「…は?」
思わず目を疑う。
いつもと同じようにクソ土方と見回りをしていて“そろそろまこうか”と考えていたころ事件は起きた。
アイツはケンカ相手だった。廃刀令の世の中に剣をぶら下げることを許されているのはごく一部だけ。
その中でも武装警察真選組なんて言ったら、相当な刀の使い手。
その中で最も剣がたつ、俺―沖田総悟に勝てる相手なんて言ったら片手で数えられる程度だろう。
その中でゆういつの女―神楽とはいつも公園でケンカしていた。
女とは思えない力、馬鹿まっすぐに飛んでくるこぶし…アイツとやりあっている時だけは、楽しかった。
どちらが勝つかなんて本当にわからない。
アイツを倒せるのは…俺だけ。何時しかそう決定づけていた。
…………なのに。今俺の目の前で起きていることが信じられなかった。
子供を連れた女の人の悲鳴が公園中に響いていた。
目障りな美しい紅色の髪が、ゆらりと落ちていくのを視界の端に感じながら、声を出すこともできなかった。
何とかあたりを見渡すと、大男が何人も泡を吹いて倒れている。
そして、神楽の背後から刀を差していたと思えるのは―少女だった。
年齢は神楽と同じだろうか?
そこまで考えたところで我に返る。
助けなくては。
「土方さん、救急車とほかの奴らに連絡を。」
同じように現実を受け入れられていない土方を何とか現実に返す。
「あ……あぁ。」
何とか絞り出したような返事を聞いてから走り出す。
「おまえ…何やってんだ。」
黒髪の神楽の血が滴っている刀を持った少女のもとまで行ってから聞く。
「ふふふっ……殺したの………ねぇすごいでしょ?あの有名な夜兎を殺したのよ…?」
ふふふ…と笑っている少女から人間らしさはかけらも感じられなかった。
(コイツ…どうにかしている)
遠くでサイレンが鳴るのを感じながら、ずっと少女をにらんでいた。
「神楽……神楽ッッ!!!」
遠くで誰かが私を呼んでる。
でも、そんなの気にしない。
「マミー?」
何年ぶりに見ただろう。神楽と同じ色の髪を持った美しい女性にそう問いかける。
それに気づいたか、その女性は振り返ってから優しく笑った。
そして言った。
「神楽…行ってらっしゃい。」
あぁ…そうか………まだ…ダメなんだね。
「うん……じゃあね」
そう声にならない声でつぶやいてから目をつぶった。
「神楽!!!」
まぶしい。ここは…どこだろう?
一体何があったというのか。
みんなの必至な声がする。そして、何か大切な、忘れてはいけない夢を見ていた気もする。
「マ………ミィ………?」
なんとなくこぼれたセリフ。何と言ったっけ?
といった直後に分からなくなる。それでもいいや。
なんか疲れてしまった。つかれて……寝たい……
「チャイナ、いつまでねてるんでぃ、いい加減起きやがれ。」
誰かが頭の中でそう言ってくる。誰?彼は誰?
大切な人。とっても大切な人。
………わかった。分かったから…もう起きるから。だから……私に愛していると伝えて……その声で。
「……ん?……ここ……は?」
白い光。見慣れない天井。どこだろう。
「神楽!!!!」
悲鳴のような声で、目にうっすら涙を浮かべながら頭がくるくるの白い人が叫ぶ。
それに続いて、メガネをかけた人、女のひと、紫の人、ゴリラ、Vの字の人、犬のような人…いろんな人が喜びの表情を作る。
「誰…………?」
思わず口からこぼれた言葉。
その言葉は偽りのない私の感情をそのまま示していた。
知らない。誰も。見たことない。それよりも…
「ねぇ、マミーは?パピーは?神威は?」
どこにいるの?私の大切な家族。
ねぇ、答えてよ。
でも、誰も答えない。
誰もが驚いたような顔をして、いや、悲しそうな顔をしている。
そして、さっきのもじゃもじゃはどこか苦しそうな表情さえしてる。
ねぇ。何があったの?何が…
何だろう?頭の中で何かが引っ掛かった。
忘れてる。大切な何かを。
何だろう。ダメ、思い出せない。
今夜……そう、今夜…何かが起きる……なんでそう思うんだっけ?
ダメだ。思い出せない。
何か…大切な……
いつの間にか、私の周りには誰もいなくなっていた。
「どういうことです?なんで記憶がないんですか?」
憤りを隠しきれていない荒い声で銀時が問う。
「すいません……私にもわかりません。…頭は打っていないようなのでなぜそうなるのかは………」
「チッ………」
そう言って、医師のつかんでいた胸倉を突き飛ばすように離す。
「どうするんですかぃ?チャイナ娘がアイツらのことを知っているかもしれないゆういつの手がかりだったのに、記憶喪失だなんて。」
うーむ…と考え込む問われた相手―真選組局長近藤。
「どうも、こうもない。何とかするまでだ。山崎。何とかしとけ。」
とクールにすべてを押し付ける副長、土方。
「え………は……はい。」
こんなことは慣れっこだとでもいうかのように諦めて走り去っていく。
誰もが考え込み、重たい静寂が訪れる。
その静寂を遮ったのは看護師の慌てた声だった。
「大変です。みなさん、神楽さんが……どこにもいません!!」
そのセリフを聞いた一同は血相を変えて病院の外へ走り出した。
今夜…港で何かダメなことが起きる。
自分と家族の名前以外は思い出せないけど港までは迷うことなくたどり着いた。
静かにあたりの様子をうかがう。
「…………ッ!!!!!!」
港には黒い衣にみをつつんだ夜兎がたくさんいた。
夜兎の黒服部隊か………
はっきり言って分が悪い。こっちは敵も味方もわからないのだ。
情けなんてかけられない……でも。
やらなくては!!!
そう思ったころには、もう敵の前に躍り出ていた。
ひゅうひゅうと息をするたびになる。
いや、息もうまくできない。
くるしい。
一対何者なんだろう。
コイツは。