャワーを浴びてないことを思い出した。戻って来た際に冷房は点けたが、タイマーとして設定していた時間は当の昔に過ぎ、室内の温度は上昇傾向。若干熱が籠って、暑苦しさもある。
風呂に行こう。そう思い立った俺は、すぐに着替えを引っ張り出すと部屋を出た。目的地はホテルの地下にある大浴場。俺の泊まっている部屋は上級ランクの部屋なので、室内にはかなり設備の整ったバスルームがあったのだが、今は大浴場で思いっきり足を延ばしたい気分だった。
響く声も少ない静かで広い廊下を進んでいく。エレベーターで地上十数階から一気に地下まで下りて、一直線に大浴場へ。どうやらポケモンも一緒に入れるということみたいなので、人の入り次第なところはあるけど、全員でのんびりさっぱりしようか。
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「ふぃ~~…うむ、さっぱりした」
大浴場の暖簾をくぐり、冷房のよく効いた廊下に出たところで、1つ大きく息を吐いた。流石はセレブ御用達…そう言うしかない、素晴らしい大浴場であった。
滅茶苦茶広い浴槽は、風呂と言うよりも最早25mプール…はちょっと言い過ぎかもしれないが、風呂としては破格を通り越して過大では?と言いたくなる程度には広く、案内にも書かれてあった通り、ポケモンたちと入っても全く問題がなかった。
風呂ではスピアーの針やハッサムの全身をピッカピカになるまで洗ってやったり、ラフレシアとヤドランとのんびり湯に浸かったりと、ポケモンたちと一緒に心行くまで温まり、羽を伸ばすことが出来た。ちょいとテンションも上がってしまい、ちょっと泳いでみたり、頭まで浸かったり…行儀が悪いとは思いながらも、ついついやってしまった。
これだけキレイで大きな大浴場、さぞや人気だろう…と思いきや、遅めの時間だったせいか人もかなり疎らだった。おかげで人目を気にせず入れたこともあり、らしくもなく長風呂をしてしまったよ。
…なお、サンドパンは地面タイプらしく水は苦手なのが尾を引いて、風呂は拒否だった。そしてバンギは流石に風呂に入れるにはデカすぎて無理だった。2体には後で代わりに何かしてあげよう、うん。
さて、風呂上りにすることはと言えば、やはりアレだな。キンッキンに冷えた瓶の牛乳を、腰に手を当て一気飲み!…っていうのは、少々時代錯誤だろうか?いや、この世界の年代的にはまだ常識、お約束のハズ…というワケで、何でもいいのでキンッキンに冷えた飲み物を、出来ることならばフルーツオレを手に入れるべく、売店目指して地下のフロアを進んでいく。
この地下フロアには大浴場以外にも、ビリヤード・ダーツ・卓球等が遊べる遊戯室、マッサージチェアーや仮眠用のベッド等が置かれた休憩室(個室)に喫茶店、バー、カジノ等々、様々な施設・設備が置かれていた。何度でも言おう、流石はセレブ御用達の高級ホテルである。まあ、半分以上は未成年が入るのは問題ありそうなので
「…ん?」
そんな中の一角に、トレーニングルームがあった。トレーニング用の器具が多数設置されていて、一応は人間用の物がメインだが、ポケモン用の物もある。こちらも風呂と同様、時間的に利用者は疎らだったが、それでもポケモンと一緒になって汗を流す複数の人の姿が見られた。
そしてその中には、数時間前に会ったばかりの少女の姿もあった。
「……!」
目が合ったらポケモンバトル!…というような状況ではないが、立ち止まって見ていたところを見つかってしまったようだ。会釈で返したところ、彼女…カヒリ嬢は向きを変えてスタスタとこっちに歩いてきた。
「アローラ、マサヒデさん。貴方もこちらのホテルに泊まってらしたんですね」
「アローラ…とお返ししておけばいいんでしょうかね?ホテルも一緒だったとは思いませんでした」
汗に濡れた顔をタオルで拭きながら、そう声を掛けてきたカヒリ嬢。会合中のドレス姿からは打って変わって運動用のウェア姿。原作の姿に近い感じではあるが、そうでなくともウェーブがかった空色の長髪は遠目からでもよく目立った。
「それより、トレーニング中だったでしょうか?邪魔をしてしまったのであれば、申し訳ありません」
「いえ、今日のメニューはもう終わったところでしたから大丈夫ですわ」
「そうですか、なら良かった。しかし、会合の後だというのにトレーニングを、それもこんな時間までやっているとは…流石ですね」
「ゴルファーとしてプロを志し、世界で戦おうとしている身です。その頂点を掴み取るためにも、日々のトレーニングを欠かすことなど出来ません。例え、何があったとしても」
流石は未来の四天王。こんなイベントがあった日だというのに、努力を怠らないその姿勢…実にストイックでアスリート然としていて、彼女の意識の高さを感じられる。
原作の方でも、1日の内でも最低10時間はトレーニングに費やしているということも話していたような記憶がある。それを毎日欠かさずやっていると言うんだから、隙あらば楽しようとする俺とは比べるまでもなく素晴らしい姿勢だ。
「ポケモンだって同じです。今日はマサヒデさんに勝てたとは言え、内容としては辛勝…どちらに転んでもおかしくないものだったと思います」
ポケモンについても、そのストイックな意識は変わらないようだ。確か、“トリックルーム”で素早さを逆転させた状況下で鍛えているとも言ってたっけか。
「マサヒデさんから見てあのバトル、どうでしたか?」
「そうですねぇ…んー…」
言われて、カヒリ嬢とのバトルを振り返る。特に大きかったのはオドリドリの活躍。オドリドリがハガネールを焼き切り、ニドクインも削った状況で、後続のケララッパにバトンタッチ出来たのが最大の勝因だろう。しかし…
「確かに状況次第では僕の勝ちも十分あり得る…いえ、順当に進めば、ほぼ確実に僕が勝てた試合だったとは思います」
「…それはつまり、今回あたしが貴方に勝てたのは運が良かっただけ…ということかしら?」
俺の返答に対して、ちょっとムッとしたような表情になるカヒリ嬢。まあ、勝ち戦にケチをつけられるのは気分の良いものではないから、そうなるのも仕方ない。
いくつかターニングポイントはあったとは思うが、ハガネールがオドリドリを倒せていれば、或いは混乱したニドクインが最初から動けていれば、余裕で俺の勝ちだった…というのも、間違いではない。
「…運がカヒリさんに味方した、というのは確かにあります。ですが、それは逆に言えば、要所要所でカヒリさんがベストを尽くしていたからこそ、運を引き寄せられた…と言い換えることも出来ます」
まあ、勝負は時の運なんて言われたりもするし、あーだこーだ言っても負けは負け。結果としてはオドリドリを早い段階で処理出来なかったのが全てだ。
「成る程…では、マサヒデさんから見た今日の一戦について、解説していただけません?」
「別にかまいませんが…今からですか?」
「ええ。元ジムリーダー代行の知見、是非お聞かせ下さい」
「…分かりました。ですが立ち話も何ですし、どこか腰を落ち着けられる場所に移動しません?」
「ええ、そうしましょう」
ということで、急遽場所を移してカヒリ嬢を相手に今日の試合の振り返りが始まった。
カヒリ嬢のポケモンと俺のポケモンとの相性や、バトルの中でのターニングポイント、技や行動選択の良し悪し…最初はどこか不満気に聴いていたカヒリ嬢だったが、途中から真剣な眼差しになり、しまいには食い気味に質問を連発するまでに。
「…ですので、覚えさせる技は攻撃技よりも変化技を主軸に構築すると、防御力に優れたエアームドの特徴をより活かしてあげられますよ」
「例えば?」
「えーっと…“まきびし”ですとか“どくどく”等ですね。こういう搦め手を交える戦い方が気乗りしないと言うなら、“つるぎのまい”や“てっぺき”を積む…能力を上げて攻めるスタイルも良いでしょう」
「なるほど…」
普段はサカキさんの目を気にしていて、ここまでポケモンのことで知識をひけらかすことがないので、俺もついついベラベラ喋ってしまった。
結果、話は本来の話題から延びに延び、彼女のポケモンの特徴だとかオススメのひこうポケモン、覚えさせる技、戦い方等にまで発展した。
「…っとと。すいません、僕ばかり一方的に喋ってしまって」
「いえ、こちらこそ質問ばかりで…大変濃い内容の、ためになるお話でしたわ。ポケモンの知識とバトルへの造詣の深さ、お見逸れしました」
引かれたかな?と思ったが、全くそんなことはなく、カヒリ嬢は変わらず真剣に聞いていた。
「マサヒデさんの話を聴いて、目指すべき場所、目指すべき強さのヴィジョンがかなり明確になったような気がします」
「なら良かったです。ポケモンはとても奥が深く、何ならまだまだ分かってないことも多いです。今話したのはあくまで僕の個人的な見解、1つの意見です。ご自分に、そしてポケモンに合ったスタイルを模索していかれると良いでしょう」
「ありがとうございます。今日の会合、元々気乗りしない参加でしたが、貴方と出会えたことだけでも、参加した価値がある大変有意義な1日でした。まだ強くなれる、もっと高く飛べる、華麗に舞える…そう再認識出来ました。一期一会…でしたっけ?貴方が教えて下さったその言葉のとおりですね」
「そう思っていただけたなら光栄です」
「でも、こうやって貴方と話してみると、それだけの見識をお持ちなのですから、あたしが勝てたのが不思議に思えてきます」
「ははは…まあ、負けた身で、それも自分で言うのも自惚れでしょうけど、一応世間からは『天才』呼ばわりされてはいる身です。それに勝てるんだから、カヒリさんはすでに世代でも最上位の実力はお持ちだと思いますよ」
実際、現時点で俺と互角に戦える同年代のトレーナーを、俺自身数えられる程度しか知らないしな。世界に範囲を広げりゃもっと数はいるだろうけど、それでもそこまで多くはない…はず。たぶん。
「…って、あら?もうこんな時間…」
「ん?…あー、こりゃずいぶん話し込んじゃいましたね」
カヒリ嬢に釣られて時計を見れば、その針は話を始めてから1時間以上が経ったことを示していた。
「明後日にはゴルフの大会があるから、そろそろ休んでコンディションを整えないと…マサヒデさん、長時間付き合わせてしまってごめんなさい」
「いえ、僕の方も長々とあれこれ喋ってしまって…大会、頑張って下さいね」
「ありがとうございます。機会があれば、また戦いましょう」
いい時間…と言うには少々遅すぎたが、話を切り上げるには良いタイミングだ。挨拶をして別れようとした…その時だった。
『ブゥン……ブツッ』
「…!」
「な、なんです…!?」
施設内の全ての明かりが、何の前触れもなく一斉に消えた。いきなりのことに驚くカヒリ嬢と、俺は揃って天井を見上げた。
あ