常春頭の忍者道   作:さとる

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17 イナリの奮闘、白の献身

「あら? 春樹ちゃんどこに行ったのかしら……」

 

 タズナの娘ツナミは、先ほどまで家事の手伝いをしていてくれていた下忍の少女を探す。どうやら部屋の中には居ないようだ。

 そろそろお昼ご飯を作ろうかと、何が食べたいか聞こうとしたのだが……外にでも出たのだろうか?

 

 忍者の子供たちの中で、春樹は一番料理を美味しそうに食べる。材料不足で大したものは作れないというのに「いつも美味しいご飯をありがとうございます」と笑う少女を見ると、自然と工夫にも力が入るというものだ。

 食べることが本当に好きなようで、アレンジの方法をよく提案してくれる。そのおかげで料理の幅も少し広がった。

 

 ツナミは春樹を含めた小さな忍者四人と、ぱっと見怪しいが頼りにはなると父に聞いている上忍に思いを馳せて微笑む。少しの間ではあるものの、久しぶりに賑やかな生活はこんな状況下でも楽しかった。

 イナリにも少し変化が起きていることを母であるツナミは気づいていた。それが良い変化であればいい。ツナミは一部が切り取られた写真を見ると、祈るように目を伏せた。

 

 ドガッ

「!?」

 

 突如、破壊音と共に木片を散らして壁に穴が開く。

 

「アンタがタヅナの娘か? 悪いが一緒に来てもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 タズナの家に強襲を仕掛けたのは、ガトーの手下である男二人。

 連れ去られそうになるツナミをを見たイナリは、最初こそ恐怖と自分の不甲斐なさに泣きじゃくっていた。だが次第に自分の家族や家族だった人……そして数日一緒に過ごした忍者たちと過ごした時間が胸を占める。それと同時に湧き上がってきたもの。それは勇気と呼ばれる気持ち。

 泣き虫な自分とは違う強い人たちに憧れた。本当はあんなふうに強くなりたかった。……否、強くならなければ。泣いてなんかいられない。

 死んでしまった義父の強さもまた、笑顔と共にまだ胸の内に残っているのだから。

 

「待てェ!!」

 

 母を助けるために、涙を拭って手下二人に立ち向かっていったイナリ。危うかったが、仲間を追いかけて飛び出していったはずのナルトが戻ってきたことにより事なきを得た。

 そして恐れを振り払って勇気を出したイナリにナルトが泣き虫と言ったことを謝り、「お前は強えーよ!」と頭を撫でれば……途端にあふれる涙。

 もう泣かないと決めたというのに、あっさりと涙腺は決壊した。

 

「……もう泣かないって決めたのに、またナルト兄ちゃんに泣き虫って馬鹿にされちゃう……」

 

 必死に涙を手で拭うイナリだったが、ナルトはそんなイナリに言う。

 

「……何言ってんのお前?」

「え?」

「うれしい時には、泣いてもいーんだぜえ!」

「…………!」

 

 完全にタガがはずれ、イナリの顔は涙と鼻水で更にとんでもないことになる。ぐちゃぐちゃだ。

 しかしその顔は、今までのどの瞬間よりも生気に満ちていた。

 

 ふいに、軽やかな笑い声が響いた。

 

「フフッ、不細工ですねぇ。ズルズルと汚らしい。……顔がぐちゃぐちゃですよ?」

「い、いいんだ、もん。これは、うれし涙なん、だから!」

 

 嗚咽交じりに答えるが、はたと声の方向に首を向ける。その途端に視界が暗くなる。どうやら何かを顔に押し付けられたようだ。

 

「ふふふ、ほらほら、拭いてあげますからじっとしていなさい」

「ぶ!? もが。いだ、やめ、馬鹿!」

 

 どうやら声の人物はイナリの顔を拭いてくれているらしいが、面白がっているのか大分乱暴かつ雑である。これには流石にイナリの涙もひっこんで、解放された時には泣き顔が見事なふくれっ面に変貌を遂げていた。

 

「何するんだよ! この男女忍者!」

「あー! 春樹ってば、どこにいたんだってばよ!? イナリとイナリのかーちゃんが大変だったんだぞ!」

 

 緊張感の無い笑顔で白い布(よくよく見ればツナミが台ふきに使っていた雑巾である)を持っていた春樹は、悪びれなく「お手洗いです」と答えた。それに対してイナリとナルトは何とも言えない微妙な顔になる。

 

「それより、この分だと橋の方も戦いになっているのではないでしょうか?」

「は! そうだったってばよ!」

 

 ナルトはイナリに向き直る。

 

「もう、ここは任せて大丈夫だよな?」

「……うん!」

 

 笑顔で答えるイナリに頷くと、ナルトは橋で始まっているであろう戦いに向かって走り出す。そして振り向きざまに留守番を言い渡されている少女に念を押した。

 

「春樹も2人のこと頼むな!」

「ええ、お気をつけて」

 

 ひらひらと手を振る春樹を背に、ナルトは緊張と高揚の入り混じる感情に身を任せて、疾走する足に力を込めた。

 

「まったく、英雄ってのは大変だってばよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしく去って行ったナルトを見送ると、春樹は頭いくつぶんか低い位置にあるつむじを見下ろした。

 実のところ春樹は先ほどから一部始終を見ていた。食事のおかげで親しくなったツナミを見捨てる気は無かったものの、ここ数日でイナリがどう変わったのか好奇心が疼いたのだ。

 結果はそこそこ、まあまあ、合格。

 大人二人に飛びかかっていった姿はなかなかに無謀で可愛らしい、と評価を出す春樹は悪趣味だ。

 

「ふふっ、頑張りましたねぇイナリくん」

「……うるさい」

「おや、ナルトくんに向ける態度とずいぶん違うじゃありませんか。わたしのこと、お嫌いですか?」

 

 どこか悲しげな声に思わず顔をあげるが、その先にあったのは何を考えているのか分からない毎度の笑顔だけだった。一瞬気遣った自分が恥ずかしくて、こいつ……と睨みつける。

 

「お前に言われるとなんかムカつく」

「ふふふふふ」

 

 何がおかしいのか、いっそう笑みを深める春樹が何だか不気味でイナリは半歩引いた。するとトンっと背中に何かが当たり、それが母親であるツナミだと気づく。彼女はイナリの体を反転させると、その小さな体を思い切り抱きしめた。

 

「よかった……! 無事で、本当に……!」

「母ちゃん」

 

 思わずイナリも涙ぐむが、はたと自分がするべき行動に思い至る。決意に表情を引き締めると、ツナミに話すべく口を開いた。

 

「母ちゃん、ボク町のみん」

 

 ぐ~きゅるる

 

「なんなんだよもう!」

 

 大事な話を切り出しかけたのに、どこからか響いた情けない音に激しく気力をもっていかれた。その情けない音の発信元……即座にイナリに怒鳴りつけられた春樹は、少々恥ずかしそうに顔を赤らめた。そして音源である腹部をゆるくさする。

 

「ああ、慣れないことをするとやっぱりお腹がすくものですねえ」

「お前何もしてないだろ!? 朝ご飯食った後長いトイレしてただけだろ!? 何処に腹が減る要素があるって!?」

 

 怒涛のイナリのつっこみも意に介さず、春樹はぼんやりとある方向に目をさまよわせてから楽しそうに笑った。

 

「お留守番、暇ですから。頑張ったイナリくんにご褒美です」

(よし、意味分からないこと言うこいつは無視しよう。それより今は町のみんなに……!)

 

 イナリは着実にスルースキルを身に着けながら、決意を実現すべく行動に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カカシの予想通り、大橋では復帰した再不斬と仮面の少年が待ち構えていた。そして始まる戦い。

 

 目まぐるしく忍び達の戦いは進んでいく。

 

 途中ナルトも合流し、橋での戦いは……いよいよ終盤に差し掛かっていた。

 カカシと再不斬の決着は近く、白は九尾の力を暴走させるナルトによって追いつめられた結果、自分を殺すように乞うていた。自分の存在意義は失われたから、と。

 ……弱くては、負けてしまっては。大事な人の側にはいられない。否、いてはいけないのだ。

 

 しかし上忍二人の戦いの天秤がカカシに傾いた時だ。尋常でないチャクラの気配を感じ取った白は、とっさにナルトのクナイを受け止めて再不斬のもとへ向かった。

 

 強い忍びでいられなかった自分は、最早再不斬には不必要な存在だ。だが自分の存在意義が失われたとしても、全てにおいて優先すべき、白が本当に失いたくないのは再不斬その人。

 

 自分は居なくていい。死んでもいい。でもあの人だけは譲れない。

 どうせ散る命ならば、せめてあの方へ捧げよう。

 自分のことを覚えてなくてもいい、忘れてもいい。

 でもどうか、生きてほしい。長く長く。あの人が夢をかなえるまで、ずっと長く。

 

 執着ともいえる、ただただ真っ直ぐでひた向きな感情だけが心を支配し、体を動かした時間は正に刹那。

 再不斬を拘束している忍犬を消すべくカカシの巻物に千本を飛ばし、落雷のごとき速度で迫るカカシと再不斬の間に体を滑り込ませる。おそらくこのままいけば自分は雷のようなチャクラを纏ったカカシの腕に貫かれるだろう。だが、それでいい。再不斬が無事ならば。

 

 そんな刹那の思考が体に追いつく前に、死ぬと思われた。……その時だ。

 

 

 白の胸元に正体不明の……チャクラに似た熱が生まれ、蠢いた。

 同時に白にしか聞こえないほど小さく、ガラスが壊れたような破砕音。

 

 

「!?」 

 

 カカシは突然目の前に現れた白と、貫通力に優れた技……雷切の軌道が逸れた感覚に驚愕する。

 逸らされた雷切は白の脇腹を深く抉るも、そのカカシの腕をたった今重傷を負ったばかりの白が、万力をこめて掴む。

 

(しまった!)

 

 白はどう見ても致命傷である抉り取られた腹部を意にも介さず、とても死にかけている人間とは思えない力でカカシの動きを制限する。直前に巻物を射抜かれたため、再不斬を拘束する忍犬は姿を消していた。……つまり再不斬は自由の身となったのだ。

 白の登場により逆転した戦況に、カカシの背を冷や汗が伝う。

 

「…………オレの未来が死だと? ククッ、またはずれたな。カカシ」

「再不斬……さん……」

「見事だ……白」

 

 再不斬は目を細めると、すぐさま自由になった体で攻撃へと転じた。

 

「まったくオレはよくよくいい拾い物をしたものだ! 最後の最後でこんな好機を与えてくれるとは!」

「! カカシ先生!!」

 

 離れた場所で戦況に目をむけていたサクラは、白をも巻き込む勢いで振りぬかれた大包丁に小さく悲鳴をあげた。が、腕を離さないものの、足をふんばる余裕の無かった白ごと飛びのき退避したカカシを見て安堵のため息をつく。

 短い間に状況が二転三転……。とても心臓がもちそうにない。

 

 そんな中、駆けつけたナルトに気づきほんのわずか心に余裕が生まれた。無事だった、ナルトが無事ならきっとサスケも無事なはずだ。死んだなんて嘘。……しかし目をそらしたナルトに、嫌な予感を覚える。

 タズナの許しを得て向かった先……とても生きているように見えないサスケを前に、サクラは膝から崩れ落ちた。

 

 どうにか再不斬の攻撃を退避したカカシだったが、見ればすでに意識は無いが白は腕を離さない。

 ……この怪我では長くは持つまいが、最後の最後に大したものだと敵ながら感心する。

 

(感心してる場合じゃないけどな)

 

 それにしても、とカカシは胸の内に燃え上がる怒りの炎でもって再不斬を見る。自分をかばった仲間を意に介さず攻撃してきた再不斬は、カカシの怒りの琴線に触れた。

 負けるわけにはいかない。

 

 カカシは一瞬だけ痛ましそうに少年を見たが、迷いを振り払うと白の腕を浅く切って掴んでいた手を離させた。

 

 

「さあ、決着をつけようか。桃地再不斬!」

「望むところだ、はたけカカシ!」

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 遠くで何か壊れた感覚と、体を襲う脱力感。

 

「なんと、まあ」

 

 イナリとツナミの警護を引き受けたはずの春樹は、何故か誰も居ないどこぞの小屋の中で首をかしげていた。

 

「ふむ。痕跡はあるのに本体がないと思ったら、身に着けて持っていきましたか。ま、わたしの美的センスが光る超絶綺麗なお品ですからね! 魅入られるのも仕方ないでしょう! 肌身離したくないのもわかります!」

 

 誰も居ないのに渾身のドヤ顔をきめると、春樹は手に持っていた瓶をことりと置いた。

 

「……ですが、まさか壊されてしまうとは。結構丈夫なはずだったんですけどね。能力ひとつぽしゃってしまったのはもったいない」

 

 ごっそりと体から抜け落ちたオーラと空白が生まれた一冊の本。春樹は肩を落として落胆した。

 しかし背中にかかる重みにすぐ気を取り直すと、にっこり笑う。

 

「うふふ! お土産、喜んでくれるでしょうか!」

 

 

 

 

 

 

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