成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

97 / 104
第90話:物語の裏側へ

 

 

 

 

 

 ロケット団によるセキエイ高原ホテル襲撃事件は、発生から2時間足らずの戦闘を経て、ロケット団側がホテルから追い出される形で終結。その規模に比して、この大事件は思いの外あっさりと終わった。

 

しかし呆気なく片は付いても、その影響は規模相応に甚大だ。ロケット団が去った後に残されたのは、破壊工作や戦闘の余波で主に1Fを中心に滅茶苦茶になったホテルと、襲撃時や戦闘の衝撃で転倒したとか、ロケット団に抵抗した等で負傷したスタッフと客に、行動不能なロケット団員。ホテルとしてはしばらく後始末と復旧が最優先事項であり、当面の間、営業は出来ないと思われる。

 

ホテル側にとってはとんでもない災難だが、それでも不幸中の幸いだったのは、怪我人がいずれもが軽傷で済んだことだろう。カヒリ嬢の父親であるリゾートオーナーも無事だった。もちろん、TCP社(うちの)副社長も。

 

解放された宿泊客への対応や説明、怪我人への応急処置、ロケット団に荒らされたり破壊された箇所の確認や警察への通報etc…解放されたばかりのホテルスタッフの皆さんが、損壊に停電で不十分な明かりを頼りに、慌ただしくも献身的に動き回っている。怪我等で欠員もいるであろうに、そのプロフェッショナルな姿勢には敬意を表するしかない。

 

 

 

 

 そうして夜は更けていき、新しい1日が始まる頃には…まだ全てが終わったワケではなかったことが、徐々に明らかになった。

 

昨夜、俺の泊まっていたホテルがロケット団の襲撃を受けたのと同時刻、セキエイ高原の複数の民間施設も同様にロケット団の襲撃を受けていた。その内、幾つかの施設は現在もロケット団が占拠ないしは侵入しているようで、公安や警察が対応に追われている。

 

それと時を前後して、ハナダシティ郊外の無人発電所も襲撃を受けたらしいこともラジオで知った。この結果、カントー地方全域で大規模な停電が発生しているという。一向に復旧しない停電は、間違いなくこれが原因だな。

 

停電の影響もあってか情報も錯綜しているようで、発電所の方は襲撃後どうなっているのかはそれ以上の続報がなく状況は不明。しかし、停電が解消されてない時点でまあ、あまり良い状況ではないことは察しがつく。

 

事件発生から一夜が明けたものの、セキエイ高原は未だ混乱の渦中にあった。

 

 

 

 そんな最中にあって、無事ロケット団の襲撃を退けホテルを開放した俺は、周囲の喧騒を尻目にのんびりと夏休みを続行………など当然出来るはずもなく、戦力として周囲や宿泊客らの安全確保に動き、ホテルの復旧に協力することになった。ロケット団を追い払った後は一晩夜通しで警戒に当たり、夜が明けてから軽く一眠り。その後は受けた被害の復旧が始まっているホテルとその周辺の警備に。

 

全ては朝一番に、副社長経由で届いたサカキさんからの要請に従った形だ。ホテル及び警察側からも同じように要請があった。

 

今回の会合に参加するはずのサカキさんだったが、結局仕事の影響で会合には間に合わなかったらしい。そしてセキエイ高原を目前に、この一件の影響で足止めを食らっているのだとか。現在は事態収拾のため、公安・警察の部隊への合流を目指して動いているとのこと。

 

…正直、この話をどこまで信じられるかと言えば、かなり疑わしい。だが、例えサカキさんが信用ならなかったとしても、元ジムリーダー代行として、この要請を請ける以外の選択肢は俺の中にはなかった。

 

この厳戒態勢が続くセキエイ高原の中にあって、ホテル周辺は今のところ逃げたロケット団による再襲撃もなく落ち着いている。しかし、他複数の施設にも襲撃を仕掛けている現状をどう見るかにもよるが、再襲撃の可能性も無いとは言えない。占拠されてしまっている施設の状況に悪い変化がある可能性だって否定出来ない。ホテルの内部的な部分はスタッフの皆さんの方が詳しいのが当たり前。自然と、俺の役目は専らホテル周辺の警戒になった。

 

全体がピリついた空気に包まれているセキエイ高原で、近くに潜んでいるかもしれない脅威に神経を尖らせ、精神を磨り減らしながらも、俺は警戒を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

…そして、激動の1日が終わりを迎えた頃。占拠していた施設も含めて、ロケット団はセキエイ高原から完全に追い出された。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 緊迫した状況の中で何事もない、だけど気を抜くことの出来なかった1日が終わった。関係各所の頑張りの甲斐もあって、セキエイ高原の状況は落ち着きを取り戻しつつあった。チラッと耳にした話では、マスターズリーグで活躍するトレーナーも、ポケモン協会の要請を受けて投入されたとか何とか。

 

ホテルに戻った俺は、「せめてこれぐらいは…」というホテル側の出来る限りの心遣いで、緊張感の中で磨り減らし疲弊した心と体を休めていた。

 

設備の損壊に停電、スタッフの欠員などもあり、制限も多いだろう中でも、温かい食事と風呂、キンキンに冷えた飲み物、雨風凌げる寝床。これらがあるだけでもありがたかった。ポケモンの力も借りつつ、出来る限りのサービスを提供しようとするその姿勢には感謝しかない。

 

すでに完全に排除されたという情報は届いているが、相手は数だけは多いロケット団。再度仕掛けてくる可能性は十分に考えられる。軽く休んだら、今日いっぱいは警戒に当たる予定だった。

 

 

「こんばんは、マサヒデさん」

 

 

そうして一風呂浴びてからフッカフカのソファーに身を沈めて休んでいたところ、聞き覚えのある声に話し掛けられた。

 

 

「少々お時間、よろしい?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 

そう言うと、隣に座って来たカヒリ嬢。一緒にロケット団撃退の一翼を担った彼女とは、明け方になって安全が確保出来てから別れて以来、半日以上ぶりの再会だった。

 

 

「それで、どうされましたか?」

 

「まずは、お疲れ様です。そして、感謝を。貴方のおかげで、あたしも、パパも、この緊急事態を怪我無く乗り越えることが出来ました。ありがとうございました」

 

「…当然のことをやったまで、ですよ。それに、ロケット団を追い払うことが出来たのは、カヒリさんが一緒に戦ってくれたおかげです。本当はこういう危険なことに首を突っ込まれるのは注意しないといけないのでしょうが…」

 

 

カヒリ嬢が一緒になってロケット団と戦うと言い出した時は頭を抱えたけど、彼女の協力・活躍があったからこそ、何だかんだ想定していたよりも早く済んだのも事実。おかげであまり強く注意出来なくなっちゃったんだよな。まあ、結果良ければ全てよし…でいいのかね?

 

 

「それについてはパパにも少し怒られてしまいました」

 

「でしょうねぇ」

 

 

良かった、父親(オーナー)さんがそこらへんはキチンと締めてくれたようだ。

 

 

「あ、それでですね…」

 

 

そこから先はカヒリ嬢のターン。本来の目的であったゴルフの大会は中止になったこと、父親(オーナー)さんが俺に感謝していたこと、状況が落ち着いたら直接謝意を伝えたいこと、そして…飛行場が再開したら、アローラに帰ること。

 

まあ、元々がゴルフのために遠路遥々カントーまでやって来ていた以上、目的が無くなってしまったのならそうなるのも自然な流れだ。

 

 

「そうですか…流石にこの状況では仕方がないとは言え、わざわざアローラ地方から準備して来たのに…残念ですね」

 

「ええ、残念です。でも…その代わりに、大きな収穫もありました」

 

「と、言うと?」

 

「…マサヒデさん。貴方と出会えたおかげで、ハッキリと認識することが出来ました。世界にはまだまだ上がいる、あたしはまだまだ成長出来る…今回カントーに来て、本当に良かった」

 

「…そうですか」

 

「あたし、またカントーに来ます。ゴルフもポケモンも、もっと上手く、強くなって。それで、貴方にリベンジするんです」

 

「リベンジって…懇親会でのバトルで勝ったじゃないですか」

 

「いいえ、貴方が自分で『本気じゃない』って言っていたでしょう。それに、今朝の一件を見れば、あたしとマサヒデさんの実力の差は子供でも分かります」

 

「まあ…それはそう」

 

「で・す・か・ら!次あたしがカントーに来た時は、マサヒデさんの全力で相手をお願いします。あたしも、必ずそれに張り合えるだけの実力を着けて来ますから!」

 

 

そう言って、カヒリ嬢は手を差し出した。

 

 

「…フフ、いいでしょう。楽しみにしてます」

 

「ええ、必ず全力の貴方に勝って見せます!」

 

 

差し出された彼女の手を握り、握手を交わした。何年先のことになるかは分からないけど、楽しみにさせてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

『Prrrrrr!』

「ん…電話?」

 

 

ポケットに突っ込んであったポケギアが鳴ったのは、握手し終わったちょうどそのタイミングのことだった。

 

 

「すみません、カヒリさん。ちょっと失礼…もしもし、マサヒデですが…」

 

『やっと繋がった…こんばんわ、マサヒデ』

 

「…!ナツメさんじゃないですか」

 

 

電話の主は、ヤマブキジムリーダー・ナツメさん。

 

 

『悪いわね、夜遅くに』

 

「いえ、大丈夫ですよ。それで、どうされたんですか?」

 

『貴方、今どこにいる?』

 

「セキエイ高原ですが…」

 

『セキエイ高原…そう。ニュースで見たわ。大変なことになっているようだけど、大丈夫かしら?』

 

「襲撃された全ての施設からロケット団は追い払われました。まだ周辺に潜んでいる可能性はありますけど、今のところは落ち着いています」

 

『そう。貴方やポケモンたちはどう?怪我とかしてない?』

 

「僕もポケモンたちも怪我はしてませんが…夜通しでロケット団とは戦ったので、疲れましたよ。大変でした。」

 

『…戦ったのね。本当に怪我とかは大丈夫?』

 

「ええ、まあ…」

 

『……そう。なら…好都合ね』

 

 

…好都合?何が好都合なんだ?ナツメさんのその一言で、俄に疑念が鎌首を擡げた。

 

 

『マサヒデ、ちょっと前にヤマブキジムで預けた袋…今ある?』

 

「え?え、ええ、持ってますけど…」

 

『今、その場で開けてちょうだい』

 

 

少し前、ヤマブキジムでナツメさんと最後に会った時に貰った小さな巾着袋。確か『何か困ったことがあったら開けろ』と言われていたように記憶していたが…

 

 

「あの、好都合というのはどういう『開けてちょうだい』…分かりました」

 

 

俺の質問は何も無かったかのようにスルーされた。電話の向こうから感じる無言の圧に押されて何も言えず、渋々ながらも言われるがまま袋を開く。

 

…開いてしまったんだ、何の考えもなしに。

 

 

「…モンスターボール?」

 

 

中に入っていたのは、小さくなった状態のモンスターボール。それが1個だけ入っていた。取り出してみるが、見た目は何の変哲も無い、ただのモンスターボールだ。が、どうやら中にはポケモンが…

 

 

『ポン!』

「うわ!?」

 

 

確認していたら、ボールからポケモンが勝手に飛び出して来た。

 

 

「……ケ〜」

「…ケーシィ?」

 

 

飛び出してきたポケモンはケーシィ。キツネ顔のナツメさんのエース・フーディンの進化前のポケモンだ。しかし、何故にケーシィ?

 

ナツメさんから預かったボールにケーシィが入っていたこと自体はまだ分かる。問題は、何故ケーシィを入れていた?『困ったことがあったら開けろ』だったはずだが、ナツメさんは何を予見していたんだ?

 

 

「……ケ~」

 

「え…あれ……?」

 

 

直後、景色がグニャリと歪んだ。ホテル内の風景も、隣にいたカヒリ嬢の顔も、目に映る世界中の何もかもが歪み、何が何だか判別が出来ない程にズレていく。

 

 

「マサヒデさんッ!?」

 

 

カヒリ嬢が何かを言っている様だが、上手く聞き取れない。

 

視界が歪み、音が歪み、その後に来たのは浮遊感と気分不快。足元が覚束無いと言うか、地に足が着いてない感覚で、乗り物酔いをした時のような気持ち悪さ。

 

 

 

 

 

…あれ?そう言えばこの感覚、以前どこかで経験したことがあるような……確か、ヤマブキジムのステージギミックであるワープパネル。あれに乗った時のような感覚が…

 

そう思った次の瞬間、突然世界が元通りになる。視界の歪みも気持ちの悪い浮遊感も、ほんの一瞬のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。待ってたわよ、マサヒデ」

 

「………」

 

 

…そして、ついさっきまで電話で話していたはずのナツメさんが、今俺の目の前に立っている。周囲の風景もホテルのそれではなく、どこか見覚えのある室内…

 

 

「…ヤマブキジム?」

 

「ええ」

「……ケ~」

 

 

俺の呟きを肯定するナツメさんと、その傍らに佇むケーシィ。そこまできて、ようやく俺は何が起きたのかを察し、同時に俺の感じたことが間違いではなかったことを理解した。

 

 

「“テレポート”か…」

 

「まあ、そういうことよ」

 

 

つまりは、あのボールに入っていたケーシィにやられたということだ。ナツメさんも否定しない。

 

 

「…何故?」

 

「その前に、1つ確認」

 

「…何でしょう?」

 

「貴方はロケット団と戦うことを迷っている、と以前言っていたけど…それはロケット団そのものを相手にすること?それとも、ロケット団のボスを相手にすること?」

 

 

質問に質問で返された。確かに、最後に会った時に内心を見抜かれてそんなことを話した覚えはある。

 

 

「それは…ロケット団ボス、サカキさんを相手にすること…ですけど…」

 

「そう」

 

 

今もサカキさんを相手にするとなれば躊躇する部分は大いにあるが、ロケット団そのものについては別に…と言ったところではある。セキエイ高原でもああいう動きが出来る程度には。

 

 

「ならいいわ、何も問題ない」

 

 

いい加減、俺の質問に答えてほしい。さっきから好都合だの問題ないだの、どういうことなのか。

 

しかし、その疑問にナツメさんが答えるよりも早く、別の方向から答え合わせは成された。

 

 

『ドゴォンッ!!』

 

「ぅ…ッ!?」

 

 

近くから響き渡った爆発音。その衝撃はジムの建物全体を大きく揺らした。

 

今のはいったい…そう思って反射的にナツメさんを見やると、彼女は俺に向かって薄らと笑みを浮かべ、言い放った。

 

 

「始まったわよ。さあ、頑張りましょうか、転生者さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、あー…ヤマブキジムリーダー及び、全てのヤマブキジムスタッフに告ぐ!我々は悪の秘密結社・ロケット団である!我々は現時刻を以て、ヤマブキシティ全域を制圧下に置いたことを宣言すると同時に、ヤマブキジムリーダーに対してジムを明け渡し、我々の管理下に入ることを要求する!もし抵抗するようであれば…賢明な判断を期待する!』

 

 

 

 




前回投稿から約2ヶ月…ZA発売までに、どこまで書けるか…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。