成り行き任せのポケモン世界   作:バックパサー

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第92話:計画と修正、そして不測の事態

 

 

 

 

 

 夏から秋へと移ろいつつある晩夏のヤマブキシティは現在、未曽有の危機に瀕していた。どこからともなく現れた黒尽くめの集団…悪の秘密結社・ロケット団による大規模な襲撃を受け、街全体が混乱状態に陥っていたのである。

 

多くの人や組織が寝静まった頃を見計らったロケット団は、真っ先に警察署等を攻撃。大規模停電の影響から満足な連携が取れず、不十分な態勢で対峙せざるを得なかった公安組織を抑え込むと、続いて市内各所の施設やインフラ設備などを破壊・占拠した。

 

こうして都市機能の掌握を進め、それと並行して、ヤマブキシティ襲撃の最大目標であるシルフカンパニーの制圧にも乗り出した。社員の抵抗を受けながらも、内通者の協力も得て圧倒的な戦力で以て、徐々に上へ上へと追い詰めていく。

 

 

 

全ては順調…この作戦に関わるロケット団の誰もがそう考えていた空気の中で、不測の事態を伝える一報がロケット団中枢部隊へ届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~同時刻・ヤマブキシティ某所~

 

 

 

 

「…なに?ヤマブキジムの封鎖に失敗した、だと?」

 

『はっ…申し訳ありません…』

 

 

 

 その一報を受け取った男…ロケット団幹部であるアポロは、内容に一瞬驚き、すぐに苦虫を噛み潰したような表情で俄かに声を荒らげた。

 

 

 

「十分な戦力があったハズでしょう、いったい何をやっていたのですか!」

 

『それが…包囲するまでは順調だったのですが、ジムリーダー・ナツメに加えて、もう1人やたら強いトレーナーがいるようで…それ以上はジムに近寄ることすら出来なかったと』

 

「チッ…」

 

 

 

ロケット団の命運を賭けたと言っても過言ではないS-4プランというこの一大作戦での、それも第一段階での躓きに、この作戦の立案に携わった1人であるアポロは苛立ちを隠せない。

 

ヤマブキジム及びリーダー・ナツメは、この街においてロケット団にとって最大の障害となる存在の1つと見られていた。だからこそ重要目標に選定し、部隊を送り込んで真っ先に制圧を目論んだ。抑え込むのに必要十分な戦力も用意した。そのハズだった。

 

しかし、失敗した。報告を聞く限りでは、ナツメに加えてもう1人、送り込んだ団員では手に負えない強いトレーナーがいたことが原因であるとのこと。結果より過程が大事、などと子供の頃は言われることもよくあるが、この段階に至ってはどんな過程があろうと失敗は許されない。結果が全て、成功こそが結果だ。

 

ただ、まだ挽回は出来る。何にせよ、一度失敗したからとヤマブキジムをこのまま野放しにしておくという選択肢は、アポロにはなかった。

 

 

 

『現在、再度包囲をするべく立て直しを進めておりますが、思いの外損害が大きく…』

 

「分かった、とりあえずは部隊の回復・再編を急げ。それと、手隙の部隊も回せるようボスに掛け合って取り計らう。ヤマブキジムは必ず押さえろ、いいな!」

 

『ハッ、必ずや』

 

 

 

苛立っているだけでは作戦成功には結び付かない。次こそ確実に成功させるために、必要と思う手を矢継ぎ早に打っていく。そして、不確定要素は可能な限り除く必要がある。「失敗した要因」と実動部隊が言ってきている正体不明のトレーナーについて、アポロは何らかの対策が必要だと判断した。

 

 

 

「それと、その『やたら強いトレーナー』とやらについて、分かっている情報を教えろ」

 

『ハッ。指示を出していた声からして男。ただ、暗くて顔までは分かりませんでした。ジムのトレーナーではないようなのですが…』

 

「ジムトレーナーではないのか?何故分かった」

 

『使用しているポケモンが、ヤマブキジムのポケモンとは明らかに違うのです。確認出来ただけで、スピアーにヘラクロス、サンドパンと…バンギラス……』

 

「…何だと?」

 

 

 

部隊からもたらされたのは、正体不明のトレーナーが使うポケモンについての情報。確かにエスパータイプのポケモンを扱うヤマブキジムのトレーナーとは到底思えない使用ポケモンだが…その内容を聞かされたアポロには、そんなことよりも先に嫌な予感が脳裏を過った。

 

それは、半ば直感のようなものだった。男で、報告にあったポケモンを使用する、下っ端とは言え今作戦に向けて選抜されたロケット団員たちを、蹂躙出来るだけの実力のあるトレーナー…そんな条件に当てはまる人物に、アポロは心当たりがあった。

 

これにジムリーダーであるナツメともそれなりの頻度で会うぐらいに親交があることも加えると、その嫌な予感は現実味を帯びた危機感に変わる。

 

 

 

「まさか…マサヒデか…!?」

 

 

 

自らが敬愛するロケット団ボス・サカキの愛弟子であり、つい1か月前まで、そのサカキが不在としていたトキワジムの留守を預かり、ジムリーダー代行として活躍していた少年。アポロが知るそんな少年の特徴と、今報告にあった敵トレーナーの情報は、大きく一致していた。

 

 

 

「…いや、アイツは今セキエイ高原にいるはずだ。こんな所にいるはずがない」

 

 

 

ところが、問題の少年は現在、ヤマブキシティからは遠く離れたセキエイ高原にいるはずだった。そう仕向けるように提言した1人はアポロ自身であるし、少なくとも、今日の朝まではその確認が取れている。

 

では、このトレーナーはいったい何者だ?

 

 

 

「…とりあえず、お前たちは立て直しを急ぐように」

 

『ハッ!』

 

 

 

このトレーナーが何者であっても、まずやるべきは被害を受けた部隊の立て直し。無線機の向こうの団員に作業を急ぐよう命じて通信を切った。しかし、言い知れぬ不安をアポロは拭えなかった。

 

万が一もあり得る…そう考えたアポロは、事実を確認し、この不安を払拭するべく、シルフカンパニー制圧に向けて指揮を執っているサカキと連絡を取った。

 

 

 

『…私だ』

 

「こちらアポロです。お忙しいところ申し訳ありません、サカキ様」

 

『アポロか。どうした、何かあったか』

 

「申し訳ありません、ヤマブキジムの制圧に向かわせた部隊が失敗しました」

 

『ふむ…それなりに戦力は用意したとは言え、簡単にいくとは思っていなかったが…追い返されたか』

 

「すでに部隊の再編と再包囲を命じましたが、報告を聞くに今のままでは戦力不足の懸念があります」

 

『流石はナツメ、と言ったところか…いいだろう、手の空いた部隊をいくつか回すといい』

 

「ありがとうございます。それと、もう1つボスに至急確認をお願いしたいことが」

 

『確認だと?』

 

「はい……実は、ヤマブキジムにマサヒデがいる可能性が出て来ました」

 

『…なに?』

 

「報告ではスピアーにバンギラス、サンドパンを使役するトレーナーがヤマブキジムの防衛に加わっており、そのトレーナーによって包囲網の一角を喰い破られた、とのこと」

 

『…それは確かな情報か?』

 

「…まだ現場が上げて来ただけの情報で、こちらからの確認は取れていません。ですが、この状況で虚偽の報告を行うとも考え難いかと。もしも事実であれば…」

 

『…分かった。こちらから確認が取れ次第、追って連絡する。今はシルフの制圧と、再包囲に向けた再編を急ぎ進めろ』

 

「ハッ!」

 

 

 

連絡を終えたアポロはヤマブキジムのことは一旦サカキに任せると、頭を切り替えてヤマブキシティ全域の制圧に向けて作戦の指揮を執る。今この瞬間も、計画に基づく複数の作戦が多方面で展開・進行している。ヤマブキジムの失敗だけに囚われていることは出来なかった。

 

しかし、それでもどうにも嫌な予感は拭えない。もし仮に、ヤマブキジム側にマサヒデが加担しているのが事実なら…

 

 

 

「…面倒なことになるかもしれませんね」

 

 

 

順調に進むシルフカンパニーの制圧とは裏腹に、僅かに表情を歪めてそう独り言ちる。

 

しかし、仮に事実であったとしても、それでもアポロがやるべきことは変わらない。S-4プラン成功のためにヤマブキシティ、そしてシルフカンパニーの制圧を一歩ずつ、確実に進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~同時刻・シルフカンパニー~

 

 

 

 

「……では、マサヒデはそちらにはいないのだな?」

 

『はい…一緒にいたハノハノリゾートオーナーの令嬢によれば、話をしている途中で何者からか電話が掛かり、通話途中に突然現れたケーシィと共に姿を消した…と』

 

「……ク、なるほど」

 

 

 

 『マサヒデがヤマブキジムにいて、防衛に加担している可能性がある』…アポロからもたらされた想定外の一報を受けて、シルフカンパニーにて作戦の指揮を執るサカキは、セキエイ高原にいるTCP社副社長と連絡を取っていた。

 

半信半疑で確認すると、確かにマサヒデはセキエイ高原から忽然と姿を消していた。アポロからの報告が俄に真実味を帯びる。

 

 

 

『私がしっかり監視していなかったばかりに…申し訳ありません』

 

「過ぎたことは仕方がない。そちらは計画通り、ラムダと連携して欺瞞・アリバイ工作を継続せよ」

 

「分かりました」

 

 

 

元々ジムリーダー代行を務められるほどに実力があること、代行として真面目に働いていたこと、ヤマブキジムリーダー・ナツメと親交が深いこと等を理由に、S-4プランの不安要素になり得るという意見もあった。サカキもその考えに一定の理解を示したこともあり、間違っても邪魔されることがないように、副社長を監視役に自身の名代兼長期休暇という名目でセキエイ高原へと遠ざけた。

 

しかし、現実はどうだ。推定マサヒデらしきトレーナーが、ヤマブキジムでロケット団の作戦を妨げている。

 

ケーシィを手持ちに入れているという情報は無く、1時間ほど前まではセキエイ高原に居た確証も得られた。状況から見てヤマブキジムリーダー・ナツメが何らかの手引きをした可能性が高い。

 

 

 

「ジムに閉じ込めておくのが正解だったか」

 

 

 

ジムで子飼いの部下たちを監視役に、缶詰にさせておけば…ボヤいてはみるが、全ては過ぎたこと。であれば、やるべきことは如何にしてマサヒデ込みでヤマブキジムを抑え込むか。このS-4プランを成功させるかのみ。

 

アポロは部隊を再編の上で、一部の部隊を合流させて再度包囲するつもりのようだが…

 

 

 

「…生半可な手では二の舞いになるだけ、か」

 

 

 

ナツメは同じジムリーダーとして、その実力は高く評価している。マサヒデの強さは保護者故によく理解している。どちらもやる気さえあるなら、カントーの頂点に立つことすら可能な者である。サカキはそう思っている。

 

…私が居なければ、という枕言葉は付くが。

 

 

 

「おい」

 

「ハッ!何でしょうか、ボス!」

 

「D部隊の状況が知りたい、無線を繋げ」

 

「分かりました!至急呼び出しを掛けます!」

 

 

 

サカキもまたS-4プランの完遂、成功のため、最善と思う一手を打ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ヤマブキシティ某所~

 

 

 

「アポロ様、本部より連絡です!」

 

 

 

 場面は戻って、ロケット団による制圧作戦が続くヤマブキシティ。その一角を拠点に作戦の指揮を執るアポロの元に、無線連絡が入った。

 

 

 

「本部だと?要件は?」

 

「ヤマブキジムの件とのことですが、サカキ様が直接アポロ様に伝えると」

 

「何!?それを先に言え!」

 

 

 

再包囲に向けて立て直しを急いでいるところに、ボスであるサカキから直接の連絡。恐らくは部隊のことではなく、例のトレーナーの件だとアポロは当たりを付けた。

 

 

 

「お待たせしました!こちらアポロです」

 

『私だ。アポロ、聞こえるか』

 

「ハッ」

 

『ヤマブキジム包囲部隊の再編状況を聞きたい。どうなっている?』

 

「現在鋭意立て直しを進めておりますが、想定よりも被害が大きく…再包囲に投入可能になるまでは、最低でも半日程度はかかる見込みです。申し訳ありません」

 

 

 

包囲に失敗し後退して来た部隊の再編を急いでいるが、逃げ帰って来た団員たちは負傷していたり、そうでなくともポケモンを全て戦闘不能状態にされた者が予想以上に多く、態勢が整うまでは今しばらく時間が必要になりそうだった。

 

 

 

『いや、むしろ好都合だ。ヤマブキジムの再包囲の件だが、D-1、D-2の2部隊をそちらに回すことにした』

 

「D部隊を、ですか…!?」

 

 

 

その報告に、アポロは自らが感じていた嫌な予感が、正しかったことを理解した。サカキがヤマブキジム包囲戦に投入を決めたD部隊は、この作戦におけるロケット団の最高戦力の1つ。ロケット団の中でもトレーナーとしての能力に優れた団員を集め、その中からさらに選抜された実力者たちで構成された部隊で、その実力はサカキの周囲を固める精鋭部隊にも比肩する。

 

そして、彼らのトレーナーとしての実力とは別に、彼らを最高戦力足らしめている理由が存在するのだが…今はまだ、秘匿しておくこととする。

 

D部隊は当初、警察を無力化する作戦に充てられていたが、それをヤマブキジムに投入する…と言うことは。

 

 

 

「では…」

 

『ああ。奴はセキエイ高原には既にいない。今ヤマブキジムにいるのはマサヒデだ』

 

 

 

その決定が意味するところは、ヤマブキジムが最大の障害であることの証左であり、数で押すだけでは成功が覚束無いという判断。そして…正体不明のトレーナーへの対抗札だ。

 

ナツメと一緒にヤマブキジム包囲部隊を撤退に追い込んだ強いトレーナー…それがマサヒデであることは、この瞬間、ロケット団上層部の間での共通の認識となった。

 

 

 

『連中も消耗はしているだろうが、ナツメに加えて奴も相手にするとなれば、中途半端に増援を送っても前回の二の舞は避けられん。こちらも可能な限りの戦力をぶつける必要がある』

 

「そのためのD部隊、ですか…」

 

『そうだ。増強した包囲網とD部隊で以て、ヤマブキジムを一気呵成に制圧する』

 

 

 

確かに、ヤマブキジムリーダー・ナツメとマサヒデ、仮にこの2人をまとめて相手取るようなことになっても問題なく戦えるだろう。彼らについてもある程度知っているアポロはそう思った。

 

そして同時に、相手側の実力も知っているが故に「それでもまだ不十分ではないか?」という一抹の不安は拭い切れない。

 

 

 

『いずれにせよ、そちらに回せるようになるまでにはもうしばらく掛かるだろう。部隊の合流が完了し次第、ヤマブキジムを制圧せよ』

 

「ハッ、部隊の再編を急ぎます」

 

『任せたぞ』

 

 

 

そこで、サカキとの通信は切れた。

 

 

 

「………」

 

 

 

警察への対応には目処がついた今、この計画における最大の障害はヤマブキジムを残すのみ。計画完遂のためにも、ヤマブキジムの包囲網は万難を排して成功させなければならない。彼らであればそれが出来るだけの能力はあるが…打てる手は全て打つべきだ。

 

 

 

「…ここは私も出るべき、ですね」

 

 

 

部隊再編に謎の精鋭部隊、そしてアポロの決断…ロケット団によるヤマブキジムへの再攻撃の準備は、マサヒデがジムを離れている間に着々と進んでいた。

 

激動の1日は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

…そして、どんなに綿密に計画を立てても、どれだけ慎重に事を運んだとしても、予期しないトラブルというのは起こる時には起こるものだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ボス、無人発電所に送った部隊からの通信が途絶しました」

 

 

 

ヤマブキジムの包囲失敗と発電所制圧部隊からの通信途絶…ロケット団にとってのこの2つの不測の事態は、ロケット団にほんのわずかな隙を生じさせてしまうことになる。

 

そして、そのほんのわずかな隙から、予想もしていなかった者が潜り込んで来るのである。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲート閉まったままじゃん。夜になって、何か変な連中も屯してるし、これじゃあいつになったらヤマブキシティに入れんのか分かったもんじゃないぜ。どうするよ、レッド」

 

「………ロケット団…!」

 

「…は?オイオイオイ、アイツらロケット団なのか!?何か、昨日今日であちこちで事件を起こしてるってのはニュースになってたが、ここでも何かやってんのかよ?」

 

「………何か…入れる方法を探そう」

 

「入れる方法?まさか、アイツらとやり合う気か!?街の中で何が起きてるのかも分からねぇんだぞ!?」

 

「………(コクッ)」

 

「…チッ、しゃーねーな。お前にだけ良いカッコはさせねーよ。どこか街中に入れる場所を探そうぜ、手を貸してやるからよ!」

 

 

 

 

 

 




D部隊…ネーミングはすごく安直なので、どういう部隊なのか分かる人には分かるでしょう。
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