お久しぶりです!
番外編を届けに参りました……。今回は第七話の白銀・四宮・藤原のお出掛け話となります。
今話はかなり短め、約6100文字です。
ではどうぞ!
ps.今話は新作最新話に合わせて、少しだけ書き方を変えています。まあ会話文を詰めてるだけですけど、それでも雰囲気はそこそこに変わるかと思います。特に問題がなければ今までのも修正していきます。
早坂 愛は尾行したい
広瀬 青星は比較的お洒落な男子高校生である。アクセサリー系統は少なめだが、服装や髪型にはかなり気を使うタイプ。元々顔立ちはそれなりに整っているので、下手に崩した髪型でない限りは適応し、良く見せる事が出来る。
これならば相手がどれだけルックスが良くとも釣り合う様には見せられるだろう。
「そう思っていた時期が私にもありました、と」
「……いきなりどうしたんですか?」
「いや、何でもない。ちょっと見通しが甘かったなーって思っただけだ」
「そうですね……会長は以前の映画の時は学生服でしたので、まさかルックスを完璧に整えてくるとは思いませんでした。かぐや様もプライベートでの第一印象は学生服が残ってるでしょうから……」
いや其方ではない。ないのだが、思わず溢してしまった言葉を誤魔化すには丁度いい勘違いだろう。髪弄ったり服を貸したりして良かったと、心の中で思う。
広瀬はチラッと横を盗み見た。
───普段はサイドテールにしている髪を下ろしており、メイクで目元の印象を鋭さからマイルドさに。色は薄めの紅付きリップを塗っている。後は自然過ぎて目立たないのでわかりにくいが、コンシーラーとファンデで肌色を綺麗にしている、ナチュラルもナチュラルなメイクである。
やはり素材が良いと映える。四宮とは別種の美人。普段のギャルモードであれば動揺せずに済んだのだが、尾行という目的がある以上バレるような姿である訳にもいかない。……いやまあ護衛なので四宮にバレる分には問題ないのだが、慣れてる彼女は兎も角として、白銀と藤原に気兼ねなくお出掛けしてもらう為には監視されてる事に気付かれないようにしなければならないだろう。だからお互いに普段の姿からは遠い外見なのだが……。なるほど、美形が変装したところで下手な変装じゃなければ映えるだけである。
全く世の中不公平だなと嘆いていると、早坂はジッと広瀬の目を見つめていた。気恥ずかしさにそっと視線を逸らしながら問い掛ける。
「どうかしたか?」
「いえ。カラコン、付けてるんですね。髪型や服装は勿論ですけど、何処か違和感があったので」
「ああ……俺の目の色ってかなり目立つからな。翡翠混じりの空色とか、外国でもなかなか見掛けないだろうし」
「感情視に影響は?」
「それが全く。別に裸眼じゃなきゃいけない縛りもないらしいな」
まあ現状では特に困るものでもない。取り敢えずなかなか見掛けないだろうこの目の色を隠せれば充分だと、肩を竦めた。
早坂は「なるほど」と頷き、四宮達の行動を見張った。
(……ふふ、会長は油断しきってますね。このお出掛けは会長から仕掛けたものですが……相手の土俵で崩しに入るのもまた一興。このお出掛けの間に一度くらいは私に告白させる権利をあげましょう。……ただ)
四宮は思考する。
以前は映画館で単純に映画を観るという手段故にコミュニケーションを取る必要がなく、映画館で喋るわけにもいかなかった。だから映画の余韻に浸って帰り際すら特に喋らなかったが、今回は違う。お出掛けという名目だ。ならば当然、相手とのやりとりは必須となる。
やり方次第ではそういった雰囲気に持ってく事も出来るだろう。四宮の演技スキルが白銀にダメージを与えられることは、映画のジンクスの件を聞いた時の恋愛頭脳戦で把握済み。
しかし、問題が一つ。
「───で、ウチのペスが中々ペット用の美容室に行きたがらないから大変でしたよ〜」
「へぇ、結局どうやって連れてったんだ?」
「なんか顔に抱きついたらキリッとした目になって急に行く気になったんですよ。不思議ですね」
「ああ……宇宙の仕組みを理解した猫みたいになったんだろうな。犬からしたら不思議な感触だったんだろう。うん」
(邪魔ね、この子。そして邪魔ねその脂肪)
決して友人に向けていい思考ではなかった。ついでの様にディスった言葉には、呪詛の様な圧が込められている。表面上がニコニコしてる分さらに怖い。
「お待たせしました」
側から見れば、仲のいい学生だろうか。声の声量に注意しながら会話してるため、それなりにマナーのある客だとは認識されているらしい。本心から微笑ましそうに笑顔で品を持ってきてくれた礼を言う。目の前に置かれたロールケーキを見つめ、白銀に視線を移し、僅かな思考。
(……藤原さんがいる以上、下手な行動は出来ない。でも大丈夫、こういう時こそ落ち着いて行動するのよ)
白銀に移していた視線は、やがて周りへと移りゆく。中には家族できているもの、女性同士で来ている者、カップルで来ている者。みな楽しそうに写真を撮り、楽しそうに喋っている。その中で、今この現状から仕掛ける事が出来そうな事を厳選した。
写真は、場合による。少なくともこの三人の間で共有する分に関しては無問題だ。しかしSNSに上げたりする不安要素があるし、何より公共の場での写真は周りにも迷惑を与えかねない。周りが撮った写真に入り込む事もあり得るが、その辺はこの店に仕込んでいる屋敷の者が仕組み、背後という位置を出来るだけ避けた席にしてもらっている。
まあ、写真は出来るだけNGだ。ただでさえ四宮は目立つ身。そんな彼女が公共の場で写真でも撮っていようものなら、どんな輩が「自分でも撮ってんだし、別にばら撒くつもりもないから〜」などと言ってくるかは分からない。
ともすれば、他の方法は。
(……いや、ダメ。アレはダメよ、最終手段よ? 私でもわかるわ。あーんとか恋人になってからやるものよ)
視界に入ったカップルの食べさせ合い。既に半分ほどの量となってるのならば、お互いに自分が食べた後に食べさせたとなる。間接キスを当たり前のように行う食べさせ合いは、四宮の性知識でも理解出来るものだ。故にNO、乙女としてはやりたい気持ちもあるけど淑女としてNO。
ではどんなモノが良いかと探っていると(探り始めてから僅か1秒)、微かに銀混じりの髪色をした、
(アレね)
スッと目を閉じ、特に何事もなかったかの様に食べ始める。ふわふわの食感と舌に残る甘さを感じ、口の中に残る甘さを紅茶で流す。大きく口を開く様な真似は決してせず、ロールケーキは小さくし、上品に口元へと運んでいた。
フォークを皿の上に置くと、四宮は口を開く。
「会長、藤原さん、このスイーツをシェアしませんか?」
「シェア、ですか?」
「好きな物を頼めば良いのでしょうが、人の胃には限界がありますからね。三人でシェアすれば、違う味を一杯楽しめるかと」
「あー良いですね! 私もかぐやさんのロールケーキ食べたかったんで、後で注文しようと思ってたんですよ! 助かります〜」
「うむ、俺も賛成だ」
シェアという発想は藤原が一番に思い付きそうなモノだが、意外にも「盲点だった」とでも言うかのような表情で肯定していた。恐らく一度食べた物は夢中になって食べきるタイプなのだろう。その上、藤原の周りの女子にも甘い物好きはいるだろうが、それでも制限するタイプと予想できる。
つまり藤原は、一人で色々な食べ物に手を出すタイプである。普通ならば制限を掛けるところでブレーキが入らない。そんなんだから痩せられないのだ。
(ふふ……目敏い会長ならば気付く筈。私は既に
「じゃあいただきまーす」
(貴方じゃない!)
先に白銀に食べさせようと中央に皿を動かした。白銀の手前に置けば露骨すぎる故だったが、案の定藤原が先に手を出してきた。そのフォークが刺すのは、四宮側から見た手前。
つまるところ、四宮が食べていた部分とは逆側である。
(ほ……)
四宮は内心安堵。やがて白銀も手を伸ばし、四宮が食べた部分から掬い取り、口へと運んだ。
(狙い通り! でも慌ててはダメよ……会長と二人っきりなら少し時間が経った後に「間接キスですね」と気付いたように呟けば、会長は私を意識せざるを得ないけど、今は藤原さんもいる。あの子、ラブ探偵と言いつつ自分の理想を押し付けてる感があるから。私が意図して置いたなんて根も葉もない事を言われるかもしれない。……ホントに邪魔ね、この子)
優雅に紅茶を口に含みながらの思考は、本当に友人なのかと突っ込みたくなる程の考えであった。
「うむ、美味いな」
「ですよね〜」
「……?」
「どうかしましたか、かぐやさん?」
「いえ、何でもありませんよ」
おかしい。白銀レベルの思考力と、多少なりとも存在するだろう好意があれば、食べかけの部分から食べるという行為=間接キスという考えに繋がるのは明白だ。にも関わらず、白銀に動揺した素振りは見られない。いち早く気付いてポーカーフェイスをしている? いや、それにしても表情の動き方は単純だ。美味しいという意識故の笑みの溢れは当然だが、それ以外にも微かなニヤケや照れが出ないのは違和感がある。
四宮の洞察力を顧みれば見逃すなどは有り得ない。では何故なのか。
(───まさか)
四宮は思い当たる。視線を白銀の方に向け、その緩みきったほっぺが落ちそうな笑顔を見せてる様子を見て、衝撃でも喰らったかの様に口を開いて目を見張る。
(私との間接キスなんてどうでもいいと言わんばかりにスイーツに夢中になってるんですか!? スイーツ>私ですか!?)
大正解である。今の白銀は、四宮が目の前にいる緊張感など一切存在しておらず、ただただ純粋にスイーツを楽しんでいた。まあ彼の境遇を考えれば理解できるだろう。
基本的に質素……という訳ではないが、あまり贅沢の出来ない生活をしている白銀にとっては、スイーツはかなり“贅沢”に含まれる類のモノだ。そりゃ一食程度は問題ないが、甘いものが嫌いな訳でもあるまいに普段甘いモノを食べない白銀からしたら、格段に美味しく感じてしまうだろう。ちょっとしたデザート感覚の量では確実に足りない。食欲も人並みにはあるからだ。
とすれば、セール+割引券が通用するこの店で一杯食べてしまうのは道理。夢中になってしまうのも無理はないだろう。
この状況で「間接キスですね」などと言えば『意図的にやった』『気付かせようとしてる』という事に感づいて白銀に有利性を与えてしまうし、藤原にはかなり煽られるだろう。それ抜きにしても藤原がそれとなく察する可能性もゼロではない。下手な言葉は出せなくなった。
───本日の勝敗。
四宮の敗北。
「……なぁ」
「はい」
「四宮、あれ俺に気付いてなくね?」
「ですね」
広瀬は紅茶を一口含み、飲み込み、一度溜めをいれてから早坂に問い掛ける。頷かれた。見た感じでは早坂の姿が見えない角度ではあるが、広瀬という人物を認識していれば早坂が一緒にいると察する事が出来るだろう。盗聴器から聞き取った会話と見ていたシチュエーションを顧みて「確実に助けを求める視線を向けてくるだろう」と思っていたが、向けていないという事は、広瀬の存在を認知していないという事になる。
ヒントを与える為に品の交換を行った時は視線を感じたから気付いたのだと思っていたが、どうやら普通に他人認識でしかなかったらしい。
「……かなり変わりましたからね」
「そうか?」
「ええ、カッコよくなってますよ」
「かっ……ん〜、ぅ……ありがとうございます」
「いいえ。率直な感想に過ぎません」
「オーバーキルはやめてぇ……」
「……なるほど、これが萌え。エモエモですね」
早坂の広瀬への第一印象としては、取り繕いが少ない感情を出すタイプのクール男子である。感情は出すが、普段の印象は感情の幅が狭いという認識。事実間違っておらず、広瀬は無頓着なモノにはトコトン無頓着であり、感情の揺れ幅は比較的少ない。
が、感情を出さない訳じゃない。揺れ幅が狭いだけで、確かに感情は出ている。その認識は今も変わっておらず、事実そういう性格ではあるのだが、同時に追加情報として『女性に対する免疫は低い』という認識も増えた。クスクスと悪女のように笑う早坂を何処か納得のいかない表情で見つめる広瀬。
やがて視線は四宮たちに戻される。数十分後、会計を済ませた姿を見届けて、二人も後を追うように会計へと向かった。
「……なるほど、ゲーセンですか。あまり好きな場所ではないですが」
「休みが取れた時とかは友達の女子とかと行ってるイメージあるけど、そうでもないのか?」
「そもそも休みがありません」
「……ごめんなさい」
「? 別に謝る事でもないですよ。でもそうですね、多少なりともあの子たちと訪れたことはあります。ただその……」
「その?」
「プリクラやらUFOキャッチャーの前でイチャイチャしてるカップルやら、台パンしてる人やら、かなり煩い音楽が流れてるやらで、苦手意識が」
「ああ……その辺は慣れだからな。仕方ないか」
確かに初めて入った時はやたら耳障りだったのは覚えている。カップルは時と場合によるし、他人事だから特に気にしなかったが、台パンは印象良くないだろう。
台パンの所には同意しつつも、他は苦笑して「慣れる他ない」と言い切る。
白銀たちの会話を盗聴する二人は行き先を聞き取り、ゲーセンでの印象を語ると、また会話に集中し始めた。
数分後、目的のゲーセンへと入ってた三人を見届けて、早坂は一度ラインを開く。店の中にいる四宮家の屋敷の人たちへのメッセージだ。数秒フリックすると直ぐにスリープし、広瀬と共に店の中へと入っていった。
「……」
「……聴覚過敏って訳じゃないよな?」
「ええ、五感に関してはそこそこある方ですが、過敏ではありません。単純に慣れてないだけです」
ゲーセンにはいった途端に顔を顰めた早坂へ心配の言葉を送るが、特に問題ないと頭を振られた。
UFOキャッチャーをしてる姿を見守ったり、ホッケーをガチプレイしてる姿を若干引き気味に見てたり、藤原の評価が一転しかねない程の音ゲーを驚きながら見てたり。飽きない三人組だと広瀬が笑うと、突如として腕を引っ張られた。カーテンに叩かれたような感覚を感じて振り返ると、「静かに」とジェスチャーを送る早坂の姿。
「会長達に気付かれそうでしたよ」
「……ああ、なるほど」
『なんだ気のせいか』と盗聴器から聞こえる声に納得する。
「……すぐに出てばれても仕方ありませんし、いつまでもこのままというのも不審ですね。折角なので撮っていきますか?」
「撮る? あー、ここプリクラの中か」
道理で隠れる場所になる訳だと頷きつつ、
今までとどこか違う感情の出し方に早坂は違和感を覚えたが、特に思い当たるものもないのでそのまま撮影を開始した。
「もうちょっと面白いポーズにしません?」
「こうか?」
「んー……あ、あのポーズなんかよくないですか。ほら、今SNSで流行りの」
「え、アレか? 流石に恥ずいんだが───」
「今更無しなんて言わせませんよ」
『ポーズを取ってね! 5、4、3』
「ちょ、愛!?」
「ほらほら」
「あー、ったく」
『はい、チーズ!』