氷川紗夜の苦悩   作:ミルティッロ

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4日目③ そして未来へ...

数分前

 

「と、ここまでが紗夜の知っている話よ。」

 

「...?紗夜さんが知っている話?」

 

「そうよ。この話には紗夜がRoseliaからいなくなってからの、続きがあるのよ。」

 

紗夜がお見舞いに来た次の日

 

リサは既にリハビリを始めていたの。

 

「リサ...何をしているの?」

 

「何って...リハビリだよ」

 

「リハビリって...あなたの手はもう...二度とベースは弾けないって...」

 

「...それじゃダメなんだよ...」

 

「もし、紗夜が仲直りしてRoseliaに戻ってきてくれても、アタシがベースを弾けなかったら、責任感じて、絶対またどこかに行っちゃうもん」

 

「アタシは...またRoseliaの5人で演奏がしたい。それは絶対諦めたくないから」

 

「リサ...」

 

「だからさぁ、友希那。アタシがまたベースを弾けるようになった時、紗夜がまだ戻れる場所にいるように、繋ぎとめておいてほしいんだ。

 

 

あの当たり前の日常に、戻れるように」

 

 

 

「なっ!? 私はまだ、あの女を許してないわ!」

 

馬鹿げたことを言うリサに対して、それは甘い考えだと、私は怒ろうとした。あいつは、あなたのことを怒りのままに傷つけた、最低な女だって。

でもリサは、そんな私の怒りを知ってか知らずか、俯きながら話し続けた。

 

「紗夜はさ...マジメなんだ... だから、この件に責任を感じて、罪を償おうとする。

それでアタシが戻ってきても、紗夜が手遅れの所まで行っちゃってたら、Roseliaは終わり...きっと新しいギターが来ても、今度はアタシが罪悪感に押し潰されちゃう。

 

だから友希那...お願い。」

 

...こうなることは、正直分かっていた。

だってリサは、優しすぎるもの。

 

「......わかったわ...」

 

 

 

 

 

こうしてリサは一生弾けないと言われたベースを弾けるようにひたすらリハビリを繰り返し、

私は居留守や外出を繰り返す紗夜を探し続けた。

そして、私が紗夜に会うよりも早く、リサは右手を奇跡的に回復させたの。

 

 

 

「つまり、リサの右手はもうほとんど直ってるのよ。」

 

「...そうだったんですね...あっ、だから紗夜先輩がリサさんとばったり会った時に...」

 

「あら、見ていたのね。そうよ。多分振り払ったあと、それが右腕だということに気がついて、罪悪感を感じたから、紗夜は逃げ出そうとしたのよ、きっと。」

 

「...てことは...」

 

「そう、リサの右手は治ってる。でもこのことを紗夜はまだ知らないの...」

 

 

 

 

 

 

 

 

伝えなきゃ、このことを紗夜先輩に...

 

そう思い、誘拐された話の後にさっきの話を伝えようとした。

 

「あっ、それと友希那先輩が」

 

しかし紗夜さんは、今それどころじゃないみたいで...

 

「誘拐!?一体誰に!?」

 

「えっ?あっ、なんか、ハイエースみたいな車に乗せられてたって、友希那先輩からメールが来て...」

 

「今すぐ助けないと!」

 

「えっ?は、はい、そうですねって、紗夜先輩!?どこ行くんですか!?」

 

猛スピードで、紗夜先輩はどこかへ走り去ってしまった。

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...紗夜先輩!はぁ...待ってください!」

 

「日菜〜!今井さん!どこにいるの!?」

 

紗夜先輩がそう叫んでるのは、今は使われていない港近くの倉庫。一通りも少なく、確かに誘拐後のアジトにはぴったりではあるが...

 

「なんで...はぁ...ここだって分かるんですか...?」

 

「勘です!」

 

「うっそぉ!?」

 

「日菜〜!今井さ〜ん!」

 

その時だった。

 

「あっ!? 紗夜先輩!危ない!」

 

近くに立て掛けられている鉄骨や木材が、先輩の方に倒れていきました。

ガラガラガシャン!!

 

「ゲホッゲホッ......? 何ともない...?まさか!」

 

「美咲さん!?大丈夫ですか!?」

 

あたしは紗夜先輩を押し飛ばして、どうにか助けることが出来ました。

代わりに自分が、下敷きになっちゃったんですけどね...

 

「...あーっ、大丈夫です。紗夜先輩。それよりも...あたし、何となく2人があそこの倉庫にいる気がします...」

 

「えっ?一体何を...」

 

「勘ですよ、勘。早く行ってあげて下さい...あたしはここで、待ってますんで...」

 

「と、とにかくそこから引っ張りだしますから!」

 

「先輩!あたしはここで寝てますから!早く行って下さい!別に何ともないですから!」

 

あたしにそう言われた紗夜先輩は、何回かその場で倉庫を見たり、あたしを見たりしたあと、苦虫を噛み潰したような顔をして、

 

「すみません...美咲さん!」

 

そう言った後、倉庫の方に走っていきました。

 

 

 

 

取手に手を入れ、力を込めると、錆びの付いた大きなドアが、変な音を立てながら開いていく。

そして、倉庫の真ん中には、縛られた今井さんと日菜がいた。

 

「紗夜!来てくれたんだね!」

 

「今井さん!日菜!」

 

「わーい!おねーちゃん!」

 

私は直ぐに2人を縛っている縄を解いた。

すると、2人は私に抱きついてきた。

 

「紗夜...来てくれてほんとにありがとう...」

 

「おねーちゃん...おねーちゃん...大好き...」

 

「ふふっ... にしても、一体誰がこんなことを...」

 

「あー、ごめんね、紗夜。

 

 

これ、ドッキリなんだ」

 

 

「......は?」

 

「おねーちゃんがあたし達を助けに来てくれるかっていうドッキリだったんだけど...ごめんね...おねーちゃん」

 

「美咲と友希那と4人で、必死に考えたんだ。

紗夜は本当に私達のこと、嫌いなのかなって」

 

「だから、私がドッキリを仕掛けて確かめてみましょうと提案したのよ」

 

先程開けたドアから、湊さんが現れた。

どうやら、ドッキリというのは間違いないようだ...

 

「......良かった...2人が無事で...」

 

最近私は、涙脆くなった気がする。

でも、今回はしょうがない。

本当に、心の底から、嬉しいのだから。

 

それに...

 

「てことは美咲さんの事故も、ドッキリですよね?」

 

「「「えっ?」」」

 

呆然とする3人。私が何を言っているのかすら分かっていないような顔。

 

「ま、まさか...」

 

最悪を考えるよりも先に、体が動いていた。

コンテナを2~3個超えた先に、未だ廃材の下敷きになっている美咲さんを見つけた。

しかも、かなり血を流している。

 

「湊さん!救急車を!」

 

「わ、わかったわ!」

 

「そ、そんな...うそ...」

 

「美咲!美咲!?大丈夫なの!?」

 

「美咲さん!美咲さん!起きてください!」

 

その後救急車が来ても、打ちどころが悪かったのか、美咲さんが目を覚ますことは無かった。

想像以上に怪我が酷く、放置したためかさらに悪化し、緊急手術が行われた後、美咲さんは死の淵をさまよい続けた。

 

そして、次の日。

 

あれ?ここは...?

そっか、あたし、廃材の下敷きになって...

 

「...紗夜先輩?」

 

隣で紗夜先輩がベッドに頭を乗せた状態で寝ていた。

しかも、乗せている部分は汗やら涙やらでびっしょりに濡れている。

紗夜先輩はあたしの声で目が覚めてしまったようで、キョトンとした目でこっちを見たあとに...

 

「...奥沢...さん?...奥沢さん!?気がついたんですか!?」

 

「はは、おはようございます...」

 

「良かった...本当に...良かった...」

 

「ちょっ、先輩!泣かないで下さい!」

 

「だって...でも...」

 

「大丈夫です!あたしは元気ですから!」

 

「もし、私が見捨てちゃったせいで、死んじゃったらと思ったら...」

 

「あー......紗夜先輩、あたし、あの時の判断は間違って無かったと思いますよ。

ただの後輩のあたしより、妹と、Roseliaを取る。

生命がかかった窮地でも、決断力があって、仲間思い。そんな先輩が、かっこよくて好きなんです。それに、結局どっちも助かってますしね...」

 

「奥沢さん...」

 

「...前に、才能とか、努力の話しましたよね。

きっと紗夜先輩の才能は、人を思う気持ちが強いことだと思います。

もう他人を傷つけないように、関わりを断ったり、嘘とはいえ、2人が誘拐されたときも、警察にも相談せず、走り出すし、何よりフェスの件だって、仲間の足を引っ張った自分に、怒ったんですよね?」

 

「...」

 

「あたし、すごいと思います。普通他人のためにそんなこと出来る人居ませんよ。

だから、それが紗夜先輩の才能です。

努力では抜かれない。唯一無二の才能」

 

「奥沢さん...ありがとう...ございます...」

 

「あー!分かりました!分かりましたから!

もう泣かないで下さい!」

 

私は先輩をぎゅっと抱きしめた。

だってこれ以上ベッドを濡らされたらたまったもんじゃないから。

......ていうのは、まあ建前だけど...

 

「うっ、うぐっ...奥沢さん...」

 

「あれ? そういえば紗夜先輩、美咲さんって呼んでくれないんですか?」

 

「えっ?そ、そんな呼び方をした覚えは...」

 

「いやーでも死にそうな中、その声を頼りに帰ってきたんですけどね〜あたし。

そう呼んでくれないと、また死んじゃうかもしれないですね〜w」

 

「わっ、分かりました...でも、それなら、美咲さん...グスッ...だって、先輩を付けずに...呼んで下さい...」

 

「えっ?...じゃっ、じゃあ、紗夜.........さん。」

 

「プッ......全然...ダメじゃないですか。」

 

「ちょっ、先輩だってまださん付けですよね!?人のこと言えませんよ!」

 

「ふふっw」

 

「あははは...w」

 

こんなやり取りで、紗夜さんが笑ってくれる。

そんな紗夜さんこそ、あたしの好きな紗夜さんだ。

そんなことを、考えていた時だった。

 

「紗夜さん!」

 

ドアを勢いよくあけ、小さな人影が飛び込んできた。

 

「みさきが怪我したって聞いて、紗夜さんもそこにいるって聞いて、それで、それで...!」

 

「あーもう、あこも落ち着いて。ゆっくり話そう?」

 

「はぁ...はぁ... 。紗夜さん...ごめんなさい。」

 

あこちゃんから出た最初の言葉は、謝罪だった。

 

「えっ?」

 

「お店で会った時、紗夜さんは優しいって知ってるのに、あの時のことを思い出して、怖くなっちゃって、それで、」

 

「いいんですよ...宇田川さん。」

 

「私が悪いことをしたのは事実ですし、何より...

 

宇田川さんに嫌われても、私は宇田川さんのことを嫌いにはなりませんから。」

 

「うっ、うぐっ...紗夜さん...!ありがとう...!」

 

 

 

 

 

 

その後、紗夜さんはRoseliaへ再加入。

汚名返上とともに、タバコを封印し、また5人で頂点を目指すそうだ。

 

ちなみにそんなあたしはと言うと...

 

「はーい、みんなーミッシェルだよー。

今日はね〜みんなのために、お姉さんとふうせんを配りに来たよー。」

 

「ちょっと紗夜さん、そんな怖い顔したらみんな近寄って来ませんよ...」

 

「これでも精一杯笑ってるつもりなのですが...」

 

「はぁ...じゃあ紗夜さんが入ります?ミッシェル。」

 

「美咲さん。私を蒸し殺そうとは、中々えげつない人ですね。」

 

「あはは...冗談ですよ。」

 

 

 

 

年上の、彼女が出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり




というわけで最終話です!
今まで応援ありがとうございました!
またもし投稿する機会があったら、その時はまたよろしくお願いします!

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