常春頭の忍者道 作:さとる
一度解散を言い渡され午後の集合時間まで各自が思い思いに過ごすころ。第七班に所属することになったうずまきナルトの家で一人の老人……火影と、その七班の担当上忍であるはたけカカシが言葉をかわしていた。
「間の抜けた子じゃが、万が一という事もある。鼻の利くお前に見張らせるのがよいと思ってな。それから、カカシよ。お前の受け持つ班には例のうちは一族のサスケもおるぞ。健闘を祈る!」
賞味期限切れの牛乳を眺めていたカカシは、大変なことになりそうだと嘆息しつつも「了解」と返す。
そしてもう用は終わっただろうとばかりに部屋を出て行こうとしたカカシだったが……火影に呼び止められた。
「ああ、あと。ナルトの正体を知った春樹じゃがな。見たところばらすようには思えんが、どうにも読めん奴じゃ。親も九尾に殺されておるし、一応気をつけて見ていてくれ」
ますます厄介だなとカカシはぽりぽりと頭をかくが、まあ担当するのは試験に合格してからだしなと思い直す。
さて、合格できるかな?
春樹は解散を言い渡されてからも、今日は弁当を持参してきたのでそのまま教室に残っていた。重箱につめられた弁当を全て食べ終わってからは、ぽかぽか陽気に誘われて当然のように昼寝タイムに突入する。
しかしその至福の時は、突如として遮られた。
「わ!」
耳元で大音量で叫ばれたら、さしもの春樹も覚醒する。しかし極端に驚くわけでもなく、ゆっくりとした動作でのびをする春樹に彼女を起こした張本人であるナルトはつまらなさそうに唇をとがらせてぶーたれた。
「ちェー、驚かねえのなお前ってば」
「おや、残念がらせてしまいましたか? それは申し訳ない」
うふふと笑って軽く流すと、教室内を見回す。時計を見れば集合時間はとうに過ぎているようだった。
「? ずいぶん眠っていたようですねー。他の班の方はもう行ってしまわれたのですか?」
「ええ、そうなのよ。私たちの班の先生だけまだ来なくて……」
答えたのは春樹を起こしたナルトではなく春野サクラだ。あと残っているのは同じ七班のサスケ……どうやら本当に他の班の人間はいないらしい。
残された第七班は集合時間を過ぎてもやってこない上忍を待ち、ずいぶんと暇をもてあましているようだ。
そこで春樹へのいたずらが失敗したナルトは次の行動を起こす。
教室のドアの上部にチョークの粉たっぷりの黒板けしをはさむといった、なんとも懐かしくもベタな悪戯だ。それをたしなめるサクラだが、その悪戯をはずさないあたり彼女も実のところ面白がっているのではなかろうか。
「フン、上忍がそんなベタなブービートラップに引っかかるかよ」
馬鹿にしたように言うサスケだったが、丁度ドアがスライドした。
ばふっ
「!」
……みごと黒板けしを頭にくらったのは、二十代半ばほどのあろう青年。
口元をマスクで、片目を額当てで覆うという顔半分をかくす怪しい出立ちなため正確なところはわからない。が、だいたいそんな所だろうと春樹は目算をつけた。
「きゃははは!! 引っかかった!! 引っかかった!!」
「先生 ごめんなさい。私は止めたんですけどナルト君が……」
春樹相手に不発で終わったためか、今度は悪戯が成功してご満悦のナルトが教師と思しき男を指さして笑う。対してしおらしく止めようとした旨を伝えるサクラ。こいつ本当に上忍か、とばかりに疑わしそうな視線を横目でむけるサスケ。
春樹は「おやまあ」とだけつぶやいて、のんびりとあくびをした。
「んー……。なんて言うのかな。お前らの第一印象はぁ……」
黒板けしをくらったにもかかわらずハハハと笑っている上忍。だが。
「嫌いだ!!」
笑顔でいっそすがすがしいほどきっぱりと、そう言い切った。
(今日のお夕飯、どうしましょうかねぇ……)
春樹はもう一度あくびをした。
*******
場所を移して、屋外。
「そうだな……。まずは自己紹介してもらおう」
上忍の言葉に何を言えばいいのかとサクラが問うと、好きなもの嫌いなもの、将来の夢や趣味といった返答が返ってきた。
春樹は、はてと思い悩む。好きなもの嫌いなもの、趣味までは問題ないが将来の夢といわれても特に無い。当分は下忍として給料稼ぎを考えているが、あえて言うのなら前世とは違うこの世界各地を回ってみたいというのが本音か。
しかし任務でならともかくとして、普通にそれをしようと思ったら下手したら抜け忍あつかいだ。まあ実行するにしてもだいぶ先のことではあるし、言わないほうが賢明だろう。
ならば他はどうだろうか、と顎に手を当てて考える。
春樹が熟考している間、ナルトが上忍の自己紹介を要求した。
「あ……オレか? オレは「はたけ・カカシ」って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない! 将来の夢……って言われてもなぁ。ま! 趣味は色々だ」
「ねェ……。結局わかったの、名前だけじゃない?」
サクラの言葉に内心同意しているだろうナルトとサスケだったが、上忍……はたけカカシに促されてナルトから自己紹介が始まる。
好き嫌いにいたっては全てラーメンに関することだったが、将来の夢で「火影を超す!!」と言い切った彼の瞳は堂々とした信念に満ちていた。
彼は自分にないものを持っている。春樹は将来に大きな目標を持ち、それを見据えてきらきら輝く瞳を羨ましいとは思わなかったが、どんな風に成長するものやらと年長者としてうっすら笑んだ。動くものは見ていると楽しいものだ。
年長者といえば、以前の記憶を受け継いでいる春樹はカカシよりもだいぶ年上になる。享年の時点で彼と同じか、少し上くらいだ。そうなるとこの中で生きた記憶だけは一番長い春樹だが、彼女に年長者の風格というものは皆無である。もはや中身の年齢など数えても意味は無いのだろうが、おそらく自分はこのまま育つのだろうなと自身で思っているようだ。ある意味筋金入りの三つ子の魂百まで、である。
そしてナルトの自己紹介が趣味は悪戯で締められて、次はサスケ。
「名はうちはサスケ。嫌いなものはたくさんあるが好きなものは別に無い。それから……夢なんて言葉で終わらす気は無いが野望はある! 一族の復興とある男を必ず……」
ためてから、一言。
「殺すことだ」
ぎらぎらとした炎と暗がりを宿した瞳で発せられた言葉に、場には一陣の風とともに沈黙が落ちる。反応はそれぞれで、サクラは何故か頬を赤らめているしナルトは何を思ってか青ざめている。カカシは飄々としていた表情を一瞬だけ消してサスケを見据えていた。
春樹といえば相も変わらずうっすら和やかな笑顔で「おや、まあ」などと言っている。その内心を言葉にするならば「無関心」である。興味がないのだ。
復讐を糧に強くなることもあるだろう。実際彼はアカデミーでも優秀だったようだし、これから強くもなるポテンシャルがあるはずだ。しかし大抵、そういう者は長生きをしない。以前の生を元に考えているため偏った考えなのかもしれないが……。というより、たいていそういった目を向けられる対象は自分だった。ので、長生きをさせなかったのは春樹だ。
まだ幼い少年だ。これから変わることもあるのだろうが……。
(関係ないか。ふふっ)
今のところ、特に興味も無い。春樹はわずかに向けていた視線をサスケからはずすと、次のサクラの自己紹介に耳を傾けた。
彼女はチラチラとサスケに視線をおくりながらも、好き嫌いも将来の夢も明確に言わない。終いには「キャー!!」と照れたように叫んでいた。
ああ、なるほどと春樹は納得する。ヒナタのように消極的ではないようだが、彼女も恋する乙女というわけか。これで他人の色恋を見るのは好きなので少しだけ楽しみができた。
「嫌いなものは、ナルトです!」
それだけはきっぱり言い切ったサクラにショックを受けるナルト。
(ああ! なるほどなるほど。ナルト君はサクラさんが好きと。いいですねぇ……青い春。ふふっ、楽しみ楽しみ)
思わぬ楽しみができて愉悦に浸る春樹だったが、ようやく最後になって春樹に自己紹介が促される。
「じゃ、最後は君ね」
「あ、はいはい。わたしは桜庭春樹です。綺麗なものと可愛いものは好きですねぇ。嫌いなものは……そうですねー……んー。結構ありますから端折りましょうか。趣味は散歩とお昼寝、ご飯を食べること。将来の夢は特にありません。まあ考え途中というやつです」
「キレイなものと可愛いものって……お前女みたいなやつだなー」
「おや、そうですか?」
まあ女ですから。とは言わず、それ以外でひとつ訂正を述べる。
「ナルトくん、男性でも綺麗なものや可愛らしいものは好むでしょう? 決めつけはよくないです。ほら、君だってこの可愛らしい春野サクラさんが好きでしょう?」
「え、あ、そ、そうだな!」
「やだ、もう春樹くんたら可愛らしいなんて!」
サクラが好きと言われて肯定したナルトよりも春樹の誉め言葉に照れるサクラ。肩を落とすナルトに、それを見ていたカカシは少々同情した。
「ねえねえ、春樹君って敬語は地なの?」
「そうですよー。だからあまり気にしないでください」
うふふと笑って答えると、サクラはまだ他に聞きたそうな様子だったが「よし!」というカカシの声がそれをさえぎる。
「自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」
その言葉に真っ先に反応したのはナルト。
「はっ、どんな任務でありますか!?」
「まずはこの5人だけであることをやる」
「なに? なに?」
ナルトほどではないが初の任務に興味を持つサクラとサスケ、春樹だったが、続けられた言葉に困惑することになる。
「サバイバル演習だ」
「サバイバル演習?」
「………………」
「なんで任務で演習やんのよ? 演習なら忍者学校でさんざんやったわよ!」
「相手はオレだが、ただの演習じゃない」
「? じゃあさ! じゃあさ! どんな演習なの?」
ナルトの質問にカカシは「ククク」と怪しげな笑みを浮かべる。そして「お前ら絶対引くから」と前置きをして告げた。
「卒業生二十八名中下忍と認められるのはわずか九名。残りの十九名は再びアカデミーへ戻される」
「おや? でしたらこの班が全員認められたらどうなるんです?」
「春樹は他が驚いてる空気読もうなー。あとまだ話続いてるから」
「ふふっ、それは失礼いたしました」
「…………。ごほん。で、だな。この演習は脱落率六十六%以上の超難関試験だ!」
その言葉にやはりナルトが一番わかりやすく驚いて、サクラは青ざめて顔をひくつかせる。サスケもあまり表には出していないが、頬に汗が伝うのが見えた。
「ハハハ、ホラ引いた。ま! どうなるかわからんが……この班が全員受かったら十名になるか。それにしても本当お前は驚かないな。驚かせがいがない」
「驚かせようとしてたのですか」
「そういうわけじゃないけど、普通は驚くのー」
「ほへー」
「気の抜ける声だすね~」
「うふふ、感心してしまって~」
にこにこにこ。笑顔の鉄面皮である。
カカシは火影の「読めん奴」発言を思い出して、たしかにそうだと頬をかいた。これならナルトとサクラに比べて表情の変化が少ないとはいえ、サスケのほうがまだわかりやすい。
一見あまり目立たない春樹だが、それが余計に曲者くさいとカカシは経験から考える。
とりあえず春樹をわずかに気に留めながら、カカシは明日の演習の概要を告げてプリントをくばった。
さて、こいつらは試験の本当の意図に気づくかな?
この個性豊かなメンバーを思うと、どうにも難しいように思えた。