常春頭の忍者道   作:さとる

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16 お留守番

 白は薬草の入った籠を置くと、再び忍装束を身にまとった。

 自分の生きる意味であり、再不斬にとっての価値である忍の姿。髪をまとめた紐をきゅっと絞めると同時に、ゆるんでいた心も引き締まる。

 今朝の向日葵のような笑顔が脳裏にちらついたが、振り払うように首を振った。再不斬のためなら自分はためらいなく刃を振るう。たとえ好ましく感じた相手でも。

 

「……?」

 

 ふいに頭から何かがひらりと舞って床に落ちた。拾い上げたそれは鳥の羽のようで、珍しい色合いに思わず魅入る。濃い瑠璃色から淡い空色のグラデーションに彩られたそれは、まだ幸福だった子供時代に両親が読み聞かせてくれたおとぎ話の幸運の鳥を思い出させた。

 

「波の国の固有種……かな? ……綺麗」

 

 白はそれを空のビンにさすと、再不斬に薬を作るために部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、何お前たち春樹のこと男だと思ってたの?」

「ええーーーーー!? ホントにホントなんだってば!? 春樹って女!?」

「あれが……?」

 

 帰る途中もさんざん問われて確認されて是と答えたにも関わらず、カカシにも確認するというのはいささか失礼ではなかろうか。少年二人の驚きぶりに彼女が不憫になったカカシは、その小さな肩をぽんっと叩いた。言葉には出さないが「成長期はこれからだから安心しろ!」という笑顔を浮かべている。春樹はこちらも笑顔で担当上忍の足を踏みつけた。

 

 そして衝撃が抜けきっていない少年二人の他に、この場でファーストインパクトをくらった少女が一人。

 

「え、は………春樹くんが、おんなのこ……?」

「もー、サクラさんったら。同じクラスじゃないですか。ヒナタちゃんのベストフレンドとはわたしのことです」

 

 後半は何故かドヤ顔だ。

 頭の回転の速いサクラだが、今回ばかりはうまく事の次第を呑み込めていない様子。否、認めたくないのだろう。混乱した様子で春樹とカカシの顔を交互に見ている。

 

「そ、サクラと同じ女の子だよ。本当に気づかなかったの?」

 

 言いつつ、カカシは笑顔をひっこめ目を細めた。

 

(アカデミーの評価欄には「おとなしく、特筆し目立った点も無し。忍術以外は平均値」くらいしか書いてなかったから、影が薄い子なのかなーと思ってたけど……。初対面から影が薄かった事なんてないんだよねぇ、春樹。いや、でも気配は薄かった……か? ……どうも変だ)

 

 こうしてしばらく過ごした感想としては、どこが平均値だとアカデミーの教師に問いただしたい。

 サバイバル演習での成績もそうだが、再不斬を相手取った一戦を見た後ではことさらその思いは強くなる。少なくとも精神的に強いことは確かだ。強いというか、おそらく心臓には毛が生えている。

 しかしそれならば余計にと、数年同じクラスで過ごしたサクラが春樹を知らないことに疑問を抱いた。仮に評価通りに過ごしていたとはいえ、顔と名前くらい知っているものではないだろうか。更に春樹が怪我をした後から、今までどことなく印象の薄かった彼女の顔立ちなどをはっきり認識し始めた気がする。霧が晴れたような感覚に疑念は増した。

 

 担当上忍にそんなことを思われているとはつゆ知らず、春樹は相変わらずのマイペースなにこにこ笑いでサクラの手を取った。

 

「ねっねっ、サクラさん。折角同じ女の子ってわかったんですし、一緒にお風呂でも入りません?」

「え? ちょ、お願い待って。まだ理解が……」

「マテーーーー!! おま、春樹! サクラちゃんと風呂って……あれ、でも春樹が女ならいいのか……?」

 

 煩いナルトをスルーし、戸惑うサクラを引き連れて春樹はにこにことタズナ家の風呂場へ向かった。

 数十分後、サクラにより春樹が女子であることはばっちり証明される。それによってようやく納得を示したナルトとサスケに、カカシは「え、オレも言ったよね? 女の子だって言ったよね? まって、オレもしかして春樹本人並みに信用ないの???」と密かにショックを受けていたりした。

 ついでにいうとスキンシップが激しかったのか、「体中さわられた……」とサクラはぐったりしていたし、春樹の方は「すべすべでした!」と非常に満足気だったとか。

 

 

 春樹の性別問題で一時どよめいた七班だったが、よくよく考えてみれば女だろうが男だろうが春樹という生き物だということに変わりなし、という考えに着地した。本人のマイペースぶりがいつも通り過ぎて、動揺している自分たちが馬鹿みたいに思えたのだ。

 呑気に蕎麦をすすっている姿にイラっとくる。この野郎。野郎じゃないが、この野郎。

 

「あ」

 

 しかしやっと落ち着いたところに、この女は再び爆弾を投下した。

 

「そういえば、ナルトくん幸運でしたねぇ。あちらに戦う気がなくて。へとへとのところを襲われたら死んでましたよ」

「!? 戦うって、ナルトあんた、敵と会ったの!?」

「へ!?」

 

 水を向けられたナルトには心当たりがなく、素っ頓狂な声を上がる。しかし心当たりがあったサスケは、まさかと息をのむ。

 

「おや、気づいてなかったんですか? あの美人さん、この間の仮面くんですが」

「美人って…………あのねーちゃ、じゃない! にーちゃんか!?」

「チッ、やっぱりそうか……」

「ちょっとちょっと、何? 会ったの?」

 

 待て待てと言葉を挟むカカシだが、蕎麦をちゅるちゅるすする春樹はまるで意に介さずのんびりとしたものだ。もごもご口を動かしてもどかしいほど丁寧に咀嚼すると、飲み込んで一息つく。

 

「ごちそうさまでしたー」

「はい、よかったねー。美味しかったねー。で? 会ったの?」

 

 それを見ていたサクラはカカシには保父さんの適性があるのでは? と強く感じた。この調子で鍛えられていけば、意外な才能を発揮するかもしれない。どうでもいいが。

 

「森でナルト君と仲良くお話しているところを見かけまして。彼が気づいていないようでしたので、あちらも事を荒立てないでいてくれたようです」

「ホントにあの人があいつ……? でも、何でそんなこと分かるんだってばよ! 顔なんて知らないのに……!」

「んー、声と体格ですねぇ。ぱっと見鍛えているように見えない白魚のような美しい腕でしたが、あれはしなやかでいい筋肉がついていますよ。身のこなしはうまく隠していたようですが、洗練されすぎていて、失礼ながらこのあたりの人たちと比べると浮いてしまうんです。ああ、それと薬草も傷薬や強心作用のある薬の原料になるものが多かったですから、桃地さんの手当て用でしょう」

 

 途中まで整然と語っていた春樹の推測に感心の目が向けられるが、次の言葉で瓦解する。

 

「何より、あの艶髪!! ふふふっ、滅多にないですよ、あんな美しい黒髪は! しかも「特に手入れしていません」的な天然物に違いありません! 適度にこしがあってまとまりもよさそうで、なんとも艶やか! あれを見間違えるだなんて皆さんもう少し審美眼を磨いた方がよろしいのでは!? もったいない! あれの美しさがわからないだなんてもったいない! ああ、それと黒髪が映えるきめの細かい白い肌も決定打でしょうか。まるで白雪姫のようではないですか!」

 

 頬を染めて怒涛の勢いでうっとり語りつくした春樹に全員がドンびいた。「え、怖。何その視点……、すごいけど怖……」といった心境である。

 

 

 その後ナルトは例の少年に対して思うことがあったのか悩んでいたようだが、動くことで発散したらしい。

 

 時々うんうん唸りながらも修行に打ち込む彼が木登りの行を達成したのは、その翌日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 再不斬襲撃から八日目の朝。

 

 前日……限界まで体力を使い切ったナルトは、タズナが出かける時間になっても深い眠りについたままだ。寝こけるナルトをみて「今日は駄目そうだな」とカカシは頬をかく。

 

「春樹、ナルトが起きたら今日は休むように言っておいてくれるか」

「? もしかして、わたしもお留守番でしょうか」

 

 いつものように出かけようと準備をしていた春樹が問うと、カカシが頷く。

 

「オレが動けるようになったってことは、再不斬の奴もそろそろ復活してくるだろうかーらね。怪我人の春樹はお留守番」

 

 顔色一つ変えないところや呑気な笑顔で忘れそうになるが、これで一応重傷者である。足手まといになりかねないし、この状態で再び無茶をしたら今度こそ死ぬかもしれない。あの無茶ぶりは肝が冷える。

 

「んー、わかりました。お気をつけて」

 

 少し考える素振りを見せたものの、素直に頷く春樹。こうして見れば聞き分けの良い子なんだよなーと、カカシは半眼で彼女を見る。

 しかしそのいい子そうに見える笑顔こそが、何より彼女への判断を惑わせるのだ。とにかく、かなりズレていることはたしか。

 

 そしてそのズレがこの後いかんなく発揮されることを知らぬまま、二名を欠いた七班とタズナは橋へと向かった。

 

 再戦は近い。

 

 

 

 

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