早坂 愛は恋をしたい   作:現魅 永純

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 最終話記念? かどうかは分かりませんが、支援絵を頂いたので公開させて頂きます!

 表情差分

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 こちらの絵は『柴猫侍』様から頂きました!
 ほら、アニメだと最終話で早坂が『め組のひと』を踊ってたじゃないですか? 多分その辺考慮して『違うそうじゃない』の方を抜擢されたんでしょうね……。大変有難いです。
 その方のTwitterアカウントはこちらからどうぞ『https://mobile.twitter.com/Shibaneko_SS

 良かった……投稿終わる前で良かった……。初! 支援絵!
 まあ番外編はまた投稿する可能性はありましたし、紹介する機会はありましたが、やはり本編終了前に紹介できる事に感動を覚えます……!

 では、はい。気を取り直して……。
 最終話は約8200文字です!
 どうぞ!!



最終話 ブルースター

 

 

 ───その少年は、いつも一人でした。

 周りに人が居ないわけではありません。友達がいなかった訳でもありません。生まれながらの孤独という訳でもありません。

 それでも、自分の視界と他人の視界では、読み取れる情報に明らかな差異がありました。

 

 他人の全てを読み取ってしまう。そんな彼は、()()()()()()()()()()()()()。人間の身でありながら、人間から外れた能力を身に宿してしまう。直感などというあやふやなモノではありません。技術という失敗の可能性が存在するモノでもありません。

 その視界に映るモノは全て事実で、確立されたモノ。本来ならば関わり、推測し、当たり外れ、驚愕し笑い合うモノを、全て見抜いてしまうのです。

 

 故に彼は、そっと目を閉じました。

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

 人の心理上、ギャップというのは非常に他人を惹きつけ易い要素の一つである。だがそれは『合わなそうなモノを合わない様にする』という事ではなく、『合わなそうなモノが合う』事で起こるモノ。或いは『普段からは想像できないモノを目の当たりにする』事で起こるモノだ。

 今回はその心理を利用し、演劇に於けるナレーションは『幼い様な喋り方且つ、ゆっくり丁寧に』となっている。シリアス染みたナレーションの話し方が幼い。これは非常に惹きつけ易いだろう。

 とはいえ、このギャップを利用しての本番はこれから。最初は惹きつけていても、後々になって「この話にこれは合わんだろ」となっては元も子もない。

 だからその為に、演技を最大限に熟す。

 

 真っ暗な舞台が照らされ、その光の集まる所に広瀬の姿が現れる。先程は舞台一面に光が広がっていたが、徐々に狭まっていき、広瀬が目を閉じると同時に暗闇へと落ちた。

 つまりこれは、広瀬が認識する世界の演出。光一面が広がっていたのは、その『全てを見通してしまう』という設定に則ったが為の演出だ。それが狭まっていったのは、その全てを見通してしまう眼の自己的利用を避けたという意思表示。

 

 観客が裏設定とも言えるその意味に気付くかは定かではないが、気付こうが気付かまいがどちらでも構わない。この演出に於いての目的とは、集まった光の部分に視線を集める事。

 広瀬は大量の好奇心を目の当たりにし、微かに目を細め、観客から見て横方向に歩き始めた。退屈そうに、機械的に。

 微かに光は広がり、後ろの方が目に映る様になる。そこには背景。時の流れを示す為に、太陽が流れ、月が流れ、何年の時が流れたことを表す。

 

 

 ───少年は、決して相手の全てを暴こうとはしませんでした。しかし同時に、自分を偽る事をしません。例え相手が気付かなくとも、自分は相手が隠してる事に気付いてしまう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったからです。

 相手の本心を知ってもそれを悟らさない対応をして、自分は相手の問いに全て本音で答える。それが対等だから。

 でもそんな自分に疲れて、分かってしまっている全てを気付かないまま対応するのが馬鹿らしくて。何時(いつ)しか、他人と関わるのをやめました。

 

 

 広瀬は笑顔の仮面を顔に当てながら、目の前にいる人物にジェスチャーをし、話してる様子を再現する。「バイバイ」と言うように手を振り、見送った後。広瀬は仮面を外し、無機質な表情で佇まる。

 他人と関わる。そのナレーションに合わせ、広瀬は仮面を投げ捨てた。

 

 

 ───やめた後は凄く楽で、他人に合わせる必要がなく、自分のしたい事を出来ました。他人と関わらないだけでこの能力の有用性は無くなり、普通の“子供”として振る舞えたからです。

 運動し、ゲームし、音楽を聴き、読書して。この世に蔓延るあらゆる娯楽に手を伸ばし、伸び伸びと生きました。

 でも欲は満たされませんでした

 この世の誰もが持つ欲求。それは満たされる事で満足感を得られる。人によって違うモノで成り立つ。少年が満たされる事がないのは、つまりはそう言う事でしょう。

 

 存在している娯楽程度で満足できるモノじゃない。少年は、その様に生まれたのです。

 したい事と満たされるモノは、常にイコールという訳ではありません。時として辛く苦しい思いをしながら達成したモノに満足感を得るのも、またあり得るでしょう。

 少年はその類の人間だったのです。

 

 

 2年B組に協力してもらい、バルーンアートの飾り付けのついでと頼んでおいた音符型の風船、簡易的なゲームコントローラーの風船、本の風船(全四条作)を飛ばし、何処かコミカルチックな光景の中、広瀬は口元を固めたまま目を閉じて歩く。

 つまらなそうな表情……というより、楽しめない事への困惑。いや、分かっているのだ。全てを見通してしまうその能力は、分かってしまうその全てを繰り返すだけの光景を見てしまうから。例え楽しもうと気持ちを改めても、必ず違和感が芽生えてしまう。

 

 そんな困惑と確信、自分への嫌悪を浮かばせる表情で、広瀬は歩めていた足をピタッと止める。

 再度目を閉じ、ナレーションに合わせ、「では自分の欲が満たされる事とはなんだろう?」と思わせる憂いを帯びた表情を晒す。

 ただ一言の台詞もなく、広瀬が行っているのは簡単な動きと表情の変更だけ。それだけでわかる、広瀬の()()()

 その感情が本物であるかの様に、そして明確にイメージさせる様な、現在進行形でそれを体験してるかの様な錯覚にすら訪れさせる演技。もはや演技とも呼べるかすら怪しい程の迫真な光景に、全てとは言えないが殆どの観客は魅了される。

 

 当然だ。こと感情が絡む物事に於いての広瀬は、他を引き寄せない類稀なる才能がある。それこそ眼を活かしたカウンセラーでなくとも、演技だけで食っていけるだけの才能が。

 それに、今回ばかりは広瀬の得意な演技だからというだけではない。この物語は、ある種の()()。自身の脳裏に刻まれている光景を、感情を再現し、限りなくその場の雰囲気をトレースしてるのだ。

 そう、これは───広瀬の物語。

 

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「……これって」

「ああ。俺の今までが簡易的に綴られている。……まあ多少の改変はしてるけどな」

 

 

 文化祭準備期間の少し前。クラスそれぞれが躍起になって準備を始める前に、広瀬は早坂へと頼み事をしていた。それが劇の役である。

 その為の台本を渡して彼女が読み終えると、確信を得た表情で問い掛けた。まあ広瀬の過去を誰よりも知っている彼女だ。多少改変が加えられていようと必ず気付くだろう。

 

 

「俺が書いたものだし、既存の物語に比べると見劣りしちゃうかもだけど」

「自分が役を演じる物語を自分が書くって、そうそう居ないと思うので、しっかり台本になってるだけ凄いと思うのですが……」

「サンキュー。でも実際問題、俺に台本は向いてないみたいだ。試しに見せてみたら修正点を何十と挙げられたしな」

 

 

 いやはやアレは心が折れた、と。割と本気で死んだ目のまま言う広瀬に、「さすが秀知院生徒」と早坂は思う。ここなら集まる学生は、言わば殆どが才能の原石。

 四宮かぐやという存在に加えて、勉強面に於いて更にその上をいく白銀がいるから忘れがちだが、この学園内の生徒は大抵が並外れた家庭のご子息、ご息女達。当然受け継いでる因子は半端なものじゃない。

 少なくとも感情を基に全てを組み立てる広瀬は、コミュニケーションに於ける全ての問題はクリア出来ると言っていい。つまり役同士の会話を抜きにして、数十の修正箇所を見つけられたという事。

 

 かぐや様が将来コンタクトを取れるように伝手を作っていたのも頷ける。そうやって再度この学園を認識した早坂は、台本を両手で持ちながら広瀬に問う。

 

 

「それで、青星くんはこれを見せて私に何を?」

「この作品に於いてのもう一人の主役───まあ言わばヒロインの役を頼みたい」

「……構いませんけど、それの意味を分かって言ってますか?」

「ああ。()()()()()()()()言ってる。だから一文一句を確実に、間違わない様に、全てを覚えた上で、そして思い出して。この舞台に立って欲しい」

 

 

 早坂の視線は、手に持つ台本のある一文に向けられる。まあ広瀬の今までを綴った物語とあれば、当然これは欠かせないシーン。

 早坂は照れ臭そうにそっぽ向き、広瀬の真剣な視線を避けながら悪態吐くように言葉を零す。

 

 

「……なんで躊躇なくこういう事出来る癖に、直接的な言葉は……」

「……」

 

 

 今の早坂の感情はそれほど複雑ではない。単純だ。それ故に広瀬は感情を読み取り、また思考を推測しただろう。例え早坂の零した言葉が聞き取れていなくとも、だ。

 しかし広瀬は気付かないフリをしながら苦笑して早坂を見つめる。それは広瀬にも広瀬なりの考えがあるという意思表示。

 

 早坂は深く溜め息を吐き、広瀬と同じ様な苦笑をしながら頷いた。

 

 

「分かりました。現在の私たちの関係上、役として選ばれるのは不自然ではありません。青星くんの過去を知らなければ、この台本もただの物語だと思われるでしょう。……やります」

「ん、助かる」

 

 

 これは相手が早坂でない限り成り立たない物語だ。ここで断られようものなら、この台本そのものを燃やすつもりでさえ居た。

 だから心底安堵する。

 これで舞台は整ったのだから。

 

 

ーー

ーーーー

ーーーーーー

 

 

 ───少年はあらゆる事を突き詰め、やがて確信を得ました。

 自分は他人を救う事で満足感を得られる。自分がどう思っていようと、自分が持つ能力で救われる相手を見て満たされてしまうのです。

 助けたいと思っているなら良いでしょう。それは間違いなく自分の意思で、自分の欲求で満たされている事に違いないから。でも少年はそうじゃない。助けたいと思っていなくても、助けられた目の前の人物を見る事で心底満たされてしまう。

 

 自身の欲求とは全く別のものから成る満足感。その心のアンバランスさこそ、少年が“普通”から並外れた存在である事の証明。

 自分はそうする事でしか満たされない。自分はそうする事でしか生きられない。自分の意思など無関係に、自身の心は突き進む。

 そこで気付きました。ああ、自分は何処までも、自分の為にしか動けない人間なんだと。他者の為などという気持ちは一切持ち合わせていなくて、ただただ自分が救われたいだけで他人を救う。

 ああ、なんたるエゴイストなのだろう。

 

 

 広瀬は時の流れを思わせる背景を尻目に、ほんの少し早歩きで歩く。

 舞台の光は舞台全体を薄らと照らし始めた。これは少年が自分の能力を使い始めるという意味を込めての演出。

 沢山の仮面が吊るされ、各々によって対応を変える人間である事を示している。またもコミカルな映像。しかし背後に流れるBGMと広瀬の表情は、悲観の一言。

 

 が、その場の雰囲気はすぐに一転する。

 吊るされていた仮面は舞台から消え、BGMは無くなり、無音の中で広瀬は立っていた。

 その表情は、機械の如き無機質な顔。

 

 

 ───これは報われようとして報われるものではありません。救おうとして救えるものでもないのです。だって何を以って自分が満たされるのかを理解できるのに、それが本当に自分の意思なのかと疑ってしまうほどなのだから。

 だから、もう諦めました。

 

 けど、そんなある日。少年は一人の少女を目の当たりにしました。

 どういうわけか、自分を偽って接する少女。相手に合わせているのかと思いきや、本心から敬意及び友好的感情を持っている。そして偽る自分に嫌悪を浮かべる少女。

 とても儚げで、自分が憧れた『他者の為を思っている』人間。何処までも他人を想えるその少女に。少年は、恋をしました。

 

 

 舞台のライトは一度消えて、今度は一直線に伸びる様な光が広瀬とはまた別の場所を差す。その場に存在するのは、沢山の仮面に囲まれた早坂。

 早坂は寂しそうな顔こそするが、それでも決して無機質な表情……無表情になどならない、感情豊かな表情を表に出し続ける。仮面を被らなくても、感情を揺らし続ける。そんな様子を再現する様に。

 

 

 ───その少女が視界に入る度、少年の目は興味惹かれます。普通の感情を有していながら、普通とは逸脱した少女。存在理念そのものが普通から逸脱した少年にとって、そのアンバランスさは興味を持つに値する対象だったのです。

 何年も目で追い続け、やがて、運命の邂逅を果たします。

 

「……そんな生き方して楽しいか?」

 

 廊下の角でぶつかる、まあなんともありきたりな出会い方。ぶつかって倒れた少女に手を差し伸べた少年は、今まで見てきた偽りを省みて、問いかけました。

 

 

 早坂は驚愕に目を開き、冷たい目で見て溜め息を吐く。そう、この演劇に多くの会話は要らない。基本的には動作及び表情。そしてナレーションで解釈してもらうのが主だからだ。

 本来ならば会話を主に成り立たせるのだろうが、今回ばかりは逆。演出を主に成り立たせる。何せその方が二人の特性を活かせるし、何より解釈に違いが出るというのも面白い。

 というのはもちろん建前で、なるだけ「実際にあった事」なんて悟られたくはないからだ。下手に真実と近づけ過ぎれば、恐らく勘の鋭い人は「つまり早坂の偽りも真実」と気付くだろう。

 

 そんなリスクを冒してまでやる劇かと問われると、確かにやらなくても良いものだ。なんせこの劇は、別に観客を楽しませるものでもない。

 それこそ広瀬のエゴに他ならない。広瀬は()()()()()()()()()()()()()()()()。自分の為に、舞台を整えているだけなのだ。

 

 

 ───それがキッカケです。少年と少女は、よく絡む様になりました。少年は内心ドキドキしながら、少女は遠慮無しに曝け出せる相手故にワクワクしながら。

 青春真っ只中の少年少女。少女の方が線引きしているから恋愛にこそ発展しませんが、凡そ通常の男女間よりもパーソナルスペースは狭く、距離は近い。間違いなく親密になっています。

 

 誕生日プレゼントを与え、貰い、恋人よりも恋人らしい時間を過ごしたかもしれません。

 しかし、そんな時に悲劇は訪れるものです。

 

 

 屈託のない、純粋な笑顔。そんな演技を披露してる中で、突如早坂は足元をフラつかせ───もちろん演技ではあるが───広瀬は慌てて彼女の身体を支える。

 広瀬が覗き込む仕草を取れば、早坂は弱った素振りで口を開く。

 

 

「ああ、やはりこうなってしまうのですね」

 

 ───少女には呪いが掛けられていました。恋をすると、眠ってしまう呪い。まるで少女が『生涯望みを貫き通すことが出来ない』様に作られた、悲しい呪い。

 だから偽る事しか出来なかったのです。だから本心で向き合える人が出来ても、友人であろうとしたのです。ですが、彼らは親密になり過ぎました。少女が隠し切れない恋心を持ってしまったのだから。

 

 この呪いには解く方法があります。でもそれは叶えられるモノでないと、誰よりも偽り続けてきた少女だから知っています。

 人とは、気軽に出来る場面でどれだけ本心を紡ごうと、追い詰められた時、心の奥底を試される時に、必ず偽ってしまう生物。だから簡単に叶えられるものなんかじゃない。

 この呪いは、「心から自分を愛してる人に己を捧げてもらう」事で解けるもの。一生を捧げる覚悟がなければ解決しないものなのです。

 

 少女は他者を縛りたくない気持ち故に、自分を偽ってきました。でも恋する気持ちは偽れない。そんな気持ちを胸に、少女は“最後の偽り”を以って少年の頬に触れます。

 

「私の事は忘れて、幸せになって下さい。私の人生に縛られる必要は、ないのですから」

 

 義務感から側に付いてくれるなど、苦しみ以外感じるものはない。この人を縛り付けたくない。本当は一生側にいて欲しいけど、それは自分の願望で、相手の願いではない。

 そういう思いで放った少女に、少年は優しく微笑みます。

 

「本音は?」

「───たすけて……私に、普通の恋をさせて」

 

 全てを見抜くその目は、少女の『怯え』を理解しました。そう。どれだけ他者を思っていようと、少女は自分を偽るだけの“普通”の人間。そんな彼女が、ほんの微かに自分の為を想うのは、至極当然の事なのです。

 でも、彼女が本心から少年に願いを放ったのは、これが初めて。元々、覚悟なんて決まっています。助けるなんてのは当然だと、そう頷きました。

 

 少年は───、……?

 

 

 ナレーションの声が止まる。その困惑する様な掠れ声を洩らしたナレーションに、観客は騒めいた。ナレーションは数秒停止していたが、広瀬が観客に見えない様に出したハンドサインを受け取ったスタッフが、ヘッドマイクを介してナレーション担当に伝えたのだろう。直ぐに声が聞こえ始める。

 

 

 ───少年は自らの心臓を差し出し、その覚悟を証明しました。

 

 

(さっすが……()()()()()()()()()()()()()だな、演劇部)

 

 

 そう。この瞬間に於ける広瀬の行動はアドリブ。本来であれば、『粘膜接触によって脳干渉を起こし、その本気を確かめる事で呪いから解放される』という設定の下でキス(振り)をする予定だった。

 しかし今広瀬が行ったのは、心臓を捧げる……は流石に無理なので、心臓を捧げたと仄めかす『ハートのアクセサリー』を早坂の首に掛けるという行為。

 ハートというのは、この秀知院の文化祭に於ける最重要アイテム。こと捧心祭では、寧ろ使わない方が勿体ないというもの。

 このアドリブによって、多くの観客にとっては、『ただの物語』ではなく『捧心伝説の改編物語』として認識するものとなるのだ。実際問題、この物語は色々と捧心伝説と被る部分は多い。だからこそインパクトを与えられる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、本命は別にある。

 

 

(周りは捧心伝説の派生として作られた物語だと考えるんでしょうけど……私は、いえ。私と青星くんは、これが『広瀬 青星の物語』だと知っている。他ならない彼が断言したのだから)

 

 

 このアドリブは早坂にすら知らされていない、本当に土壇場で広瀬が行ったもの。確かに広瀬の事を何も知らなければ、ただの捧心伝説の改編と捉え、盛り上がる要素となる。

 しかし早坂だけは違う。彼女だけは知ってしまっている。これが広瀬の過去を改変したものだという事実を。つまり、広瀬の今までを再現しているだけという事実。

 ()()()()()()()()()? 意味が込められていない筈がないだろう。早坂だけが汲み取れる、そのアドリブの意図。

 

 

(再現してる中でのアドリブ……()()()()()()()()()()()

 

 

 過去の再現ということは、紛れもなく本音混じりの話であるという事。この物語全てが広瀬の本音。……であるならば、アドリブも広瀬の本心に他ならない。

 心臓……ハート()を捧げるという意思表示は、『少年』ではなく『広瀬』の気持ちである。

 

 

(全く……通じない、なんて可能性は二の次なんですね)

 

 

 ───少年の恋心は本物です。少女の願いは本物です。全てを見抜けるだけではない。その『信じ合う心』が、二人の気持ちを通わせ、呪いなぞどうしたモノかと吹き飛ばしました。

 

 

(まあ、“青星”くんですから、仕方ないのかもしれません)

 

 

 ───人の業を知り。人の闇を知り。全てを諦めた事すらありました。叶わない願いだから、叶えられない願いだからと、逃げました。

 でも運命というのは不思議なものです。人々に困難な試練を与えるのに、いつかは必ず乗り越えられる手段を与えてしまうのだから。

 まるで運命の一人遊び。でも。『幸福な愛』が訪れるならば、運命に踊らされるのも───悪くないのかもしれません。

 

 

(でも、全て彼の予定調和だというのは気に食わないですから。これは仕返しです)

 

 

 ナレーションは終わった。

 早坂はあくまでも台本通りにゆっくりと目を覚まし、広瀬と見つめ合う。天幕は降り、演劇の終わりを意味した。

 その天幕が二人を覆う前に、早坂は広瀬の肩を押して倒し、強引に自身の唇と広瀬の唇を重ね合わせる。仮に台本通りに進んでいたとしても、振りでしかなかったキスを、この公衆の面前で披露した。

 

 黄色い悲鳴が耳を差す。でもそんな事など気にしないと言わんばかりに、早坂は重ね合わせた唇を離し、妖艶に人差し指を当てる。

 

 

「まさか、これで()()なんて思ってないですよね?」

 

 

 マイクは切った。この声は生徒には届かない。届くのは、目の前にいる広瀬のみ。

 強引に奪われた唇を手で覆いながら目を見開く彼に、早坂は舌舐めずりして言い放つ。

 

 

「恋は成就が全てではない。キスも、その先もしたいと思うから、恋なんですよね? だから私に『信じ合う心』を、『幸福』を与えて下さい。『幸福な()』こそが、他ならない青星(貴方)の証なのでしょう?」

 

 

 

 

「さあ、私に“恋”をさせて下さい」

 

 

 




 頑張った(語彙低下)
 ああ、ほんっとうに! 十一ヶ月という長い間のお付き合い、ありがとうございました!
 一ヶ月も空けてしまった時期があったりとしましたが、なんとか一年以内で終わらせる事が出来ました!
 いやもうね、作品数が少ないとは言っても、かぐや様原作中での一位の座って、結構重いもんですねぇ……。本当に完結出来てホッとしています。

 皆様からのご期待と評価が有り難くも! 相応のプレッシャーは訪れると! 本当に身に染みました……!
 この作品を描く事で成長を実感します。……あ、いや。文章的な話でなく、精神的に……。本当に感謝してます。この成功例によって、リアルでもポジティブ精神でやれましたので。会長と書記ちゃんの言う通り、成功例があるだけで自信の度合いが変わりますね。

 連載中に累計入りという目標こそ達成は出来ませんでしたが、この作品を完結する事が出来たという事実にホッとしつつ、また別の作品でも頑張りたいと思います。
 あ、前書きにも書いてある通り、恐らく番外編は投稿すると思いますので。その節では是非とも宜しくお願いします。


 という訳で! やっぱり締めは初期の方から使ってる、これでやらせて頂きたく思います!


 さよなら殺法!!

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