常春頭の忍者道   作:さとる

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12 次の戦いに向けて

「気付かれたか……」

「ええ、危うく再不斬さんが焼死体になるところでしたよ」

 

 仮面を外した少年……(はく)はふふっと美しい容貌に笑みを浮かべるが、それはどこかぎこちない。本当にそうなる寸前だったのだろう。

 

「厄介な餓鬼だが、あの腕だ。カカシ以上に、しばらくまともに動けんだろう」

 

 再不斬は忌々しげに吐き捨てるが、大包丁で負わせた傷の深さは分身越しに伝わってきた。だがせめて足を潰しておけばよかったと……そう考えている自分に気づき、余計に気分が悪くなる。それだけ件の餓鬼の評価を上げている、ということだからだ。

 実力は確実に再不斬の方が上。しかしどうにも食えない相手で、油断をすれば痛い目を見るだろう。事実再不斬は火葬されるところだった。

 

(……まあ、負傷している今は気を付けてさえいれば大した相手ではない)

 

 それよりもやっかいなのは、あの自分と同じ技を使うサルまね忍者。白がいなければ確実に殺されていた。

 しかし二度、こちらもやられるつもりはない。

 

 

「……次、大丈夫ですか」

「ああ。次なら……写輪眼を見きれる」

 

 

 霧隠れの鬼人を仕留めきれなかったことを、後悔するがいい。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 再不斬は生きている。

 

 再不斬を抱えて飛びのいた少年の反応を見るに、それはほぼ確定的だろうとカカシは言う。あの二人は仲間だ。

 もしも尋問のために再不斬を生かしたまま連れ去ろうとした本物の追い忍だとしたら「気づかれたようですね」とは言わないだろう。むしろ霧の国の問題に手を出したということで、外交の一手としてこちらを責めてもよかったはず。それをせずに逃げたのは、後ろめたいことがあるからだ。

 つまりあの少年は、追い忍ではない。

 

「春樹が煽ったのが効いたな。無意識だろうが、あの少年はうかつなことを言った。オレたちにとっちゃ、ありがたいがね」

「おや、そんな。煽るだなんて。私はただ親切で……」

「……よく言うよ。お前、ホント性格いいね」

「お褒めの言葉ありがとうございます!」

「はぁ……」

 

 カカシのため息をBGMに、一同は春樹を除き重い足取りでタズナの家へ向かった。

 そしてタズナの娘に迎えられ、やっと腰を落ち着けたあと。自分の腕をしげしげと眺めている春樹に、サクラが心配そうに声をかける。

 

「春樹くん、腕の調子はどう?」

「ああ、サクラさんの処置が上手かったので良い調子ですよ。さっきはありがとうございました。あんな場面だったというのに、とても丁寧な手当です。さすがですね」

「え!? そ、そう? えへへ……そう手放しで褒められると、ちょっと照れちゃうわ」

「ふふふ。照れるサクラさん、かわいい」

「かわ!?」

「お~い、そこの天然たらしくん。ちょっといいか」

 

 なにやらきゃいきゃいと桃色の空気が弾けているフレッシュな空間に、カカシが疲れた声で呼びかける。だが「天然垂らし?」と本人が気づいていないようなので「春樹」と呼びなおした。

 

「はいはい、なんでしょう?」

「その腕はもう使い物にならないか?」

「完治するかしないか、ということであれば治る傷ですね」

 

 ……半ば切断されるところだった傷をして「治る」と、気負った様子も無く春樹は答えた。

 カカシはあの時腕が飛ばなかったことが不思議なくらいだと、水牢の中から見ていた彼女の戦い方を思い出す。

 

「……春樹、お前はどれくらいで治ると思う?」

「う~ん。どうでしょう? ですがおそらく、はたけ上忍の体調が回復するまでに……というのは、流石に無理です」

「つまり再不斬戦には間に合わないってことか。んー……。どうにも、まいったねェ」

「ちょっとカカシ先生! こんな怪我してる春樹くんを、傷の治癒が間に合うようだったら戦わせるつもり!? どう考えたってすぐに治るものじゃないわ! 下手したら後遺症で使えなく…………あ」

 

 カカシの言葉に思わず食いついたサクラだったが、つい飛び出た失言に口を押さえる。

 それに反応したのは春樹ではなく、ナルトと無言で考え込んでいたサスケだ。

 

 春樹の怪我はいわば、自分達がすぐに動けなかった苦い結果。本人が飄々としているから緊張感はないが、だからといって残った結果が変わるわけではない。自分たちの脳裏にもはっきりと刻まれている。

 

 

 実戦で通用する度胸がなかった。実力がなかった。自分達より強い相手に怯んでしまった。

 

 情けなさと苛立ちに、ナルトとサスケはぎりりと歯がみする。

 

 

「後遺症の心配はないでしょうね。せいぜい肉がくっつくまでに一週間、完治まで三週間くらいでしょうか」

「は!? ちょ、春樹くん……そんなに早く治るわけ……」

「理由はそのチャクラコントロールか?」

(おや)

 

 カカシの言葉に春樹は目を軽く見張る。どうやら春樹が操るオーラのことを、チャクラと勘違いされているようだ。おそらく気づかれたのは先ほどまでカカシが写輪眼を使っていたから。……そのうえで上忍である彼が間違うということは、この微妙な違いは忍者の目からは見分けがつき辛い代物なのだろう。良い事を知った。

 

 ヒナタのように白眼という、カカシの写輪眼とはまた違った特殊な眼力を持つ日向一族なら違和を感じ取るかもしれない。だがそれでもはっきりとはわからないはず。……それは春樹が、普段からオーラ及び自分という人間の存在感を薄くする効力の念を身に纏っているからだ。

 今のように怪我の治療に専念する際は効力が消えてオーラが露出してしまうため、戦いの後で感覚が鋭くなっているカカシには春樹が操るそれが目についたのだろう。他の三人もまた、気配を濃くした春樹を不思議に思っているかもしれない。

 現在春樹はオーラを精密に操り、傷の回復へとあてていた。回復に向く"絶"をすれば不自然に消えた気配にそれこそ勘繰られるため、応急処置のようなものだが。

 

 

 チャクラコントロール。

 その言葉に、春樹に視線が集中した。

 

 

「はい、ここでナルト! チャクラとは何だ?」

 

 ビシィっと指をさされて指名されたナルトは、まさか聞かれるとは思わなかったのか途端にあわあわと慌てだした。

 チャクラ。なんとなーく聞いたことはある単語だが、説明するとなるとぽっかり穴が開いたように知識が欠落している。ああ、こりゃあその授業寝てたなと自分で気づき、墓穴を掘る前に適任者に放り投げることにした。

 

「お、俺の説明よりサクラちゃんのが分かりやすいってばよ!」

「あんた、実はよく分かってないわね……?」

 

 しかしすぐに見破られた。あの狼狽ぶりでは当然である。

 

「しかたがないわね……。説明するから、そのつるっつるの脳みそに何とか刻んじゃってちょうだい!」

 

 そう言うとサクラはどこぞから巻物を取り出して、それを広げてチャクラの基本を説明する。なんだかんだで面倒見がいいなぁと、春樹は生暖かい眼で見守った。

 

 

 チャクラとは忍術を使用するためのエネルギー。

 それらは体中の百三十超あるツボから掻き集める身体エネルギーと、修行や経験で得る精神エネルギーで構成される。双方を体から絞り出し複合(練る)、印を結んでやっと術の発動に至るのだ。…………ということを、たいへん分かり易く説明したサクラ。そんな彼女をカカシが褒めるが、「難しい説明より体で覚えるもんだろ」と理解できなかったナルトがふてくされた。

 

「ふふふっ」

 

 思わず笑いがこぼれると、カカシがそんな春樹を指し示すとじと目でナルトを見る。

 

「ナルト。かんっぜんに、馬鹿にされてーるよ」

「ムキー! なんだってばよ! なら、春樹はわかるのか!?」

「だから、春樹の戦い方の説明のためにまず説明したんでしょーが」

「う……!」

「まあ……どうもつかめない子だと思ってたけど、実際に戦っているのを見て確信した」

「カカシ先生、確信って何の?」

 

 問うサクラに「これを言うと約二名うるさそうだな」と思いながら、カカシは特に隠すことはせずストレートに告げた。

 

 

「現時点で、春樹はチームの中で1番強い」

 

「!」

「な!」

「え……」

「おや、光栄ですね」

 

 演習やここまでの道中での洞察力に加え、更にあの再不斬と戦ってみせた戦闘能力、足止めを申し出た胆力。難点はその性格だが、もろもろ除けば忍として非常に優秀と言える。

 腕を囮にしたうえでの攻撃は、たしかに再不斬の心臓へと軌道をたどっていた。幼いころから暗部として生きてきたカカシならばともかく、今まで暗い部分を知らずに生ぬるいアカデミーの中でだけ生きてきたはずの春樹が、だ。

 度胸というにはいささか危うく、バランスが悪いが。

 

 カカシの評価に対し反論しようとしたナルトとサスケだったが、動けなかった自分達を思い出して押し黙る。実力不足は今実感しているばかり。チームワークで再不斬に一矢報いたものの、直接刃をかわしたのは春樹だけだ。

 

「その強さの秘密が、チャクラコントロール?」

 

 悔しさに押し黙る男子二人と違って考察しようとしたサクラは、そういえば、と疑問符を飛ばした。

 

 今まで気配がどことなく希薄だった春樹。だが現在は存在感がありすぎるくらいだ。

 眼鏡で遮られているがその瞳はぞっとするくらい深い純黒で、白い肌に影をおとす黒髪は絹糸のように細くてすべらか。

 サスケほどではないがちょっと格好良いな……とは思っていたものの、この妖艶ともいえる突然の色香はどうしたものか。

 

「…………チャクラコントロールすると、色気もでるのかしら……」

「サクラ、なんとなく言いたいことは分かるんだがそれは違うと思うぞ?」

 

 真剣な表情で生唾をのみこんだサクラにつっこむと、カカシはぱんっと手を打った。

 

「とにかく! 春樹の戦い方だがな。恐らくチャクラコントロールが抜群にうまい。それに比べてお前たちはまだチャクラを使いきれていないんだ」

「! 俺たちは術を使えている。術の不得意な春樹がコントロールできていて俺たちが出来ていない、というのか?」

「それは俺も不思議なんだよねぇ……。実際さっきも何の術も使ってなかったし。そこのところどうなんだ? 春樹」

「うふふ。アカデミーで習った術も危ういです! 忍術、苦手です!」

 

 はきはきと言われてしまった。

 

「…………まあ、納得できないところはあるものの、チャクラをうまく操ることが出来れば応用として体の強化も可能だ。たとえば怪力。身一つで地面を抉れる人もいる」

「お、おっかねぇってばよ……」

「それ、もしいつかその人に会っても言うなよ?」

 

 マジで恐ろしいから、とカカシは心の中で付け足した。

 

「春樹は状況の見極めやメンタル面、実力的にも頭一つ出ている。再不斬戦にいて俺のサポートに欲しかったが、おそらく今回は参戦できん。……そこで、お前達には修業を課す」

「修業!? え、でも私たちが今さらちょっと修業した所で……」

「そーこで、さっきのチャクラコントロールの話に戻るわけだな。言ったろ? 春樹の強さの秘密はそれ……ってことは、だ。お前たちもチャクラコントロールを身につけたら?」

「!」

「お前たちの最近の成長は目覚ましいものがある。チャクラコントロールを覚えれば、かなりいい線行くかもしれん」

「……お、オレ、やるってばよ!!」

 

 もうあんな悔しい思いはしたくないと、ナルトは間髪いれずに首を縦に振った。

 

「再不斬もしばらく襲ってくることはない。いったん仮死状態になった人間がもとどおりになるまで、かなりの時間がかかるのは間違いないからな」

 

 それにほっとしたサクラだが、すぐに修行への不安がつのる。

 

(けど……コイツ見てると悩むのもアホらしくなってくるわね)

 

 ちらっと横を見れば、不安どころか期待に頬を上気させて喜ぶナルトの姿が。

 

「その間に修業ってわけだな! 面白くなってきたってばよ!」

「ちょっとナルト。張り切るのはいいけど面白くは……」

 

 

「面白くなんかないよ」

 

 

 サクラが言いかけた言葉をつないだのは、まだ幼い子供だった。

 イナリ、と呼ばれた子供はタズナの孫。その表情から子供らしいものは窺えず、怒りと失望に滲んでいた。

 

(ううん、誰か殺されでもしましたかね? でも残念。この目はあまり、好みではありません)

 

 可愛いもの、綺麗なものが好きな春樹のそれには人間も含まれる。

 子供もしかりで、その小さく庇護欲をそそる存在は愛しむに値する。だがその中にも好みがあるのだ。

 

 この世の美しさを信じて疑わない無垢な瞳、あるいは絶望を知ってもなお、怒りでその純真を燃やし爛れさせるような激しい瞳が好きだ。清らかであればあるほど、それが燃えて黒煙をあげる様は美しい。

 サスケも復讐をするだとかでそんな目をしているが、微妙に好みから外れるのだ。この辺自分の趣味はけっこうわがままである。

 けれどそれ以上に、しめった火種ほどつまらないものはない。未来へ向かわず現在に留まるしみったれた生き物に子供としての魅力は無いのだ。

 春樹は傲慢なほどにあっけなく、子供に対する興味を無くした。

 

「サクラさん。わたし、一足先に休ませていただきますね~」

「あ、うん。ゆっくり体を休めて」

「は~い。では、おやすみなさい。……君も」

 

 そして戯れのように興味を無くした子供の頭を撫でていく。

 

「さっ」

 

 触るなとでも言おうとしたのだろう。だがその声は、笑みの奥に収まる真っ黒な瞳を前に飲み込まれた。

 

 

「おやすみなさい」

「お……おやすみ、なさい……」

 

 笑顔で繰り返された就寝の挨拶に、イナリはオウム返しをする事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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