Fate/New Dawn   作:まーく

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2.遠坂凛の首領パッチに対する考察

 聖杯戦争。

 マスターと呼ばれる七人の魔術師が、人智を超えた使い魔『サーヴァント』と共に、最後の一人になるまで殺し合い、生き残った者には万能の願望器である『聖杯』が与えられる。

 俺はその戦争の参加者の一人になったのだという。

 居間でお茶をすすりながら、スラスラと話す遠坂。

 

 

「───って事。分かった?」

「……は? いや、なんだよそれ。そんな荒唐無稽な話、いきなり教えられても……」

「まぁ、そうすぐには信じられないわよね……けど、貴方はもう巻き込まれてるの。その手に宿る令呪と、そこに居る謎の生物が何よりの証拠だわ」

 そう言って、首領パッチを指さす遠坂。

 首領パッチはシューズとチョークバック、ハーネスにロープを装備して、何故かロッククライミングを始めようとしていた。

「……何やってんだよ」

「あそこに聳えるほぼ垂直の断崖絶壁を登ろうとしているのであります!」

 そう言って、セイバーと呼ばれる小柄な少女を指さす。彼女は今、銀の鎧を外し、紺色のドレス姿で正座している。

「? セイバーがどうかしたのか?」

「見事なまでの断崖絶壁であります!」

 セイバーの額に青筋が走る。

 ……いや、確かにそれ程胸がある訳ではないけどさ……。

 セイバーと目が合う。その宝石のような瞳には、未だに警戒の色が見て取れる。

 ああ、首領パッチが変な事をするから……。

 遠坂は、あの女の子を使い魔(サーヴァント)と呼んだ。

 サーヴァントとは、死亡した英雄———人間を超え、精霊の域に達した超人たちや神霊などを引っ張ってきて、聖杯の力によって実体化させた存在なのだという。

 その話が本当なら、あの少女も英雄だった人間なのだろうか?

 そして何より───

「さて」

 遠坂が静かに口を開く。

「衛宮君への説明はこの辺りにするとして。今度は貴方に質問するわ、首領パッ……」

「ぶべらっ!」

 チョークの付いた手でセイバーに触れようとした首領パッチが、強烈なパンチをお見舞いされ、ガラスを突き破って窓の外へ飛び出していった。

「ハッ! ……申し訳ありません、凛」

 しゅんとするセイバー。まぁ、流石にあれだけ煽られたらキレるよな……。

 溜息を吐く遠坂。

「衛宮君、アレ拾ってきて」

 大人しく遠坂の言葉に従い、庭に横たわっている首領パッチを拾って、遠坂の前に置く。

 

 

「改めて聞くわ。貴方───一体()()()

 

 

 サーヴァントは英雄である以上、歴史上に弱点や能力といった情報を残している。故に、サーヴァントの正体は秘匿しなければならない。

 そう言ったその口で、遠坂は首領パッチに問いかけた。

 お前は何者か、と。

「遠坂、お前さっき」

「違うわ。わたしが聞いているのは、そんな単純な事じゃない。───貴方、本当にサーヴァントなの?」

 え?

 おかしい。遠坂の説明だと、コイツは俺が召喚したというサーヴァントの筈だ。

 あの土蔵で突然現れた事、ランサーのサーヴァントから何やかんやで俺を助けてくれた事……そして、コイツは明らかに人という枠に収まらない存在だ。あの動きは、人間など優に超越していた。

 というかそもそもどう見たって人間じゃない。きっと妖精か何かの一種なのだろう。

 にも関わらず、奇妙な質問をする遠坂。そこに重大な意味が隠されているような気がして———気が付けば、勝手に鳥肌が立っていた。

「遠坂。それ、どういう意味だ」

「言葉通りの意味よ。衛宮君、サーヴァントについての説明は聞いてたでしょう? けれど、コイツにはさっき言った事のほとんどが当てはまらないのよ」

「……は?」

 思わず間抜けな返事をしてしまう。

「……まず、サーヴァントというものは膨大な魔力の塊みたいなものなの。だけど、コイツからはそれを全然感じられない。衛宮君も分からないでしょ?」

「確かに……」

「つまり、コイツには()()()()()()()。サーヴァント召喚システムそのものが大掛かりな魔術なのに、その結果出てきたものに魔力が一切ないのは『異常(イレギュラー)』よ。……かろうじて召喚時に聖杯から漏れ出た魔力の残滓は確認できるけど……」

 確かに、サーヴァントの現界にはマスターからの魔力供給が必要だと遠坂は言っていたが、俺は今、それを全くコイツに供給していない。何かを吸われ続けてるような気もするけど……。

「次に、サーヴァントとなるのは歴史に名を刻んだ英雄か、もしくは神話に出てくるような怪物の類よ。時には神霊すらも呼ばれる事があるわ。けど……」

 ちら、とセイバーに視線を向ける遠坂。

 セイバーが、促されるままに言葉を紡ぐ。

「私は聖杯から、現世の知識と、ありとあらゆる英雄や怪物、神霊の情報を与えられています。しかし、このような怪物も、首領パッチという名の英雄も()()()()

 苦虫を嚙み潰したような顔をするセイバー。

「本来サーヴァントの召喚には、その英雄に関係のある『聖遺物』を触媒として使うの」

「魔法少女、カレイドンパッチ! ここに爆誕☆」

 首領パッチがまたセイバーに何かちょっかいを掛けているが、遠坂は無視して話を続ける。

「もし何も使わず召喚した場合、呼び出したマスターの性質に近い者が選ばれるわ。……一体何を触媒にしたらあんな奇怪奇天烈なものを呼び出せるのよ……。それとも、衛宮君ってホントはあんな感じの人間なの?」

 遠坂が冷たい視線を俺に向ける。

「ご、誤解だ! きっと何かが偶然触媒になったんだ!」

 後ろから爆発音が聞こえた。

「さっきから何やってんだよ!」

 首領パッチのいる方を見……いや、怖いから見たくない……。

「それで、貴方は何者なの? もし教えてくれたら、代わりにセイバーの真名も……」

「凛」

 セイバーが厳しい声で諫める。

「……ゴメン。そうね……ランサーの情報もオマケで教えてくれる? それでいいでしょ、セイバー」

 遠坂がおねだりするようにそう言うと、セイバーは渋々了承した。もしかしたら令呪まで使われかねないと思ったのだろうか。小さい声で「これだから魔術師は……」とか何とか言ってたけど。

 知的好奇心の赴くままに真実をとことん探求するのが『魔術師』というものだとオヤジは言っていた。遠坂も一角の魔術師、という事なのだろう。

 首領パッチが漆黒の槍を構え、高らかに叫ぶ。

「我が名は竜騎士ガルザーク!」

「嘘つけ」

 誰だよそのRPGとかによくいそうな奴。

「じゃあ衛宮士郎みたいなもん」

「俺⁉ じゃあって何だよじゃあって!」

「めんどくせーなぁ。ロリコンでいりや」

幼児性愛者(ロリコン)⁉ いりやって何だよ!」

 駄目だ。まともな会話が成立しない。コイツは多分“バーサーカー”なんだろう。

「……はぁ。もういいわ。取り敢えず、聖杯戦争について教えてあげたんだから、ランサーの情報だけでも教えなさいよ」

「わかった。……なんか、ゴメン」

 情報、と言っても大したものは無いのだが。取り敢えず、ランサーと首領パッチが戦った時の事を話した。

 

 

 

「令呪のブーストがかかった状態のアイツと打ち合って勝った⁉ そんな、セイバーと」 

「凛」

 またもセイバーから厳しい視線を向けられ、きまり悪そうにする遠坂。しかし、今の言葉にそこまで責められるべき要素は無かったと思うけど。

「ゴホン、ランサーはセイバーに少しは食らいついて見せた、割と強い方のサーヴァントだったわ。貴方のサーヴァントは、まぁ、そこそこ強いんじゃない? 良かったわね」

 そこそこ、か。傍から見ただけではランサーは凄まじい、それこそ聖杯戦争で一、二を争うレベルのサーヴァントだと思ったのだけど、セイバーはそれ以上なのか……。

「他には? 宝具とか使って来なかったの?」

 宝具、か。そういえば、ゲイボルクとか何とか言ってたような。首領パッチには心臓が無い、とも……。

 それを遠坂たちに伝えると、二人とも一気に表情が暗くなった。

「ゲイボルク。ランサーは、アイルランドの光の御子ですか」

「? 誰なの、それ」

「クー・フーリン。日本では余り知名度が高くありませんが、ケルト神話最大最強の英雄として、北欧の方ではかなり有名な英雄です。そして……」

「……狙った相手の心臓を必ず穿つ、か。発動させてはいけない類の宝具ね。あの男、一体どれだけ……」

 眉間に皺を寄せ、下唇を噛む遠坂。

 ランサーに、何か悔しい事でもされたのだろうか。

「セイバーとの戦いでは使われなかったのか?」

 俺の問いかけに、一瞬硬直する遠坂。二秒ほど考えた後、

「え、ええ。ランサーは宝具を発動する暇さえなかったわ」

 と、そう答えた。

「遠坂、何か俺に隠してるだろ」

「真実はいつも二つ!」

 首領パッチが便乗してきた。その赤い蝶ネクタイとメガネどっから持って来たんだよ……。

 あと真実がふたつあるのだとしたら、それはまだ事件を解決し切れていないだけだろ。

「……き、気のせいじゃ」

「話は終わりましたね、凛。では簡単に同盟でも結んで早々に帰りましょう。」

 遠坂との間に無理矢理割って入られる。やっぱり何隠してるな。

「いや、ええと、その前に、コイツを教会に連れて行かないと。衛宮君がこの後どうするつもりなのかは知らないけど、何をするにせよ取り敢えず、この戦いの監督者にマスター登録をしてもらう必要があるのよ」

「……分かりました」

「じゃ、行きましょうか。行き先は、隣町の言峰教会。そこがこの戦いを監督している、エセ神父の居所よ」

 

 

 

 

 深夜の町を歩く。

 既に日付は変わり、時刻は午前一時。

 人どころか鳥や犬すら見当たらない、寝静まった夜の街。こんな時間に起きている人は稀だろう。

「士郎、見てみろよ! 犬のウンコがあるぞ!」

 だからこんな時間にアホな事を大声で叫ぶなよ……迷惑千万だ。

 首領パッチの指さす方を見る。

 ……蛇みたいにとぐろを巻いたピンク色のウンコって現実に存在するんだな。

 首領パッチがどこからか持って来た木の枝をソレに突き刺して持ち上げる。

「うわっ、汚いからやめろよ……」

「キーーーーン」

 首領パッチはそれを持ったまま、奇声を上げながら何処かへと走り去っていった。

「…………」

 後ろを歩く二人に目を向ける。

 セイバーは、顔をしかめすぎて最早別人と化していた。今にも襲いかかって来そうな剣幕である。

 遠坂は、呆れなど通り越して、最早憐憫の目を俺に向けるまでに至っていた。

「スマン……」

 何故俺が謝らなければならないのか。

 どうして俺が気苦労を抱えなければならないのか。

 考えるのもバカらしくなった。

「まぁ、取り敢えず貴方だけでも言峰の所へ連れて行く。……そこで、マスター権を捨てる事をお勧めするわ。それでいつも通りの日常へ帰れる」

「ああ。……色々とありがとう、遠坂」

 

 

 そんなこんなで、奇妙な三人組は、言峰教会へと歩を進めたのだった。

 

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