My Companion, My Dearest 作:春日むにん
ジェイ・ザルゴの実験
フローズン・ハース亭の扉を開けた途端、男性の上ずった声が耳に飛び込んできた。
「だから、あんたらに来てほしいって言ったのに!」
中央の暖炉の前で、憔悴した表情のノルドの男性が、大きな角の付いた兜を脇に抱えた衛兵に訴えていた。昼時のフローズン・ハース亭の広間は昼食目当ての客で混雑していたが、訴えている方の連れと思われる男性たちが近くの長椅子で事の次第を見守っている他は、皆面倒事に巻き込まれまいと息を潜めつつ、それとなく聞き耳を立てているのが分かった。
衛兵が困り果てた様子で肩をすくめた。
「お前の賭けに付き合えるほど人数に余裕がなかったんだ」
男性は衛兵を睨みつけた。
「俺はドーンスターで十年鍛えた。その俺が間違いないと踏んだんだぞ」
「十年くらいで音を上げて逃げ帰ってくる奴の鼻が利くとは思えなかったな」
「音を上げちゃいない。山師どもにはした金でこき使われるのにうんざりしただけだ」
「この町で働くよりずっと割がいいと言ってたじゃないか」
ノルドの男性は、衛兵にずいと怒りの形相を近づけた。
「十年も前の揚げ足を取ってる暇があるなら、今すぐ俺についてこられるよな?」
「衛兵隊長が簡単に町を離れるわけにはいかない」
「それなら適当な衛兵をよこせ」
「ちょうどあちこちで厄介事が起きていて、出払ってるんだよ」
衛兵は憮然とした表情で首を横に振った。そこで初めて、この宿屋兼酒場の新たな客に気付いたらしく、こちらを振り返った。
「あんたは、確かあの時の」
衛兵は、わたし、ではなく、わたしの隣に立っている人物に呼びかけた。奇妙な形の兜と赤いマスクで顔を隙間なく覆い隠し、赤茶色の服の上に、何かの生物の鱗と殻で作った鎧を身に着けた男。彼は、自らが酒場の客たちの注目の的となっていることに気圧される様子もなく、ブーツで石の床を踏みしめ、かすれた声で衛兵に応じた。
「ああ。テルドリン・セロだ。何を揉めているんだ?」
衛兵は、今しがた騒いでいた男性を親指で示した。
「この男――ソルガーが所有している洞窟にスケルトンが潜んでたらしくてな。衛兵が付いていれば逃げ帰らずに済んだと文句を言ってる」
テルドリンは、ソルガーと呼ばれた男性に兜の正面を向け、呆れた様子で言った。
「衛兵は冒険ごっこのお供をするためにいるわけではない。それなりの金を払って傭兵を雇うのが常識だと思うが」
ソルガーは、突然話に加わることになった奇妙な見た目の人物に眉をひそめながら、反論した。
「あそこはただの洞窟じゃない。鉄の鉱脈があった。ウィンターホールドの領内で唯一の鉱山だ。衛兵の一人や二人、派遣するのが筋だ」
衛兵がぼそりと呟いた。
「鉱脈があったってのも眉唾ものだがな」
「なんだと!」
テルドリンはさっと片手を差し出して、衛兵に掴みかからんばかりのソルガーの注意を自らに引き寄せた。
「まあ、少し落ち着け。その洞窟だか鉱山だかはどこにある?」
ソルガーは憤った勢いのまま答えた。
「南の街道沿いだ」
「ふむ。そいつは良くないな。旅人に被害が出るかもしれん」
テルドリンは思案するように腕組みをした。広間の空気がざわついた。
衛兵がテルドリンに切り出した。
「良かったら、あんたが代わりに行ってくれないか? あんたの言う通り、万一のことがあったら大変だ」
テルドリンは、そこで不意に、わたしに声を掛けた。
「どうする?」
すっかり三人だけで話し込んでいたのに、なぜ急にわたしに。と思ったが、よく考えれば当然のことだ。わたしは、今度は自分の方に視線が集まってくることに居心地の悪さを感じながら、答えた。
「引き受けよう」
ソルガーと衛兵は揃って怪訝そうな顔をした。ソルガーが衛兵に尋ねた。
「そもそも、こいつらはなんなんだ?」
「テルドリンはこの前ヨナスを助けてくれた凄腕の剣士だ。アーチメイジの新しい護衛だったっけか?」
テルドリンは先日一人で外出した時にウィンターホールドの町の漁師を助けたと言っていた。この衛兵とはその際に知り合ったのだろう。
衛兵は、続けてわたしに視線を移し、ひとしきりうーんと唸ってから言った。
「すまないが、お前には見覚えがないな。テルドリンの従者か何かか?」
わたしは、自分がウィンターホールド大学の学生であり、テルドリンはアーチメイジの護衛ではなくわたしの従者であることを、彼らと、ついでにその他の聴衆に向けて、説明する羽目になった。
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ソルガーが所有するホイッスリング坑道までは、ウィンターホールドから南に延びる街道を辿って少し歩いていけば、特に迷うことなく到着するという話だった。ソルガーとその仲間たちをフローズン・ハース亭に置いて、テルドリンと二人で向かうことにした。
道程の半ばあたりで、ウィンターホールドの町を出た時は辛うじて曇天止まりだった空から雪と冷気が吹きつけ始めた。鼻がむずむずした。大きなくしゃみが一つ、隣のテルドリンをすり抜けて、その向こうのだだっ広い雪原に吸い込まれていった。
「部屋からマントを持ってきた方が良かったんじゃないか?」
テルドリンが言った。
当初はフローズン・ハース亭で昼食を食べるだけのつもりだったため、わたしはマントや地図が入っているナップザックを大学の自室に置いたままにしていた。自分の腕を抱いてさすり、鼻をすすってから答えた。
「そんなに遠くないらしいし、誰かが襲われるかもしれないなら、できるだけ急いだ方がいいでしょう」
「このご時世にこんな人気のない道をほっつき歩いている奴は、それなりの腕があるか、護衛を連れているか、救いようのない馬鹿かのいずれかだ。一刻を争うほど深刻でもない」
わたしは驚いて尋ねた。
「じゃあ、どうしてさっきあんなことを言ったの?」
テルドリンが口を出さなければ、ホイッスリング坑道には他の任務から帰ってきた衛兵が派遣され、わたしたちは昼食にありつけていたはずだった。
テルドリンは生真面目な口調で答えた。
「町の連中に顔を売るためだ。他の裕福な学生と違って、お前は勉強だけしていればいいというわけにはいかないだろう? 私の方も、お前を大学の中で護衛しているだけでは商売上がったりだ。まさか、分かっていなかったんじゃなかろうな?」
テルドリンはわたしの従者であり、ウィンターホールド大学に正式に所属していないので、大学の食堂には入れず、支給品も受け取れない。今のところは食堂の残り物や倉庫に放置された不用品を使ってやりくりしているようだが、足りなければ自費で賄うことになる。一方、わたしは大学の学生なのでその辺りの心配はしなくていいものの、まだ納めきれていない大学の学費を徐々に納めていかなければならない。
わたしは、そのような事情を分かっていなかったとまでは行かないが、最近色々と忙しかったので忘れていた。今日は主に、フローズン・ハース亭の食事を試してみようという思いつきに夢中になっていた。
わたしの心の内は表情にもばっちり出ていたようだ。テルドリンはわざとらしくかぶりを振った。
「やれやれ。しっかりしてくれよ。お前、一応は私の主人なんだぞ」
一応は、のところをものすごく強調された。わたしは何も言い返すことができず、子供みたいにむすっとして口を軽く突き出し、止めていた足を再び動かし始めた。
二百年以上の時を生きている彼に比べると、わたしはいかにも未熟で頼りない。しかし、だからこそわざわざ彼を雇っているのだ。こんなふうに馬鹿にされるのは面白くないし、いつか愛想を尽かされてしまうのではないかと恐ろしくもなる。どうにかして、彼に主人としての威厳を示せないだろうか。
必死で考え込み、同級生のジェイ・ザルゴから、ちょうど頼まれていたことがあるのを思い出した。彼が開発した、接触したアンデッドに爆発による大ダメージを与える炎のマントの巻物を、いつか実戦で試してほしいと、数日前に大学の食堂でポシェットの中にねじ込まれたのだった。今回の敵はアンデッドの一種であるスケルトンだ。
わたしは、肩から提げているポシェットの中身を確認した。件の巻物は少額のゴールドとともにポシェットの中に入っていた。
ジェイ・ザルゴは、少し自信過剰なところはあるが、学年で一、二を争う優等生であり、特に巻物への付呪の研究においては以前から名を知られているらしい。
これは、渡りに船と表現する他ない。
「臍を曲げたと思ったら、今度は何を笑っているんだ? スイートロールの欠片でも見つけたか?」
テルドリンがからかってきた。わたしは澄ました表情を作った。
「なんでもない。ねえ、今は別にいいけど、ホイッスリング坑道に着いたらふざけるのはやめてよね」
テルドリンは、きょとんとわたしを見つめた後、可笑しそうに答えた。
「わざわざ命令されなくたって、自然とそうなるだろうさ。何せ、お前をかばって戦うので精一杯になるからな」
勝手なことを言っていられるのも今のうちだ、とわたしは内心ほくそ笑んだ。
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雪空の上にあって見えない太陽がそろそろ傾き始めているであろう頃、ホイッスリング坑道と思われる洞窟の前までやってきた。洞窟周辺は静まり返っていて、スケルトンが徘徊していたり、人が倒れていたりする様子はなかった。
わたしはテルドリンを後ろに従え、ホイッスリング坑道の入り口に立った。坑道の表面は雪と氷で覆われていた。数歩先に、ソルガーたちが寝起きしていたと思われる空間が開けていた。壁に固定された松明と中央の焚き火はまだ燃えていた。焚き火の周りを囲むようにベッドロールが敷かれ、体に掛けるためのものであろう毛布が散乱していた。スケルトンの姿はなかった。
ソルガーたちの居住空間に、慎重に足を踏み入れた。左手にさらに坑道が続いていた。――その先から、ごろごろという音が響いていた。スケルトン特有の、本来そこにあるべき肉を失ったために、骨が直にこすれ合って発される音だ。
テルドリンが左手に魔力を溜め、兜の丸いレンズをわたしに向けた。始めていいか、と無言のうちに聞いているのだ。いつもなら、ここでわたしが頷き、彼が炎の精霊を召喚しながら駆け出していく。だが、今回は違う。わたしは冷気が回ってかじかんだ手でジェイ・ザルゴの巻物を取り出した。
いったい何をするつもりだ、と問いかけるように、テルドリンが左手の指先をじれったそうに動かした。わたしは両手で巻物を広げ、目の前に掲げた。巻物がすうっと焼け落ちるのと前後して、燃え盛る炎の鎧が体の周りを覆った。紅蓮色の視界の中、テルドリンが唖然としているのが見えた。
「お前、それは……」
わたしはそこはかとない優越感に浸りつつ、宣言した。
「今回はわたしが倒す。危ないから、テルドリンは後ろに下がってて」
「おい、ちょっと待て!」
テルドリンが制止してきたのを無視して左手の坑道へ走り込んだ。いた。壁掛け松明の光に照らされたスケルトンが一体。足音に気付いてこちらへ向かってきた。武器は剣。好都合だ。短剣や弓とは違って、攻撃を避けて至近距離に入り込みやすい。
わたしは脳天をかち割ろうと振り下ろされた剣をすんでのところでかわした。スケルトンの腕が炎のマントに接触した。
何かが勢いよく爆発する音が耳を突き、突風が体の周りを駆け抜け、スケルトンが目の前から掻き消えた。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。からからと乾いた音がした方角へ目をやると、スケルトンの頭蓋骨が転がっていた。その他の骨も、雪混じりの地面に好き勝手に散らばっていた。ああ、爆発して大ダメージを与えるんだっけ。それなら爆発でスケルトンの体自体が弾け飛んでも全くおかしくはない。
振り返ると、後を追いかけてきたらしいテルドリンが、わたしの方をまっすぐ見据えて、その場で固まっていた。きっとあまりの威力に驚いているに違いない。
わたしはにっこりと笑って、勝ち誇った気分で胸を張り――ふと、体全体が妙に軽く、熱を持っていることに気付いた。テルドリンの鼻を明かして気分が良くなったために体の方もどことなく調子良く感じる、ということではなく、本当に体が軽くなって火照っているようなのだ。具体的には、肩からポシェットが掛かっているはずなのにその重みが全く感じられず、腰に締めていたベルトと、胴とベルトの間に差し入れてあった護身用のダガーの感触もなくなり、体全体のかじかんだ感覚が消えて、むしろ煮え湯に突っ込んでいるかのように熱くなっていた。
わたしは自分の体を見下ろした。ポシェットとベルトとダガーが見当たらなかった。そして、着ている見習いのローブが、盛大に燃えていた。
「……え?」
今度こそ、何が起きているのか本当に理解できなかった。だが、ゆっくり考えている暇はなかった。
「後ろ!」
テルドリンが叫んだ。わたしは身を翻した。スケルトンがもう一体、今度は斧を振りかぶっていた。
髪の毛の先が少し持っていかれた。だが狙い通り、スケルトンに炎のマントを当てることができた。
激しい痛みと熱気がわたしの全身を走り、同時に爆発音が生じた。スケルトンの体が弾け、わたしの体からも何かが、火の粉を散らしながら四方八方に吹き飛んでいった。無数の布の切れ端だった。部分的に焼け焦げたそれらは坑道の地面にひらひらと舞い落ちていった。
坑道の奥から骨のこすれる音が近づきつつあった。恐らく、今度のスケルトンもこの炎のマントで倒せるだろう。でも、わたしの方はどうなるのだろうか? ――なんだか頭が燃えるように熱い。両耳のすぐそばでぱちぱちと音がする。焦げてはいけないものが焦げる匂いが鼻腔に入り込んでくる。
体の横を何かが通り過ぎた。わたしの眼前でオブリビオンの門がニルンの空間を引き裂き、中から炎の精霊が姿を現した。
「来い!」
片腕をざらついた感触の手袋で掴まれて、後ろ向きに引っ張られた。坑道の奥から現われたスケルトンと、炎の精霊の背中が遠ざかっていく。
先ほどの空間まで辿り着くと、乱暴に転がされ、頭のてっぺんを掌で掴まれて、地面に後頭部を押し付けられた。目を白黒させているうちに、腹の上に容赦なく跨られ、片方の肩を強い力で掴まれた。ヘンテコで時々かわいらしいとさえ思うこともあるテルドリンの兜に、焚き火の光が暗く深い影を落としていた。咄嗟に悲鳴を上げそうになった。
その矢先、わたしの顔全体に分厚くてごわごわした布のようなものが被せられ、その上から額や顔の周りを何度も叩かれた。訳も分からずされるがままに歯を噛み合わせて耐えた。やがて布が取り払われた。テルドリンはマスクの向こう側で微かに乱れた息を吐いた。
「消えたようだな。お前はここにいろ。残りを片づけてくる」
テルドリンはわたしの腹の上から素早く立ち上がり、坑道の奥へ駆けていった。間もなく、剣戟と骨の散らばる音が聞こえてきた。
炎のマントは、テルドリンがわたしの頭の炎を叩き消している間に効果が切れたらしい。どくどくと音を立てながらわたしの体内を巡っていた血が徐々に大人しくなっていった。それに合わせるように、坑道の奥の戦いの気配も消えた。
聞き慣れた足音が近づいてきた。
「終わったぞ」
奥からひょいと現われたテルドリンは、何かに小突かれたように軽くのけぞり、げんなりした声色で言った。
「まだそんな格好でいたのか」
言われて初めて自覚したのだが、わたしは炎のマントの爆発によって上下の衣服と革靴を全て失い、全裸になっていた。炎のマントと爆発の余波で体がまだ熱くて、身に纏っていたものが完全になくなっていることに気付かなかったのだ。
わたしは起き上がって周囲を見回した。靴は何組か隅の方に置いてあったが、不運なことに、衣服の類は見当たらなかった。
「……どうしよう」
独り言のつもりだったのに、テルドリンは皮肉っぽい口調で話しかけてきた。
「そのまま町に帰ればいいんじゃないか? 大層な評判になるぞ、ある意味でな」
わたしはむっとして言い返した。
「馬鹿なこと言わないで。寒くて死んじゃうし、だいたい、恥ずかしいよ」
テルドリンはわたしをじとっと見下ろし、腕を組んだ。
「私に対しては恥ずかしいと思わないのか?」
ああ、またやってしまった。旅芸人だった頃は、狭いテントの中で大勢の仲間と生活しており、仲間の目の前で裸になる程度のことは日常茶飯事だった。気が緩むと彼の前でもつい同じことをしてしまい、こうして怒られるのだ。
恥ずかしいと思わないのか、か。先ほど、わたしの上に跨った彼が怖くなり、悲鳴を上げそうになったことを思い出す。あれが以前の仲間だったら、全く動じなかっただろう。気心が知れていて、わたしが瞬間的に想像したようなことは絶対にしないと分かっているからだ。だが、テルドリンは――。
どうにも決まりが悪くなって、わたしは慌てて傍に落ちていた毛布を拾い、一般的に隠すべきとされている部分を覆って、彼に見えないようにした。
テルドリンは満足げに頷いた。
「やればできるじゃないか」
続けて、彼はにやけた声で言った。
「その格好で夜中まで待っていれば、私が大学から着替えを取ってきてやるよ」
そんなことは承諾できないと分かっているくせに。わたしが彼を軽んじた挙句、見事なやらかしぶりを披露したから、意地の悪いことを言って仕返しがしたいらしい。
「嫌だよ。その間にまたスケルトンが出てきたらどうするの。それに、こんな目立つ場所じゃ、外からも何か入ってくるかも」
「さっきの巻物で倒せばいいだろう」
「焼け死んじゃうってば!」
テルドリンは盛大な溜息をつき、背負っていたナップザックを足元に下ろした。ごそごそ中を探って、彼自身が着ているものよりやや色が薄く生地も薄い上下の服と、簡素な腰紐をわたしに差し出した。
「貸してやる。その上に毛布を何枚か羽織って、そこらの靴を借りればいい。後で洗って返せよ」
皮肉屋で口うるさく意地悪な従者から一転、彼がキナレスの使いか何かに見えた。
「テルドリン、ありがとう!」
危うく彼に倒れかかってしまいそうな勢いで服と腰紐に飛びつき、早速袖を通した。香辛料のようなぴりりとした匂いが鼻をくすぐり、服と一緒に全身に纏わりついた。身長と体格に差があるので、丈が余ってしまい、あちこちがだぶついて、かなり不格好だ。それでも、全裸や毛布を巻き付けただけの状態よりはずっとマシだろう。
「変じゃないかな?」
だぶついている袖を手首まで押し上げて、聞いてみた。テルドリンからは、少し間を置いてから答えがあった。
「……まあ、かろうじて逮捕はされずに済むだろう」
ここからさらに二、三は皮肉やからかいの言葉が出てくるかと思ったが、彼はすぐに話題を変えた。
「ところで、あの巻物はいったいどこで手に入れた? まともな巻物は値が張るから、お前では到底手が出せないんじゃないかと思ったが、やはりとんだ欠陥品だったな」
なんだか説教が始まりそうな雰囲気だ。わたしは、なるべくあっさり流してくれるようにと願い、小さい声で答えた。
「ジェイ・ザルゴが作ったやつ、試してくれって言われて」
願いも空しく、テルドリンは呆れと憤りを露わにした。
「なに、あのカジートが作っただと。なぜそんなものを受け取って、ましてや使おうなどと思った? お前をミッデンで死出の道連れにしかけた男だぞ!」
わたしはしどろもどろに言い訳をした。
「いや、だって、ジェイ・ザルゴは巻物の分野ではかなり有名らしいよ? 魔法の実力もわたしよりずっとすごいじゃない。テルドリンも見てたでしょう?」
テルドリンもジェイ・ザルゴとわたしの大学への入学試験に立ち会ったから、覚えているはずだ。最後には少し失敗していたけれど、彼の実力には目を見張るものがあった。
しかし、テルドリンは気にも留めず、不満げに鼻息を噴き出した。
「学者どもの間でいくら持ち上げられていようが、信用できるとは思わないことだ。私ならむしろ不信感が湧くな。変人奇人揃いの連中に絶賛される者がまともであるわけがない。しかも、ブレトンやハイエルフではなく、カジートだぞ? お前はどうせ、見た目が好みだからとかなんとかいう愚かな理由で信じきっているんだろうが――あの猫どもは、役に立つどころか害にしかならないものを言葉巧みに押し付けてくるんだ。例えば私が若い頃も――」
この後、坑道を最奥部まで見て回り、スケルトンが全ていなくなったことと、わずかながら鉄鉱脈があることを確認し、ウィンターホールドの町へ向かっている間中、テルドリンの説教と昔話は続いた。わたしは、大学に帰ったらすぐにジェイ・ザルゴを捕まえて、気が済むまで文句を言おうと胸に誓った。
-了-