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ではどうぞ!
「サークル質問ゲーム……?」
「はい!
「もちろん私も混ざりますよ」とやる気満々に目を瞑って胸に手を置く藤原の言葉に、白銀は何とも言えぬ表情で悩む。
それもその筈。20の質問は一学期に於いて四宮と行ったゲームの一つ。当時は寸前まで勘違いして危うい所まで……! となったゲームの改造だと聞けば警戒心も上がる。
「こういうのは石上の役目なんだが」
「石上くんは何故かかれんさんに連れてかれていましたね」
「ああ、マス部の……。……関わりあったのか?」
「石上くんに編集やら何やら言ってましたけど」
同級生よりも上級生との会話の方が多いのだろうかと、白銀と藤原は同時に思う。
意外な接点だとは思うが、例の過去について探られてる訳でないのなら無理に止める必要もないだろう。
白銀は石上の居ない現状でゲームの改善点など指摘出来るのかと悩んだが、注いだ紅茶を目の前に置いた四宮は楽しそうに紡ぐ。
「あら。別に良いではありませんか、会長。丁度お仕事も無く暇を持て余していた所でしょう?」
「む……それはそうだがな」
「取り敢えずルールだけは聞いてみましょう。会長の
お盆で口元を隠して笑い、躊躇う理由を的確に見抜いて指摘する四宮に、白銀はつい口を結ぶ。滅茶苦茶後ろめたいとかでは無いのだが、抱いてる思考を的確に言い当てられると怯むのは人の本能だ。
流石によく理解していると流し目になり、白銀は頷いた。了承のジェスチャーである。
四宮は「では説明をお願いします」と言い、藤原は元気よく返事してスケッチブックを取り出す。若干酷い絵ではあるが、文字だけではなく絵を取り入れる辺り、人の視覚効果というのを考えられていた。
藤原は口を開く。
「20の質問というのは当然ご存知ですよね? 計20の質問で回答者が答えを導き出すゲームです。今回のサークル質問ゲームはこれを利用したゲームとなります」
元々用意してた台本でもあったのだろう。特に何を見る訳でも無いが、説明口調で話す藤原に二人はそう思いながら相槌をうつ。
藤原はページをめくり、左右どちらにも向いた矢印とそれが指す二人の棒人間を晒す。手抜き感があるが、下手に人型を描くよりはマシだろう。藤原は説明を紡いだ。
「今回のゲームに於ける質問回数は自由です。20でも良し、10でも良し、なんなら1でもオーケーです。そしてここが一番違う点ですね。このゲームは物当てゲームですが、同時に他プレイヤーとの競い合いでもあります」
「……流れから察するに、質問回数の少ないプレイヤーが勝つ……という感じか?」
「その通り! しかし質問回数で競うという事は、出すお題によって質問回数を増やしたり当てなくしたりするという手段が存在するでしょう。それでは少々フェアではありません! それ故、プレイヤーはそれぞれお題を予め見せておくのです!」
「……それでは少々、回答者に有利に働き過ぎるのではないか?」
「ええ、ですのでプレイヤーは、計三つ以上のお題を必ず用意するのです! 今回は3人プレイなので五つですね!」
「自分以外のプレイヤー×2+1という訳だな。……なるほど、何となく見えてきた」
「あ、待ってください! 折角作ってきたんですから最後まで説明させてください!」
「いや、無論見落としがあっても困るからな。続きを頼む」
「はい! ……コホン。見せたお題は自分でも分からない様にシャッフルし、各プレイヤーに2枚ずつ引かせます。もちろん引かせる際は自分にも相手にも見せてはいけませんよ?」
これが先程の絵の説明だろう。
用意したお題の中から自分以外のプレイヤーに二枚引かせ、自分は引かせたお題が何かを言い当てる。
それは一見引かせた側……つまり回答者が有利に思えるが、実はそうでもない。3枚以上あるお題の中から一枚を確定させるというのは意外と難しく、質問回数を減らそうと目論みお題の傾向を似たようなものにすれば、それもまた確定は難しくなる。
プレイヤーが増えるほど難度は増していき、「なんのお題を出したのか分かっているからこそどんな質問を出すのかが難しい」というジレンマを生じさせるのだ。
「プレイヤーは順番を決め、相手が引いたお題が何なのかを当てます。それを引かせたお題の回数繰り返し、質問の合計数で競います。基本的な流れはこれで終わりですが、何か質問はありますか?」
「お一つ宜しいでしょうか?」
「はいかぐやさん!」
「お題はプレイヤーが決め、引かせた物をそのプレイヤーが当てる……というゲームであるならば、やはり回答者に有利に働いてしまうかと。例えばお題が『本』である時に「本ですか?」と聞けば、お題を出した当人である以上確信を持って答えられてしまいます」
「ふふん、その質問が来ると思っていましたよ! 確かにそれだと二人プレイならば3回以内で確実に答えられてしまいますからね! でも安心して下さい、答えを意味する質問をした時点で回答者は敗北となります!」
藤原はページをめくり、予知していたかの様に『棒人間(1)が本の描かれた紙を持つ絵』と『棒人間(2)の台詞が本』という絵が描かれていた。つまりお題が本であり、回答者が本ですかと問いてるシーンを表してるのだろう。しかしその台詞の吹き出しには×が付けられている。
藤原は再度ページをめくり、今度は『棒人間(1)が本の描かれた紙を持っている』のと『棒人間(2)の台詞が紙』という絵が描かれていた。つまりお題が本の状態で、それは紙ですかと聞いてるシーンを表してるのだろう。それには赤いペンで○が付けられていた。
「間接的な質問なら良いという訳ね」
「はい! このゲームの肝は、いかに『間接的な一つの質問で答えられるお題か』を考えられるかという能力に加え、当てられるかどうかの『運』も絡む訳です! 今回は五つのお題が出来る訳ですから、一つ狙いでいけば最大5回繰り返すかもですよ?」
「……ふむ」
白銀は顎に手を添える。
内容を理解したというジェスチャー───
(このルールならば四宮も何か仕掛ける訳ではあるまい。……気楽に出来そうだな)
仕掛ける仕掛けないの思案に終止符を打ち、安堵したが故の動作だった。
まさかお題に自分自身を書いて「それは貴方の好きな人ですか?」などという質問をしてくるはずもない。当然「はい」と答えれば公開処刑になるが、「何故そんなお題を出したのか」を追求して質問を続ければ有利に返り咲く。「友人として好き」と補足すればダメージも然程ないし、どっしり構えていれば違和感も無いだろう。
確信を抱く白銀───に対して四宮は笑う!
そう、これは四宮の仕掛け! 藤原の「後輩の考えたゲーム」という言葉によって隠された、全てが四宮の仕組みだという事実!
───事は一日前に巻き戻る。
「意識させる方法? 告白させる方法じゃなくてか?」
「あわよくばとは思うけど……まあいきなりじゃなくてもいいの。酷く意識させる様にする方法というのはあるかしら?」
そんな事しなくても意識しっぱなしじゃないですかという言葉は強い意志で飲み込む。
無論広瀬も理解しているのだ。意識させるという言葉の真意は、いっそ自分にしか目が入らないくらい堕としたいという少し病み気味な思想であるという事を。
それだけ強く意識させるとあらば相当の仕掛けが必要となるだろう。告白紛いの行動を起こせば確実にそうなるだろうが、四宮本人は認めまい。
その上で何か良い案が無いかと考えていれば、一つの結論に思い至る。
「なら────」
(ふふ……感謝するわ、広瀬くん。お陰で意識させるという手段は完成した。さて……後は思い通りにいくかどうかが鍵ね)
「他に質問はありませんか?」
「ああ、ならば俺から一つ聞こう。藤原書記」
余裕綽々といった笑みを浮かべながら四宮が髪を耳に掛ける仕草を行うと、藤原の問い掛けに白銀が手を挙げる。
「はい会長!」とニコやかに手を向けると、白銀は単純な疑問を浮かべた。
「お題が被った場合はどうするんだ? 見せ合う以上、お題が被っていたら参考に出来てしまうだろう?」
「無論そこも考えています! といってもそこまで複雑ではなく、単純にどちらかがお題を変えるだけなんですけどね」
(ここが危惧してる点ではありますが……まあ、流石に数十万と存在する語彙の中から一つが被るなんて事は確率的に殆どないでしょうし、気にする必要はありませんね)
疑問に答えた藤原は「他にありませんか? ではお題を考えていきましょう!」とメモ帳を取り出し、それぞれに5枚ずつ渡す。
余裕の微笑みで書く四宮と、歌を口ずさみながら書く藤原と、顎に指を添えて悩みながら書く白銀。それぞれが書き終えたのを確認すると、藤原は5枚のメモ帳を片手に話し始める。
「全員書けましたか? では
全員文字が書かれた面を表にし、それぞれが15枚の紙を見渡す。
コーヒー、ペットボトル、ラーメンなどとお題が明かされていく中、その場の視線は藤原の前に置かれた紙と四宮の前に置かれた紙へと集まる。
二人の前には同じく『ライオン』と書かれた紙。
───
互いが所有するお題の被り! 数十万と存在する筈の語彙から厳選される15の中に被りが出るという奇跡!
確かに被るとは思うまい。全くもって予想外。というか四宮と藤原が同じ思想で同じお題を出す事自体驚愕の対象。
だが慌てる事はない。この場合のルールは提示されている。どちらかがお題を変えれば良いだけ。この場合、他の良さそうなお題を思い付くのが面倒な藤原が意固地になってお題を
ならば四宮が自ずとお題を変えると言い出す事で平和解決。白銀と四宮の競合ならば互いを蹴落とし焦らせる為に敢えて譲ろうとしないだろうが、藤原相手ならば慌てる必要などない。
白銀は興味深そうに「次は何のお題にするのか」と四宮が変える事を前提に視線を動かす。
その目には───瞳からハイライトが消え圧を掛ける四宮の姿!
「……し、四宮?」
「お題が被った際にはどちらかがお題を変える……でしたね、藤原さん?」
「はい、そうですよ! 私は変える気ありませんが……かぐやさんは?」
「私もです。ではジャンケンで決めましょうか」
笑っている。目だけ笑わず器用に笑みを浮かべている。そして藤原はそれに気付かずニコやかに答えている。何という比較対象、違いが大きすぎる。
白銀は四宮の圧に気付いて戸惑っていた。ここまでゲームに熱を持つ四宮は大変珍しい。何か裏があるのかと再度思考を深くした。
(ライオン……ライオン……? 動物園に一緒に行きたいですという催促か? いや、生の動物鑑賞に行くよりも、水族館の方が四宮の性に合っている。騒がしい場所よりも大人しい方が四宮は好きだろう。ならば何故ライオンにしたのか……)
数瞬の思考の後、白銀はある出来事を思い出す。
それは夏休み中、ニュースにもSNSの話題にもなった出来事。20年以上前の映画のリメイク作品が公開決定されたという事実。
(そうか! 質問の節々に仕掛けを用意し、暗に俺に対して「この映画を一緒に見に行きたい」と伝えようとしているのか!)
白銀は一人ニヤけ、二人の勝負の行方を見守る。あわよくば気付いたこの有利さを利用する為に四宮の勝利を願って。
「では、じゃーんけーん」
「ぽんっ───あぁ、負けてしまいましたか」
───一瞬の出来事である。
藤原が気付くことは無かったが、この勝負は四宮の必勝だった。万に一つも負ける事などあるまい。このジャンケンは運ゲーなどではない、れっきとした動体視力を試すゲームだったのだから。
藤原が手を開くかどうかによって即座に判断するのだ。グーか、チョキ・パーであるかを。グーならば手を開けば勝ち、それ以外ならばチョキを出せば必ず引き分け以上になる。
相手が藤原だからこそ天然さを警戒し、出来る限りバレない程度まで出すのを遅くしていたのだ。
こういう単純な動きならば流石の藤原もインチキなど出来ない。故に四宮の勝利は揺るがなかった。
四宮はほんの少し汗を垂らし安堵、藤原は残念そうに場を見ながら被らない様にお題を書き換える。そして白銀は、何とも言えぬ表情で四宮を見つめていた。
(うっわ大人気ねぇ)
四宮の行動を理解したが為である。
鬼気迫る雰囲気でジャンケンしていたのだから当然だ。同時に「そこまで俺と……」という乙女脳な思考を続けていたが、藤原の「書き終わりました!」という言葉と共に思考を断ち切る。
それぞれ自分のメモを手に取り、自分にも相手にも分からぬ様シャッフルし、取りやすい様五枚を並べる。
「……そういえば藤原さん、引く順番などはどうしましょうか?」
「そうですねー……方法は色々とありますが、面倒なので先程お題を被らせなかった会長からスタートしますか! どちらを選びますか?」
「そうだな……」
白銀は先程公開されたお題を思い出して何が一番質問数を増やせそうかを考える───素振りを見せ、四宮のアピールらしき『ライオン』のお題について考えていた。
(四宮の持つライオンを取るならば、藤原へ取られる前に先に引くべきか……だが確率的には後の方が高い。ならば)
「ふじ───」
藤原のを先に引かせて貰おう。
その言葉が放たれる直前、四宮から白銀へ
「───わらの先程書いたお題が気になるが四宮のを引かせて貰おうかっ!?」
それに屈さずにいろというのは難しく、白銀は咄嗟に意見を変えた。一学期に石上が「暗殺術極めている」と言っていた意味を何となく理解する。最早アレは眼で殺せる。というか噂にもなっていた。
意見を変えた白銀の言葉にニッコリとし、四宮は5枚のメモを差し出す。
(ババ抜き形式で相手が自分の持ってる札を確認出来る状態なら、眼の動きなどで推測出来るが……生憎と四宮もこれは見れていないしな。運任せで適当に引くしかないか)
「では会長、まず一枚どうぞ」
「ああ」
白銀は自分の視点から見て右側から二番目のメモを手に取る。
一文字目を見た時点で『ライオン』ではない事を理解して溜め息。対して四宮は安堵した様に一息。白銀は四宮の様子に気付いて訝しげに見つめた。
まるで何か思い通りにいったような、安心したが故の溜め息。それを疑わない筈がない。
だが人の思考を見通せる筈も無く、白銀はメモに書かれたお題を見ながら四宮に問い掛ける。
「さて、始めていいぞ」
「では……1、あなたの好きなものですか?」
「ああ」
「2、懐かしいと感じる物ですか?」
「いや」
「3、正しく良いものであると断言できますか?」
「……ああ」
「4、破廉恥なものですか?」
「………いや」
白銀は再度訝しげな表情となる。いや、確かに質問ゲームとしては間違っていない質問ではある。大幅に捉える質問であれば、全てのお題から厳選出来るのだから。しかし決定的となる様な質問が無い。
このゲームに於ける勝利への道筋は、元々考えていたお題を確信出来る要素たる質問を一つずつ出していく事。何故ならそうすれば、最大でも合計14問(5+4+3+2)で済むのだ。態々回りくどくする必要はない。
しかし狙いが分からない以上、ただの質問としか認識するしかない。
訝しげに見つめる白銀に対し、四宮は少し考える様な素振りを見せて藤原に問い掛ける。
「……藤原さん、回答に失敗した場合のパターンを聞いていませんでしたね?」
「はっ、そういえば! ええとですね、お題とは違う物を答えた場合は、質問した回数が+20となります。これは元々のゲームが“20”の質問だからと、後輩ちゃんが」
「四問質問した上で失敗したらその四問分は追加されるのでしょうか?」
「いえ、一つのお題につき20問固定です」
「分かりました」
(……なるほど、四宮はこの可能性も考慮していたのか。ならば周到に質問するのも頷けるが)
「では質問を続けます。5、若者に人気ですか?」
「否、だと思う」
「6、食べ物ですか?」
「いいや」
(……6問を超えるくらいならば、やはり確信出来る一つの質問をした方が良かっただろうに。やはり何かを狙っている……? だがこの質問の順序を考えれば、かなり答えには近付いてるか)
20の質問である事を前提にしたゲームであるならば四宮の質問の並びは然程不自然では無い。しかし質問回数の少なさで競うこのゲームに於いて、四宮がそれを理解せずに質問回数を重ねるとは考え難い。
やはり何か狙いがあるのかと深い思考に陥る白銀。対して四宮は余裕の笑みで質問を続けた。
「7、染み付くほど癖になりますか?」
「ああ」
「8、飲み物ですか?」
「ああ」
「なるほど、答えはコーヒーですね」
「……正解だ」
「ではかぐやさんの1問目は、8回ですね!」
問題なくお題への回答は正解となる。しかし回数が自由であるとはいえ、最大でも14回で済む質問に対して一度で8問も使ってしまうと、勝率はかなり遠くなる。
白銀は再度考える様な素振りを見せると、何か引っかかった様に先程の質問を思い返していた。
(何か引っかかる……いや、何かを見落としている? 一体何を……)
「さあ会長、続きをどうぞ」
「む……ああ、分かった」
だが思い当たらせてたまるかと言わんばかりに、四宮は目を細めながら笑みを浮かべて続きを催促する。
白銀はまたも適当に、左から2枚目のメモを引いた。それに書かれたお題は───
(ライオン! なるほど、物欲センサー恐るべし)
1枚目はライオン引きたさによって物欲が溢れていたが、2枚目は思考に陥っていたが故に物欲センサーは反応せず、見事狙いのライオンを引き当てた。
───なんて運命干渉事象なんて起きてる訳では無く、単純な必然的行動予測である。
四宮は全てが予定調和だと、静かに笑った。
(狙い通り……今回は私が一枚上手でしたね、会長)
そう、奇跡などではない。全てが四宮の予定調和。
白銀に『コーヒー』と『ライオン』を引かせる事は前提。多少のトラブルがあったものの、問題なく進行している。
種は簡単だ。四宮は引かせる前のシャッフル時、全てのお題の順番を覚えながら不自然にならない程度にゆっくりとシャッフルしていた。カードとは違ってペラペラな為、多少遅かろうと全く不自然にならない。
事実、白銀は『ライオン』を引いた際に四宮の事を全く疑っていなかった。
心理上、リラックス状態で適当に引く場合、人は自然と利き手側を引きやすくなる。しかし一番端というのを無意識に避け、中心の利き手側が必然的に引かれるのだ。それが『コーヒー』というお題。
そして次に引く際は、人は似たような立ち位置を避けて今度は逆の方を引く。これに関しては端だろうと中心部分だろうと特に関係はないが、白銀ならば確実に中心側を引くと確信していた。
故にこれは全くの偶然ではない。もしかしたら外れていた可能性があるだけの、狙い通りの必然だ。
「では質問です。1、古風ではなく現代風ですか?」
「どちらかと言えば、そうだな」
昔から生息している生き物ではあるが、動物園やら最近になって映画に出てくるやらしている事を考えれば、現代風と考えても良いだろう。何も昔に絶滅したわけでもないのだから。
「2、轟くものですか?」
「ああ」
二つの意味でYES。百獣の王として名は轟いているし、その雄叫びは周辺に轟く。間違いなくYES。
「3、外見は生物ですか?」
「ああ」
「4、酔狂でしょうか?」
「………否、だな」
「5、近眼ですか?」
「いいや」
「6、木偶の坊ですか?」
「いや」
「7、素手で勝てる相手ですか?」
「いや」
酔狂という言葉の意味に悩み言葉が詰まるが、物好きかどうかという意味で捉えればそうでもあるまい。ライオンの視力は人間の約五倍である為に近眼ではない。木偶の坊どころか猛獣筆頭である。現実的に考えれば素手で勝つなどあり得ない生物。
そして、8問目。
「8、カッコイイをイメージさせる生き物ですか?」
「ああ」
「……なるほど、ライオンですね」
「正解だ」
これも問題なく正解。……だが、白銀は何処か腑に落ちない様子で四宮を見つめる。
それもその筈。白銀はライオンを「映画に誘う為のお題なのでは?」と思っていた為に、お題がライオンだという可能性が高くなってきた時点で「今年映画化されるもの、或いはしたものですか?」という質問が行われるのかと思っていた。
しかし行われず、またも長い質問の後に通常通り答えただけだ。アピールの素振りもなく、単純に質問ゲームをしただけ。腑に落ちないのも当然だ。
そんな様子の白銀を置いてきぼりに、四宮は藤原の前に置かれたメモを一枚引く。
質問は順当に進み、やがて五度目の質問へと進む。
(5回連続とは運が無いな、藤原書記)
「……5、それは物をくっ付けるものですか?」
「いいえ」
「んん……?」
「ん……?」
5度の質問を繰り返し、なお悩む様子の藤原に、白銀も似たような疑問符を浮かべる。
原理上、この質問ゲームに於ける質問回数は、3人プレイの場合最大でも5回で済む。それは当然藤原も認知している事。にも関わらず、何故5度の質問をした上で悩むのか。
───引っかかっていた事があった筈だ。それはなんだ? どのタイミングで引っかかったのか。
四宮が8度も質問を繰り返した事? いや、それは当然だ。しかしもっと具体的な疑惑があった筈。それは一体なんだろう。
「うー……ぺ、ペットボトルです!」
「残念、テープです」
「物をくっ付けるものって質問の答えがNOだったじゃ無いですか!?」
「あら……私としては、物を補強するというイメージが強かったものですから。申し訳ありません」
(そ、そうか。これの原型は20の質問……
わざわざ回りくどく質問を繰り返していたのは、相手が「分かってはいるけど自分としてはこっちのイメージが強いので」という体を装う事に対しての配慮!
回答者が有利なゲーム? いいや、ただ淡々と質問に答えるだけならば確かにそうだが、これはプレイヤー同士の争い! 回答者がどうやって一つの質問で答えられるかを考えるならば、受ける側は如何に屁理屈をこねられるかが勝負の鍵を担う!
藤原は質問数が20プラス! 対して四宮は16! この時点で四宮が優位に立ったのは間違いない!
これはやられたと、白銀は四宮のガチ具合に感嘆する。
そう、明らかなヒントは確かにあったのだ。一つ目のお題『コーヒー』の7つ目の質問。「染み付くほど癖になるか?」。これは白銀が重度のカフェイン中毒であるが為の「はい」だ。苦手な人物ならば確実に「いいえ」となる質問。
対象者の考えを読む為の質問。やはりルール理解度に於いて四宮は一枚上をいっていた。
「そんな抜け道が……」とゲームを始めた本人が表情を驚愕に染めていると、四宮は続きを始めんとばかりに藤原の前に置かれたメモを手に取った、
───そこからは淡々と進んだ。
このサークル質問ゲームに於ける勝利への道筋が断たれた現在、藤原は確実に思い通りになる質問を考え続け、結果11度の質問を繰り返す。20に比べれば大いにマシではあるが、この時点で藤原は質問回数31。16回の四宮に比べれば圧倒的な差となっている。
続く白銀は一つ目を10、二つ目を9回の質問で答え、なんとか四宮との差を三で済ませる。
「もしかして俺と映画を……?」なんて乙女脳を抱いていた己を疎ましく思う白銀を見て、四宮はふと笑みを浮かべた。
もしかしたら
まあ気付かれていようと気付かれてまいと、影響の差異程度でそこまで問題でもない。
四宮は立ち上がり、白銀の前に置かれたメモへと手を伸ばす。座ったままでは少々距離があった為だ。それに気付いた白銀がメモに手を伸ばして四宮側へ持っていこうとし、顔が近づいた───その刹那!
「
「え……?」
藤原に聴こえないよう、四宮は小声で白銀の耳に囁く。白銀は唖然と声を零し、思考を回す。
どれが───どちらかならば『コーヒー』と『ライオン』のどちらかに何か仕掛けをしたと考えられるが、「どれが」となると三つ以上の質問が存在する事になる。
何を仕掛けたのか。白銀は思考をフル回転させ、やがて思い当たる。
(頭文字……か?)
あの予定調和だという笑みを考え、コーヒー→ライオンの順番で取らせたのを意図的だと考えるならば。
(あ な た は わ た し の……こ と が す き で す か……ッ!?)
そして、このライオンのお題に於ける最後の質問に対する回答は「YES」。無意識で気付いていなかったとはいえ、告白したと認識する事になる。
藤原は気付いているのかとバッと視線を向けるが、先ほどの質問ゲームの内容に納得できないかのような不満げな顔をしてるだけ。
つまり既成事実を作るつもりなどなく、単純に二人だけが理解している裏事情。二重の意味でやられたと、白銀は額に手を置く。
───その後の最終計測は、四宮が27、白銀が32、藤原が48となり、四宮の一位となった。
本日の勝敗。
四宮の勝利(ゲームにも勝ち、間接的にとは言え白銀に「好き」と言わせた為)
筋肉痛がひいてない状態でTG部の後輩ちゃんに20の質問改造計画のアイデアをそれとなく匂わせるような行動を起こしていた広瀬「鬼畜……やっぱ鬼畜だ、四宮……ッ」
そしてアイデアを固める為に色々とそれっぽい会話を不自然になりすぎない様に行なっていたハーサカさん「頭が痛い……糖分が欲しいです」(白銀誕生日ケーキのフラグ)