今話は約9000文字!
早坂と広瀬の出番、ほぼ無しです! ウルトラロマンティックの改変話となります!
ではどうぞ!
───人を好きになり、告白し、結ばれる。それは素晴らしき事。誰もが夢見る憧れの関係性。
だがそれは間違いだとある人は言った。事実、それは決して的外れな言葉なんかではない。告白はある種の契約。恋人になるという事は、普段は見ない姿を見るということ。
何せ恋人だ。偽りだけの関係ではなし得ない、それが“恋愛感情”。告白した者はそれを許容し、受け入れなければならない。
が、それは告白された側も同じである。
自分を好きだといってくれた言葉は信用に値するのか? 性欲と恋愛がごちゃ混ぜになってるのではないか? だから先ずはそれを見極めなくてはならないし、故にこそ嫌いな自分すら曝け出す必要がある。
お互いの信頼関係を築き、尽くし尽くされる。それこそが理想の恋人で、必ずしも主従が生まれるわけではない。だが必ずしも理想通りにいくわけじゃないだろう。だからこそ主従関係にある恋人もいる。
だって自分を曝け出すのは怖い。本音を否定されるのが怖い。それは誰もが思う事。本音で伝えなければ前に進めないと言うが、前への進み方は人それぞれで違う。でもその言葉は間違いじゃない。何一つ確かなことなどない、不安。
だから彼女は決意した。
偽りの自分のまま、本音を伝え、相手に本音を出させて、その答えに身を任せようと。そう彼女は───四宮かぐやは、決意する。
「四宮に避けられてる気がする?」
「ああ。先日は四宮のクラスに行って接客をして貰ったが、それ以降どうもタイミングが……というよりも、意図的に避けられてる気がする」
「……何か心当たりは?」
「いや、特には……」
と、そこまで口に出して、白銀は今までの数あるやり取りを思い出す。
恋愛頭脳戦然り、コスプレの時然り、バルーンアート然り。少々積極的に行きすぎた場面など、離れられても仕方がないと言える出来事は割と存在する。
言葉も表情も全く嘘偽りない様に思えたが、それは四宮の特性故の装いなのか。白銀は一層不安な表情となった。
「あるな」
「………」
広瀬は口元を隠す様に手を当てて、暫く考え込む仕草を見せた後、ゆっくりと口を開く。言葉選びに配慮している様な、そんな躊躇いがありつつも、言葉を放った。
「一応、四宮が避けてるって
「うむ、頼む」
「……四宮が白銀の思う“心当たり”を思って避けてるなら、下手に謝罪するのはやめた方がいい。「何で怒ってるのか分かりますか?」なんて言葉の怖さは……あ、うん。身を持って知ってるみたいだな」
心当たりが沢山あるなら謝っても何に対する謝罪なのかが分からないし、そもそも全く心当たりがない事で避けている可能性もある。
そしてその怖さは、以前翼の相談を受けたときに身を持って知っている。あの時は石上のお陰で全て納得のいく答えが出たが、今回は何のヒントもなく、また意図を読み取れないタイミングでの避け。答えを見つける方が難しいというものだ。
「ならどうすれば?」
「リスクを背負ってでも四宮と一緒にいたいなら鬼ごっこを演じる、だな。周りからの評価とか、後は……四宮から嫌われる可能性」
「きら……何故?」
「シフトの時間で教室に戻ったら、女子達が騒いでただけだし、事実かは微妙だけど……。「私だって、普通に恋したい乙女ですから」だと。それが白銀の事かは定かじゃないし、その為にぶらついてるだけなんだとしたら、白銀はその時間を奪ってしまう事になる」
避けてられている現状を思えば自分じゃない可能性は寧ろ高い。ポジティブ思考ならば「いや、緊張してて近寄れないのか!」と思うところではあるだろうが、白銀は取り繕えるだけで精神力は常人。いや、むしろ本来のメンタルならば弱い方と言えるだろう。
普段の威厳ある姿を見ている生徒たちからしたら想像はつかないだろうが、白銀は自己評価は高い方だが、かなり卑屈な性格だ。こんな話を聞けば、一番に思いくのは間違いなく「俺以外の奴を求めている」という事。
必然、白銀は落ち込むことになる。
彼の感情を見れる広瀬が気を使わない筈ないから、それ故の言葉選びだったのだが……。やはり事実は事実。解釈に任せてしまう言葉を選んでしまえば、白銀が悪いイメージを浮かべるのも無理はない。
「これはあくまで仮定な。だからもう一つの仮定、『意味を持って白銀に何か伝えようとしてる』って可能性だ」
「俺個人に対する意図、か」
「……まぁ
広瀬は苦笑しつつ、伝える。
「心当たりを探り続けろ、だな」
「時間がない? 四宮は確かにそう言ったのか!?」
「は、はい! ぁぁ、会長のお顔が間近にあって三半規管が尊い……」
ズイッと顔を寄せて確認を取る白銀に、顔を真っ赤に染めながら視線を逸らし、肯定するかれん。彼女は「時間がない」という言葉に対する解釈を独自の妄想で「離れ離れになってしまう! この機を逃したくないんです!」という意味として捉えていたが、白銀は別である。
何せ彼は四宮が
(時間がない……? 学生らしい事ができる最後のチャンス、という意図で……広瀬から伝えられたあの言葉が本当なのだとしたら、マジで文化祭という期に付き合える男を)
いや、と。白銀は首を振る。
そう、ネガティブになってはいけないのだ。漸く決心して前へ進もうとする自分が、そんな仮定に思考を寄せてはいけない。
今大事なのは、この事態をポジティブに捉える事。四宮が何らかの意図で、想いで、好意で、避けている可能性。
アドバイスを思い出せ。心当たりを探り続けろ。彼女は何を思って言葉を発し続けているのか。
「すまない、助かる情報だ」
助かる? 否、逆に謎が深まっただけだ。心配事が増えただけだ。
でも彼女がこの文化祭で何か意図を以って動いているのは間違いない。それが分かっただけでも考える価値は高いだろう。
真剣に考えながら礼を口にすれば、その凛々しい白銀の表情にかれんは心臓を抉られる。信仰対象から近い距離で凛々しく感謝を告げられる。心肺停止は必須。
かれんは倒れた。もう一昔前に有りがちな漫画の、胸に手を重ね合わせて直立硬直状態でバターンと倒れた。えりかは「あ、かれんってこんな気持ちだったのか」と思いながら白銀に頭を下げつつ邪魔にならない位置へと引っ張っていく。
白銀はシフトの時間は終えてるし、演説などは分実(文化祭実行委員)組がやってくれるし、文化祭中での生徒会長としての仕事はほぼない。
現在時刻を考えればかなり余裕はあるが……。だからこそ、この余裕ある時間を四宮と回れれば、少なからず関係性を深められると思ったし、スタンフォードの件を伝え、告白できたかもしれない。
(文化祭を逃したら告白なんて出来ない……ッ!)
いや別に告白はどのタイミングでも出来るのだが、やはり何事もやる気が出るかどうか。こういった文化祭マジックの機会を逃せば、二度と勇気が出なくなるかもしれない。
いや、だからこそ四宮は、このタイミングで仕掛けてきたのか? 普段演じる『恋愛頭脳戦』を、この局面で。
(しかし、俺がこの勝負で負け、告白をするのだとしても……四宮が見つからなくては意味がない)
ではまた別の意味を持っているのか? それはどんな意味なのだろうか?
(いや、焦るな白銀 御行! 大丈夫、時間はたっぷりとある……考えろ、振り返ろ。四宮が何かヒントを残していないか……!)
(クッソ見つかんねぇっ!!)
───四宮探索を開始して既に1時間と少し。見回りを兼ねて教室内部を拝見しつつではあるが、入り浸らなければ全クラスを見る程度ならば充分な時間。
全ての教室を見回ったが、結局四宮が見つかる事はなかった。当然すれ違いになってる可能性はあるだろう。それでもここまで見つからない物だろうか?
この時点で彼女が何らかの意図で避けてる事は確信できる。白銀どころか、この学園の生徒全てから。何せ目撃情報が無いのだ。あからさますぎる程に、移動していない事が分かってしまう。
(どうする、どうする? 四宮が一定の場所にいると確定してるならば、学校中を虱潰しに探すか? いや、四宮がもし意図を以って行動してるならば、それではダメだ。きっと失望するだろう。ならば俺はその意図を汲み取った上で会わなければならない。だが───)
白銀はやがて生徒会長室へと着き、扉を開き中は入る。扉を閉じて背中を預けると、考え込んでいた表情から一息。困惑を表に出して両手で顔を覆った。
「何を思って四宮は行動してるんだ……」
どれだけ考えても意図が汲み取れない。ヒントが少な過ぎる。何かキッカケでも無ければ一生理解出来ない気すらしてきた。
「……ん?」
今まで下げていた視線を上げてみると、会長の席に一つの湯気が漂っている、ソーサーに置かれたティーカップと、ソーサーの下に敷かれている白紙が見える。
立ち上がって近づいてみると、ソーサーの直ぐ下には『会長へ』という文字。綺麗に書かれている、達筆な形。何度も見た四宮の文字だ。
次いで下に視線を移す。
『お仕事、お疲れ様です。そろそろ自由な時間が訪れているかと思います。貴方が築いた2日間に亘る文化祭、残りの時間一杯お楽しみ下さい。紅茶を淹れておきましたので、温かいうちに飲んで頂けると嬉しく思います。もう一踏ん張り、頑張って下さい。PS.是非とも私のキャンプファイヤーを彩る火矢、見てくださいね』
メモ用紙程度のサイズに書かれた、小さく、だが非常に読みやすい文。
白銀はふと苦笑気味に笑うと、ゆっくりと席に着いて一息。ティーカップに淹れられた紅茶を口に含み、喉を潤し、頭を冷静にする。
(そうか……よくよく考えればキャンプファイヤーの火は四宮が矢で射抜いて点けるんだったな。そのタイミングは間違いなく其処にいるという事。……まあ四宮と文化祭デートが出来ないってのは残念だが、確実に居合わせる場所で面を合わせるのが最適か)
分からない事では考えても仕方がない。あまりにもヒントがないのに、答えを見つけろという方が無茶だ。現状の四宮は、恐らく
こうして書き置きしてまで『キャンプファイヤー』を単体指定しているのは、間違いなくそういう意図だ。今は誰にも見つけられない場所に隠れているだろう。
と、するのであれば、今闇雲に探したところで無駄に体力を消費するだけ。頭を回したところで無駄に疲れを催すだけ。ならばここは、普段通りに演じる他は無い。
「……四宮は」
だからこそ、普段を演じるからこそ、自分は四宮をどう思っているのか。四宮をどう騙し通そうか。四宮をどう告らせようか。勉強で戦って、意地悪して、時々本性を見せて。日に日に偽りを重ねる今までを、彼は振り返った。
「冷血で、冷淡で、支配者で、プライドが高く、徹底した合理主義者」
一年前に出会った当初など、そこらの生えてる雑草と転がる石ころ程度の認識だっただろう。白銀に家柄はないし、彼女が見出そうと出来るほどの才覚もない。地道に重ねる、誰もが出来る当たり前を繰り返せるだけの人間だ。
必要な物以外を切り捨てる四宮にとって、白銀 御行など取るに足らない存在。
棚の奥からガタッと音がなるが、振り返る白銀はそんな事を気にする素振りもなく言葉を洩らし続ける。
「それ故の手段の選ばなさ。───例え泥に塗れようと、動ける時に動ける人間だ」
「俺はあの時動けなかったしな」と。寂しそうに笑う。きっと今なら動けるだろう。でもあの時、あの瞬間、動いたのは四宮ただ一人。
目的の為ならば自分すら利用する、高潔さだけではない“人間”。
「そんな姿を見て憧れ、追い続ける。大人の面を被って……」
彼女の横に立ちたいから、一生懸命に頑張って、命すら削る覚悟を持って、自分を取り繕い、大人のふりをする。
「でも、また子供に戻る」
くだらない事で言い合いして、感情を見せて。取り繕うだけでは生きていけないから、それが取り繕いであるかのように自分を曝け出す。だから人は他人を理解出来ない。どれが正しい事で、どれが間違いなのか。それは当人すら把握出来ないのだから。
「また大人の面を被って、子供に戻って……きっとそれの繰り返しなんだろうな」
憧れて目指し、でも自分を失えないから感情がある。
(俺が告白すれば、彼女は慈悲を以って俺の手を引っ張るだろう。それは対等とは言えない。でも……)
「常に上にいるだけの存在が、わざわざ俺の手を引く筈もない。いつか俺が上に立つ時もある。そして降る時もある。人間性と同じなんだろうな。人は一生子供じゃいられないし、大人を続けられる訳じゃない。変わり続ける関係で、どれだけ繋いだ手を離さないでいられるか。大事なのは、きっとそれだけだ」
恋愛は戦。好きになった方が負けである。じゃあ敗者は一人だけか? 否。好きになった方が負けと言うのであれば、互いが互いを好きになった時点で両方敗者。
負けを認めた後で、どんな進め方をするのか。……永遠の子供がいないのと同じだ。永遠の敗北などない。いずれ勝てば勝ちだ。
だから懇願し、這いつくばい、意地でも彼女の手を取ろう。そこから進む道を、白銀 御行は見つけるのだ。
「……しかし、これで逃げられでもしたらマジで死にたくなるな」
結論を言おう。
居なかった。いや、正確には居たのだが、ふと意識を逸らせば消えたようにその場を絶っていた。近くにいた四宮のクラスメイトに聞けば、着替えをしてくるからこの場を離れる……と。
なるほど、確かに弓道着のままでいるのは大変窮屈だろう。側から見てる分には美しい様ではあるのだが、本人からしたら普段の制服の方が動きやすいのは間違いない。しかしだからといって、離れている時間があまりにも長過ぎる。
お手洗いと考えるのは自然だ。だがそれとは別の、何か違和感を覚える。そう。この機を絶対に逃さまいとなるべく四宮を目で追いかけていた白銀だから理解出来た違和感。
まるで何かを選択した様な、覚悟の表情を、四宮はしていた。
(……ま、まさか、本当に俺以外の奴に告白するシチュエーションなのでは)
ポジティブ精神はどこへ飛んだのか。しかしまあ、文化祭でのキャンプファイヤーと、ここまでお膳立てがされた状況の中で居ないとあらば、そんな邪推が立てられてしまうのも無理はない。
だが白銀が告白したいという欲を持ってる以上、これ以上その路線を考えてはやる気が削がれてしまう。いやいやと首を振り、深く考え込む仕草を取った。───が。
(分からん、意図を汲みとれきれない)
幾つか気になる点は存在するのだ。
もしやこの言葉が繋がってるのではないか? など。しかし全て、繋がってたとして「だからなんだ」と言えるものばかり。現状四宮がこの場から姿を消した理由が全く思いつかない。
(あークソ、これじゃあ
権利。その言葉を頭の中で反響させ、見上げた視界に映る満月を見つめ続け、白銀は引っ掛かった様な疑問の顔を曝け出す。
何故引っ掛かったのだ? 何に引っ掛かったのだ? 権利・満月。月。四宮かぐや。関係性を生み出すモノをその頭に浮かべ、今まで積み上げた全ての中の一部を抜粋する。
四宮“かぐや”。満“月”。“権利”。
竹取物語に於けるかぐや姫を嫁に迎える権利? 四宮かぐやとの、竹取物語に関係する会話。
十五夜。
そうだ、間違いなくあの日の言葉が関係してるだろう。そしてあの日、あの時、黒歴史という形で自分の記憶に形成されたあの瞬間の会話で自分が発した言葉はなんだ?
俺なら絶対、かぐやを手放したりしないのに
これが俺たちの物語だったら、言葉の裏をこれでもかと読んであんな結末にはしないのに
(ぐっ……今考えてもイタイが、もし四宮がその言葉を受けて俺を待っているのだとしたら)
あんな結末にはならない竹取物語を紡ぐ。つまり今、四宮かぐやは『かぐや姫』としての役割をこなしている。そして白銀は、さながら彼女に求婚する帝。
そしてかぐや姫が帝に渡したのは『不死薬』。四宮かぐやが渡したのは『紅茶』。……もし、もしこれに気付かなければ、白銀は『ひどい話』と称したその物語と同じ道を辿っていたのだろう。
白銀の見解では、かぐや姫が不死薬を渡したのは、「永遠の刻が経とうとも、いずれ迎えに来て」というメッセージであると解釈している。紅茶にはカフェインが含まれており、一時的にではあるが、睡眠薬を妨げる効果が存在している。つまりこれは『権利』だ。
永遠の時間と一時の時間。差はあれど、もし過程を
つまり四宮は、自らの存在が何処に隠されているのか。散りばめたヒントを元に、裏の裏まで読み倒せという事。
「なんつー無茶振りを……!」
言葉は乱暴で、呆れていて、恨んでいそうだが。それでも彼に浮かんでいる表情は強気な笑みだけだった。
(『私だって、普通に恋したい乙女ですから』。これは、家の縛りはもうない。ジュリエットなんかじゃないから、早く迎えに来いという意図)
文化祭という時期もあり勘違いしていたが、この言葉を『特定の誰かに込めて』言ったのであれば、その意味を捉えることなど容易だ。
白銀は振り返り続ける。何か意図のあるメッセージが残っていないか。或いは、
(花火? 星? イベント? いや───
かつて仏校との交流会に於いて、放送禁止レベルの言葉を繰り返していた四宮が、己の発言に悔いてるところで慰めた白銀に、発した言葉。その意味を理解していないからこそ調べ、気に掛けている。その対象はフランス語。
(この文化祭の中で起こった全てで、
探る。探る。記憶にある限り、四宮がヒントとして残したであろうモノ全てを。
凡人だから、覚えた術でしか戦えないから。覚えた術全てを以ってこの恋愛頭脳戦を
(コスプレ? いや、言葉そのものに意味を込めているのだとしたら)
一番最初に浮かんできたのは、
(広瀬! アイツがあの時渡してきたのは、アミノ酸ドリンク……
これとフランス語の関係。いや、フランス人との関係。アミノ酸に於いてフランスと関係してるであろうものは、アミノ酢酸。フランス人が付けた名称はglycocoll。現在ではglycine。フランス語は頭文字に『La』を付ける事があり、名称を『La glycine』にした上で更に日本語に直す場合───
(藤の花! つまり
「藤原、もしや四宮が何か気になる事でも言ってなかったか?」
「かぐやさんが? うーん、特に何も……あ、いえ。気にした素振りが無かったので私も気にしてませんでしたけど、『どんな人にも裏表は存在する』と言ってましたね。かぐやさんの過去だけに、今思い返せば結構気になる言葉ではありますけど」
「そうか。キャンプファイヤー中に失礼したな」
───繋がった。
(『どんな人にも裏表は存在する』。自分の裏はとても見せられたモノではない。つまり、キャンプファイヤーで彩られる灯りの下に、自分を曝け出すことは出来ないという事)
そして四宮の『裏』とは、そんな陰からあらゆる人々を支配する人格。昔目の当たりにした性格が『裏』であるならば、その性格を反映させた場所に四宮は存在する。
月の迎えを避けるために月から隠れ、彩られぬ下で、それでも使える全てを支配下に置く。
「───となれば、此処だよな。四宮」
学校の屋上。しかし月に照らされる場ではなく、影が差す扉の付近。
白銀は扉を閉めて、すぐ近くに隠れた四宮に声を掛ける。僅かに揺れる影が、その存在を証明していた。
「……よく、分かりましたね」
「四宮の考えを読んで四宮を探せゲーム。そんなの簡単だと、前も言ったろ?」
まあ、難しさは前の比では無かったし、簡単だというのは強がりではあるが。だが見つけた事に変わりはない。
「では、虱潰しに探した訳ではない答え合わせといきましょう。一つ、『私だって、普通に恋したい乙女ですから』」
「ジュリエットではないのだから、迎えに来てくれ」
「一つ、『紅茶』」
「不死薬」
「一つ、『人物』」
「藤原 千花」
「一つ、『裏表の存在』」
「性格の差異。明るさと暗さを現実世界に当てはめた、光景的問題」
「一つ、『私にはもう時間がありませんから』」
「───」
最後の質問に、白銀は詰まる。答えが見つからない訳ではない。しかし答えを確認出来た今までの質問とは違って、未だ確信できない故に。積極的には言葉を出せない。
でも答えを出さなければ、彼女は失望するだろう。胸を張り、問い掛ける様に、答えを出す。
「正直、このヒントだけは確信できない。だがお前がここまで大胆な作戦を組んだのなら、その大胆さに見合うヒントとして残したのだと、そう信じる」
白銀は一息。その鋭い視線で四宮を射抜きながら、答えを口に出した。
「スタンフォードの件を知っていたな?」
「───はい」
「……何処で知った、なんて訊くのは野暮だな。四宮だったら予め
「ふふ、さて。どうでしょうかね」
揺れる前髪が表情を遮る。今四宮が、どんな意図を持って自分と話しているかは分からない。でも、自分がするべき事は一つだけだ。
「さて、四宮。謎解きをクリアしたんだ、報酬はあって然るべきだと思わないか?」
「ええ、確かに。では会長。貴方は何を望みますか?」
「お前の人生を」
「───ええ、喜んで」
〜令和こそこそ噂話〜
四宮 かぐやがここまで大胆な作戦を組んだのは、大元を辿ると四宮 雁庵が『実力も分からん小僧に嫁がせるわけにもいかん』という挑発をしたから、らしいですよ。
ぶっちゃけると、かぐや様と会長の会話は、全て盗聴器で雁庵様に聴こえています。
そしてここでもう一つの噂話!
四宮が白銀のスタンフォード行きを知っているという事をヒントにしていたのは、『私だって、普通に恋したい乙女ですから』というヒントと繋げて『私をスタンフォードに連れて行って』という意図を込めていたから、らしいですよ。
文に載せきれなかったのでここで追記しときます。