常春頭の忍者道 作:さとる
白が倒れた後もカカシと再不斬の戦いは続き、それも決着がつくと思われたころ。
…………思わぬ介入者により、戦いは中断された。
激化した戦いに水を差すように現れたのは、事の黒幕であり再不斬の雇い主であるガトー。背後に多くの手下を従えた男は、いやらしい笑みを浮かべてカカシらをみまわした。
ガトーは弱った再不斬を前に余裕を見せると、べらべらと再不斬にもとから金など払う気はなかったことや、忍者同士でつぶしあい、弱ったところを殺そうとしていることを流暢に語って聞かせた。その表情は愉悦に満ちており、再不斬を掌の上で転がしてやったことがよほど愉快らしい。
下品な笑い声をあげる手下を背景に、ガトーは足元に倒れ伏している白に気付く。そして顔を一瞬ゆがめたのち、口角を持ち上げると白の頭を足で突いた。
「……そういえば、こいつに借りがあったな。私の腕を折れるまで握ってくれたねェ……。おや、死んでいるのかな? くくっ」
云うやいなや、ガトーは白の頭を蹴とばす。白はぴくりとも反応も示さない。
……先ほどの傷は明らかな致命傷であり、命をつなぐ希望は薄いと思われた。だがそこに止めを刺すようなガトーの行為に、ナルトが吠える。
「てめー! なにやってんだってばよォ! コラァ!!」
先ほどまで敵だったが、状況の変化により再不斬はカカシに「戦いはここまでだ」と告げている。何より白の生い立ちを聞き、再不斬のために身をなげうった彼の覚悟を目の当たりにして……その身が踏みにじられる様が見るに堪えなかったのだ。
怒りにまかせて飛び出そうとしたナルトを、冷静に敵の頭数を把握したカカシが止めた。負傷者が大半を占めるこちらでは、無暗に戦いを挑むのは無謀に近い。するとナルトの怒りは、仲間が足蹴にされても黙っている再不斬へ向いた。
……しかし再不斬はといえば、自分もガトーと同じように白を利用していただけであり、欲しかったのは白の血継限界で白自身ではないと言う。
故に、未練はないと。
だがナルトがそれで引き下がるはずもない。止めるカカシの腕を振り払い、ナルトは再不斬に指を突きつける。
「うるせェー! オレの敵はまだコイツだァ!!」
思い出すのは先日の会話。
大切な人を守る時に人は本当に強くなるのだと言って、同意したらとても嬉しそうに笑っていた。敵だと知ってからは白にとってその大切な人が再不斬だと気づいて複雑だったが、信頼ある間柄なんだろうと思うと敵ながら少し身近に思えた。
だというのに、再不斬はそれを否定する。白自身ではなく、血だけが必要だったと。白の人格を無下にする。
「あいつは……あいつはお前のことが本当に好きだったんだぞ!! あんなに大好きだったんだぞ!! それなのにホントに何とも思わねェのか!!」
叫ぶたびに涙腺がゆるみ、悔しさとやるせなさで涙がじわじわと滲んでくる。それにもかまわずナルトは訴えるように言葉を吐き出したが、次第に白とのやり取りを思い出し……最後には涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていた。
しかし、この場にはもう一人。己の感情を表に出したものが居た。
「小僧。……それ以上は……何も言うな……」
「!?」
再不斬の頬を水の粒が滑り落ちる。それは忍びなど道具であると述べた鬼の、矛盾した涙。
一転した再不斬の様子にナルトは呆然とするが、雨の降っていない今、再不斬の頬を伝う水滴は本人の涙以外にありえない。
「あいつは優しすぎた」
再不斬だけでなく、ナルトに対しても心を砕き心を痛めて戦っていた少年を再不斬はそう評す。そうして今から自分がする行動に対し、所詮忍びも人間であり道具にはなりきれないのではないかと云う再不斬は……己の負けを認めた。
―――――白
ガトーの足元で動かない白が生きているとは思えなかった。即死ではなかったが…………あれはそういう致命傷だ。
しかしその躯を踏みにじることを、再不斬が許容するはずもない。ナルトからクナイを借り受けると、最後にガトーの首だけは刈ってやると相手を睨み据える。
その時だった。
「あ、みなさ~ん。お疲れ様ですー」
* * *
場違いに朗らかな声と共に現れたのは、これまた場違いなのほほんとした笑顔をうかべた春樹だった。
しかしそのゆるい笑顔とは裏腹に、その行動に笑みから連想できる「優しさ」「柔らかさ」「可愛さ」などといった要素は皆無であった。その場に現れた春樹は、予備動作なく凄まじい速度でガトーに迫ると、その頭を鞭のようにしなる足で容赦なく蹴飛ばしたのである。
「ふぼぉっ!?」
間抜けな声をあげるガトーを見て、「あっと、あぶない。もうちょっと強くしてたら首折っちゃってましたね……」と、春樹が不穏なつぶやきをこぼす。
「へ?」
「何?」
「ちょ、」
「なんだってばよ!?」
春樹の動きはまだ止まらない。ガトーを蹴り飛ばした状態からクルンと回転して着地すると、平手でガトーの顔をひっぱたき、更に追い打つように腹部に蹴り入れる。まるでプロサッカー選手がミドルシュートを決めるように鮮やかなフォームのそれは、ガトーを蹴鞠のように弾き飛ばした。すると蹴鞠ガトーに後ろにいた部下数名が巻き込まれ、ボウリングのピンと玉のごとく吹き飛ぶ。
ガトーを玉役にした新しいスポーツだろうか。
見たものにそんな感想を抱かせるような、滑稽なほどに綺麗な流れだった。
「ふっふ~ん♪」
そんな珍妙な光景を生み出した春樹であるが、何事もなかったように蹴鞠もといガトーに背を向ける。その表情はいつものうふふ笑いにプラス感情があるようで、なにやらほくほくしていた。
ふと、足元に倒れる白に気付くと春樹は首をかしげる。少し悩んだ様子の後……よいしょとばかりに白を担ぐと、ナルトたちの下へ歩いてきた。
その後方では無事だった手下たちが、吹き飛んだ仲間と雇い主におろおろしていた。
「何だか賑やかですね~。あ、桃地さんお久しぶりです」
「こいつはなんなんだ、カカシ」
「えっとぉ……」
「お前の担当下忍だろ」
「あはは……」
春樹を指差しカカシに問いかけたのは再不斬。しかしカカシは即座に答えることが出来ずに、曖昧な言葉を吐き出しながら視線を泳がせた。それを追う再不斬の眼光は鋭い。
周りに遮るものがない中、まずこの下忍は何処から湧いてでたのだろう。
(そもそも留守を任せたのに、何で堂々と来ちゃったかな……)
そしてザマアミロとは思うものの、ガトーに振るわれた暴力の傍若無人さはなかなかのものである。それをいつもの変わらぬ笑顔でやってのけ、歩いてくるやいなや先日死闘を繰り広げた再不斬に対し……まるで近所のお兄さん相手のように挨拶するときた。
しかも気になることはもう一つ。……背中に背負った巨大な麻袋は何だろうか。人一人二人は入りそうな大きさに、「いやいやいや」とカカシは首を横に振る。考えるのはやめておこう。
というかよくよく見れば、気になることはもう一つどころでなかった。片腕を負傷しているにもかかわらず巨大な荷物と白を片側の腕だけで器用に抱えているのだ、あの下忍の少女は。……あの細腕の何処にそんな腕力があるのだろう。
お願いだから突っ込み所を減らしてほしい。
カカシが言葉を濁していると、春樹は麻袋をドザッと置いてから担いでいた白をゆっくり地面に横たえる。片腕が使えないせいかぎこちない動きだが、その動作は丁寧だ。
「何となく連れてきてしまいましたが、よかったですか?」
「ああ……まあ。再不斬とオレ達はもう争っていないから悪くはないが……」
「雰囲気的にそうかなぁと思ったんですが、どういった経緯で?」
「今お前が蹴り飛ばしたガトーが、再不斬達を不要と切り捨てたんだ」
「おや、あの人がガトーだったのですか」
「待って知らないで蹴り飛ばしたの?」
「蹴りやすそうな豚がいるなぁ~と思って……」
「豚……」
「うふふ、冗談です。ちゃんとガトーだと分かって蹴りましたとも! ええ!」
「どこまでが本当?」
「いやですねぇ、はたけ上忍。全部本当ですってば」
口元に手を当ててからから笑う春樹の軽い回答に、戦いの疲れも相まってカカシは少々眩暈を覚えた。
(この子……自由だわ……)
気を取り直したのは、どよめく手下の中から起き上がったガトーが怒声を上げてから。
「貴……様ッ!! ただで死ねると思うな!!」
「ところで、戦っていないのならこの方はどうなさいます?」
無視である。そんな春樹の態度にガトーが更に何かわめきたてるが、彼女は意に介さず白を見た。
「一応まだ生きているようですよ?」
「何!?」
再不斬が跳ねるように白に近づき確認すると、確かにまだ息はある。ひどく浅い呼吸は今にも途切れてしまいそうだが、たしかに白は生きていた。
怪我の具合と、正直なところその場の雰囲気で死んだものと思い込んでしまっていたが……。
(いや、しかし。この怪我では長く持たん……!)
悔しそうに顔を歪める再不斬だったが、春樹はと言えば彼とは真逆のことを考えていた。
(ふむ。アレが破壊されて残滓となったオーラが全て吸収されているから、死ぬことは無いでしょう。美しいものを守れたとあらば、まあもったいなくもなかったですかね)
彼らの間に何が起きたのか、先ほど到着したばかりの春樹は全てを知らない。だが現在敵対しておらず、白が生きていると知って嬉しそうなナルトを見るに、あの少年が助かったのならそれは多分良い事だったのだろうと納得した。あくび交じりに考えている辺り、その納得は実に雑である。
(ともあれ、美しいものは生きて動いていた方が楽しいですしね。いやぁ、よかった。よかった)
美しい死体を愛でる者も居るが、春樹は生物の美しさとは生きてこそのものだと思っている。何故なら変わらぬ物はいずれあきてしまうからだ。
故にかつて美しい瞳を持つ一族を強襲した際も、あまり乗り気ではなかったのだなぁと思い出す。動物は生命の炎で照らしだされてこそ美しい。春樹にとって生物の美術品としての価値は、生きていてこそなのだ。
それを考えれば意図したものでないとはいえ、自分の能力がひとつ……一人の美術品を守ったのは、実に僥倖である。
春樹がそんなことを考えていると、後ろが先ほどより騒がしくなった。ようやく思考が追い付いた用心棒たちが口々に騒ぎ出したのだ。
数が多いだけになかなかにうるさい。
「オイオイオイ! なーに無視してくれちゃってんの?」
「俺らの金ヅ……ボスに何してくれちゃってんだよー。お前ら死んだ? 死んだな! ギャハハ!」
「ボロボロなナリで、なーにが出来るかな~? ちょっと変な術が使えるからって、こうなりゃ忍者も形無しだぜ」
「頭悪いんですか? 安い挑発すぎて、いっそ可愛いくらいですよ。ふふっ」
「んだとぉ!?」
春樹に煽り返されて更に好き勝手わめくゴロツキ部下を顔を腫らしたガトーが一瞥する。そして憤怒に染めていた顔をぐしゃりと醜悪な笑みに変え、前方を指さした。
「それぞれ最悪の死に方をプレゼントしてやれ。……皆殺しだ!」
その命令と共に首輪の外れたガトー部下たちが、傷ついた再不斬に襲い掛かる。
カカシ達も応戦のために構えようとしたが、その中であってもなお笑顔の春樹は、ある一方向を向いて「ああ」と声をこぼす。
「来ましたねぇ」
ガッ
「!?」
瞬間。駆けだしたガトー部下の前に、一本の矢が突き刺さった。予期せぬ攻撃に虚を突かれた男たちはたたらを踏む。そして攻撃のきた方向に目を向ければ、そこには来るなどと思っても居なかった者達。それはカカシたちも同じであるため、目を見開く。
「これ以上この島に近づく輩は……島の全町民の全勢力をもって!! 生かしちゃおかねェ!!」
武器をかまえ現れたのは、イナリを中心に集まった島の住民たちだった。
「イナリぃ!」
「へへッ、ヒーローってのは遅れて登場するもんだからね!」
ナルトの言葉を引用して誇らしげに笑うイナリだったが、何かを見つけるとギョっとして己の隣を見た。そして再び前方を見る。ナルトもあることに気づくと、イナリとまったく同じ動作をした。更には重なるナルトとイナリの声。
「「男女」「春樹」が二人!?」」
叫んだ二人は別々の方向を見ていたが、その目に映る人物はまったく同じ姿かたち。そう、イナリの隣にはひらひらと手を振るもう一人の春樹が居たのだ。
それを見たカカシは「一応お留守番はしてたのね……」と納得したようにつぶやく。
「影分身か」
混乱するナルトを横目にカカシは演習で春樹が見せた一体だけの影分身を思いだしていた。何のために二手に分かれていたのかは知らないが、あの麻袋を見るに無駄に分身したわけでもあるまい。……と、頭痛を和らげるために好意的解釈をしておく。
そんな風に担当上忍の頭を悩ませていることなど露知らず、二人の春樹が合流して「へ~い」とばかりにハイタッチを交わした。
「うまくいったようですね~」
「うふふっ、もちろんですとも。大漁です」
「里へ帰ったら美味しいものが食べられますね。料亭彩華唄の懐石なんてどうです?」
「う~ん、がっつり系も捨てがたくありません? 一龍門の焼き肉とか、虎麻那のすき焼きとか」
「甘栗甘の商品を買い占めてもいい……端から端まで全部くださいって言えてしまう……。ふっ、迷いますね!」
「ごめんとりあえず一人に戻ってくれる? 頭痛い」
「「え?」」
「もどって。頼むから」
がりがりと気力を削られているカカシのお願いに、春樹は素直に分身を解く。そしてもう一人の春樹が持ってきた麻袋から何やら取り出すと、イナリに差し出した。
「はい、さっき言っていたご褒美です。このあたり一帯の海域もろもろの権利書」
「は?」
「待って、色々待って春樹」
「何だと!?」
聞き捨てならないと声を荒げたのはガトーだ。もたつく部下に苛立ちをあらわにしていたが、その表情には焦りが浮かんでいる。
「春樹、簡潔に答えてくれ。今まで何処で何をやっていた?」
「ああ……ええとですね。ガトーショコラさんのお宅からこれと金目の物をぶんどってきました」
「サラっと言ったね!? 相手は悪党だけど思いっきり窃盗だね!?」
「いいじゃないですかぁ、どうせ相手はアンダーグラウンドな人たちなんですしー。それにしても不用心ですよね。波の国の拠点なんて支部のようなものでしょうに、こんな大事なものを置いておくなんて。お金だけもらおうと思ってたのに、びっくりしちゃいました」
「のほほんと「びっくりしちゃいました」じゃないから!」
「でも、はたけ上忍。わたし達への迷惑料と、この国の人に対する慰謝料としては安いぐらいでは? もう少し取り立ててもいいくらいです。例えばガトーショコラさんのあのスーツとか高そうですよね」
「身ぐるみ剥ぐ気!? そして優先順位が自分の取り分! 貰う気なの!?」
ちろっと春樹が眺めたガトーが、思わずスーツの前をぎゅっとにぎって体を抱いた。意図してのものではないだろうが、それは「いやん」のポーズである。
見苦しいそれにただでさえ疲れているカカシが「お前マジやめろ」と殺意のこもった視線でガトーを射抜いた。ガトーのスーツの股間あたりの色が、心なしか濃くなったとかなんだとか。
「だってこれで帰っても、Cランクのお給料だけでしょう? 強敵と戦った上に長い拘束期間。それに対して安いどころか損にもほどがありますよ」
欠片も悪びれず春樹。……あれだけ真剣な戦いが繰り広げられていた中、ちゃっかり自分の利益を確保していた部下に頭を抱える。
(あっれ~? ……掴みどころがないのはオレの売りだったはずなのになー……。なんでこんなつっこんでんだろ。ははは)
と、少々現実逃避したくなったカカシであった。
* * *
時間は少し前に遡る。
春樹は
彼女の片手にはいつも持ち歩いている本が収まっており、肩には鶏ほどの大きさの青い鳥が乗っていた。もし春樹と同じく念能力の使い手がいたならば、凝によりその両方からオーラが発せられていることに気付いたことだろう。
「さあ、羽根の居場所を教えてくださいますか?」
青い鳥の喉をあやすように撫でると、鳥は一声甲高い声で鳴くと……青い羽を羽ばたかせて、春樹の肩から舞い上がった。
『
それが春樹の念能力である。
念の六系統において、春樹は現在特質系に属している。
前世では違う系統だったため前世の弟と同じ系統になれたことが嬉しく、能力を開発する際は迷わず本の形を具現化することを選んだ。
本とは春樹がいつも所持している文庫本サイズのそれであり、イナリの部屋や橋で春樹が何やら書きこんでいたのもこの本。
制約と誓約のもと、本に物語を書きこむことによって複数の能力を開発、使用することが可能となる。当然制限は厳しく顕現オーラの制限以外にも縛りはあるが、うま味も多いうえにその制約が春樹の念の修行にも繋がっていた。
まず発動しているだけで顕現オーラの量が十分の一となるため、普段から体に重りをつけているようなものとなり、結果内に押し込めた潜在オーラの密度は上がり日々研磨されていく。常にハンデを背負うリスクはあるが、日常生活の中で念の精度をあげることが出来るのだ。
その春樹が現在使用しているのは、『現実的な絵空事』に綴られた能力の一つである『
この能力は探査能力に優れるため。春樹はそれを使用しある場所を探していた。
「あ、見つけた」
春樹の視線の先には、恐らく再不斬達が拠点としているであろう建物。しかし青い鳥は建物の上で旋回したのち、くるっとまわって別方向へ飛んでいこうとする。機能を追尾に固定している今、鳥は探査対象である自分の羽根を追うはず。暫くとどまったところを見ると少し長い間此処にあったようだが、現在は別の場所にあるようだ。
青い鳥の羽根……それは先日、白が偶然頭についていたと思いビンに挿した物。実際は春樹が朝の邂逅時に仕込んだ発信機である。
春樹は別の方向へ向かおうとしていた鳥を呼び戻すと、本を閉じ、その背表紙を当てて戻るように念じる。すると鳥はオーラに戻り、本の中へ吸い込まれた。
「さて、次はこちら」
すぐにパラパラとページをめくると、春樹は別の物語をなぞる。
書かれていた物語は『
春樹がそれを使用した途端、彼女の存在が曖昧なものへと変わる。恐らくこの状態で人と道ですれ違っても、春樹の顔も声も覚えることは無いだろう。
この能力は春樹が一番初めに開発したもの。能力的には”絶”や”隠”に類する。サクラが春樹のこと知らなかったり、人からの印象が薄いのは彼女が普段からこの能力を使用しているためだ。
原則として能力の使用中は、物語のページを開いていなければならない。しかし例外として栞の機能があり、ページに栞を挟んでいる間はわずかな機能を保持、能力を併用できる。
春樹は『風見鶏』の使用中、栞を挟むことによって精度の低い状態で『境界線』の持続的な効果を得ていた。それを今度は追尾対象の羽根を消さないために『風見鶏』のページに栞を挟んでから、『境界線』のページを開く。
これで春樹の存在はいっそう希薄な物となった。正に忍ぶにはうってつけの状態で、春樹は悠々金目のものを漁りに再不斬たちの拠点に向かうのであった。
結果としては金目の物は再不斬達の拠点で見つからず、近くにあったガトー達のアジトで発見。
今回の労働ではまともな賃金が望めないと思い至り、他にも建前をいくつか用意しつつ行動に出た春樹だったが……思いがけず海域に関する権利書もいくつか見つかった。抱いた感想は阿呆の一言である。だが、こちらとしては好都合。
そもそも波の国が貧困に陥り、他国と波の国を結ぶ橋が最後の希望になってしまったのはガトーの海域独占に端を発する。この権利書さえあればその問題も解決するのではと思えたが、そう簡単なことでもないだろう。まず権利書とはいえ控えが多いし、実質的な力を持つ物はわずかだ。
だがガトーの鼻を明かすには丁度よさそうだと、ガトーの阿呆面を含めてイナリへのご褒美リストに追加した。
ちなみにガトー自身は何故か橋の戦いへ赴いたようで、用心棒も多く連れて行かれたのか見張りは極端に少なかった。そのため忍び込むのは能力を使用していなくとも非常に容易であっただろう。春樹は重ねて阿呆であると評した。
そのおかげでガトーの会社関係と思われる、留守を預かっていた責任者の確保まで成功してしまった。自白作用のある薬品で貴重品のありかも聞き出せたので非常に効率が良く、いくつか証言も抜き出せた。それもしっかり書き留めておく。
こうして春樹は、奪うことに微塵の躊躇いもないことからやはり自分の本質は盗賊だなぁとにこにこしつつ、頂けるものを根こそぎ奪いつくしたのである。
ちなみに他に頂いた金目のものは全部持っていけなかったので、近くの森に適当に放り込んであったりもする。ガトーとアジトは途端にはげ山と化したのだ。
そうしてサクッと外道を働いた春樹は戦利品にほくほくしつつ橋へ向かったのだが、途中で自身のオーラが激減したことに気付く。どうやら白の持つ『風見鶏』の羽根が破壊されたらしい。
栞を挟んで持続効果を得ているだけの今『風見鶏』の本体はオーラにして戻した鳥ではなく、具現化している羽根の方。強度はそれなりにあったはずなのだが、どうやらずいぶん強い攻撃をうけたようだ。中途半端に能力を持続させたのが仇となった。
能力の核を失ったため、春樹の本から『栄光を指し示す風見鶏』の能力は削除され空白が生まれていた。先日新しく能力を作り現最大容量の六つの物語まで完成させた春樹は、そのうちの一つが失われたことに少々落胆する。
だが収穫を思えばこそ、能力はまた作ればいいのだと思いなおす。そして意気揚々と、本体の自分と合流すべく橋へむかったのだ。
* * *
…………そういった経緯を辿り、春樹が橋に到着した現在に至る。
春樹は脱力するカカシ、ガトーを殺そうと思っていたのに白が生きていることを知らされ出鼻をくじかれた再不斬、急展開にうろたえるナルトに背を向けると……仕切り直しとばかりに手を叩いて注目を集めた。
「さあ、そろそろ幕引きといたしましょう」
半分能力説明な回