中央暦1639年4月25日======
ロウリア王国が4000隻以上の大艦隊を出向させた事が諜報員よりもたらされ、マイハーク港を本拠地とするクワ・トイネ公国海軍第二艦隊は出港した。
この艦隊はクワ・トイネ公国で初めて大砲を主力とし、動力による航行を可能とした軍艦で構成された艦隊である。艦の構造は前後に1基ずつ搭載した回転砲塔に10㎝砲を装備する事で少ない砲数で広範囲を狙える設計で、1500馬力のディーゼルエンジン4基で2基のスクリューを駆動し、18ノットを発揮する。
マイハーク港付近の造船ドックでしか整備出来ない事から建造された20隻(自国製造4隻、日本への注文16隻)全てがこの艦隊に配属されている事情があるが、ロウリア海軍迎撃の為に出港していく。
クワ・トイネ艦隊司令官パンカーレは艦隊を見渡し、呟く。
「壮観な光景だな」
「ですがロウリアは4000隻です、物量で押し破られる事もあり得ます」
「弾切れまでは足掻け、それからは撤退だな。そろそろ日本軍と合流する地点の筈だ、見張りを怠るな」
「艦長、右舷1000mに艦影! 日本軍の船です!」
「数は? 何隻だ」
「2・・・4・・・6・・・8・・・10隻です!」
「日本軍より通信!」
「こちら日本海軍派遣艦隊指令、山本勇樹。日本より援軍に参った。質問だが、これからの海戦はどちらが先陣を切る?」
「なにを、当然だ、我が艦隊が先陣を切る!」
「了解した、我が艦隊は後方1㎞に展開する。ワイバーンの迎撃、退却時の殿は任せて貰おう。ではこの海戦、勝ちますぞ!」
「当然だ!」
「海原君、これからの海戦どう見る?」
「クワ・トイネ軍の砲は最大射程が10000m、命中が見込めるのは3分の1として3300mです。逃げ撃ちに徹すれば弾切れまでに500隻を撃沈可能でしょう」
「それ以上は彼らの練度に期待、と言う訳かね?」
「そうでもありません、500隻と言うのは日本の持つ海戦のデータを基にしたものである為この状況の参考になるデータを所有していません。つまり500隻と言うのは最低限これくらいだろうと言う物で4000隻が密集隊形を取れば、撃てば当たると言った状況になる可能性もあります。もしかしたら2000隻を撃沈する事も零では無い訳です」
「要するに、当てに出来るデータは無く予想の幅が大きくなると言う事か」
「その通りです」
ロウリア王国海軍 司令官シャークン
「実にいい景色だ」
大海原を帆船が風を受け進む。その数4400隻、大量の乗員と揚陸部隊を乗せて彼らはクワ・トイネ公国の経済都市、マイハークに進んでいく。
見渡す限り船ばかりで、海の青は一切見えない。
6年を要した準備期間、パーパルディア皇国からの援助を得てようやく完成した大艦隊が一面に広がっていた。これを防ぐ術はロデニウス大陸には無い。
「前方に敵艦発見! 20隻です!」
「はっ、たった20隻で向かってくるなど愚か者め!」
向かってくる船はこちらの左舷側に向かうとと距離1000mで並走し始めた。よく見るとその船には帆が無かった。
船の前後にある棒がこちらを向くと、光りと煙が吐き出される。するとシャークンが疑問に思う間もなく、複数の帆船が爆発していく。
「何だこの威力は!」
約10秒から20秒毎に棒から光りと煙が吐き出され、その度に30隻程の船が沈んでいく。
「ワイバーンに上空支援を要請しろ! 敵主力艦隊と交戦中とな!」
ロウリア王国 ワイバーン基地
「海軍より通信入りました、敵主力艦隊と交戦中、航空支援を要請する」
「そうか・・・よろしい、350騎全てを差し向けろ」
「しかし先遣隊に150騎を分けている為、本隊の航空支援が無くなります。それに先遣隊がワイバーンの半数を失ったと通信が入っていて補充用に残す必要がありますが」
「ふん、ワイバーンが撃墜される訳が無かろう? 大方自分達だけで首都を落とそうと虚偽の報告をしているのだ」
「で、ですが」
「もう一度言う、全騎だ。敵主力なら大戦果となろう、戦力の逐次投入は愚策だ」
「了解しました」
日本海軍利根のCICでは既にそれを捉えていた。
「来たか・・・クワ・トイネ艦隊に通信! ワイバーンを探知、一時退避されたし」
「司令官、日本海軍より通信です。ワイバーンを探知した、一時退避されたし。との事です」
「そうか、各艦に一時退避を通達しろ!」
「そろそろワイバーンが来る頃だが・・・む? 離れていく?」
日本海軍とクワ・トイネ海軍の艦隊が合流し、日本海軍の輪形陣の中にクワ・トイネ海軍が入った。それとほぼ同時にワイバーンの編隊が対空兵装の射程範囲に突入した。
ロウリア王国軍の竜騎兵達は理解不能な事態に陥っていた、突如として20騎の仲間が爆散し、落下して行った。十数秒後に20騎、更に十数秒後に20騎と、次々と撃墜されていく。
その現象が終わると編隊の数は350騎から200騎へ減っていた。竜騎士達はパニック状態に陥りかけたが、味方の艦隊が見えた事で落ち着きを取り戻す。
それから約3㎞程離れた海上に帆も無しに進んでいる30隻の船を見つけ、突撃の号令を出す。その時、船から煙を出してと飛ぶ何かが次々と発射されてそれに当たったワイバーンが落ちていく。
7㎞まで接近した時、ワイバーンは50騎まで数を減らしていた。突如として船から光と煙が吐き出され、瞬く間に全てのワイバーンは空から姿を消した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰もが目の前の光景を理解出来なかった。
ワイバーンは1騎落とすのも至難の業であり、それが見えた限りで約200騎! 200騎のワイバーンが血の雨となり落ちて行った。
「我々は、一体何と戦っているのだ?」
シャークンが呟いた言葉は、艦隊の全員が思っている事であった。しかし、戦いは終わった訳ではない。再び敵の船が近付いて光と煙が吐き出される。クワ・トイネ艦隊は完全なアウトレンジでロウリア海軍の船を沈めていく、しかしさすがに4400隻は多く2000隻程を沈めると残弾が少なくなってきた。
「主砲射撃終了。これより機銃での掃討に入る」
クワ・トイネ艦隊はロウリア艦隊との距離を詰め、400m程に接近すると20㎜機銃の射撃で1隻ずつ確実に撃沈する。
「撤退だ、これ以上兵力を減らす訳には行かん」
そう指示を出したシャークンの心は絶望に染まった、ロウリア王国史上最大の艦隊を率いて4分の3を失う大敗北。国に帰ったら死刑は免れないだろう。
「ロウリア艦隊、撤退を開始しました」
「燃料、弾薬共に補給が必要だ、追撃せずに後退するぞ」
後にロデニウス沖海戦と呼ばれる戦いが終わり、6年かけて作られた大艦隊は20分足らずで壊滅した。
パンカーレはそう命令すると、自分の手が震えている事に気付いた。表面では平静を取り繕っていたが、心の奥では緊張していたのだ。
最たる驚異のワイバーンを退けたのは日本艦隊とは言え、ロウリア艦隊を撃滅したのは自分達である。
クワ・トイネ艦隊の全員が確かな自信に満ちていた。