今話は10200文字!
ではどうぞ!
「皆で仮装パーティーをしませんか?」
生徒会メンバーが集うこの生徒会室にて、書記を務める藤原の声が響き渡る。それまで静寂な空間で響いていた書類をめくる音、キーボードを打つ音は止み、その発生源たる存在達は視線を声の主へと向けた。
「来週はハロウィンじゃないですか? 生徒の皆さんも理解してるとは思うんですけど、流石に正式なイベントでない場面で盛り上がりすぎるのはイケないと思うんです」
「……はあ」
「だから学校での正式イベントとして処理すれば、生徒の皆さんも気にせず盛り上がれるんじゃないかなーと」
相槌を打つ様に溢した四宮の声に続いた藤原の言葉を聞き届け、やがてその場の視線は藤原から伊井野へと移される。盛り上がり過ぎる問題の第一関門が間違いなく風紀委員だからだ。
伊井野は僅かに考える仕草を見せた後、コクリと頷く。
「はい。一応学校行事としてであれば、多少は許容されるかと」
「けど藤原先輩、元々学校行事として行われている体育祭や文化祭は兎も角、無かったイベントを取り付けて学業が疎かになるのはマズいんじゃないですか?」
「仕事してる風に見せ掛けてパソコンでゲームしてる石上くんの言葉に説得力のカケラもありませんよ?」
「仕事
「ゲームしてる事には変わりありません、はい論破」
「おいおい、話が脱線してるぞ……」
珍しく言い負かされない強気な藤原と石上の言い合いに溜め息を吐きつつ、白銀は人差し指を立てて口を開く。が、直前。四宮が呆れた様に淡々と言い放つ。
「行う必要はありません。ハロウィンは古代ケルト人が起源と考えられている祭のこと。元々は秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事です。日本に関係ない行事を都合よく解釈して出来たイベントを行う必要なんてありません。大体、日本でのハロウィンの解釈などお菓子交換や仮装パーティーなんて浅はかなもの程度でしょう。それなら態々学校でする事ではありません。時期的にも今からでは少し難しいです。藤原さんはもう少し考えてから企画を───」
「かぐやさんかぐやさん、これ考えたの会長ですよ?」
「すみません会長なら何かお考えがあってのことですよねッ!?」
骨折が心配される程の掌返しである。
落ち込み傷つき若干涙目になっている白銀は、流石に全力で否定し過ぎだろうといじけた。白銀の弱気な部分と四宮の迫力に押されたのだろう。誰も『会長なら』という間接的に藤原を罵倒する言葉に突っ込まない。
「……四宮先輩がそこまで全力否定するのも珍しいですね。何か理由でもあるんですか?」
「ぅ……いえ、その……」
───当然だが、四宮がここまで拒否反応を見せるのには理由が存在する。そう、それは空よりも高い問題。幼き頃のトラウマ……
(猫耳でアレだけの破壊力があったんですもの! 更に似合う仮装なんてされたらルーティン如きで理性を抑える自信がないわ!)
なんて事は一切ない今年の出来事である。そう、藤原が呪いの猫耳と称した例の件。アレによって四宮は逆に白銀の一挙一動に於ける鼓動の高鳴りに対して耐性を得たは良いが、ルーティンに於いて「あの破壊力よりはマシ」と考える仕草を行ってしまう為、猫耳以上に破壊力の高いモノを出されたらルーティンで抑えられるかどうかは不安要素。
ルーティンに補正を掛けていた筈の考えが、逆に興奮度合いを上げるブーストとなる。出来れば仮装パーティーは避けたい行事だ。
「……! もしかして四宮先輩」
(え、バレ……)
「今は糖分の摂取を避けているんですか?」
(てないわね)
「肌の荒れやスタイルの維持をするとなると、糖分の過剰摂取を抑えるのは必須ですからね……」
幾ら前向きになったとは言え、人の本質とはそう簡単に変わらないモノ。かなり気に触る部分を触れてきてはいるが、「太ってきたんですか?」とストレートに聞かないだけまだマシだろう。
四宮は内心安堵を浮かべつつ、これは使えると微笑みながら言葉を紡いだ。
「ええ。最近は
流石にウエディングケーキ並のケーキ量は多過ぎた。早坂達使用人や
強ち嘘とも言えない事実なので、石上は無意識に素晴らしいフォローを成した。恐らく後にご褒美という名の教育が行われるだろう。
「……いや、無論その辺りも考えている」
「え?」
窓の外を見ながら扇子で仰いで心を落ち着かせた白銀は、開いた扇子を閉じて視線を皆の方へと向け、普段の真面目な表情を見せながら答えた。
「仮装パーティーと言ったろう? これは交流会を目的とした企画だ。高等部、中等部、小等部の合同イベント。……本当は幼等部も交えたかったんだが、距離的に7歳以下の子達が自主的に来れる長さではないからな。で、高等部は主に仮装とお菓子を与える側。中等部は仮装も自由だし、お菓子を与えるも良し、貰うも良し。そして小等部も仮装は自由、主にお菓子を貰う側だ。つまり高等部の俺達は貰う事はないので、糖分の摂取はないぞ。もちろん個人的な交換を止めるつもりはないがな」
(唯一の逃げ道がっ!?)
「それと放課後参加だから、基本的に来る来ないは自由だ。生徒会組は示しの為に参加して欲しいが……」
糖分摂取を気にしてるなら無問題だと断言。四宮の逃げ道は完全に断たれる。生徒会の仕事であれば参加の拒否はし難いし、何より他の人達は参加する気満々の中では否定しづらい。
伊井野はイベントとなれば風紀委員の仕事も兼ねて参加する他ないだろうし、藤原は当然の如くイベントに出ないはずが無い。唯一否定しそうなのは石上ではあるが、彼も彼で心変わりしてきた今頃。否定などせず、寧ろ嬉々として参加の意を示した。
やがて四宮の思考は「どう参加を拒否するか」よりも「参加するかしないか」のYES or NO思考へと変化する事で、参加する事へのメリットについて考え始める。
そも、なぜ参加を拒否しようと思ったのか。猫耳を超える破壊力の仮装でもされたら理性を保てるか分からない為。だが同時に考えてみよう。参加しなかったら白銀の破壊力のある仮装を見られないのではないか? と。
確証のない理性を抑えられないかもしれないという推定と、間違いなく着るであろう仮装を見れなくなる仮定。どっちに赴くか……なんて、状況も相まってもう決まってるようなモノだ。
「そういう事でしたら、私も参加しましょう」
「うむ、決まりだな。予算は学園の方から出して貰えるように申請し、衣装は演劇部から借りられるか交渉しよう。取り敢えずは企画を校長の方に通しておく。演劇部への交渉は……藤原書記、頼めるか?」
「はーい! ついでにハロウィンパーティーの事もそれとなく伝えておきますね!」
「企画書やイベントポスターなどの作成は石上に任せる。補足などがあれば随時」
「うっす」
「それから───」
生徒会全員が賛同すればもう即決行である。それぞれに役割分担を回し、白銀は必要な会議は終わりだと締め、やがて一枚の紙を持って生徒会室を出て行った。
多くの生徒に楽しんで貰うならばその方が間違いなく良策であるし、メリットは大きい。決行日一週間前というギリギリを責める狙いは白銀 御行にしては珍しい判断だ。
しかし実のところ、この判断によるメリットというのはそこそこあるのだ。もちろん時間を掛ければその分充分な程整えた設備で行えただろう。しかし同時に準備する手間は掛かるし、ハッちゃける度合いが相応に上がってしまう。
つまり、整いすぎない会場で行うことで生徒達に抑制を与えるのだ。あくまで心理的な問題だからどれだけ効果が出るかは不明だが、多少なりとも影響は出る。
そしてもう一つの利点。校長への牽制だ。あの人校長の癖に校長らしからぬ行動をするパターンが非常に多く、結構な難題を押し付ける事が多々存在する。例えば今回の場合、
ハロウィンは世間一般的に行われるイベントの認識ではあるものの、学校行事として行う場所は少ない。あくまで生徒間でこっそり行うのが常だ。元々行っていたであろうモノを多少オープンに出来る様にしただけであれば、仮に一週間前に企画を建てたとしても行うのは可能な範囲。
つまり校長に余計な事をさせず、イベントの企画を実行するのであれば、ギリギリは寧ろベストタイミングなのだ。
何より白銀には目的があった。
そう、これはイベントだ。幾ら小規模で参加人数がそれなりに絞られているとは言え、学校行事には変わりがない。であれば、当然マスメディア部は動くだろう。
そうなれば必然的に写真が撮られる事は間違いない。人数が少ない上に立場を考えれば、会長と副会長のツーショットというのはあり得なくはない。あの猫耳の時は撮れなかったモノを自然体で写せるならば、これ以上に都合のいいことはないだろう。
つまりこのハロウィンイベントは、完全に白銀の私欲である!
「───というのが、大まかな理由かと」
「……いや、怖いわ」
イベントに発展するまでの過程の想定を発した早坂に対し、広瀬は若干引いていた。理由は簡単。白銀の様に恋愛頭脳戦などやってる性格から考えれば、確かにあり得そうだと思えてしまう考えを見事に言い切ってしまうからだ。
通常人間というのは、「この人の考えはズバリこうだ」という、断言の難しい他者の考えを推測した言葉というのは信じ難い生き物だ。創作物に於ける設定の考察などは納得のいくものこそあるだろうが、その考察を受けて考えた結果、更に納得のいく考察が出来る事例は珍しくない。偏に説得力さえあればどのパターンもあり得るから。
故にこそ、「他の可能性があるんじゃないか?」という考えを浮かばせずに納得させる説得力には引いてしまう。
「青星くんだってこの位見抜けるでしょう?」
「その場に居ればな? 俺の思考って感情が基になってんだから、感情を知らないまま見抜くとか出来んわ」
「充分な能力ですよ」
甚だ心外だと不機嫌そうに呟く早坂と、困った様に眉を下げて頬を掻く広瀬。何故二人で一緒にいるかと問われれば、イベントに参加してる為と簡潔に答えよう。
高・中・小の合同イベントは滞りなく行われ、当時予想されていた人数をそこそこ上回った規模での開始となった。本来であれば秀知院小等部の教師が引率を行うのだが、予想を超えた人数であると同時に教師としての仕事が残っている人物が多く、人手不足が目立ったのだ。自主的にやってかれるならば兎も角、ボーナスが出ないだろうボランティアを強制させるのも忍びない。その為、一部の引率は高等部の生徒が担う事になったのだ。
もちろん他の仕事がある風紀委員や生徒会は人員を回せないので、生徒達のボランティアである。
広瀬・早坂の他には、自分の分の仕事を終えてやる事がなくなった為に立候補した石上と、当然の様にイベント事を見逃さない子安つばめ。
「それで、その思惑を見抜いて何をするんだ?」
何を
「それだと悪巧みしてるみたいではないですか……今回は寧ろ良心故の行動ですよ?」
「……?」
「四宮家は公に出る可能性がある写真はなるべく止める様にしてますので。会長の『マスメディア部に撮らせる』という考えが止められてしまうんです」
「ああ……捏造写真とか作られても困るしな」
特にマスメディア部には彼女の信者が存在している。マスメディア部が危険というよりか、
その辺りの事情は知らないにしても、広瀬は『4大財閥の娘』である事を省みて理解を示す。
「……撮らせる訳にはいかないって事は、撮ろうとしたら絶妙な邪魔をするって意味で捉えていいのか?」
「ええ」
「ネットにあげるつもりもなく、あくまで友人関係として撮る分には問題無いんだな?」
「はい」
「つまり、白銀と四宮のツーショットを撮れって事だ……」
「その通りです。最小限の説明で理解を示していただき、私は嬉しいですよ」
「厄介ごとを引き受けたみたいでノリ気にはなれんけども。……ま、そのくらいなら良いけどさ」
広瀬は苦笑しつつ、カウンセラーの仕事とは程遠い友人からの願いに了承した。ある意味これも気遣っての事かと疑問に思っていると、早坂は広瀬をジッと見つめる。首を傾げれば、早坂は遠慮がちに言葉を紡いだ。
「……最近は忙しかった様子なので、今回のイベントには参加しないと思っていました」
「あー……まあ、うん。でも別に無理やり予定を空けたわけじゃないぞ? 本当に偶然、今日は手伝いのお願いが無いだけだ」
苦笑しつつ、その証拠にと言わんばかりに目元をトントンと人差し指で撫でる様に叩く。気怠げな様子などなく、しっかりと眠れているのが目に見えてるだろう? と、そう発してるかの様だ。
それでも心配そうに見つめる早坂に広瀬は苦笑を深め、しかし心配を解く様な発言はしない。今ので納得しないのであれば、どの道心配は途切れないと察したからだ。変に理由を重ねるよりも、どうせならば心配させたままでいい。
「……それとも、参加しない方が良かったか?」
「いえ、参加してくださるならば私も嬉しいです」
「ぅ……久しぶりにどストレート」
「私を気安く扱える様な女とは思わない事です。……なーんて」
最近はかなりやり返す機会が多かった為、不意にやり返された事に広瀬は動揺する。揶揄う様に、だが微かに頬を染めて舌を出す早坂に、広瀬はそっぽ向いた。四宮家での一件以来、揶揄う仕草が回りくどくなっていたから広瀬は感情を揺らしつつも対応できていたが、体育祭を経てどうも夏休み前に戻ってしまった様だ。
いや、正確には感情を隠す事なくストレートにぶつけてくる為、以前よりもタチが悪い。
視線を外した広瀬を見て僅かに身を震わせ、微かな笑みを浮かべ、高揚する早坂は、その口を耳に近づけて言葉を紡ぐ。
「高等部組はお菓子が与えられませんからね。ハロウィンらしい事をするならば、この言葉が適切でしょうか? ……
「〜〜〜ッ!? ッッ!?」
四宮曰く、早坂は相当に意地が悪い性格である。今までは好意対象……恋愛的対象がいなかったので『困らせてやろう』という意地悪性格で収まっていたが、『この人は離れないだろうし、私も離れたく無い』と想える対象が出来てしまったが故に、その性格は“S”へと変化した。
本心を隠し続けてきた人物がハッチャけるとここまで怖くなるのかと、人の感情に誰よりも触れてきた筈の広瀬は初めての経験に身を震わせた。
「……お二人さん。一応ここ、小等部だから……ね?」
つばめの言葉に広瀬と早坂はハッと辺りを見渡して、既に目的地へと着いていた事を理解し「別に何もしてませんけど?」と言い訳する様に洗練されたシンクロを披露させつつそっぽ向く。その顔は赤く染まっていた。きっと寒さのせいだろう。明日からはマフラーを着けようと決意する。
「全く……見てるこっちが恥ずかしいったらありゃしないわよ。ねえなぎ……」
「
「うーん、渚をお菓子にしたいな……」
「やーだもう!」
「………」
普通にバカップルもいるのである。公衆の面前など気にしないと言わんばかりにハッキリとした声で紡がれる言葉に「こんな事をしていたのか」と広瀬と早坂にダメージが入り、一人の少女は瞳孔を限りなく開いて目を血走らせる。
その場の空気が淀んでいく中、一人の少年が石上に近づいて行き、ズボンを引っ張って問い掛けた。
「なあお兄ちゃん、あの人たちは何をやってんの?」
「ん? アレはね、リア充であるという周りへの牽制なんだ。恥も外聞も気にしない青春の二文字に人生を賭けるある種プライドの高い性欲公開人間だからできる行動なんだ。君たちは手を繋ぐだけでも躊躇う様な初心な関係を紡ぐんだよ? 18歳までは童貞を貫き通すんだ」
「ちょっと優くんッ!? それどう考えても十歳児に聞かせる言葉じゃ無いよねッ!?」
「あのお姉ちゃん達、びっちなのか……!」
「何でそんな言葉を知ってるのかな!!?」
つばめのツッコミが冴え渡る。この人選が神様の選択だとしたらそんな神は死んでしまえと言いかねない程に状況は
二人は顔を覆って蹲り、一人は悟った様に見せながらも血走らせた目で窓から空を見上げ、二人は外聞など気にしないと桃色空気を出しながら笑顔であり、一人は少年に優しい風な笑顔を見せながら狂気的に笑い続け、一人はどう収集をつけるべきか焦燥を見せる。
偽りカップルに三角関係に青春ヘイト人間が集う、この無敵感の前には、真のリア充たるつばめでさえ対応など不可能だった。
「……大丈夫なんですか?」
「だ、大丈夫です! 一応大人の部類に入りますから! 数分後にはキッチリ表情を改めますので! ……多分。……ちょっと待っててください」
普段の爽やかリア充空間を作り上げる人間性はどこへ行ったのか、自信なさげに小等部の教師の疑問に答え、一息間を置き、両の手の平を勢いよく打ち付けた。
「さあみんな、二列に並んで着いて来てな? 道路は公共の場だから、広げて独占しない様に!」
「隊列を乱す子は、お姉ちゃんが悪戯しちゃうぞっ?」
───さて、今一度言おう。広瀬・早坂の二人は、事演技に於いて他を突き放す天才性を持っている。広瀬は誰よりも感情を理解してるが故に、早坂は偽りに生きてきたが故に。
そんな二人にとって、一瞬で表情を切り替える事など朝飯前である。
柏木に関しては風紀委員相手に躊躇なくブラフを張って自然さを装う部分があるし、四条は一応四宮の血筋を持つが為の天才性もあり、石上は青春ヘイトがなければ陰よりの普通の男子生徒。
つまるところ、「子供達が慣れ親しむ様に今までは演じていただけ」
パッと表情を改めたその場の高等生徒組に、大人もつばめもドン引いている。彼女達は先ほどまでのが演技ではないと理解してる為だ。数分後どころか一瞬の切り替えには最早尊敬さえ覚えてしまう。
だが引いてるのはあくまで大人とつばめだけであり、子供達は本能的に心を許し、元気よく「はーい!」と返事した。
高等部生徒に於いて、このイベントはハロウィンよりも仮装パーティーである。お菓子を貰う立場にはないので、コスプレの方に全力を注ぐのだ。
広瀬達が小等部生徒を連れて来る間に、秀知院高等部生徒達は衣装やメイクを終え、やがて入場して来た子供達を歓迎する。
「
体育館の舞台中心にライトが当てられ、軽く吸血鬼のコスプレをした白銀は、流暢に歓迎の言葉を紡ぎつつもほんの少しユーモアを交えて会場全体に明るい雰囲気を保たせつつ、最後に大きな宣言をした後、親指の腹と中指を合わせて
白銀の後ろで閉じられていた舞台幕は勢いよく開かれ、暗闇に包まれていた会場に明かりを照らし、白銀が舞台を飛び降りると同時に舞台裏からコスプレをした新体操部が現れる。
お化けがゆらゆらと揺れ、ガイコツがカタカタと音を鳴らし、ゾンビがゆっくりと歩く。単純ではあるが、「これぞこのキャラ!」という特徴をしっかりと押さえた動きに、会場は盛り上がりを見せる。
白銀は閉じられた舞台幕に寄り、マントを翻してお菓子が入った籠を取り出す。一見急に現れたように見えるが、舞台幕に隠れた生徒がマントを翻して隠した瞬間に手渡しただけである。しかしこういった演出があるだけでも場は盛り上がるものだ。
そんな光景を見て、体育館の舞台裏から上がれる二階で広瀬はふと思った。
(これ一週間のデキじゃないだろ……)
一週間で練ったと周知されている筈のイベントなのだが、あからさまに新体操部の動きがいいし、演出が凝っている。部活動や文化祭の事を考えれば一つの事だけに集中できる筈ないので、一週間で完成度を高くするのは難しい。
広瀬は早坂の推測を振り返りつつ、白銀の狙いを今一度思い返した。
(校長の余計な手出しを封じる目的は当然あったんだろうな。でもそれは負担軽減ってよりも、編んでいた演出を変えない為……。白銀、企画の提案自体は一週間前だったけど、実際は一ヶ月近く前から練ってたな)
正確な時間にこそ差異はあるが、大体は広瀬の考える通りだ。企画そのものを決定するのは一週間前だったが、恐らく行う前提でそれ以前から準備を進めていたのだろう。
(で、一週間前故に参加可能な人はある程度限定される……という予想を上回る人数が参加するのも
そうだ。期待値が高い場合、相応に自分の度合いも高くなければ参加しにくいものである。故に期待値が低いからこそ、気軽に参加する人を増やしてるのだ。
(その期待値の低さから、期待以上の高さへの幅……それが盛り上がりを補正させる一手となっている)
そう。以前早坂が生徒会選挙の際、四宮に話した事と同じだ。人は盛り上がりや展開の幅によって心を動かす生物。早坂はそれを予想外の手を潰すという意味で止めていたが、場面さえ間違えなければメリットに働く。
白銀が四宮とのツーショットを欲してたのは間違い無いのだろうが、それ以上に『他者が楽しんでくれるような設計』にしたのだろう。流石生徒会長と苦笑を深め、広瀬は楽しむ為に二階から降りていった。
やがてお菓子は無くなり、夕日に照らされながら子供達は帰っていく。お菓子の入った籠を持っていた人の顔は悪戯の跡のように水性ペンで線が引かれており、それを拭っている。新体操部の人たちは疲れたと喉を潤し汗を拭き、それぞれお疲れさまと声を掛け合う。
色々と騙す様な形になってしまった企画だ。四宮は呆れた様に白銀を見つめ、白銀は揶揄う様な笑みで人差し指を立てながら紡いだ。
「Trick or Treat───お菓子が貰えないから悪戯したよ、って感じでどうだ?」
お菓子の交換を行えないと断言した以上、それは受け取るも与えるもしないという明言に他ならない。それはハロウィンに於いて悪戯の対象となり得る行為だ。
ともすれば……まあ、悪戯として許容するのは悪くないだろう。折角のハロウィンだ。気分悪く終わるよりも、こうして仕方ないと笑って済ませた方が良い。
四宮はふと思いついた様に、笑顔で白銀に近付いて呟いた。
「Trick or Treat───お菓子をくれなきゃ悪戯しますよ?」
「ふ、残念だったな四宮。しかと菓子は用意してあるぞ」
「あら残念。これじゃあ悪戯できませんね」
「……? どんな悪戯をするつもりだったんだ?」
「さあ、どんな悪戯でしょうか?」
四宮は魔女の仮装に相応しき妖艶たる笑みを浮かべつつ、はぐらかす様に帽子を脱いだ。
───本日の勝敗。
白銀の勝利……と、微かな敗北(結果的にイベントを大成功させ、念願のツーショットも手に入れた為。ただし最後の最後で四宮の真意を読み取れなかった為)