常春頭の忍者道   作:さとる

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13 タズナ家の食卓

 七班の三人がチャクラコントロールの修行を開始することになってから、正直春樹は暇だった。

 

「気が散るだなんて、ひどいですよねぇ~」

「まあ、そう落ち込むな。お前にはワシの護衛兼お手伝いという、超重要任務があるじゃろうが」

 

 ズズっとお茶をすすりながら、笑顔ながらもどこか寂しげな春樹の肩をポンっと気さくに叩くのはタズナだ。

 最初こそナルトと共に不安要素と見なされていた春樹だったが、再不斬との一件以来タズナの信頼を勝ち得たようである。実力面よりも仲間や自分をかばって(とタズナは思っている)戦った姿が好印象だったようだ。

 

 

 腕の怪我とチャクラコントロールが物凄く得意だと勘違いされた事で、春樹は修行ではなくタズナの護衛、休養を命じられていた。

 初めて訪れる国外ということで物珍しいのか、春樹は一人で放っておくと休養などせずごそごそと動き回る。ので、実質タズナの方が春樹の見張りをしているようなものなのだが。

 とはいえ片腕が使えない以外は怪我人とは思えないほど動けるので、意外と橋の工事の手伝いに役立っていたりもするのだが……。「どっちにしろ休んでないのぉ、お前」と呆れたタズナだったが、止めても本人がちょろちょろ動くのですでに諦めたようだ。

 

 最初こそ修行場へ同行しカカシの用意した修行をへーほー聞いて感心していたのだが、修行を始めた三人に「頑張ってくださいね~」と声援やらを送っていたら「気が散る! 邪魔!」と無下に扱われすごすご引き下がったのである。

 その時の三人の心境としては、怪我をしている春樹に休んでいてほしいという気づかい半分。のんびり声にイライラ半分といった感じだ。

 春樹がチャクラコントロールが出来ているというのはまったくもって誤解であるので、木のぼりの修行はしたほうがよいのだが……それに関しては本人が忍術修行をほぼあきらめているのでやる気は皆無である。なので修行自体はありがたく辞退した次第だ。

 出来ない癖に「私は出来ますけどみなさん頑張ってください! 私は出来ますけど!」とでも言いそうな雰囲気を醸し出してるあたり、実に面の皮が厚い。

 

 

「手伝ってくれるのはありがたいが、ほどほどにな。わしが怒られちまう」

「う~ん、そうです? ……ならいい機会ですし、これでも書いて過ごしましょうか」

「お、なんだ日記か?」

 

 タズナは春樹が腰のホルダーから引き抜いた本だと思っていた冊子を覗き込む。春樹はそれをさりげなく見えないように角度を変えて、ペンを器用に手先で回転させた。

 

「ふふ、いえ……。恥ずかしながら小説のようなものです。実益を兼ねた趣味でしてね」

 

 回転させたペンがぽーんと飛んでいき、「あ」と声をあげたのはご愛嬌。

 

 

 

 

 

 

 タズナを護衛し工事を手伝い、空いた時間に文字を綴り数日。いつのまにか護衛にはサクラも加わっていた。

 どうやら春樹とは違いチャクラコントロールに関して真の才能を発揮したらしい彼女は、早々に修行を終えたようだ。

 

「ちょっと! そんな重いものもっちゃダメでしょ!? 怪我人なのよ!」

 

 それ以降春樹が工事の手伝いをすることは難しくなった。春樹の怪我を心配するサクラに止められてしまうからである。

 しかし橋の設計や構造に興味を持ってしまった何気に凝り性な春樹は、サクラの目をかいくぐってちょこちょこ工事現場をうろついた。……なものだから、最初こそ暇そうに欠伸をして隅で座っていたサクラも見かねて「一人で歩き回らせるよりマシ」と、春樹を監視しつつ工事を手伝うことになった。

 今では子供二人がちょこまか働いたり、ことあるごとに叱られている春樹と叱るサクラの姿を見て、工事現場の面々から生暖かい視線が送られている。

 

 

「おい、坊主。嬢ちゃんの言う通りじゃぞ? お前さんがあんまりにも普通じゃからついいろいろやらせちまったが、傷に響くわい」

「もうちょっと早く言ってほしかったわ、おじさん」

「と、止めはしたんじゃぞ?」

 

 サクラにじと目で睨まれたタズナは、申し訳なさそうに頭をかいた。

 

「いえいえ、楽しいですからいいんですよ~。汗臭さとむさ苦しさは凄く不愉快ですけれど、何か大きなものが完成していく様子は見ていて心躍ります」

「おま、なにげに超失礼じゃな」

 

 だって、と春樹はタズナから漂ってくるツンっとした汗の臭いに、楚々とした動作で一歩引く。それにあきれ顔のタズナだったが、一拍置いてから豪快に笑った。

 

「まあ臭かろうがなんだろうが、汗水たらしてこそ、この橋が出来るんじゃ! 小僧一人に臭がられようが、とるにたらん。勲章じゃからな!」

 

 そう言って遠ざかる春樹の頭にぐいっと手を伸ばし、わしゃわしゃとかき回す。春樹はため息を吐きながらも、ここ数日幾度もやられているので今さらとばかりに好きにさせた。汗の臭いが近い。

 

「それに小僧。嫌がったとこで、お前も男なら大人になったらこんな臭いさせるんじゃぞ~」

「小僧じゃありません……」

 

 普段性別に頓着しない春樹であるが、流石にこう言われてはたまらないのかやんわりと否定した。

 自分がこんな男むさい加齢臭を? 冗談ではない。

 

 が、そんな否定はサクラの声にかき消された。

 

「ちょっとおじさん! 春樹くんがそんな臭いさせるわけないでしょ!? サスケくんと春樹くんは、もっとこう……成長したら大人の男のセクシーでアダルティーな、なんかこういい感じのいい匂いを醸し出すに決まってるじゃない! むしろルックスでカバーされる分どんな臭いだとしても芳しい香りに変換されるわよ!」

「な!? 超贔屓じゃぞ! お前さんアイドルがウンコしないと思ってるくちか!」

 

 ぎゃんぎゃん言い合いを始めた二人に春樹はおいてけぼりをくらい、諦めたようにやれやれと曖昧な笑みを張り付けた。

 

 (ま、わたしは女の子ですからね! こんな臭いさせることなんてありませんとも。ええ、ありませんとも!)

 

 

 しっかり気にしていた。自分の血を浴びて血なまぐさくなるのはよくとも、汗のにおいは気になるらしい。

 

 

 それはそうと……と。春樹は少ない材料でも、ぱぱっと美味しい家庭料理にしてしまうツナミが作る今日の夕飯はなんだろうかと、心を躍らせた。

 異国の料理は早くも、春樹の心をがっちり捕らえたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜もナルトとサスケは、修業でくたくたになって帰ってきた。

 そしてサクラとタズナはさりげな~く汗だくな二人から距離をとった春樹に「歳は関係ないのか……」と目ざとく気付く。……以前の人生で散々悪臭に慣れている春樹だったが、好んで嗅ぎたい臭いではないらしい。

 

(おや)

 

 ふと、気づく。

 ここ最近思うように修行が進まないのかイライラした様子の二人だったが、今日はどことなく雰囲気が変わったような。春樹は片眉を上げて楽しげな笑みを浮かべた。

 

 そして夕食。今日もツナミさんの料理は美味しいなぁと、春樹は上機嫌で箸を動かしていた。

 

 いつもすまし顔か不機嫌顔のサスケであるが、ナルトと競うように夕食を食べる様など見ていてなかなか微笑ましい。

 基本的に自分も食べることが好きな春樹は、たくさん食べる生き物が好きである。今まで三人の中で向ける興味が薄かったサスケだが、今初めて好感をもてたかもしれない。

 ナルトと同時におかわりを要求して、二人でにらみ合う様は可愛らしいものだ。

 

 

 

 しかしその数秒後、春樹のマジ蹴りが二人に炸裂していた。

 

 

 

「吐くならわたしによこしなさい」

「「……………うす」」

 

 食べ過ぎてこれまた同時に仲よくゲロを吐いた二人を見た瞬間、残像を残して春樹の姿は席から消えていた。そして高速で移動した春樹の強烈な蹴りで壁に叩きつけられたうえ、首根っこを掴まれて正座させられた少年たちの姿がタズナ家の夕食の席に並ぶ。

 

「いいです? この国の現状はお二人も知るところだと思いますが、思いますが」

(二度言った……)

「こうして美味しい夕食を毎晩、大事な食糧で用意してくださっているのですよ? それを食べ過ぎで吐く? 冒涜もいいところですよ、ええ。自分のお腹の許容量も見極められないんですか」

「……悪かった」

「ご、ごめんってばよ……」

 

 つらつらつらと言葉を並べていく春樹からは、笑顔の鉄面皮が剥がれていた。そこにある表情は「無」である。

 声にも恐ろしく色が無く、棒読みのまま立て板に水のごとく言葉が流れていった。まるで空間全ての音が吸い込まれたかのように、たいして大きくない声が際立ってその場に響く。

 その様子と言われた内容に「確かに……」と思ったので素直に謝罪が口から出てきたサスケとナルトだが、正直早くこの空間が終わってほしいのが本音だ。重苦しいプレッシャーを感じる。

 

「おお……レア。笑ってない春樹だ」

「初めて見たわ……」

 

 そんな正座組を遠巻きに見物しているカカシとサクラは素直な感想を述べる。ナルトとサスケからなにやら訴えかけるような視線が送られたが、それは「食べ物を無駄にしたお前らが悪い」と黙殺された。

 

 

 春樹はたくさん食べる生き物が、美味しそうに食べ物を口にする生き物が大好きである。

 しかし、その逆。……波の国の事情どうこうと建前は並べたが、単純に食べ物を、特に美味しいものを無駄にする輩が大嫌いなのだ。嫌いなものワースト一位に燦然と輝いている。

 

 

 

 こうして同じ班になってからかれこれ数か月。

 班員と担当上忍は、晴れて(?)仲間の新しい顔を知ったのだった。

 

 

 

 

 

 

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