中央暦1638年1月24日午前8時======
クワ・トイネ公国軍第六飛龍隊
ワイバーンと呼ばれる飛龍を操る竜騎士であるマールパティマは、公国北東方向の哨戒任務についていた。
その方向には国は無く、ひたすら海が広がるだけである。にも拘らず哨戒任務が行われるのは最近ロウリア王国との緊張が高まっており、船による奇襲を警戒しての事である。
その任務の途中、彼は何かを見つけた。
「何だあれは!」
この空域に飛ぶ存在は通常、味方のワイバーン以外に考えられない。ロウリアからここまでワイバーンで来るには距離があり過ぎ、三大文明圏には竜母と呼ばれるワイバーンを発進出来る船があるらしいが、文明圏から外れたこの地にある筈がないからだ。
粒の様に小さかった飛行物体はどんどんこちらに向かってくる。それが近付くにつれ味方のワイバーンでは無い事を確信した。
「羽ばたいていない?」
彼はすぐに通信用魔法具を用いて司令部に報告する。
「我、未確認騎を確認、これより要撃し確認を行う。現在地・・・・・・」
未確認騎はとても大きく、胴体と翼の先端が点滅していた。羽ばたいておらず、翼についた四つの何かがぐるぐる回っていた。色は白く、胴体と翼に赤い丸が描かれていた。
高度さは殆ど無かったが、未確認騎の進行方向は彼の飛ぶ位置からかなりずれていたのですぐさま全速で接近する・・・が、全く追いつけなかった。ワイバーンの最高速度は時速235㎞。生物の中ではほぼ最速であり、機動性に富んだ空の覇者(三大文明圏には品種改良を行い能力を高めた上位種が存在するらしい)が全く追いつけない。
「司令部!! 司令部!!! 飛行騎を確認出来ず、速度が違い過ぎて追いつけない。飛行騎は本土マイハーク方向へ進行、繰り返す。マイハーク方向へ進行した」
報告を受けた司令部では大きな騒ぎになっていた。ワイバーンでも追いつけない未確認騎がクワ・トイネ公国の経済の中心であるマイハークに向かって飛んでくると言う。
万が一攻撃を受ければ大打撃となる事は間違い無い。
騎は速度からして既に本土領空へ進入しているはず。通信で指令が流れる。
「第六飛龍隊は全騎発進せよ、未確認騎がマイハークへ接近中、発見次第撃墜せよ、繰り返す発見次第撃墜せよ」
滑走路から12騎のワイバーンが飛び立ってゆく、それはこの基地のワイバーン全て。全力出撃である。
第六飛龍隊は未確認騎の発見に成功した。しかしそれは遥か上であった、既にワイバーンの最大高度4000mを飛行していた彼らは攻撃の機会すら得られずに引き離されて行った。
「未確認騎を発見、しかし最大高度を超える超高高度でマイハーク方向へ進行した。繰り返す・・・・・・・・・・」
マイハーク防衛騎士団、団長イーネは第六飛龍隊からの報告を受け、上空を見上げた。
一般的に飛龍からの地上攻撃は口から吐く火炎弾のみである。単騎で来るなら攻撃されても大した被害は出ない。おそらく敵の目的は偵察と思われた。
クワ・トイネ公国 政治部会
国の上層部が集まるこの会議では、議論が始まろうとしていた。昨日、マイハークの上空に正体不明の物体が侵入し、町上空を旋回して去って行ったとの報告が軍務卿から上がったのだ。
飛龍が全く上がれない高空を高速で進行して来たと言う。
国籍は全く不明、機体には赤い丸が複数書かれていたそうだが、赤い丸だけの国旗を持つ国など存在しない。
「皆の者、この報告についてどの様に考える」
「情報分析部によれば、第二文明圏のムーがよく似た飛行機械を持っているそうですが、その国とは非常に離れていますし東からやって来たので違うでしょう」
「では何なのだ」
「不明と言うしかありません、情報が少なすぎます」
会議は進むが、結局解らない事が解った事以外に進展は無かった。ただでさえロウリア王国とのとの緊張が高まる中、この情報はクワ・トイネ公国にとって大きな負担になる事は間違い無く、頭の痛い事態であった。
その時、会議室に外交部の若手幹部が息を切らせ飛び込んで来た、その様子に一同は緊急時を察し、外務卿が声を張り上げる。
「何事だ!!」
若手幹部の報告を要約すると次の様な内容であった。
本日朝、クワ・トイネ公国の北側海上に全長200m以上の超巨大船が現れた。
海軍が臨検を行うと大日本帝国と言う国の特使が乗船していて、敵対の意思はない旨を伝えて来た。
更に話を聞くと、以下の主張を行った。
*大日本帝国は、突如としてこの世界に転移した。
*元の世界との交信、行き来などの全てが遮断された為、航空機による周辺の捜索を行っており、その際に陸地を発見した。
哨戒活動の一環として貴国に進入し領空を侵犯した事は深く謝罪する。
*クワ・トイネ公国との会談を行いたい。
突拍子も無い話で政治部会の誰もが直ぐには信じられなかった、しかし昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実であり、200m以上と言う大きさの船の存在も、既に報告に上がっている。
国ごと転移と言う話は眉唾であったが、その大日本帝国の力は本物と思われ、特使と会う事が決定された。