早坂 愛は恋をしたい   作:現魅 永純

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 今回は短めな7800文字!
 ではどうぞ!


第14話

 

 

 

 ───新学期!

 体育祭、文化祭、生徒会選挙!

 学校大一番! これぞ学園とワクワクするイベントが大集合する二学期!

 その登校初日、全校集会が終わった後に戻った教室にて───

 

 

「…………」

 

 

 広瀬は死にかけていた!

 

 

(痛い……身体の節々がすげぇ痛い……ッ! 夏休みラスト十日間で移動させすぎだろこん畜生! 北海道から長崎への距離考えろアホかッ!?)

 

 

 それは早坂……四宮家での一件による後悔とか違う意味でのイタいではなく、物理的に骨肉が痛んでいるのだ。

 当たり前である。北海道から長崎の距離は、一般的な道で行けば2000km以上。二桁の時間は余裕で掛かる。しかもただ移動するのではなく、仕事をこなした上で。

 

 洒落にならないレベルの全身筋肉痛となっている広瀬。もういっそこのまま寝てしまいたいと思いつつも、耳に届く足音に顔を上げた。

 

 

「……デジャヴりました」

「……労いの言葉が欲しい」

「お疲れ様です」

「もっと敬語の抜けたお姉さんっぽく」

「……───お疲れさま、青星くんっ」

「何ならもっと趣向を変えて……!」

「殴りますよ」

「反省してます」

 

 

 SNSで話題になっていた「大丈夫? おっぱい揉む?」が頭を過って瞳を光らせた広瀬の思考を察したのだろう。冷たい目で射抜く早坂に、広瀬は反省した。

 どうやら本格的に脳もやられているらしい。寝不足ではないから「深夜テンション」ではない筈だが、変に盛り上がっているテンションで口走る己を振り返り、広瀬は視線をズラして謝罪する。

 

 本当に心配した表情で「休んで下さいね」と告げて廊下に出て行った早坂を見送り、広瀬は不思議そうな顔で疑問に思う。

 

 

(……何でいつも通りでいられるかねー)

 

 

 そう。四宮家での一件は間違いなく早坂にも多大な影響が出ているだろう。四宮と母親以外ならば、恐らく初めてと言えるだろう『弱い部分』を曝け出した事。タダの学友という距離感をぶっ壊してまで見せてしまった懇願。

 今までの仮面を外して、それで尚寄り添ってくれる存在。いっそ告白紛いの事をしたにも関わらず───なんて意味ではなく

 

 

()()()

 

 

 現在状況での早坂の感情を見抜き、本当に不思議そうに思っていた。

 広瀬が見る早坂には、もう身体中覆い尽くす程の動揺と羞恥と装いで満ち満ちていた。これだけ感情が溢れる人物など珍しい。

 でもそれで尚()()()()()という事実に、「なぜその状態で平気でいられるのか」という疑問を浮かべざるを得ない。

 

 

(……装い、か)

 

 

 そういえばあの社交仮面も、途轍もなく分厚かったと、広瀬は夏祭り前の雁庵との一件を思い出し、浅く息を吐く。

 きっと己が『感情視』という特殊な眼を有していなければ、雁庵にどんな言葉を掛けたって反応などなかっただろう。したい事、やりたい事。誘導次第では相手の思考を推測可能なその眼を有しているからこそ、雁庵は動いた。

 でも逆に言えば、感情を見抜けるその眼さえなければ、雁庵はどんな言葉を掛けられたって鉄の仮面を外さなかっただろう。

 

 自分の本心とは───人の本心とは、それ程までに欲求に満ち溢れ、臆病を抱えてしまう。あの雁庵でさえ、ただ娘と向き合うだけで……本心を告げるだけで、緊張していた。

 それでも前に進んだのは、広瀬の「親として子供を愛してるなら、それだけは伝えなきゃダメだろ」という言葉と、その重さだろう。いっそ哀れみで、情けで動いたのかもしれない。

 

 だって、「ぶつからなきゃ伝わんない」なんて言葉を、()()()()()()人物の口から放たれても説得力はない。

 でも動いた。雁庵は動いてくれた。

 

 

(いい加減……俺も向き合わないとな)

 

 

 それだけ堂々たる姿を、見本を見せてくれたのだ。倣わなければそれこそ無礼に当たるだろう。

 広瀬は視線を外に移し、少し時間が経つと、左手で腹を押さえた。

 

 

(あ、胃も痛くなってきた)

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「……男が唆る仕草?」

「ええ。男子……それも心理を学んでいる貴方ならば、最適でしょう?」

「いや、そりゃまあ……」

 

 

 翌日。

 選択授業の紙を提出したその日の放課後、普段通り生徒会の様子を観察しようとしていた広瀬と早坂が普段入り浸る空き教室にて、突如として四宮が入り込んで来た。

 主人が入って来たからと背後に控えるよう立つ早坂は、呆れた様に息を吐いた。

 

 曰く、花火大会に於いて『浴衣姿で見惚れさせる』や『少しドジを踏んでコケてしまったフリをして密着作戦』など色々策を練っていたものの、普段着で靴も普通では割りと普段通りになってしまった。イベント無しでそういったアピールは難しい為、普段の状態でも出来る『欲情を誘うかの様な、トキめく様な仕草』は何か知りたい───と。

 広瀬は「当然知ってるけども」とニュアンスを含めた言葉を紡ぐも、何処か困ったように目を瞑る。

 

 四宮が疑問に思えば、広瀬は躊躇いつつ答えた。

 

 

「確かに分かってはいるけど……それって『幅広い層』が対象なだけで、別に()()()()()()()()()()()()()()()ぞ?」

「……ああ。かぐや様、アレです。一学期に白銀会長が猫耳を付けたとき、かぐや様はお似合いだと思っていましたよね? しかし書記ちゃんや私は正直似合ってないなと思ってました。要はそういう事です」

「え、白銀の猫耳って何それ見てみたい」

「なるほど……会長個人の嗜好(フェチ)を考えろって事ね。確かに尤もな意見だわ。……広瀬君、貴方は会長のフェチを知っているかしら?」

「白銀の猫耳……ん? あー、いや。俺はそこまで深く干渉してないというか……する必要がないというか」

 

 

 白銀に特殊な性癖はないだろう。強いて言うならば『四宮個人』の仕草や格好だろうし、故に探る必要もなく、質問に対し少々困る。

 どう答えたものかと考えると同時に、悩む理由の()()()()を思い浮かべた。

 そう。それは僅か数時間前───昼休み、日光から隠れた木の下で、寝っ転がりながら聞かれたのだ。

 

「女子が唆る仕草とは何だろうか」

 

 と。

 本当に似てる人たちだと呆れたように苦笑し、筋肉痛の腕をほぐしながら答えた。

 

 

「まぁ、そうだな。幅広い層への仕草程度なら、教えてもいいぞ」

「……ちなみに広瀬君。貴方のフェチって何かしら?」

 

 

 四宮はチラッと早坂に視線を移し、何処かニヤリと笑う様な感情を見せながら広瀬に問う。

 早坂は少し肩を跳ねさせる。広瀬は微妙な表情で「絶対分かって言ってるな」と確信しながらも、誤魔化さずに答えた。

 

 

「脚」

「随分とマニアックな部分を突くのね……」

「まあ脚っていうか……膝枕というか。フェチってよりも、好きな行為の方が正しいだろうし」

 

 

 そもそも嗜好をフェチと呼ぶが、二の腕フェチとか太ももフェチとか、あくまで部位的に好きな部分をフェチと呼ぶのは誤用だ。フェチ───フェティシズムとしては意味を違えている。

 とはいえ、それを指摘する必要は無し。あまりにもかけ離れた意味でもない為、訂正することなく言葉を紡ぐ。

 

 誤魔化す理由は特にないし、別にマニアックすぎる行為という訳ではあるまい。膝枕はハグと似たようなものだ。ストレス軽減とは言わないが、人によっては幸福感が得られる。

 膝枕をしてる、或いはされるシーンを想像したのだろう。「あ、確かにいい」と若干アホっぽい表情で頷く四宮に、そうだろう? と言いたげに腕を組んで頷く広瀬。

 

 そんな二人を見て、早坂はほんの少し視線を下げた。

 もしや気を使って広瀬の趣味やら性癖やらを聞き出しているのかと思ったが、早坂に四宮へ『広瀬に対する感情』を見せた覚えはない。ならば何故だと悶々していると、あっという間に時間が過ぎた。

 深い思考に嵌ると人は感じる時間が早くなる。これに間違いはなく、早坂は悶々としている内に会話が終わっていた広瀬と四宮の様子に気付き、早坂が引き止める隙もなく教室を出て行った。

 

 ───ああ、マズい。この状況は非常にマズい。

 昨日まではいつも通りだと自分に言い聞かせ、例え感情を見抜かれようと演じる事に徹していた。その甲斐もあり、本日は感情の揺らぎは最低限で自然に過ごせていた。

 だがあの件を、早坂 愛という少女が広瀬 青星という少年に堕ちたあの日を思い出させる『膝枕』なんてワードを聞いて平常心で過ごせという方が無茶だ。

 

 今や早坂も純粋たる乙女。追い求めていた青春に心から取り憑かれた、恋する少女。

 故に。いつも通りを振る舞えなくなった彼女が浮かべる感情はたった二つ。期待と羞恥のみ。

 

 男女二人っきりで浮かべる感情が期待と羞恥では、推測できる思考など限られる。

 この人の隣に居る緊張と自分の気持ちを汲んでくれないかという期待。

 この状況なら広瀬は確実に見抜いてくる。広瀬は鈍感では無い。

 

 

「なあ愛───」

 

 

 広瀬が口を開いたのを確認し、高速で回していた思考を止める事なく言葉を発した。

 

 

「ひ、膝枕と言っても、する方とされる方の両方がありますよね。青星くんはどちらが好みですか?」

「え?」

 

 

 唐突に何の質問をしてるのかと言いたげな表情で疑問を口に出す広瀬と、その様子を見て頬を僅かに染める早坂。

 早坂自身、一体何の質問をしてるのだろうと思うが、止める事なく働かせていた思考が「寧ろこれで良い」と思わせる。

 自分に浮かんでいる感情の一つに『羞恥』があるのは把握出来るから、その羞恥の原因に対する広瀬の推測が「何の質問をしてるのかという自分への恥」と認識される様になるなら、寧ろ良い選択なくらいだろう。

 

 告白して欲しいのに自分の気持ちを悟られたく無い。悟って欲しいのに告白を阻止したい。ああ、なんて矛盾した思考だろう。本当に自分がしたい事が分からなくなってきた。

 早坂は矛盾する考えと加速する鼓動を想い、内心深く溜め息を吐く。

 もし広瀬が『感情視』ではなく『思考を読む』能力を持っていたら、酷く呆れ返っていただろうという、仮定を思っての溜め息だ。

 

 口を結んで不自然な程に無表情となっている早坂を見て、広瀬は訝しげな表情で、しかし素直に答えた。

 

 

「まあ……される方が良いっちゃ良いけど。でも弱ってる相手にならしてあげたいって欲求もあるかな」

「……強いて言うなら?」

「そりゃ、される方。……あ、待って。この質問ストップ。これ以上は流石に恥ずい」

 

 

 ───早坂の目がキラリと光る!

 何故こんな質問をしたのかという自分でもよく分からない言葉を発していた早坂だったが、結果的に平常心を取り戻す為の活路を見出す事に成功した!

 

 

「おや、もしや青星くんの頭には、私がシた時の記憶が蘇りましたか? あらあら、まるで私が行った事が青星くんの好きな行為に直結している様ですね?」

 

 

 そう、以前まで『友人関係』という距離感を崩さない為に行なっていた『揶揄い』である!

 

 本来ならば友人関係を保つ為に行われていたこの揶揄いだが、(早坂にとって)幸い(?)な事に、同時にルーティーンにもなっていた。

 『友人関係』である為にと根付いていた行為であるが故に、揶揄う事でそのイメージが鮮明に浮かび上がり、平常心を保つ事に成功したのだ。

 悟られたく無い現状ならば間違いなく最善の手であった。

 

 しかし。告白されたいならば、友人関係を確立させるこの行為は最悪手でもある。

 矛盾した思考を持つが為に、最善の手さえ最悪の手にすり替わる。なんて厄介な恋心。

 だが、平常心を保つ事で必死な早坂がそれに気付く事はなかった。

 

 

「さて、生徒会室はどうなってるかな」

「図星でした?」

「……ノーコメントで。ほら、タブレットとイヤホン頼む」

 

 

 ───ちなみにだが、早坂は自分の行動が広瀬の性癖に直結してると言ったのは、あくまで揶揄いの範疇。多少筋が通っていたとしても、大抵の場合は確信を持たない揶揄いだ。

 何か言い返そうモノなら更に揶揄う為の材料こそあるものの、流すならば追求はしない。そして広瀬もそれが分かっているからこそ、揶揄われた時の反論は無くなった。

 

 つまるところ、早坂はあくまでも「平静を保つ為の揶揄い」をした認識であって、何もマジで「自分の行動が性癖に繋がった」などと微塵も思ってないという事だ。

 膝枕は然程マイナーな行動でも無い。元々好きな人などザラだろう。

 だからこそ微塵も思っていない。まさか広瀬の膝枕が好きな理由が、本当に早坂が行ったからなどと。

 

 四宮が気を使ってくれたから「いっそあの時みたいにやってくれないか」と期待して素直に答えていたが、まさか揶揄いの原因になるとは思うまい。

 しかし見慣れた早坂となり、乱れていた感情が平常となったのなら、広瀬にとっては寧ろ良い結果だとホッとする。

 

 何せ広瀬が今抱くのは、()()()()()()()()()()という一心なのだから。

 

 

「ではどうぞ」

「おー……ぉお……?」

 

 

 スクールバッグからタブレットを取り出し画面を付けた早坂は、手に握るイヤホンを広瀬に渡す。

 そう───ワイヤレスイヤホンを。

 

 

「新しいイヤホンですので、心配は無用ですよ」

「……ああ、なるほど」

 

 

 広瀬は以前までコードのイヤホンであった理由を知っている。というか本人から聞いたのだ。

 「普段使ってるワイヤレスイヤホンだと、女子的に少し……」と。まあ普段から付けているのを他人に渡すのを躊躇う人は多い為に。そしてコードならば距離が近いラッキー状態なので、今まではワイヤレスではなく新しく買ったコードのイヤホンを使っていた。

 

 しかし新しくワイヤレスイヤホンを買った。ならば無理にくっ付いて見る必要はどこにも無い。今の状態で近づき過ぎると心臓が危ないのだ。

 そんな早坂の思考を理解したが、その上で敢えて「男女がくっ付いていては風紀委員に目を付けられる」という意味で言ったのだろうという体を装い、広瀬はイヤホンを受け取って耳に付けた。

 

 

「……?」

 

 

 広瀬は間違いなく早坂の事が好きだ。確信は抱かずとも、早坂自身それは何となく感じ取っている。

 今のシチュエーションで広瀬が察しない筈がない。結構積極的なタイプである広瀬が今の台詞をあっさりと流したのに早坂は疑問を浮かべるが、タブレットに映る生徒会室から聞こえた声に、視線と思考を奪われた。

 

 

『……今日は暑いですね、会長』

『うむ……やはり扇風機程度は用意すべきだったか。流石に長袖は暑いな』

『ええ。……ふぅ』

 

 

 手で仰いでいた四宮と白銀。そんな中会話を続けていると、やがて四宮は首に汗を滲ませながら襟元を摘んで仰ぎ始める。

 制服に隠されていた鎖骨を僅かに露出させ、上気した頬と流れる汗を見せつけるように。

 

 

(……な、なんか四宮、今日は妙に色っぽいな)

 

 

 ───スキル【妖艶淑女(ノウサツ)】!

 あらゆる感情表現を自由自在に操れ、更に身体の発熱を行い発汗さえも多少なら操れる四宮だからこそ行える、意図的な色っぽさ!

 蕩けた目と艶のある唇、そして四宮ほどの美人ともなれば、余程理性が強く無い限り欲情を抱かせる禁断の技!

 

 が、白銀の理性はやはり強かった。

 

 

(いやいや! 分かっている、これは罠だ。一学期の映画の時と同じ。甘いな四宮、それが装いと分かっていれば耐えきれない俺ではない!)

『しかしアレだな、やはりエアコンの節制は厳しかったか?』

『会長自ら節制というのは良いと思いますよ。この学園はただでさえ良い出の者が多いですから、率いる人が抑制するというのは……大事……か、と』

 

 

 自身の【妖艶淑女(ノウサツ)】が通じないと察した四宮は白銀の言葉に返答するが、その視線を白銀に向けると同時に答えはしどろもどろになる。

 その理由は明快。───眼鏡である!

 

 

『か、会長? その眼鏡は一体……』

『ん? ああ、知人から貰った物でな。去年の誕生日に貰ったのだが、どういう代物か良く分からなくて……。仕舞っていたのだが、この夏休みに整理したら出てきたもので、詳しい奴に聞いたら「目の疲れに効果がある」らしい。ならば使わせて貰おうと思ってな』

 

 

 尚、知人というのは前生徒会長である。

 貧乏性が身に付いてる白銀にあまり高級な物を送れないと分かっていたから、敢えてどういう代物かを教えずに「伊達眼鏡だ」と言って押し付けたのだろう。

 そして詳しい奴というのは、当然の如く広瀬である。

 ブルーライトカット効果もあるし、軽いために負担にならない。目の疲れを取る効果ももちろん存在する。

 

 そう、決して嘘など言っていない。あるのは事実のみ。しかし事実であるからこそ、「普通に便利そうだから付けただけ」という体を装えるし、何より四宮にクリティカルヒットを喰らわせる事が出来る。

 

 

(ふ、縁が細いから視界の邪魔にならないタイプ……それが会長の目を妨げる事なく露わにしてる。でも眼鏡を掛けているというのは客観的に分かって……なんかいつもと違う!)

 

 

 ───ギャップ!

 普段本を読んでて暗そうな雰囲気の人物が実はスポーツマンでしたという展開、ガサツそうだけど実は家事全般めっちゃ得意という展開!

 “一見”と“事実”の差による萌えは、全人類共通の感情だろう!

 それと同じように、普段掛けない眼鏡を掛けているという王道的ギャップには、流石にキュンとなる心を抑えられない四宮!

 更に言えば、四宮の好みたるツリ目が強調されるデザイン!

 

 これには四宮も一発KO───

 

 

『───ッ!』

 

 

 が、寸前。四宮は白銀の猫耳姿を思い出し、アレほどの破壊力に比べればマシだと精神状態を立て直す。

 垂れる汗を拭って一瞬の超思考。広瀬から聞かされたあらゆる仕草を頭の中で展開し、これからの状況を推測して最も自然に行える行動を考える。

 それは白銀も同様で、曇った眼鏡を外して拭きながら思考に陥っていた。

 

 二人は互いの行動に疑問を抱き、やがて同じ答えに至る!

 なるほど、今回は「両者仕掛ける側」なのだと! ならば攻め入り防御を崩した方が勝ちに近づくのだと!

 そんな二人の戦いが、今始まった!

 

 

 四宮は最初から僅かに解け掛けていたリボンを縛り直すが、普段とは違い上げるのではなくポニーテールにする。

 白銀はやはり暑いと態とらしく口にして制服を脱いでシャツだけに移行。

 さすれば四宮はカップに入れた紅茶を飲む際に動く喉を見せつけるように。

 ならばお返しにと、白銀は髪をかきあげる。

 

 普段ならば滅多にしない行動を積極的に引き起こす現状に、両者一歩も引かず膠着状態。

 そんな様子を見守る広瀬(元凶)は必死に笑いを堪え、早坂は微妙な表情で見つめている。

 

 これは決着が訪れないのではないか。そう思い見つめていると、四宮と白銀は覚悟を決めた様に気迫のある表情で顔を上げる。

 いや、次で決着か───その不思議と気圧されそうな雰囲気をモニター越しに感じ、確信。

 そして数瞬の後───

 

 ガチャリ

 

 と。扉の開く音が鳴り響く。

 

 

『こんちゃ───え、何この状況。アイドル撮影会っすか』

 

 

 終えた仕事を届けに来た石上の登場。

 再びの【妖艶淑女(ノウサツ)】を発動して更に右手の甲を頬に触れさせる色っぽさの上昇を図る四宮と、キリッとした表情で眼鏡を僅かに顔から離れた位置に持っていき「今外してます」という体を装う白銀を見て、石上は驚愕する。

 突然の登場に固まった二人に対し、石上はソーっと書類及びデータを置いて申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

『えっと……すみません。何か行事の為の予行練習ですかね? お邪魔しました』

 

 

 本当の本当に申し訳なさそうな表情で謝る石上の言葉に、二人は酷く心を抉られた。

 彼が出て行くと、やがて膝から崩れ落ちる。

 

 

『……帰るか』

『……そうですね』

 

 

 何してたんだろうと我に返り、悟った様な顔で白銀は書類を整理し始め、四宮はカップを片付け始める。

 調子に乗った末路を見届けた早坂は「絶対にノリだけで動かない様にしよう」と決意した。

 

 

 ───本日の勝敗。

 四宮と白銀の敗北(後輩に変な姿を見せて羞恥に染まった為)

 

 

 

 

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