常春頭の忍者道   作:さとる

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2 念と忍術

 空気を口から肺にかけて深く吸い込み、鼻からゆっくりと吐き出す。

 体にまとわりつく自らのエネルギーを感じ、頭の先から右の肩、手、足、そして左側へと流れを作り、薄い皮膜で体全体を覆うイメージの中でそのまま高密度の力を流動させながら留めた。そしてその薄い皮膜の下で更に力を肥大させ、密度を徐々に上げていく。

 皮膜が破裂する寸前で目を見開くや否や、すぐさま力を右腕へと移行した。

 

 刹那、風を切る鋭い音を発したのは、残影を描いて静止した右拳。

 前に突き出されたその形を見るところ拳をふるったのだと推測できるが、常人にはその拳が止まるまで彼女の動きを目で捕えることは出来なかっただろう。

 

 拳を放った少女は緩めた掌をぷらぷらさせて、困ったような笑顔で一人ごちる。

 

「やっぱり、まだまだですねぇ」

 

 少女……桜庭春樹は手近にあった石を拾うと、何気ない仕草で石を握り崩した。石はまるで麩菓子でも握ったように脆く崩れ、砂となって春樹の手から滑り落ちてゆく。

 しかし一瞬後にはそれについての興味を無くしたのか、春樹は呑気につぶやいた。

 

「さて、今日のお昼ご飯は何を食べましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍者アカデミーの卒業試験になかなか受からない春樹だが、彼女に忍術を極める気はほんのきれっぱしもありはしない。頑張って学校を卒業できるくらいか、普段使いに便利そうなものを覚えられたら上々、というのがスタンスだ。……とはいえ、学校卒業程度の忍術もままならないので諦め半分といった方が正解である。

 

 

 忍術を向上させる修行は、春樹にとってとてつもなく面倒くさい作業だった。

 

 

 忍術が不得意な理由は、そもそも春樹の前世に起因する。

 春樹には前世から受け継いだ知識があるが、その中で最も特異なものといえば「念能力」という、生命力を操る力だ。

 

 念は生物が常に体から発生させる生命エネルギー『オーラ』を体に留め、自在に増減、操ることが出来る能力だ。『チャクラ』を操り術を繰り出す忍術と似てはいるが、別物であると春樹は認識している。というのも、もし念と忍術がまったく同質のものとするならばそこに違和感が否応なく生まれるからだ。

 念には【強化】【変化】【放出】【操作】【具現化】【特質】といった六つの系統がある。そして忍術を念に当てはめるとするならば、そのほとんどが【放出系】【変化系】に属してしまうだろう。

 念は個人によって系統が違い、特殊な場合を除いて百%発揮できるのは自分の系統のみ。限りなく百に近づけるにしても、それが可能なのは近い系統だけだ。まさか忍者全員が放出系か変化系だというわけでもあるまいに。忍術は忍術で性質変化という系統分けがあるのだし、別物と考える方が無難だろう。むしろもし同じものなら、今頃熟練の念能力者である春樹は自在に忍術を使いこなしている。

 

 似ているからこそ、念という存在に気づくものはいない。春樹も忍術という概念を知らなければ、不得意とはいえ忍術を使うことはできなかっただろう。

 

 おそらく共通する部分はある。が、だからこそ使い分けが難しく春樹の忍術のレベルは著しく低い。どうしても慣れたオーラを操ろうとしてしまい、チャクラをつかもうとする意識がおろそかになって正常な忍術の発動プロセスを辿れないのだ。

 

 これは両方を求めるのは無理な話と、春樹は早々に忍術を諦めた。

 

 忍術は修行でチャクラを増やし印を結ぶという、念でいう所の制約をクリアすれば念では幾系統も使いこなさなければ出来ないような技も使えるようになるのが魅力的だ。

 たとえばアカデミーの卒業試験の定番である分身の術を念でやろうと思えば具現化系と操作系の能力を駆使しなければならない。もともとの系統によってはいくら頑張ったとしても、その精度は低くなってしまう。だが忍術は修行によって、術の精度を高めることが出来るのだ。

 

 しかし春樹にとって使い勝手が良く、より強くなろうと磨くのなら念能力だ。

 

 単純に力の純度としてはオーラのほうがより力強く感じるし、何より体に馴染む。バリエーションに富んだ術は確かに魅力的だが、重要なのは使い勝手。自分にもっとも馴染んだものこそ好ましい。

 それに個々人によってオリジナル性に富んだ能力は、極めればどんな術より自分の強みになる。

 

 そのため春樹は使いこなせない忍術でなく慣れ親しんだ念能力を磨くため、あるいは精度を試すために時々誰もいない場所で修行をしている。

 見られたところで気付かれないだろうが、里には視ることに長けた能力を持つ一族だっている。念と忍術の違いについて気づかれた場合、追及されると面倒なのでこの場を選んだ。春樹は面倒ごとが嫌いなのである。

 しかしその修行だけでは足りないため、普段のんびり歩いている間もオーラを体に留める"纏"、増幅させる"練"、応用技の"円"、オーラを絶つ"絶"などをローテーションで行っている。こうした日々の積み重ねは、そう侮れたものではないのだ。

 

 

 

 春樹がそれをするのは、強くなって出世することや強さ自体に対する執着……などではない。

 

 (気持ち悪いんですよねぇ……)

 

 気持ち悪くてむず痒い。

 

 昔の感覚に体が追い付かない。それがどうにも気持ちが悪い。

 そのため今日も、春樹はのんびり力を磨く。

 

「まあ、今のところ木の葉は平和ですしね。よしんば忍者になれたとしても、一生下忍でもいいですし、焦らずゆっくりいきましょ~」

 

 

 そんな呑気思考な彼女が念と忍術についてもう少し深く追求するのは、まだだいぶ後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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