My Companion, My Dearest 作:春日むにん
右手首から右肩の付け根までが、すごく痛い。特に右肩の付け根がひどい。筋肉がぎゅうぎゅう言っていて、いつ肩から先が胴体から離れていってもおかしくない感じがする。上半身全体も、右腕にかかっている重みに引っ張られて、重りをいくつも背中の上に乗せられたかのような圧力に晒されているが、右腕よりはましだ。すべすべした分厚い石の構造物に下から支えられているからだ。
その構造物は、二つの石柱の間に固定され、急な角度で上に向かって張り出しているようだった。わたしは落下感に襲われて間もなく、ここに俯せに叩きつけられ、傾きに沿って滑り落ち、石柱に引っかかって止まった。でも、油断はできない。左腕は石柱とわたしのぶら下げている重みに圧されて動かせず、腰から下は無防備だ。少しでもバランスを崩したら、ここからも落ちてしまう。わたしの右腕だけが頼みの綱の、テルドリンと一緒に。
テルドリンはわたしの上腕を掴んでいた。彼の手はわたしの腕に沿うようにして真下に伸び、わたしの手によって逆に右の上腕を掴まれていた。その下に彼の頭と体が続いている、と思われる。先ほど足元に見えた明かりは消えてしまったらしく、空間は真っ暗になっていた。
「テ、ルド、リン……」
わたしは自分をだましだまし呼びかけた。上半身に特大の重りが乗っているかのような圧力がかかっていて、わたしの胸は呼吸をするので精一杯だった。
短い間の後、テルドリンがいつものかすれた声でわたしの名前を呼ぶのが聞こえた。わたしはほっとした。
「怪我、は……」
「つらいなら話すな。私は問題ない。ぞっとするような暗闇の中で宙吊りになっていること以外はな」
彼の声は、空気を震わせるだけでなく、繋ぎ合っている腕の肉と骨を通して、直接わたしに注がれた。それはわたしの緊張しきった心と体を温めた。
「目が慣れても大したものは見当たらんな。生き物の気配もない。石のようなものが壁からいくつか頭を出しているが、この位置からでは飛びつけそうにない」
テルドリンが頭を巡らせるたびにその動きはわたしに伝わり、わたしの下にある石の構造物が危なっかしくぐらつき、角度が緩くなった。
テルドリンは、急に世間話でもしているような口調になった。
「そういえば、アンカノはどうした? 悲鳴を上げる間もなく落ちたか? アーニエルの言葉に耳を貸さないからこうなるんだ。サルモールどもはずる賢いくせに世間知らずで考えが甘い。あの高慢ちきな若造は特にそうだった」
わたしはそんな世間知らずの若造の言うことを真に受けて、こんな状況にテルドリンと自分自身を追い込んでしまったのだ。わたしの胸は張り裂けんばかりに痛んだ。精神的な意味だけでなく、肉体的な意味でも張り裂けそうだった。
「後悔しているのか? 私もだよ。どうしてこんな間抜けな人間に雇われてしまったのかと後悔していた。常にな」
危うく呼吸が止まりそうだったが、間もなくわたしは彼の声に苦々しさや憎悪の欠片もないことに気づいた。むしろ、彼は笑っていた。
「だが後悔が消し飛ぶくらい、お前と過ごすのは楽しかった。ここだけの話、いい雇い主に巡り会うのは難しいんだ。強欲だったり、クズだったり、つまらなかったりしてな。それでも金のためにはある程度我慢しなければならない。その点お前は良かった。間抜けで非常識で我が儘だが、気前はいいし、弱い者いじめはしないし、何より面白かった」
どうして今そんなことを言うのか。どうして過去形なのか。
テルドリンは、人差し指の先を上下に動かして、わたしの腕を撫でた。
「いいか、よく聞け。朝になればアーニエルたちが私たちを捜し始める。この馬鹿でかい穴に辿り着くまでそう時間はかからない。それまでそこに辛抱強くぶら下がっていろ。お前一人ならなんとか保つかもしれん」
わたしは震えた。テルドリンはその震えをなだめるように指先に力を込めた。
「私のことを気にする必要はない。私は十分に生きた。最後にお前と楽しく冒険もできた。満足だ。あとはブラックライトの墓に入れれば言うことなしだが、高望みはよそう。お前にも誰にも、そこまでする義理はない」
わたしの喉から嗚咽が漏れた。涙がぼろぼろ零れて暗闇の中に落ちていった。信じられなかった。テルドリンがこんなふうに諦めてしまうなんて。馬鹿な主人のために無駄死にはしたくないと、昔の雇い主の思い出話をするたびに言っていたではないか。
「泣いているのか。さては、せっかく雇った腕のいい傭兵を失うのが惜しいんだな? 大丈夫だ、しかるべき場所を探せば、私ほどとは言わんが優秀な傭兵は見つかる。ゲルディスかブランウルフに当たってみろ。お前になら快く教えてくれるだろう。
さあ、分かったら、そろそろこの手を離せ。そうしたら私も手を離す」
そういう問題でないことは彼にも分かっているだろうに。こんな時まで茶化さないでほしい。テルドリンの手を離すなんて、できっこない。
「どうした。早くしろ。落ちるのは私だけでいい。お前を死なせたくない」
テルドリンの声は次第に切実な響きを帯びた。
「なあ、私がなぜこんなことを言っているか分かるか? ……ああ、クソ、この際だ、はっきりさせてやる。いいか、一生忘れるなよ。愚かなことだが、私は……お前を――」
「どういう状況だ?」
唐突に、氷の間に突き刺して冷やしたダガーのような男の声が上から降ってきて、テルドリンの言葉に覆い被さった。
「どういう状況だと聞いている。答えられないのか?」
もう一度同じ声が上から降ってきた。それからすぐに、ちょうどわたしの顔と同じくらいの高さのところに、金糸で刺繍の入った黒いブーツが降りてきた。落ちてきたのではない。降りてきたのだ。ブーツは、白っぽい紫色をした円盤状の光に、下から支えられていた。
「ああ、なるほど。その体勢では声を発することも容易ではないな」
円盤状の光が更に垂直に降り始めた。降りるにつれ、物体の上に立っているものの正体が分かった。それは黒いブーツを履いた男だった。灯火の魔法を頭上に灯し、ブーツと同じように金糸で刺繍された黒い服を着た、銀髪の男。アンカノ顧問だ。
顧問はわたしの腕にぶら下がっているテルドリンを見下ろせる位置まで高度を下げた。
「貴様ならば答えられるであろう。どういう状況だ?」
テルドリンは突然の顧問の登場に言葉を失っていた。わたしも、例え声が出せる状態だったとしても、彼と同じように何も言えなかっただろう。死んだと思っていた顧問が生きていて、光の円盤に乗って宙に立っている。いったい何から突っ込めばいいのか。
テルドリンがようやく答えた。
「どういう状況も何も。あんたのエクスプロージョンで床が吹っ飛んで放り出されて、運良く何かに引っかかっている。それだけのことだ」
顧問は意地の悪い声色で言った。
「それだけ、か。ならば私の助けも不要だな?」
顧問は足元の暗闇に向かって灯明の魔法を放った。
灯明の光は降下しながら、わたしたちが落ちこんだ場所を照らし出した。緩い円弧を描く壁面に、縦長の黒い石でできた構造物、ちょうどわたしの引っかかっているのと同じものがずらりと並んでいた。ただし、わたしたちの足元から下は歯抜けになっている箇所の方が多かった。
灯明の光は遥かに下の方で、瓦礫の山の中から突き出た石橋の真ん中に降りて止まった。石橋の下には更に、暗くて底の見えない、大きな丸い穴が開いていた。
穴の周りは人が何人か横に並べる程度の石の床で固められていて、その半分ほどは瓦礫の山に埋もれていた。瓦礫は、欠けた岩、土砂、黒い石、それに白っぽくて色々な形をした欠片が混じってできていた。見るからにバランスが悪く、今しも一カ所がぱらぱらと崩れて穴の中に吸い込まれていった。
壁際にはわたしのいる層と同じ縦長の石が並んでいたが、今度は壁に垂直に埋められていた。その光景にはなんだか見覚えがあった。
「見たところ、貴様らはこのままでは遠からず落下死する運命にあるようだが。世間知らずで考えが甘く高慢ちきな若造の手を借りようなどとは、まさか思うまいな」
どうやら顧問はわたしたちのやり取りをかなり始めの方から聞いていたらしい。
テルドリンは、ぐうっと怒りのこもった呻き声を上げて言った。
「誰のせいでこんなことになったと思っている」
「私が原因だから、私が助けるのが当然だとでも? それこそ考えが甘いと言わざるをえない。貴様らの代わりはいくらでもいる。死んだら別の者を連れてくるだけだ」
顧問は明らかに、この絶対的に優位な立場に酔いしれていた。彼は続けて言った。
「しかし、私も人でなしではない。いくら気に食わぬ相手とはいえ、見殺しにするのは寝覚めが悪い。
アンカノ様、助けてください、と心の底から懇願しろ。そうすれば助けてやる。貴様も、貴様の主人もな」
テルドリンの体に静かな殺気がみなぎった。それは腕を通じてわたしの顔と胴へと走り抜け、肌を粟立たせた。
わたしが身震いをしたその時、わたしたちを支えている構造物が、根元の方でごろごろと音を立てて大きく傾いた。わたしは血の気が引くのを感じ、テルドリンの上腕を一層強い力で掴んだ。だしぬけにテルドリンが叫んだ。
「頼む。私たちを助けてくれ。助けて、ください。アンカノ――様」
その声には悔しさと、怒りと、憎しみと、何より必死さが滲んでいた。
顧問の声がいつになく楽しそうに弾けた。
「仕方がない。望み通りにしてやろう」
わたしの右腕が軽くなった。テルドリンの重みがなくなったのだ。彼の体がわたしの目の前に浮かんでいた。顧問はまるで両手の先から出ている見えない糸でテルドリンを操っているかのように、薄赤い光を帯びた両手を高く掲げていた。
「互いの腕を放したまえ」
わたしたちは恐る恐る相手の腕を放した。顧問が宣言した通り、テルドリンは空中に浮かんだままだった。
わたしは自由になった両腕で胸の下の構造物を抱えて自分の体がずり落ちないようにした。構造物は今のところは安定していた。わたしは久しぶりにまともに呼吸することができた。朽ちた岩と砂埃の匂いが肺に満ちた。
ふと、顧問の両手の薄赤い光がちかちか瞬いた。
「これでは保たぬか。致し方ない」
顧問が両手を自分の方へ引いた。すると、テルドリンが操り人形のように顧問の方へ飛んでいき、あれよあれよという間に横抱きにされていた。
二人の様子が実に優雅に見えたのはほんの一瞬のことだった。次の瞬間、顧問は苦しそうな声を上げ、いつも反り返らせている背中をあっけなく丸めた。肩と腕がぷるぷる震えていた。体勢が体勢なので、顧問とテルドリンの顔は息がかかりそうなくらい近くなっていた。
「なっ、何をする! どこを触っているんだ! 小汚い面を私に近づけるな、この――!」
テルドリンは、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ダンマーのたぶんとても品のない言葉で罵声を浴びせ、身をよじり、手で顧問の顔を思いきり押しやった。
顧問はされるがままに顔を珍妙に歪ませた。先ほどまでの余裕綽々な態度はどこへやら、彼は憎々しげに、口を動かすだけで精一杯といった感じの声を絞り出した。
「黙れ。貴様は重すぎる。これ以上暴れたら、落としてやる」
テルドリンは無念そうな唸り声を漏らして抵抗をやめた。
顧問は苦悶と優越感の入り交じった凄まじい形相を浮かべた。
「しおらしく、していろよ。主人を、心配させたくなければ」
テルドリンがわたしに視線を向けてきたので、わたしは彼を勇気づけるつもりで微笑んだ。テルドリンは何も言わなかった。兜の下でしかめ面をしているに違いない。
二人は下へ降り始めた。テルドリンはわたしを見上げたまま、顧問の胸を小突いた。
「おい待て、どこへ行くつもりだ。上へ戻ってくれ」
「指図できる立場か? 黙って、従え、老いぼれが」
「この穴の通じる先を知っているのか」
「知らぬ。だが、私には、リコールがある。言ったであろう、代わりは、いくらでもいると」
「あんた……どれだけ人を……!」
わたしは彼らの不穏な会話を聞きながら、体の支えになっている構造物の側面を右手で触ってみた。表面に何かの文様が施されていた。厚さはわたしの手首から肩までと同じくらいあり、真ん中くらいのところに横向きの継ぎ目が走っていた。これは、もしかして……。
下から、板のようなものが相次いで落ちる、ばたんばたんという音がした。続けて、金属が触れ合う音と陰気な息遣いがこだました。
顧問がテルドリンを抱いたまま、瓦礫を背にして、石橋に降り立とうとしていた。穴を囲む壁に埋め込まれていた黒い石の蓋が軒並み開いていた。それらの中から、古びた防具と武器を装備した、骨と皮ばかりの死体が一体ずつ歩み出てきた。動く死体――ドラウグルだ。
わたしも掴まっているこの黒い石は、古代のノルドの墓でよく見られる棺だったのだ。わたしの背筋を寒気が走り抜けた。幸いこの棺の中の死者は大人しかったが、下の死者たちはそうではなかったということだ。十体ほどのドラウグルが、石橋の上の侵入者二人をじっと見据えていた。
「ひッ!」
顧問がテルドリンを抱えていた腕を引っ込めた。テルドリンは石橋に体を打ちつけて低く呻き、すぐさま起き上がり、剣に手をかけて敵の群れを見渡した。
顧問が両手に魔力を湛えた。
「こッ、この数を相手にするのは馬鹿げている。逃げるぞ。私は死者撃退の光で彼奴らを追い散らす。貴様はあの扉の仕掛けを解除しろ」
目を凝らすと、テルドリンの正面、橋のたもとから繋がっている通路に柵のようなものが立っていた。
わたしの鳩尾が燃えるように熱くなった。命の危機に陥ってから鳴りを潜めていた、焦がれるような感覚が蘇っていた。あのずっと奥の方から、何かを感じる。なぜかは分からないけれど、わたしはそこへ行かなければならない。
「あいつはどうするつもりだ」
テルドリンがわたしの方を指さした。顧問はわたしを仰いで舌打ちをした。
「アーニエルらに助けさせればよかろう。どのみち探索には役立たぬ」
「ふざけるな。あんなところに置き去りにできるか。あいつを安全な場所へ移せ。今すぐに」
「貴様は私に指図できる立場ではないと、何度言ったら理解する?」
ドラウグルたちは当然、彼らの言い争いが終わるのを待ってはくれない。早速一体のドラウグルが斧を振りかぶってテルドリンに近づいていた。
テルドリンはさっと振り向き、左手で火炎の魔法を浴びせた。怯んでその場で足踏みをしたドラウグルを、テルドリンは雄叫びを上げて一刀のもとに斬り伏せ、橋の下の穴に蹴落とした。
テルドリンは迫り来るドラウグルたちに対峙したまま、煮えたぎるような声を轟かせた。
「早くしろ。さもなくば貴様を殺す。滅多斬りにしてやる」
顧問は面白いほど分かりやすく震え上がった。彼は慌てふためいて消えかかっていた空飛ぶ円盤の魔法を復活させ、こんなに速度が出せたのかと思うくらい素早く、わたしを見上げる位置まで浮かんできた。
「なッ、なんなのだ彼奴は。この私を、こッ、殺すなどと、不埒にも程がある」
顧問は青い顔でぶつぶつ呟きながら、わたしの両脇に無造作に手を入れた。
「先ほどの広場まで戻してやろう。あの男は借りるぞ」
「ちょっと待ってください。わたしも一緒に行くって約束でしたよね」
顧問は脇を持ち上げようとした手を止めて、わたしを煩わしそうに睨んだ。
「彼奴はそれを望んでいないようだがね? あの野蛮なダンマーに命を狙われる危険を冒してまで、役立たずの君を連れていく必要性は見出せない」
顧問の目当てがわたしでないことは、はじめから分かりきっていた。機会があればわたしを置いて、経験豊富なテルドリンだけを連れていこうと思っていたのかもしれない。
でも、わたしは今や、是が非でもこの遺跡の奥へ行かなければならないと感じている。それを抜きにしても、出口があるかも分からない、誰の目も届かないような場所で、この傍若無人なサルモールの顧問とテルドリンを二人きりにさせるのは嫌だ。
「彼は説得しますから。お願いします。わたしを下に降ろしてください」
わたしの懇願を顧問は突っぱねた。
「話にならぬ。広場へ戻すだけでも一苦労なのだ。せいぜいトルフディルに泣きつくことだな」
説得ができないのなら、別の方法でどうにかするしかない。
わたしは棺から身を乗り出し、ちょうどいい具合に目の前にある顧問の上半身に飛びついた。
「ぬわあッ!?」
顧問が素っ頓狂な声を上げるのと同時に、棺が傾いて壁面から外れた感覚があった。ややあって、下の方で激しい衝突音とドラウグルの唸り声がした。
テルドリンがわたしの名前を叫んでいたが、それに応えるどころではなかった。わたしは、顧問と自分の側頭部を互い違いにくっつけて、肩から背中へ両腕を回してサルモールのローブを握り、胴を脚で挟むという、大変みっともない格好で彼にしがみついていた。ローブの匂いなのか、それとも顧問自身の匂いなのか、熟したラベンダーのような香りが鼻をくすぐった。
「なななな、何、何をして、君ッ、はなッ、はッ、離れたまえ!」
顧問は半狂乱になってわたしを引き剥がそうとした。わたしはそうはさせまいと彼に密着して夢中で叫んだ。
「嫌です。下に降ろしてください。ファイアボルトでもアイススパイクでも、この距離なら当て放題ですよ!」
わたしは右掌を広げて顧問の背中に押しつけ、魔力を集めた。顧問が陸に揚げられた魚のようにぱくぱくと口を開閉しているのがこめかみの動きで伝わってきた。
「わかッ、分かった、降ろす、降ろしてやるから! 今からは何もせずに、いッ、一切体を動かさずにだぞッ、じっとしていたまえ!!」
わたしたちは石橋に向かってゆっくりと降下し始めた。テルドリンは石橋のたもとまで進み、召喚した炎の精霊と背中合わせになって、両側から攻めてくるドラウグルたちと戦っていた。間もなく円盤の魔法の向きが変わったため、テルドリンの奮戦ぶりは耳に届くのみとなった。
テルドリンに背を向けた状態で石橋に降りるなり、わたしは顧問から飛びのいた。顧問は額の先から首根っこまで真っ赤にしてわたしを睨んでいた。
後ろへ振り返ると、ドラウグルのほとんどは狭い通路の中で押し合いへし合いして、テルドリンと炎の精霊を囲んでいた。テルドリンの腕には矢が刺さっていた。この乱戦状態ではさすがに防ぎきれなかったのだろう。
矢を放った当人であろうドラウグルが、仲間たちから離れたところで弓に矢をつがえてテルドリンを再び狙っていた。
「こっちだ!」
わたしはまるで迫力のない大声を上げて、聖者の光をそのドラウグル目がけて放った。白色と金色の絡み合った光がわたしの手を離れて飛んでいった。それはドラウグルの腕を掠めるだけで終わったが、十分だった。ドラウグルの標的はわたしに移った。
「お前、なぜ――」
テルドリンの言葉を最後まで聞き取ることはできなかった。わたしは額の真ん中目がけて飛んでくる矢を、体をひねってかわすので精一杯になっていた。
相手は既に二本目の準備をしていた。冷や汗が出た。この石橋の上は動きにくい。一歩踏み外せば真っ逆さまだ。賢い戦い方とは言えなかった。でも、わたしにはこれ以外にテルドリンを援護する手段がない。
白く光るものがわたしの横を通って弓使いのドラウグルに飛んでいき命中した。わたしが先ほど使ったのと同じ、聖者の光だった。途端に、ドラウグルが明後日の方向へ走り出した。
状況を飲み込む暇もなく、背後からまたもや何かが放たれた気配がした。弓の弦のような形をしたそれはわたしの体を通り抜け、戦闘中の一団を直撃した。
効果はてきめんだった。ドラウグルたちが一斉にのけ反り、次の瞬間には、今しがたの戦いぶりが嘘のように四方八方へ逃げ出していた。
「扉を開けろ!」
顧問の、怯えを隠しきれていない不安定な声が響いた。
わたしは跳ぶように走った。正面に背の高い鉄の柵が立っていた。その向こうは落とし格子で塞がれていて、落とし格子の先に黒い扉が見えた。
柵の両側にはチェーンが下がっていた。わたしは、同じように走ってきたテルドリンと一緒にチェーンを引いた。柵と落とし格子が轟音を立てて引っ込んでいった。わたしたちは扉の中に飛び入った。顧問が喉をぜえぜえ言わせながらわたしたちに続いた。