常春頭の忍者道   作:さとる

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7 サバイバル演習その二

 春樹が持っているものをサスケは射殺さんばかりの視線で悔しそうに見つめ、サクラは信じられないというように目を瞠った。

 

「うそ……! 春樹君、鈴とれたの?」

「ええ、一応。けれど時間ぎりぎりでせこーく掠め取っただけですよ~。はたけ上忍は「取れ」とは言いましたけど、「それをさらに取り返さない」とは言ってませんでした。ですから、あと少し時間があったら奪い返されていたでしょうね」

 

 うふふと笑った春樹だったが、せっかく手に入れたスズを「えいや!」とばかりに振りかぶってカカシに投げつけた。

 カカシはそれを怪訝そうな表情でキャッチする。

 

「? どーしたの。いらないのか?」

「ふふ、何をおっしゃいますやら。鈴をとったとはいえ、試験の趣旨を考えればわたしだって不合格でしょう? それにわたし嫌ですよぅ、皆さんと一緒ならともかく……はたけ上忍とマンツーマンで任務だなんて」

 

 それよりも、と。早く早くとせっつくように、春樹は手を前に差し出した。満面の笑みである。

 

 

「鈴取れたんですから早くお弁当をください! 腹ペコです」

 

 

 お前朝飯食っただろ!

 

 この時、春樹を除く第七班の心が初めて一つにまとまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹の音の 四重奏が響く中、カカシが口を開く。

 

「おーおー腹の虫がなっとるね……君たち。ていうかね、朝飯食ってきたらしい春樹までなんでなってるかね」

「いっぱい動きましたからー」

「ははは、最後だけの間違いだろー?」

「うふふふふ」

「ははははは」

 

 再び背後に狸と狐。ナルトはその幻覚に、思わず目をこすった。

 

 それを何だこいつら……とサスケが見ていたが、先ほどの春樹の言葉を思い出し引っかかりを覚える。趣旨を考えれば、自分も不合格だと述べた春樹。いったいどういうことだ? と。

 

(……チッ)

 

 心の中で舌打ちをする。なぜ自分にもとれなかった鈴を、特に気にも留めずにいた影の薄い春樹が……。と、そう考えるが目の前の事実は変わらない。サスケに取れなかった鈴を、春樹がとったという事実は。

 ……その"特に気にも留めず"というのは、なにもサスケだけのせいではない。事実を知る者はいないが、それは春樹が使用している能力の一端である。

 ともあれ、影の薄いチームメイトはともかく抱いた疑問はすぐに氷解した。

 

 胡散臭い笑いを引っ込めて、カカシが言葉を続ける。

 

「ところで、この演習についてだが……。ま! お前らは忍者学校に戻る必要も無いな」

「!!」

 

 その言葉にすわ合格かと喜色あらわにするナルトだったが、サクラとサスケは春樹の言葉が気にかかって素直に受け取れない。事実、その疑念は正解である。

 

「じゃあさ! じゃあさ! 春樹だけじゃなくって四人とも……」

 

 きらきらと期待に満ちた笑顔を浮かべるナルトに対し、カカシもまた笑顔だ。

 しかし。

 

 

「……そう。……四人とも……忍者をやめろ!」

 

「!?」

 

 

 ずずッ

 

 衝撃の一言の後に何かをすする音が響いた。

 

 

 

「はいそこ春樹ー空気読めー。持参したお茶をすすらなーい」

「ええ? 酷いですねぇ。お弁当はまだおあずけだって言うから、お茶ですきっ腹を満たしていましたのに……」

「忍者やめろって、どーゆーことだよォ!!」

 

 ぽっきり折れた話の腰を、ナルトの叫びが持ち直らせた。このときばかりはサクラと、そしてサスケさえも……さらに言うとカカシですら少なからず「ナイス!」と思ったとか思わなかったとか。

 

「そりゃあさ! そりゃあさ!確かに鈴取れなかったけど! なんでやめろまで言われなくちゃなんねェんだよ!!」

「どいつもこいつも、忍者になる資格もねェガキだってことだよ。自覚しているようだが…………鈴を取れた、春樹もな」

 

 カカシの言葉を聞いた瞬間、サスケがその担当上忍に向かって走る。攻撃するつもりのようだが、試験前のナルトを忘れたのだろうか……と、お茶を飲み下しながら春樹はそれを眺めた。

 案の定、サスケは後ろをとられるどころか腕を押さえつけられ、頭を踏まれて動きを封じられる。

 

「だからガキだってんだ」

「!!」

「サスケ君を踏むなんてダメー!!!」

「まあまあ」

「お前ら忍者なめてんのか。あ!? 何のために班ごとのチームに分けて演習やってると思ってる」

 

 向けられた眼光は非常に鋭く、冷たい。

 

「え!? ……どーゆーこと?」

「…………春樹」

「はいはい? なんでしょう」

「さっき、試験の趣旨を考えれば自分も不合格だと言ったな。何故だか言ってみろ」

「お弁当くれたらいいですよ!」

「しつこいねーお前も……。ああ、これ終わったら食っていいから」

 

 それを聞くなり、春樹は嬉しそうに笑って意気揚々と話し始めた。よほど弁当が恋しいらしい。

 

「では失礼して。はたけ上忍は明らかにわたしたちより格上なわけですが、まあ上忍ですから当たり前ですね。実戦経験が無い、もしくは乏しいわたしたちが勝とうだなんて無茶もいいところです。臆病だと言われてしまえばそれまでですが、ナルト君とサスケ君はちょっぴり自分の実力を過信しすぎたのですよ。これを世間では勇気でなく蛮勇と呼びます。いやぁ、無様ですね~」

「お前けっこうざっくり言うね! オレよりざくざくいくね!」

 

 さくっと言葉で痛いところを刺していく春樹に、思わずカカシがつっこむ。

 そしてカカシの実力を嫌というほど思い知ったせいか、ナルトとサスケは反論できずにぐっと言葉を飲み込んだ。

 

(……はあ。ま、性格はともかくとして。相手の実力をちゃんと見抜けるか。洞察力はあるようだな)

 

 春樹はため息をつくカカシをよそに言葉を続ける。

 

「で! ですね~。これは演習とはいえ初任務なわけですよ。任務内容は「鈴を奪え」。それが達成できないわたしたち、役立たずです。つまりクビ、解雇です。職を失ってぷー太郎です。やですねぇこの年で」

「ぷー太郎って……お前いちいち緊張感ないなー……」

「無職より可愛い響きでしょう? これはお仕事です。わたしたち、若いといっても今日から社会人なんです。個人の力量が高い事はとても素晴らしい事だと思います。ですが会社……この場合木の葉の里ですね。会社の利益を考えるなら、おごり高ぶって個人プレイでひっかきまわして、結局成果を出せない~なんて人は……わたしが社長だったらいりませんね」

 

 奇妙な例えをはさみつつも、春樹は立て板に水のごとく述べていく。

 

「まあ要するに、要求されるのは協調性ですねー。チームワークです。みんなで鈴をとりにいけばよかったんですよぉ。今回の結果を簡単に言うとですね? 皆さんは実技と面接におちて、私は実技で受かって面接に落ちたというところでしょうか。えへへ、こんなとこでしょうかね」

「! ちょっとまって。なんで鈴が三つしかないのにチームワークなわけェ!? 四人で必死に鈴取ったとして一人我慢しなきゃなんないなんて。チームワークどころか仲間割れよ!」

「言ったじゃないですか。お仕事達成できなければ本末転倒。無職、クビ、プー太郎! ……個人的にサクラさんには期待していたんですがねぇ」

「え?」

「少々盲目的とはいえ、あなたがこの中で一番のまとめ役ですよ」

 

 春樹が笑ってそこで言葉を切ると、ようやくカカシが話し始めた。

 

「……まあ、そういうわけだ。これはわざと仲間割れするよう仕組んだ試験。この仕組まれた状況下でもなお、自分の利害に関係なくチームワークを優先できるものを選抜するのが目的だった」

 

 カカシはサスケを踏んだままの格好で言葉を続ける。

 

「それなのにお前らときたら。……サクラ。お前は目の前のナルトじゃなく、どこに居るのかもわからないサスケのことばかり。ナルト! お前は一人で独走するだけ。サスケ! お前は三人を足手まといだと決めつけ、個人プレイ。…………で、だ。よりたちが悪いのは、趣旨を理解していながら他三人をまとめようともせず、見捨てて自分の利益のために動いた……春樹! 自分で言っていたように、お前は面接で駄目だったわけだ。それにオレは鈴を取れなかったら失格と言ったが、取れれば合格とも言っていない。……課題を理解していたこともあり、お前も不合格だ」

「でもお弁当はいただきます。むしろそのために頑張りました」

「任務は班で行う! たしかに忍者にとって卓越した個人技能は必要だ。が、それ以上に重要視されるのはチームワーク。チームワークを乱す個人プレイは仲間を危機に落とし入れ、殺すことになる」

 

 カカシはスルーを覚えたようだ。春樹は今は弁当がもらえないとわかると、少し肩を落としてカカシに耳を傾ける。

 しかし黙ったままかと思えば、カカシが無数の名が刻まれた石のことについて話したとき……ナルトが発した言葉に、一言だけ回答を与えた。

 

「へーえー じゃあどんな英雄なんだってばよォ!」

「それ、慰霊碑ですよ? そこに名前を刻んだとしたら、その時ナルト君はもうこの世にいませんねー」

「!!!」

 

 ナルトの表情が驚愕に染まる。

 実は春樹の両親の名前もここに刻まれているのだ。九尾の狐から里を守ろうとして戦い散った英雄として。

 

「そう……。これは任務中、殉職した英雄たちだ。この中にはオレの親友の名も刻まれている……」

 

 カカシが四人を順番に見回す。

 

「……お前ら! 最後にもう一度だけチャンスをやる。ただし昼からはもっと過酷な鈴取り合戦だ! 挑戦したいものだけ弁当を食え。ただしナルトには「ええ、そんなぁ。じゃあ鈴取らなくてもお昼はもらえたんじゃないですかー」

 

 真剣な空気の中、ぶーたれた春樹の声がカカシの言葉をさえぎって、八つ当たりなのか困ったような笑顔のままでぶんぶんクナイまで投げてきた。カカシは難なく受け止めたり叩き落としたりしていたが、若干手がぴりぴり痺れたことに気づき、コノヤロウとばかりに疲れたような顔で春樹を見る。多少とはいえ、手袋越しにも効いてくる触れただけで効能のある痺れ薬……さらっと使ってくれたが、厄介なものをもっている。気にするほどではないが、地味に苛つく嫌がらせだ。

 サスケのように春樹を押さえつければよいが、何故か余計に疲れそうな予感がひしひしとする。そんなわけでその春樹を止めるべく、カカシは言葉を抑止力として使うことにした。

 

「弁当がなくなってもいいのか?」

「今日はいい天気ですね。ふっ、空気も甘く爽やかです。実に清々しい」

 

 ピタリと苦無を投げるのをやめた春樹は、何事も無かったように眩しそうに空を見上げた。

 非常に白々しい。

 

 クールに決め損ねたカカシだったが何とか表情を厳しく取り繕い、いくつか言葉を残して去ろうとした。が、ふと最後に気になって春樹に問う。

 

「一人で合格が嫌なら、何ではじめから他をまとめて向かってこようと思わなかった?」

 

 春樹は首を傾げると、笑って一言。

 

 

「だって面倒くさいんですも~ん」

 

 

 

 こいつが一番協調性が無ぇ!!

 

 

 

 春樹を除いた第七班(仮)の心。それが今度はカカシも加えて一つにまとまった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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