ではどうぞ!
人が疲れるシチュエーションに於いて一番に思い浮かぶモノとは、運動だと思う。筋肉の疲労、体力の消費、呼吸の乱れ。アドレナリンの分泌で脳の活動は活発になる事も多々あるが、それも風呂に入ったりベッドで横になるなどする事で止まり、一気に疲労が襲い掛かる。
しかしそういった肉体疲労での疲れとは別に、人間にはもう一つ“疲れ”と錯覚してしまう出来事が存在するのだ。
まあ疲労の種類など大まかに分けて二つ故、察してる人も多いだろう。『精神的疲労』である。
この疲れは、主に面接などの緊張する出来事や、普段日常的にやってきた事との違いを経験した際のギャップによって引き起こるモノである。
この言葉を聞いて浮かぶのは、入学、及び入社して直ぐの出来事だと考える人は多い。それも間違いではないのだが、あまり話題にならないだけで逆も対象となるのだ。
つまり、動いていた日常から一転して動かなくなる事。日常的に行っていた事を行わなくなった場合、行っていた事に適していた身体がズレを生じさせ、結果動いていないにも関わらず疲れを感じさせる事がある。
まあ何が言いたいかと言うと───
「……青星くん、そろそろお昼休みが終わりますよ」
「…………ぁあ、ん……りょーかい」
小学生に上がる前から働いていた人物が急に働かなくなればどうなるのか、ということである。
週5で学校、週4(場合によっては週7もあり)で仕事、夏休みに至ってはほぼ休み無しで働く。その分のお金は充分過ぎるほどに払われているし、広瀬自身の眼でそれほど苦労せずに終わるケースが多い為に普通のカウンセラーに比べれば遥かに楽ではあるからブラックとも言いづらい。
しかし激務である事に変わりは無い。そんな激務で熟睡出来ず仮眠で済ませて調整する事も多々存在した。最早仕事の為に適応していた身体が急激に休みを取れば、蓄積していた疲労が一気に襲い掛かるのは想像に難く無い。何事も“極端”は相応の対価が存在するのだ。
「……こうまで眠気が出るとは。一気に休むよりも、少しずつ身体を慣らすように休んだ方が良かったのでは?」
「ぁー……俺もそうするつもりだったんだけどな。なんか妙にやる気出ないというか……低血圧みたいな症状がずっと続いてるイメージ。一応
「サラリと当主の名前とゴッドハンドの医師の名前を出してくる辺りに驚かなくなってきた私がちょっと怖いです」
まあ海外に仕事しに行ったとか色々と予想外な所から人脈が現れる訳であるし。何なら国から貴重扱いされてる人物であるし。もう半年も近くで過ごしている訳だ。当然驚きは無くなってくる。
それはそれで怖いと悟った目になれば、広瀬は気怠げながらも笑みを浮かべて言い放つ。
「人類みな、最初は“赤ちゃん”だったって考えれば気が楽になるぞ?」
そもそも、広瀬からすれば、全ての人間の共通点に“感情”がある。例え本人の考えが分からなくても、気持ちさえ分かれば通じ合うものは必ず存在するのだ。
早坂は「ああ」と広瀬の目を見つめ、納得の素振りを見せる。
「要は“共通点”などを見つけて親近感が湧く様にするという事ですか。偉人がどれだけ偉大な功績を残したとしても、人である事に変わりは無いですもんね」
「そ。……まあ傲慢さや卑屈さ、謙虚さや優劣が出ちゃうのも、また人間だからなぁ」
「……どれだけ偏屈で頑固な人でも、セックスによって生まれてるって考えれば大分緩みそうですね」
「愛は生々しく表現するのはやめような? セッ……て、女子高生が軽々しく男子の前で口に出していい言葉じゃないからな?」
「でも私も青星くんもセッ……して生まれてる事に間違いはありませんし」
「真似しなくていいから。あとそれ、聞き手が都合のいい耳をしてたら俺と愛がシてるみたいになるからヤメてくれよ?」
「…………」
「おい、モジモジし始めるのを止めろ。満更でもない顔すんのもやめてくれ」
……ごく最近、早坂にドSの気質が見え始めてからになるのだが。広瀬は早坂の思考が読めなくなってきている。感情は見えるのだ。そうはっきりと。見えすぎるくらいに。
だが見れる感情があまりにも複雑化している。基本的に人間は単調な思考が多く、それに伴い感情も単純だ。だからこそ感情を見れる広瀬は相手の思考を読み取れる。しかし早坂は無数の感情を浮かべていて、考えられるパターンが無数に存在するのだ。
簡単に言えば、満更でもないのが事実でもあるし、嘘でもあるという事。だからどちらが早坂の思考に合っているのかが分からない。情緒不安定な四宮でさえここまで感情が複雑ではないのだ。
何とも言えぬ表情で目を瞑っていれば、昼の終わりを知らせる音が鳴り響く。ハッと我に返り、広瀬は慌てて立ち上がった。
「確か次って教室移動だよな? 悪い、急ぐぞ」
「はい」
「ドキドキ☆第一回『告白♡大会』を始めましょうっ!」
「なんて?」
───困惑、困惑、呆れ、困惑。その場の全員に浮かび上がった感情である。
藤原の唐突な言葉にその場の一同は困惑、一名呆れに包まれ、「何言ってんだこいつ」と満場一致の考えと表情を表に出した。あの伊井野でさえ同様の表情である。
文化祭行事に於ける現段階での書類まとめや準備は概ね終わっているので、時間がない時に……なんて考えは一切浮かばないが、何故こんな時期にとは思い浮かぶ。
そんな疑問を感じ取ったのだろう。藤原はウザったらしいドヤ顔をしながら、「こんな時期だから、ですよ!」と紡いだ。
「文化祭は告白が最も多く、また恋人同士になる人達が多いイベントです! 雰囲気、シチュエーション、告白の言葉……その全てを総合して、最も付き合える確率が高い告白を決めよう、という事です! 幸いここには石上くんを除いて皆さん大変おモテになる人ばかりですから! ……というマスメディア部からの依頼です!」
「名指しはやめてもらっていいですか? 陽キャの感覚で陰キャの心抉られたら死にたくなりますので」
「……まあ色々と物申したい気持ちはあるが、判定は誰が決めるんだ?」
「其処は、ほら。この場にいる全員で」
「判定が大分傾きそうだぞ。個人によっては感覚も違うだろうし、ある程度設定は決めておかないとやるだけ無駄だ」
「そうですね。そもそも告白なんて、優劣を着けるだけ無駄かと」
「無駄無駄言われたら流石に凹みますよ……」
───白銀、及び四宮は、このゲームに於ける藤原の目的を即座に理解した。答えは簡単。告白とは、自分の気持ちを伝える行為。それは自分の心を吐露するのと同義。
全くの指定無しで「成功率の高い告白をして下さい!」に答えようとすれば、自分の好きな人に対する告白をするのと同義。もし何らかのミスによって相手の特徴を指す単語でも出せば、藤原は即座に感じ取って相手の特定を始めるだろう。
これはお互いを追い詰める材料に出来るが、同時に自分を追い詰める弱味にもなってしまう。それを二人は理解してるからこそ、せめて“設定”が無ければダメだと判断した。
それに、二人の言い分は最もだ。相手によっては伝える言葉や見せたいシチュエーションは変わるし、判定基準が相当バラける。優劣など着けるにも着けれない。何せ告白を受けるかどうかなど、相手に依るのだから。
「……あ。だとしたら適任する人がいるじゃないですか!」
「適任?」
「広瀬くんです!」
「……適任ではあるが、今は仕事中じゃないか?」
そう。広瀬は一度症状を正造に話してみた結果、やはり『急激な落差に身体が変な疲れ方をしてしまっている』との事だったので、程よく慣れさせる目的で“学園でのカウンセリング”を行う事になったのだ。
正確に言えば仕事ではないので報酬は無い。無償で国家重宝のカウンセラーに診させるのかと思ったが、「独立する目的なら伝手を作れるという充分な報酬があるヨ?」という校長からの言葉である。
まあ間違いでは無いし、資産も充分にはあるので納得した。ご子息・ご令嬢が集まる学園なだけあり秀知院自体の予算には余裕があるとはいえ、流石にカウンセラー一人の為に削りたくないという思惑は見え見えだったが、資産には困ってない事と時々校長がお土産を持って来てくれるのも相まって見逃している。
実績豊富なカウンセラーが受け付けている事実は秀知院全体の周知で、時折小等部や中等部、何なら大学部までの全てに対応している。
基本的な授業は当然受けなければならないので、仕事時間は昼休みと下校時間までの放課後。放課後の現在では仕事中なのではと思い問い掛けてみれば、藤原はニコニコと笑顔で答える。
「大丈夫ですよー。確かに秀知院全体の対応だから仕事が無いって訳じゃないですけど、基本的には暇そうでした!」
「暇そうでしたって……何で知ってるんですか?」
「TG部で定期的に行う秀知院TRPGで広瀬くんがカウンセラーの為に使ってる教室に入り込んだんですけど、笑顔で対応するくらいでしたので!」
「それ呆れ混じりの苦笑だぞ、多分。色々突っ込みどころもあるんだが」
「会長、TG部はこんなですよ。体育祭の数日前に風紀委員と遭遇して尚堂々と巨大サイコロ降るくらいですから」
「あ……確かに、やってましたね。意味がよく分からなかったので取締りの対象外だと思ってスルーしましたけど」
それ憧れ補正の贔屓が入ってないかと思ったが、伊井野は風紀委員の仕事をキッチリと熟す人間だ。その辺は弁えてるだろうし、マジで意味が分からなかったのだろう。白銀はそう判断した。
最近、伊井野の藤原への憧れが大分薄れていってる様に感じる。それと同時に友愛的な行動が伴っているので藤原本人に然程気にした様子はないが、無駄なDV耐性妻属性を持つ伊井野が割とあっさり変わり行く事実に、石上は疑問を覚えた。
まああそこまで痴態を見せる先輩に威厳のかけらも無いし、薄くなるのは当然だと思うが……。
「広瀬先輩も然程忙しいという訳ではありませんし、本人から承諾を得れば大丈夫かと」
なるほどコイツもカウンセリングを受けていたのかと、石上は納得する。確かに藤原に弄られてる際は毎度の如く「専門家のケア受けろ」とは思っていたが、本当に受けるとは思わなかった。
まあ十中八九広瀬が気を利かせた結果だろうと石上は考える。何度か愚痴をこぼした事があったし、広瀬の視点からすれば妙な違和感が付き纏うだろうからケアしたのだろう。
もしや対藤原特攻能力持ちなのではと、石上は思った。
「……まあ、そこまで言うなら本人に訪ねてみるか?」
(あれ、思ってたよりも乗り気じゃないですか!?)
少なくとも現状、藤原は提案者だから当然として、伊井野も否定的では無い。彼女に関しては憧れの先輩と関われるという側面が強いからだとは思うが。石上も石上で告白大会は兎も角「この機会に学ぼう」という気持ちがあるし、実際のところ藤原の「文化祭で告白する人が多い」という言葉の説得力もあった。
しかし、“モテる”という自覚はあっても“付き合う”などした事ない二人にとって、どういった告白が成功率を上げるかなど不明!
故にこそこの二人が否定意見を出しさえすれば、告白大会自体に乗り気なのがあくまで二人(藤原・伊井野)で数的にはイーブン。しかし権威のある白銀がいる否定派こそが意見を通しやすい。
だが白銀自身が肯定的では、数的にも権威的にもこの『告白大会』を実施する他なくなる。
幾ら内容が巫山戯ていると言っても、文化祭を機に付き合う人達が多い中で流石の四宮も『そういったもの』を意識せざるを得なくなっている。……あと近侍の話(という名の惚気)もそろそろ自分が実践したい気持ちがあるのだ。
更には四宮としての意地もある。実践に移したい欲がある以上、ここでの失敗は『失敗してはいけない状況での失敗』と同義。
白銀だってプライドがあるだろうから、否定派だと認識していた。だからこそ勝負を避けるのが最善で、四宮の中での決定事項だった。だがそれがひっくり返された事実に焦りが生じる。
何故白銀は否定的ではなかったのか。
それは四宮が『会長の避ける理由』と想定していた“プライド”こそが理由だった。
白銀には『自分がモテる』という事実ではある思考が存在するし、更には
更に言えば、白銀は三者面談を終えた辺りから『この際自分から告ってやる』という意思がある。その為に女子が喜ぶモノを模索し、相手の性格に合わせてシチュエーションをイメージしたり、人間的に心動かされる行動を何度も考えている。
あり得る才と繰り返された勉強。お手本を繰り返し学び、現在白銀は告白を成功させられる自信が存在してしまっているのだ!
無論、自分で定めた以上、
(そもそも、私に
児戯である。
一応言おう。これは藤原がマスメディア部から受けた調査ではあるものの、本当に愛の告白をする訳ではない“児戯”である。
その児戯によって原点回帰する四宮の思考。
「言っておきますが、告白というのは自らを吐露し相手との交際を望む言葉。本来であれば文化祭という
「あれ、もしかしてかぐやさん……自信無いですか?」
───本来であれば、四宮には多大なる挑発耐性が付いている。相手の思惑に乗ったりストレスを耐える為には必須なスキルだし、こと上流階級たる四宮家に於いては当然持たなければならないモノだからだ。
しかし四宮は幼少期から作られた人格を構成するが為、多重人格にも似た情緒不安定さ目立つ感情が存在する。それは脳に酷く影響し、人格にすら及ぶモノ。
絶対的な自信を持って最善策と定めていたモノをあっさりと放棄された挙げ句、一気に原点回帰する思考に揺れる脳。それは情緒不安定さを持つ四宮を感情的にさせる。
まあつまるところ、挑発を真に受けるということであり。
「やりますが? いいですよ別に、ドンと来いです。私、失敗しませんので」
「おお、そうこなくっちゃですね! さあ広瀬くんのいる教室へ行きましょう!」
この後めちゃくちゃ後悔した。
何故か落ち込んでいる様子の四宮と、やる気満々な藤原。そして考える素振りを見せるその他生徒会一同。視界に映るその様子に、広瀬は読んでいた台本を閉じて困惑した。そして問い掛けてみれば、その内容に仰天。何と勝手に『告白大会』などという巫山戯たモノの審査員にされているではありませんか!
「仕事しろよ
「これも仕事の一環なんですよ! 書類とか現状のモノは粗方片付いたので、マスメディア部からの依頼を受けたんです!」
「……まあ良いけどさ」
「いいのか」
「役立つとは思えないぞ? 性格なんて十人十色だし、受けるか受けないかなんて相手にも依る」
まして、設定を付けたところで『その設定通りのシチュエーション』など必ず訪れるわけでもあるまい。それを総合的に考えて“無駄”と切り捨てる。広瀬は人の心理が影響する事に関して間違いなく最適解の一人ではあるが、やはり内容が内容なだけに彼は引き受け難いだろう。
恋愛サーチに引っ掛かる依頼だったが為に引き受けていた藤原も「この依頼はやっぱり難しい」と思い直し始めた頃、白銀は人差し指を立てて喋る。
「広瀬、こう考えてみてはどうだ? 確かに必ずしも設定通りに行くわけではないし、正解がある訳でもない。しかし間違いが無いとは言い切れまい?」
「む」
「やってはいけない事を伝える……これも内容に沿うとは思うが」
「……まあ一理あるな」
ワンチャンス、広瀬が断ればやらなくても済むのでは無いかという四宮の希望は、白銀の説得によって砕かれた。
広瀬は手に持っていた台本を机に置き、さあ来いと言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「でも、設定を盛るつもりはないからな? シチュエーションは特になし。俺は純粋に評価を行うだけだから」
「ああ。では折角だし、一番手は引き受けた藤原から行ってもらおうか」
「え、私ですか!? うーん、中々難しいですね……」
やる気があったとはいえ、いざやれと言われればまた悩むモノ。藤原は数秒悩んだ後、「よし!」と声を上げて対面に座る。
「私は貴方が好きです。……大好きです。付き合ってくれませんか?」
「8点」
「……えっと、10点満点中ですか?」
「百点満点中」
「低い、予想以上に低いっ!?」
「何というか、告白って点に於ける模範解答が過ぎるな。それ自体は別に悪くないけど、ちょっと我が振りを見返してみよう?」
聖母の様な眼差しで、落ち着いた表情を見せながら告白する。まあ大抵の人物ならば藤原のルックスも相まって堕ちるだろうが、この告白大会に於ける問題点は
もちろん告白の言葉を考えるのがイケない訳ではない。寧ろ言葉を考えるのは大事な事だ。何を伝えようとするかを考えるのは間違いじゃない。
ただ、現在の藤原の告白の仕方では、広瀬
この言葉で心抉られたのは藤原だけではない。白銀もである。何せ彼は告白に於ける“シチュエーション”を最も大事にし、それに合わせた模範解答を武器にした結果が自信の正体だったのだから。
シチュエーションも特に定められず、模範解答がダメともなれば、自信が削られるのは至極当然。
続く伊井野に関しては。
「憧れ混じりで、吊り橋効果があるのかもしれません。でも貴方が好きなのは本当です。付き合って下さい」
「うん、80点。こういう事だぞ、藤原」
「私の10倍……理由が分からないです……」
「理由を言ったら
伊井野らしさのある真剣さというべきか、何というべきか。藤原のシンプルな告白とはまた違い、理由付けをした告白。
その結果を聞いた白銀は「理由付けの否応が関係している?」と考えたが、続く石上の言葉によってまた悩むこととなる。
「その桔梗の様に色鮮やかな人生を送る、貴方が好きです」
「んー……50点。
「ぅ……そういや青先輩、花言葉詳しかったですね……」
『色鮮やかな人生』という言葉を付け加えたから紛れているが、“桔梗”自体の花言葉を考えた結果の告白だろう。それは別に悪くない。しかし『変わらぬ愛』や『誠実』というのは、告白を受けてくれる事が前提だ。何せ振られてそのまま一途に居れる人間なんて中々いないし、日々変わりゆく人間が『誠実』を保ち続けられるはずがないから。
告白を受けてくれた結果として考えればプラスに働くだろうが、一種の『保険』として付けた言葉と考えてしまう場合もあるだろう。それを考えるとマイナスに働くのも無理はない。
だがこの結果を聞き、同時に白銀は至った。
つまりは『マイナス』となる要素を消す事。少なくとも受ける事が前提になる告白はマイナスとなる訳だ。
それを考えると尚更藤原の告白点数が低い理由が見当たらないが、それは理由付けを行なっていないからだと考える。
確信を得て告白を展開し───
「昔から、お前の事を気にしていた。単なる友好感情だと思っていたが、あの日お前に傍で見つめられてから、その顔が脳内から離れなくなり、俺はお前が好きだと気付いた。付き合ってくれ」
「40点」
「あれ!?」
「さて、最後は四宮だな」
質問を受けるつもりはないと言わんばかりに速攻で四宮に話を振る広瀬。白銀は基本的な5w1hを満たした告白にも関わらずとんでもなく低い点数に驚愕し固まった。
話を振られた四宮はドギマギする。何せ考えに考え抜いただろう白銀の言葉が半分にすら届かない点数だったのだ。対して考える基盤すら整っていない四宮が低い点数を想像するのは当然の出来事だし、そもそも何を言えばいいのかすら分からない。
ならばいっそのこと、傲慢に振る舞えば良いではないか。四宮に告白されて付き合わない男なんてそうそういないだろうし、「私と付き合え」の一言で万事解決だ。
白銀だってそう。シンプルに言えば、絶対に───
「……わ、私と……つ……付き合って、下さい……」
白銀への告白を意識した途端、顔に熱がこみ上げてきた。喉は震え、顔は真っ赤に。でも相手は別に白銀自身じゃないからと無理やりに意識して、言葉を出す。
「95点」
結果、伊井野を超える点数で一番となった。
「わ、私よりもシンプルなのに!?」
「いやー、
「それって広瀬くんの観点ですごい自己視点じゃないですか!」
「そうだぞ? 今の、単純に自己視点からの評価だしな」
そもそも最初から言っていた筈だ。純粋に評価を行うだけだ、と。客観的に見るなんて一言も言ってない。そもそも告白というシチュで客観的な判断は物凄く難しいからだ。
「え」と呆然する藤原に、広瀬は人差し指を立てて説明し始める。
「告白ってのは、相手の気持ちを想って言うものだ。だが受ける側が『告白への否応だけを考えている』って思ったら間違いだぞ? 白銀、お前はさっき5w1hを意識して言ったよな?」
「……ん? あ、ああ。確かにそうだが」
「あの40点はその分の評価だ。告白の言葉自体は根も葉もないホラ吹き、当然評価はない。でも40点に値する評価は含まれてる。それは何でか分かるか?」
「なるほど。相手の思い出に語り掛ける言葉であるから……ってことっすね」
「そ。受ける側の感情を駆り立てる言葉だから、その告白の仕方は充分“良い”って言えるレベルにある」
だから告白の言葉自体を改めれば、四宮とまではいかないものの、伊井野くらいの点数にはなっただろう。
「じゃあ、四宮先輩の点数が高かった理由は?」
「ギャップ萌え」
「なるほど理解しました」
人間『ギャップ』に弱い生物だ。ツンデレ属性を好む人が多いのはそれが理由の一つ。石上は即座に頷いて納得する。
が、未だ納得できない者が一人。
「私の点数が低い理由は……?」
「やらかしすぎ」
TG部の件もそうだし、性格その他諸々を総合し、広瀬は藤原に良い印象を持っているわけではない。その天然さあって人間性はバッチリなのだが、善悪はクッキリと浮かんで性格も相まって『付き合う』を前提にした告白は少々受け難い。
もちろんそれを前提に組んだ告白の言葉ならば、50点の評価はまだあり得る。しかし、そのルックスあっても有り余るマイナス点が余りにも多すぎたのだ。
シンプルだが心にくる言葉を残した広瀬は手を叩き、生徒会組を教室の外へと追いやった。幾ら暇とは言え、ずっと依頼が来ないとも限らないのだ。出来るだけ時間に余裕を持っていた方がいい。
とは言え、暇は暇である。その時間は先程置いた台本を読む事に掛ける。
台本を読み進めて数分。控えめなノック音と共に開いた扉から入ってきた人物に目を向けると、広瀬は静かに苦笑した。
「どうした、四宮?」
「えっと……早坂は居ないのね。てっきり貴方と一緒に居ると思ったのだけど」
「愛なら、俺と一緒の台本を別の場所で読んでるんじゃないか?」
「……そう言えば、さっきも私たちが来るまで読んでたわね。それ何の台本?」
広瀬は数秒解答に悩み、台本を閉じ、題名が見える様にして四宮に渡した。
題名も内容もかなりアレンジを加えているが、
「……キスで目覚める恋物語。ありふれた、王道的な話だ」
〜令和こそこそ噂話〜
広瀬が他人の感情を見れる事を知っているのは『早坂・かぐや様・雁庵・圭ちゃん』と産みの親だけ、ですよ。
石上は異常に鋭いなーと思っているだけです。もしその他キャラで『感情視の事を知ってる素振り』を見せた人物が居たら報告してくれると嬉しいなー、という下心があります。