成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第88話:風が止み、嵐が来る

 

 

 

 

 突然消えた照明、暗闇の真っ只中となったホテル内。この緊急事態に周囲にいるスタッフと宿泊客も困惑しているようで、動揺の声がポツポツと上がった。

 

 

「停電…か?」

 

「…そのようですね」

 

 

俺もカヒリ嬢も、状況からそう思い至る。何か機械的なトラブルでもあったのだろうか。それ以外となると、悪天候による送電設備側のトラブルも考えられる。暴風が吹いている日に時々起こる印象がある。

 

しかし、今日~明日にかけてのセキエイ高原の天気は、天気予報の限りでは2日続けて終日荒れるような天気ではなかったと記憶している。となれば、やはりホテル側の機械的なトラブルの線が濃厚か。ただ、こういう高級ホテル等の大型施設には、緊急時用の自家発電設備の一つぐらいはありそうなように思う。こっちの世界にはポケモンもいるから、電気ポケモンを用意出来るなら電源は確保しやすいハズだし。

 

いずれにせよ、すぐに復旧はするだろう。

 

 

『ブゥン…パッ』

 

「あ、点きましたね」

 

 

そしてその予想通り、程なくして照明が点いた。しかし、その照明はぼんやりとした暗めの青白い光を放つ非常灯。非常灯が点くと言うことは、根本的な解決には至っていないということ。完全復旧にはしばらくかかりそうな感じだった。

 

おそらく、この後ホテル側からアナウンスなり、口頭で伝えるなり、状況の説明がある…

 

 

『パァン!』

ドンッ!ドンッ!!

 

「きゃッ!?」

「うぉ…!?」

 

 

…そう考えていたところに響いた、何かの炸裂音と物が叩き付けられたり壊れたりするような衝撃音。それに合わせて建物全体が揺れ、照明が大きく揺れ、割れた蛍光灯や崩れた天井の破片らしきものがパラパラと降る。机や椅子が倒れたり、何かが落ちて割れる音があちこちから聞こえた。

 

カヒリ嬢も突然のことにバランスを崩し、前につんのめった結果として寄り掛かられる格好になった。

 

 

「あ…す、すみません…!」

 

「い、いえ…カヒリさんは大丈夫ですか?」

 

「はい…」

 

 

鼻腔をくすぐった女の子らしい仄かに甘い香りと、汗と爽やかな清涼剤の混じった匂いに混じる、ナツメさんともアンズとも違う、ちょっぴりリッチな感じの良い香り…って、それどころじゃねえ!緊急事態だろうが!

 

俺が関わりを持ったことのある女性陣とはまた違った新鮮な反応に一瞬ドキッとしてしまったが、すぐに意識を切り替える。

 

 

『ジリリリリリリリリリリ!!』

 

「きゃぁッ!?」

「お客様、お怪我はありませんか!?」

「お、おい!何だ今のは!?何が起きている!?」

「上の方から爆発音がしたぞ!?」

 

「おい、上に連絡を取って状況を確認しろッ!」

 

「…繋がらない!?チーフ!フロントとの連絡が取れませんッ!」

 

「何ィ…!?なら他はどうだ!支配人、洗濯場、厨房、何なら売店でも何でもいい!」

 

「…ダメですッ!回線がやられてしまっているのかも…!」

 

「くっ…仕方ない!緊急事態としての対応を行う!手の空いているスタッフは避難路の確保とお客様の誘導を最優先に行動しろ!お客様を安全に退避させるんだ!何人かは上に走らせろ!目視で状況を確認し、報告せよ!マニュアル通り、落ち着いてやれ!」

「「「はいっ!」」」

 

 

火災報知器がけたたましく鳴り響く。明らかな緊急事態に、誰もが動揺を隠せない様子で、ホテルのスタッフたちも慌ただしく動き回っている。

 

 

「これは、いったい何が…」

 

「分かりません。が、誤作動などではないのは間違いなさそうですね…」

 

 

先ほどまで高級ホテルらしい優雅な所作で持ち場に立ち、或いは動いていたスタッフの慌てようを見るに、決して良い状況とは言えないのは火を見るより明らか。

 

 

「とりあえず、スタッフの方の誘導に従ってこの場を離れましょう」

 

「ええ」

 

 

ここは地下。あれだけの爆音、もし上で火災が起きていた場合、最悪逃げ場を失う可能性がある。こういう時は、ホテル内を知り尽くしているスタッフの誘導に従って、落ち着いて迅速に移動するのがベターだろう。

 

子供の頃、学校で年に何度かあった避難訓練を思い出す状況。確か『おはしも』だったかな?押さない・走らない・喋らない・戻らない…火災や災害等の緊急時に避難する時の合言葉。

 

非常灯に照らされて仄明るい中を黙々と、俺はカヒリ嬢や他数人の客、スタッフと一緒に、案内に従って1階を目指して動き出した。

 

 

 

「おっと、そこ行く皆様方!お急ぎのところ恐縮ですが、止まっていただこうか!」

 

「!?」

 

 

…が、途中でその行く手を阻む者たちが現れた。

 

明らかに場にそぐわないコスチュームに身を包んだ、4人の集団と、それを囲うように複数体のポケモン。ほぼ黒一色の上下に黒のハンチング帽、そして上着の胸元にデカデカと刻まれている『』の文字…彼らの正体、そして彼らがこの状況に関係していることを悟るには十分な視覚的情報だった。

 

 

「我々は秘密結社、ロケット団であります!」

 

「ロケット団!?何でこんなところに…ッ!」

 

 

説明不要の悪の組織・ロケット団。彼らが名乗りを上げたことで、俺も含めてこの場にいる全員に激震が走る。

 

 

「あ、あの人たちはいったい何者なんですか…?」

 

「…奴らはロケット団。カントー各地で暗躍している秘密結社です。金儲けのためなら何でもやる、それこそ犯罪行為も厭わないようなならず者集団ですよ…!」

 

「…つまり、先程の爆発音や今の停電は…」

 

「ええ、十中八九連中が犯人でしょう」

 

 

怯えるカヒリ嬢に問われ、ロケット団について簡潔に説明。これだけで、彼女もこの状況がロケット団の仕業であるということを理解したようだ。

 

 

「夜分遅くに申し訳ないが、このホテルは我々ロケット団が制圧した!」

 

「なっ…」

「警備は何をしているんだッ!?」

 

「あの程度の警備体制、我々ロケット団の手に掛かればあって無いようなものだ」

 

「…何が目的だ!」

 

「フフフ、貴方たちが知る必要は無いことです。ですが、大人しく我々の指示に従っていただけると、手間が省けて大変助かりますなぁ」

 

「だ、誰がお前らの言う事など…!」

「お客様に手を出させるワケには…戦うぞ!」

「はい!行きなさい、バリヤード!」

「ばりばりィ!」

 

 

立ち塞がるロケット団に対して、スタッフの皆さんは連中の要求を拒否。一斉に前に出て、俺たちの壁になるつもりのようだ。よく教育されているなぁ…流石はセレブ御用達高級ホテルのスタッフ、と言ったところ。

 

 

「刃向かうつもりですか、ならば致し方ありませんな!お前ら、やれッ!」

 

「ハッ!ユンゲラー、“サイケこうせん”!」

「オコリザル、“あばれる”!」

「マルマイン、“10まんボルト”!」

 

「ば、ばり〜ッ!?」

「ニョロ…ォ…!?」

「りっき……ぃ」

 

「あ、あぁ!?」

「そんな…」

 

 

しかし、スタッフとしての教育は100点だったとしても、ポケモンや荒事の腕前の方はそうもいかないらしい。先導するスタッフたちは抵抗しようとするが、ロケット団のポケモンに全く太刀打ち出来ていない。あっと言う間にスタッフ側のポケモンは軒並み戦闘不能に追いやられ、俺たちの進むべき道は、ロケット団によって完全に塞がれてしまった形になった。

 

 

ドオォンッ!!ガンッ!!バァンッ!!

 

「ひぃぃぃっ!?」

「きゃぁああぁぁっ!?」

「うわあぁっ!?」

「ぐぅっ…!」

 

「ハハハハッ!死にたくなければ、全員その場で動かないでいただこうかァッ!」

 

 

障害を排除したロケット団は、躊躇なくポケモンを使って次々と俺たちを恐怖の坩堝に陥れにかかる。前にいたホテルスタッフが攻撃に晒され、ひんし状態のポケモンも巻き込まれている。一部の攻撃はそれを越えて、俺たちの近くまで届いていた。

 

 

「マサヒデさん…」

 

「…カヒリさん、大丈夫ですよ」

 

 

か細い声で俺に話しかけてきたカヒリ嬢。怯えたように肩を震わせ、俯いている。原作キャラとは言え、彼女は現時点ではまだ10代半ば。よくよく考えてみれば、突然こんな状況に放り込まれてはこの反応も仕方ないだろう。安心させるために、大丈夫だと声を掛ける。

 

しかし、こうなると俺が前に出るしかない…か。一昔前の俺であれば、もし上手く出来なかったら~とか、或いは手が回らなかったりしたら~とか、失敗した時のことを考えてここは大人しく連中に従っておいた方が…なんて、穏便と言うか、問題を先送りするような温いことを考えたりした。

 

それでも、『元』がつくとは言え、ほんの一月前まではジムリーダー代行だった身だ。ジムリーダーの業務を代行する中で、僅かとはいえ俺の心中に根を伸ばした責任感は、その考えを良しとしない。眼前でならず者たちが無体を働こうとしているのを、指を咥えて眺めていることは出来なかった。

 

それに…年端もいかない女の子が怖がっているのに、何もせずに放置するワケにもいかないよなぁ?

 

 

「ここは僕n「こんなの…許せません…ッ!」せて…え?」

 

「ここはあたしが…!行きなさい、ケララッパ!」

「ケラァッ!」

「ケララッパ、“タネマシンガン”です!」

「ケラッパァーッ!」

 

「え、ちょ、カヒリさん!?」

 

 

…そんな俺の覚悟などお構いなしに、カヒリ嬢はそう言ってすっくと立ち上がると、俺が制止する間もなくケララッパを繰り出し、そのまま敢然とロケット団に向かって攻撃を仕掛けたのだった。肩を震わせていたのは何だったのか…

 

状況が状況だけに怖がってると勝手に思ってたら、全然そんなことはなくて、ただ正義感に心奮わせてたとか、ロケット団の悪行に怒りで打ち震えてたとか、そんな感じだったようだ。

 

 

「ブモッキィ!?」

 

「よし!良いですよ、ケララッパ!」

「ケラァ!」

 

 

ケララッパが放った“タネマシンガン”は、そのまま最前線で暴れ回っていたオコリザルに命中。動きを止めたのみならず、そのまま押し戻してしまった。流石は未来のアローラ四天王、やりますねぇ……って、そうじゃない!

 

 

「何やってんだカヒリさん!危険だから無茶するな!」

 

「大丈夫です!マサヒデさん相手に戦えるのですから、これぐらい…!」

 

「ほう…少しはやれるのがいるようですね?」

 

「何が来ても同じです!風は私たちに吹いています!」

 

「威勢のいいお嬢さんだ。良いでしょう、ならば…行きなさい、サイドン」

「ドッサイ!」

 

 

俺が制止する間もなくロケット団相手に仕掛けたカヒリ嬢に、思わず強めの口調で怒鳴ってしまった。そして、オコリザルを押し戻したのを見た向こうのトップらしきロケット団員も動いた。新たにサイドンを繰り出し、反撃の構え。

 

 

「サイドン、“れいとうビーム”だ」

「ドッサァイッ!」

 

「ケララッパ、もう一度“タネマシンガン”です!」

「ケェラッパァッ!」

 

 

カヒリ嬢のケララッパとサイドンの技がぶつかり合う。単純なスペックでは見るからにサイドンの方が上。だが、使っているのが特殊技なこともあってか拮抗している。“いわなだれ”なんかを使われたら、押し負けてしまう可能性は高い。

 

それに、相手は1人だけではない。

 

 

「援護します!ユンゲラー、“サイケこうせん”!」

「ユゥン!」

「マルマイン“10まんボルト”!」

「ビリリリィーッ!」

 

 

他の団員もカヒリ嬢を潰しに動き出した。特に彼女のポケモンに相性の悪いサイドンとマルマインは早急に排除する必要がある。それと、もしも仮に“じばく・だいばくはつ”あたりの技を使われたとしたら…屋内でそんな技使われたら、最悪生き埋めになっちまうぞ…!

 

最早「無茶だ」とか「危険がが云々」とか言ってる場合じゃない!

 

 

「レアコイル!」

「ビビビ!」

「ケララッパの前に出て“ひかりのかべ”だ!攻撃を通すな!」

「ビビッ!」

 

 

まずはレアコイルを繰り出し、“ひかりのかべ”を張らせる。ケララッパ、延いては後ろにいる俺やカヒリ嬢、他の客やスタッフの皆さんを守る盾となってもらう。

 

 

「ビビビ…ッ!」

「ケラッ!?」

「…ビビ…ッ!」

「よしッ!よくやった、レアコイル!」

 

 

背後から突如現れる格好になったレアコイルにビビるケララッパの姿を視界の端に置きつつ、レアコイルが半透明の障壁を展開。ケララッパに向けられていた攻撃の全てを受け止めた。

 

 

「あ…マサヒデさん、ありがとうございます…!」

「お礼は後程。今はこの場をどうにかしましょう!スピアー!ヘラクロス!」

「スピィ!」「ヘラ!」

 

 

続いて、スピアー・ヘラクロスも召喚。緊急時につき原作よろしく1体縛りなんぞやってられん。

 

 

「スピアーは他の連中に邪魔をさせるなッ!“ミサイルばり”だ!」

「スッピャアァーッ!」

 

「ビリーーッ!?」

「ユ゛ン…ッ!?」

 

 

まずは先陣を切ってスピアーが敵後衛に向けて制圧射撃。歴代でもトップクラスの素早さを誇るマルマインだが、室内では自慢のスピードも十全には活かせない。何ならレベル差もあってスピアーの方が速い。ロケット団員の周辺目掛け、狭い範囲内に数十発もの針の雨が降り注ぎ、弱点を突かれる形になるユンゲラー諸共マルマインを吹っ飛ばした。

 

 

「ビ…ビリ……ィン…」

「ュ~……」

 

「よし!ヘラクロス!突っ込んでサイドンをブッ飛ばせ!“かわらわり”だ!」

「ヘラァッ!」

「ドッサ!?」

 

 

目論み通りにマルマインは潰した。ユンゲラーとまとめて後衛を沈黙させたので、ヘラクロスが一直線にサイドンとの距離を詰める。

 

 

「やらせんぞ!オコリザル、“クロスチョップ”ッ!」

「ブッキィ!」

 

「させるかぁッ!スピアー、“どk「マサヒデさん、ここはあたしが!ケララッパ、“ドリルくちばし”です!」d…」

「ケラッパァ!」

「ブモォッ!?」

「…ヒュ~」

 

 

ヘラクロスをインターセプトしに出てきたオコリザル。スピアーで対処しようとしたところ、カヒリ嬢とケララッパが動いてくれた。ポケモン世界の女性…と言うか原作キャラってやっぱつえーわ…この状況で飛び出すだけあって、度胸も判断力も大したもんだ。俺の立場としては褒められたものではないが。

 

何にせよ、これで障壁は完全に無くなった。後は正面からサイドンをブッ飛ばすだけ。

 

 

「助かったカヒリィ!ヘラクロス、行けえぇェェーーーッ!」

「ヘラアァァァーーーーッ!!」

「チッ、サイドン、“つのドリル”!」

「ドッサアァィッ!」

 

 

ヘラクロスの細手の剛腕とサイドンの激しく回転する角がぶつかり、火花を散らす。

 

 

『ギュリリリリリリ……プスンッ』

「なッ!?」

 

 

一撃必殺技はマズい…と思ったのとほとんど同時に、ドリルは急激に回転力を失い、最後は情けない音を発して完全に止まってしまった。外した…いや、あの止まり方から見てヘラクロスよりもレベルが下だったな?

 

 

「ヘラァァッ!!」

「ドッサ…ァッ…!」

「もういっちょ!」

「ヘッラァァーーーッ!!」

「ドサァーーーッ!?」

 

「うわあぁぁぁーーッ!?」

「ぐぉ……」

「ぎゃふん!?」

 

 

攻撃が不発に終わったことで、ヘラクロスに真正面からタコ殴りにされてブッ飛ばされたサイドン。超重量級の巨体は、ロケット団員たちも巻き込んで大惨事に。

 

 

「…来い、ラフレシア」

「らふ~!」

「“ねむりごな”であいつら全員休んでもらって」

「らっふ~!」

 

 

ロケット団の皆さんがサイドンにまとめて轢き潰されたことで、事態打開のまたとないチャンス到来。一瞬だけ憐憫の情を抱きはしたたが、悪党に容赦は必要なし。思い直してラフレシアを呼び出し、まとめて夢の世界へご案内。

 

 

「…マサヒデさん、お疲れ様です」

 

「…ああ、カヒリさん」

 

 

ロケット団相手にずいぶんと無鉄砲なことをやってくれたカヒリ嬢。助かった部分はあるが、元ジムリーダー代行だった身から言わせてもらえば、正直褒められたことではない。立場的にもあまり無茶なことは控えてもらいたいんだが…

 

それはともかくとして、今最優先にすべきなのは事態打開だ。この異常事態にロケット団の存在…多少の誇張はあるかもしれないが、連中が自ら言っていた通り、すでに相当数のロケット団員が入り込んでいるのは疑いようがない。

 

そうなると…

 

 

「貴女の無茶に関して色々と言いたいことはありますが、今はお小言を垂れてる時ではありませんね。今はとにかく、この状況から脱することを優先して動きましょう」

 

「…分かりました。それで、どうするんです?」

 

「まずは上がどうなっているか把握するのが先です。スタッフさん」

 

「は、はい!」

 

「僕はつい先日までトキワジムリーダー代行を務めていたマサヒデと申します。先行して上の階の状況を確認して来ますので、この場をお任せしてもよろしいでしょうか?」

 

 

ご存じかどうか分からないので、一応こちらの身分を明かした上で、スタッフの皆さんに協力を求める。

 

 

「トキワジムリーダー代行の…チーフ!」

 

「ええ、お話は聞いておりました、マサヒデ様。この場は我々にお任せ下さい。それと、先導の者をお付けしましょうか?」

 

「そうですね…お願いします」

 

「かしこまりました…おい、案内を頼む」

 

「はい!」

 

「無理はするなよ…では、マサヒデ様。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

 

 

スタッフの皆さんにロケット団の見張りやら、宿泊客の皆様の対応やら何やらを託し、俺は事態打開を目指して案内役のスタッフ1人を連れて上の階…地上を目指す。この場に留まることで崩落の危険とかはあるにせよ、それでも下手に戦えない人間を連れ歩くよりは、俺が単騎駆けした方が良い…ハズだ。

 

 

「マサヒデさん、パパは…大丈夫でしょうか?」

 

「…分かりません。ですが、俺はロケット団はポケモンを使っての金儲けに主軸を置く組織だと認識しています。ロケット団の悪行は様々な形で世間に知れ渡っていますが、傷害事件こそあっても人を殺したという話は聞いたことがない。もちろん、偶然かもしれませんが…なので、連中の目的次第ではありますが、オーナーさんは無事である可能性が高いかと」

 

「そう…ですか」

 

 

カヒリ嬢は同じホテル内にいるはずの父親の安否が気になる様子だ。俺の発言で、ホッと一息吐いた。

 

まあ、正直なところは分からんがね。言った通り偶然のことなのかもしれないし、表沙汰になってないだけで裏では…なんてパターンも十分想像出来る。怪我させられてたり、監禁されてる可能性はもっと高い。とは言え、これはあくまで根拠のない憶測の1つ。変に不安を煽るようなこともあるまい。

 

 

「…マサヒデさん、お願いがあります。あたしも一緒に行かせて下さい」

 

「…カヒリさん、それは…」

 

 

とか何とか考えてたら、一緒に行きたいと来ましたかカヒリ嬢…しっかし、どうしたものかなぁ。人手が増えるというのはそれだけなら単純に良いことではある。が、元ジムリーダー代行としての立場から言うと、ここでカヒリ嬢を連れて行くのはよろしくない。相手ロケット団だぞ?

 

ロケット団はとにかく数の力を頼む連中だ。そして、団員の多くが犯罪行為すら厭わない。そんな連中に10代半ばの少女を相手させて、万が一があってみろ。世に知れ渡った日には俺がボコボコに叩かれて大炎上する展開が目に見えるわ。あと、薄い本も厚くなりそう。

 

…主人公?あれはまあ、ほら、主人公だからしゃーない。

 

 

「…カヒリさん、これから相手しないといけないのはロケット団。巨大な犯罪組織です。失礼ですが、貴女がポケモンやゴルフの大会に出るのとはワケが違うんですよ」

 

「…分かってます。あたしも戦えるだけの実力はあります」

 

「さっきの戦いで、貴女のポケモンと奴らのポケモンはほぼ互角でした。そして、おそらくですが、コイツらの中に幹部クラスの者はいません…つまり、コイツらと同程度、もしくはそれ以上の実力者がそれなりの数いる可能性が高い。ハッキリ言って、戦力として信用出来ません」

 

「ッ…で、でも、会合では貴方に勝ちました」

 

「…今連れているポケモンたちは、正真正銘、俺の主力メンバーです。昼間に貴女と戦った時のメンバーよりレベルも、経験も、2回りは違う。貴女が同年代で最上位の実力をお持ちなのは認めますが、それでもこの場では不十分です。昨日のポケモンたちと互角なぐらいでは、正直戦力としては不安しかない」

 

「決して足手纏いにはなりません!それに、あたしの飛行ポケモンなら、上から状況を調べたり警戒も出来ます!」

 

「…相手は何をやってきてもおかしくない連中です。それこそ、平然とトレーナーを攻撃したり、捕らえた客を人質にして脅したり、最悪ホテルごと爆破なんてことさえしかねない。そんな連中相手にする中で、貴女を連れて行くのは危なすぎる」

 

「上にはパパがいるんです!無事なのか心配なのです!だからあたしも行きます…行かせてください!」

 

 

…父親思いですなぁ。両親家族とすでに会えない身としては、親子仲が良好なのは羨ましい限り。こういうの見ると、力になってあげたくなるのが人情と言うもの。それに、カヒリ嬢の言う飛行ポケモンによる上からの偵察…この状況だと、進行方向に敵がいるかどうか分かるだけでも魅力的ではある。ああ言いはしたが、実力も最低限はあると言えばあるし。

 

そして、こうしている今この瞬間も、上の階にいるであろうロケット団はホテル内の制圧を進めていると思われる。こうやって余計な問答に時間かけると、ただただ事態の悪化を許すばかり。このまま認める認めないでグダグダ話を引きずるのは、状況的に一番マズいかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァ」

 

 

…仕方ない。

 

 

「…分かりました。そこまで仰るのでしたら仕方ありません。力を貸してもらいますよ、カヒリさん」

 

「ッ……はい!」

 

 

カヒリ嬢を危険に晒すという問題はあれど、ここは上を目指すこと、あわよくばロケット団を撃退することに主眼を置いて、それを優先するべきだろう。

 

俺はカヒリ嬢にいくつか注意することを伝え、そのまま案内役のスタッフとカヒリ嬢2人を連れて上階を目指し動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そう言えば、カヒリ嬢の飛行ポケモン=鳥ポケモンだよな?もしかして鳥目なんじゃ…この状況で見えるのか?

 

 

 




ロケット団、始動。
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