My Companion, My Dearest   作:春日むにん

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5. 死霊術師の戯れ

 扉の先の通路で何体かのドラウグルをテルドリンが倒し、わたしたちは更に奥へ進んだ。幸い、顧問が追い散らしたドラウグルは追いかけてこなかった。

 

 通路を抜けたところには、サールザルの町の続きが広がっていた。今度はところどころに蝋燭が灯されていたので、灯明や灯火の魔法を使わなくても見渡すのには苦労しなかった。ウィンターホールド大学の敷地くらいの広さの空間に、住居らしき建物が区画を作って並んでいた。区画の境目に立っている太い石の柱は天井を支え、柱同士の間には、崩れ落ちているものが多かったが、橋が渡されていた。わたしは、何千年も昔のアトモーラからの移民たちがこんなに大きな町を何層も地下に建設できたことに驚いた。

 

 しかし、悠長に観光してはいられなかった。そこは今ではドラウグルの根城にもなっていた。建物の上や橋の上や街路にドラウグルがうようよいて、目ざとくわたしたちを見つけた。一体一体は強くはないものの、しょっちゅう出くわすので、テルドリンの腕に刺さった矢の処置も済ませられなかった。

 

 町に入ってから何体目かのドラウグルがテルドリンの剣の露となって倒れた。わたしは周りに他のドラウグルがいないことを確認して、抜剣したまま歩くテルドリンに言った。

 

「テルドリン。このあたりの建物に隠れて少し休憩しよう。腕を治さなきゃ」

 

「この程度、大したことはない。休憩ならもっと立ち回りやすい場所に出てからの方がいい」

 

「ううん、休もうよ。傷口が膿んだりしたら良くないよ。それにほら、顧問もわたしも疲れてるから」

 

 わたしは背後を顧みた。一見、誰もいないように見えるが、よく観察すると人一人分くらいの範囲の空気が歪んでいる。

 

 アンカノ顧問はわたしの判断には文句がないらしい。もし文句があれば即座に食ってかかってくるだろう。

 

 テルドリンは、ふん、と不服そうに息を吐き出した。

 

「それでお前の気が済むのなら、そうしよう」

 

 テルドリンが近くの建物に慎重な足取りで入っていった。わたしはすぐ後ろをついていき、建物の中に灯明の魔法を放った。

 

 内部の構造は上の階層と変わらなかった。暖炉と石の家具と本棚、その横に膝丈ほどの段差のあるちょっとした空間が開けていて、壁には、熊を犬と一緒に追い立てる人の姿が描かれていた。ただ、上の階層では段差や床に置かれていた捧げ物がここにはなかった。

 

 わたしの眼前の床に黒い影が湧いた。背後で顧問が透明化を解いたのだ。顧問のくどくどしい声が建物の中に響いた。

 

「長居する余裕はないぞ。この様子ではまだ――」

 

 テルドリンがさっとこちらを振り返り、わたしの横を鋭い息を吐きながら駆け抜けた。視線で追った先で、彼の剣が顧問に真っ直ぐ向かっていった。真っ直ぐ、顧問のひょろ長い背丈の後ろで動いた何かの方へ。

 

 テルドリンの剣の一振りで、そこにいたものは声も立てずに崩れ落ちた。

 

「ひいッ!」

 

 顧問は壊れた笛のように調子外れの声を上げて後ずさった。彼はすぐに長椅子の端に当たって、そのままへなへなと座り込んだ。

 

 ドラウグルが床の上に喉を裂かれて転がっていた。もう近くにはいないと思っていたのに。

 

「危なかったな。あと一瞬遅ければ、あんたは肩口をばっさりやられておしまいだったよ」

 

 テルドリンが剣を鞘に収めながら言った。

 

「貴様、故意に見逃していたな!? 私に一泡吹かせようと――小癪な真似を――」

 

 顧問がこめかみに青筋を立て、目玉が零れ落ちてしまいそうなくらい両眼を見開いて怒っているのを、テルドリンはどことなく弱々しい声でせせら笑った。

 

「私がそんなくだらん嫌がらせをするように見えるか? 気づくのが遅れただけだ」

 

 テルドリンは顧問が座っている長椅子のもう一方の端にのそりと腰かけた。彼は深く息を吐き、腕の矢を引き抜いた。血が数滴飛び散った。

 

「毒矢だったらしい。さほど強い毒ではない。もう抜けかけている」

 

 独り言のように呟くテルドリンの前にわたしは立った。彼が顔を上げた。

 

「治癒の魔法なら必要ない。自分で治す」

 

「わたしがやる。テルドリン、今まで戦い通しだったもの。それに、毒にやられてたなんて聞いたら心配だよ」

 

「抜けかけていると言っただろう。休みたいんじゃなかったのか」

 

「すぐ終わるから大丈夫。わたしに任せてよ。ね?」

 

「……そこまで言うなら、勝手にしろ」

 

 わたしはテルドリンの腕を両手で包み、治癒の魔法を直接彼の体の中に流し込んだ。触れずに魔法をかけることもできるが、この方が慣れている。それに、彼の腕に触れることで彼が本当に生きていることを確かめたいという、少し自分勝手な動機もあった。

 

 テルドリンは、いつもならばわたしが直接彼に触れて治癒の魔法をかけようとすると嫌がるのに、今回は大人しく受け入れた。やはり疲れているのかもしれない。

 

 無理もない。わたしたちは今にも落ちそうな棺にぶら下がって、生死の境を彷徨っていたのだ。まったく、本当に恐ろしかった。あの時のことを思い起こしたわたしの頭にふと一つの疑問が浮かんだ。わたしは彼に魔力を流し込みながら、見回りのドラウグルに聞こえないよう、小さい声でテルドリンに話しかけた。

 

「そういえば、なんて言おうとしてたの?」

 

「なんの話だ」

 

「二人で棺にぶら下がってた時だよ。手を離せって言った後、何か言いかけてたよね」

 

「ああ、あれか」

 

 テルドリンは頷いた。それから、いきなり長い間があった。毒で頭をやられたのではと心配になった頃、彼は心底不思議そうな声色で後を続けた。

 

「はて、なんだったか? すまんが覚えていない」

 

 わたしはがっくりと肩を落とした。

 

「ええ? すごく大事なことみたいな雰囲気だったのに」

 

「ハハハ、すまんすまん。さすがに気が動転していたんだ。そうだな、最期に忠告でもしてやろうと思ったのかもしれん。怪しい男についていくなとか、年寄りの言うことにきちんと耳を傾けろとか」

 

「そんなのが最期の言葉なんて悲しすぎるよ。子供じゃないんだから、そのくらい分かってるって」

 

「いいや、お前は分かっていない。分かっていないから今ここにいる。お前は地上に戻るべきだった。いつも私たちが行くような、帰り道のはっきりしている洞窟や遺跡とは違うんだ、ここは」

 

 また小言が始まった。

 

 治癒の魔法をかけ始めた時は、テルドリンの矢傷を受けた部分を中心に魔力が引っかかる感覚があったが、今は滑らかに流れるようになっていた。わたしは治癒の魔法を止め、彼の腕から手を離して、口を尖らせた。

 

「だって、どうしてもこの先に何があるか気になったから。テルドリンを顧問と二人きりにするのも心配だったし。あなたに何か起きても絶対助けてくれないよ、あの人」

 

「そんな輩と組むことを決めたのはお前だ」

 

「うっ。それはそうだけど」

 

 そこへ、敵地のまっただ中にいることをまるで考えていないであろう朗々たる声で、不機嫌そうに話しかけてくる者があった。

 

「私はここにいるのだがね? 許可なく君ら二人だけで話し込み、程度の低い悪口に興じるのも大概にしたまえ」

 

 テルドリンと喋るのに夢中になって冗談ではなく忘れてしまっていた。顧問だ。彼は殺されかけた衝撃からまだ立ち直れていない様子で、呼吸は荒く、自分の身を支えるように固い腕組みをしていた。

 

「よくも主従揃ってさんざん盾突いてくれたものだ。特に、君は――人畜無害ぶった顔をして、先ほどはあのような、あのような、ッは、破廉恥なッ……! 例えここを生きて出られても、大学に籍が残っているとは期待しないことだッ」

 

 顧問は途中で言葉に詰まり、赤面して顔を背け、声を裏返らせた。

 

 あの時は焦っていて、顧問を脅して言うことを聞かせるなどというとんでもないことをしでかした。謝るべきだろう。第一、これ以上大声を出されるのも危険だ。

 

「すみませんでした、顧問。ご迷惑をかけました」

 

 顧問はわたしが頭を下げるのを見届けて、それなりに気分が良くなったらしい。二、三度喉仏を上下させて呼吸してから、嫌味な調子の戻った、抑え気味の声で言った。

 

「私が君らを未だ見捨てずにいることに感謝したまえ。この忌々しいまでの広さでは、例え脱出口があったとして、君らだけで探し出すことは難しいだろう」

 

 確かに、かつて都市だったこの遺跡はどこがどこへ繋がっているのかさっぱり分からず、まるで迷路のようだ。着の身着のままで降りてきてしまったテルドリンとわたしには余裕がない。顧問も身一つであることには変わりないが、彼は望めばリコールの魔法でいつでも大学に帰れる。

 

 テルドリンが長椅子に座ったまま顧問に上半身を向けた。

 

「それじゃあ、あんたはどこに何があるかすっかり分かっているのか。そんなへっぴり腰で歴戦の遺跡探検家だったとは驚きだ」

 

 顧問は小鼻をひくつかせて肩をすくめた。

 

「この手の場所を訪れたのは初めてだ。しかし経験がなくとも適切な知識と頭脳があれば取るべき道は見えてくる。場数を踏んでいることしか誇れぬご老体とは違うのだよ」

 

 テルドリンは見えすいた挑発には乗らなかった。

 

「ならば、私に任せきりにしていないで、さっさと先導してくれ。いくらおつむの出来が良かろうと、ドラウグルを怖がって逃げ回った挙げ句に背後から斬られたのでは意味がない」

 

 顧問は頬の片側を痙攣させて口早に言った。

 

「怖がってなどいない。私は元来この類のものには詳しい。ドラウグルにはこれまで遭遇する機会がなかったゆえ、少々手間取っているだけだ。そのうちに慣れる。いや、今すぐに慣れてやる」

 

 顧問はおもむろに右手を上げ、傍らで息絶えているドラウグルの頭上にかざした。掌に紫色の魔力を集め、叩きつけるように下に放った。

 

 ドラウグルが禍々しい光を纏って、ひとりでに起き上がった。蘇った死者は手に持っていた斧を肩に担ぎ、感情のない青い目でテルドリンとわたしを見据えた。

 

 驚いて足が竦んだわたしを、テルドリンが素早く腰を浮かせて後ろに庇った。

 

 今しがた倒したはずなのに、どうして起き上がったのだろう。考えて、間もなく悟った。これは死霊術だ。ドラウグルが操られているのは初めてだが、死んだ獣や人を操っている死霊術師なら見たことがあった。

 

 顧問が歪んだ微笑みを浮かべた。

 

「警戒せずともよい。此奴は今や私のしもべだ。貴様の大事な主人を傷つけはしない」

 

 顧問は掌を上に向け、五本の指をゆっくりと動かした。

 

 ドラウグルが軽妙な足さばきで踊り出した。ところどころ歯の抜けた口を開けたり閉じたり、ひょこひょこ左右を見回したりして、しまいには斧を隅に放り投げて、顧問に行儀良くお辞儀をした。

 

 わたしは驚きから一転、その動きに見入った。顧問は何事か思案するように目を細めていた。

 

「なるほど。使い勝手は他の死体と変わらぬな。むしろかなり扱いやすい。元々そのために作られたからか? ふむ……興味深い」

 

 顧問が掌を下に返し、こちらに向かって払う動作をした。ドラウグルが軽快な足取りでわたしたちに近づいてきた。

 

 ドラウグルはテルドリンの顔に手を伸ばし、マスクの上から顎を器用に撫でた。テルドリンは気味悪そうに呻いてその手を払いのけた。

 

 わたしにはテルドリンのような拒否反応は起きなかった。それどころか、ちょっとわくわくした。敵意のないドラウグルは新鮮だった。わたしはテルドリンの後ろからひょいと手を出してみた。ドラウグルはそれを違和感のない動作で取った。ドラウグルの手は枯れ木よりも細く萎れていて冷たかった。だが、嫌な感じはせず、感情のない青目も穴だらけの歯並びもなんだか愛嬌があるように思えてきた。

 

 ドラウグルが一生懸命わたしの手を引くので、わたしは楽しくなって、導かれるがままテルドリンの後ろから進み出た。ドラウグルはわたしの腰に手を添え、肩を左右に揺らしてステップを踏む、田舎の村の祭りで皆で踊るような素朴な踊りを始めた。

 

 わたしは顔を綻ばせた。シロディールにいた頃は、旅芸人という職業柄よく村祭りに居合わせ、村人に混じって踊ったものだった。ファルクリースで死者の間に居候していた頃も一度祭りがあった。ああ、あの時は――

 

「やめろ」

 

 恐ろしくどすの効いた声が鼓膜を震わせた。

 

 ドラウグルの体から光が消えた。ドラウグルがその場にばたんと仰向けに倒れ、わたしはつられてその胸の中に飛び込んだ。先ほどまでは不思議と感じていなかった、煮詰めた酒のような臭いと薬草のような臭いの混じった独特の死臭が鼻の中に流れ込んだ。

 

 わたしはえずき、口元を押さえて顔を上げた。顧問が、傲慢な、しかしかすかに緊張の感じられる表情でわたしの背後を見据えていた。

 

 わたしは腕を引っ張られて立たされた。テルドリンだ。待ったをかけたのも彼だった。

 

「エスコート役を取られて不満だったか? 使役の練習には最適なのだがね」

 

 珍しく冗談めいたことを言った顧問に、テルドリンは憤った声色で返した。

 

「死者を弄ぶな。穢らわしい」

 

 顧問は片方の眉をぴくりと動かした。

 

「貴様の言えたことではなかろう。貴様らダンマーは死んだ仲間に必ず死霊術を掛けると聞くぞ」

 

「今までに何度同じ口上を聞かされたか……。知ったかぶりをするくらいなら黙っていろ。死霊術師はどこに行っても嫌われ者だ。ましてドラウグルなど、邪悪なまじないが掛かっているかもしれん。あんたが勝手に使っているだけなら構わんが、私たちに近づけるな」

 

 どうやらテルドリンは死霊術が嫌いみたいだ。彼は、ウィンドヘルムの事件のこともあるし、それ以前にも何か嫌な経験をしたのかもしれない。わたしも良い印象はなかったが、このドラウグルに限っては、死臭を除けばあまり抵抗感がない。死霊術にも上手い下手があるのだろうか?

 

 顧問はテルドリンを嘲り笑った。

 

「邪悪なまじないと来たか。これはこれは、なんとも偏見塗れの老人に相応しい言い分だ。安心しろ、その可能性があれば即座に灰にしている。此奴は害のない抜け殻だ。それと、使い道は貴様を苛つかせる他にもいくつかある」

 

 彼は紫色の魔力を再度ドラウグルに撃ち込んだ。ドラウグルが肘を突いて起き上がった。青い目がわたしたち三人の間を彷徨った。

 

 テルドリンが鼻息も荒く剣を抜いた。ドラウグルが驚いたように跳び上がって、わたしの背中を盾にして隠れた。……これも顧問が操っているのだろうか。だとしたら、なんというか、ちょっと面白い。

 

「何をにやついている。そこをどけ。そいつの首を落として使い物にならなくしてやる」

 

 テルドリンがわたしの体を避けるように何歩か踏み出した。わたしは慌てて彼の行く手を阻んだ。

 

「ダメだよ。かわいそうだよ」

 

「かわいそうだ!? 寝言も休み休み言え。そんなものをお前とベタベタさせるわけにはいかん。どうあっても成敗する」

 

「絶対ダメ。ねえ、顧問が大丈夫って言ってるから大丈夫だと思うよ」

 

「このうえ何を言い出すかと思えば。お前はいつからその若造を信用するようになった? 妙な気でも起こしたか?」

 

「はあ? どうしていきなりそんな話になるの」

 

「そうでもなければサルモールの言うことなど信じる気にならんだろうが」

 

「確かにサルモールそのものには不信感があるけど。顧問は嘘をつくのが得意なタイプじゃないと思う」

 

「ああ、お前は救いがたいほどのお人好しだ。奴らの所行を知っていれば、どんなに善人ぶっていようと、まともな者はまず関わりを避けるものだ。第一、さっき危うく死にそうになったのもそいつのせいじゃないか。もう忘れたのか?」

 

 わたしたちが言い合いをしている間、顧問は神妙な顔つきで左掌に紫色の魔力を蓄え、指先でその光の塊を混ぜていた。やがて彼は一息ついて、いかにも得意満面という表情を作った。

 

「テルドリン・セロ。貴様は私が先導するべきだと言っていたな。喜べ、望み通りにしてやろう。ただし先頭を行くのは私ではなく、そのドラウグルだ。其奴はこの遺跡の構造を把握している。知りうる限りの最深部まで案内させる」

 

 死霊術を使うとそのようなこともできるのか。わたしはまた感心して、へえ、すごい、と素直に呟いた。ひねくれているところがあっても、顧問はやはりウィンターホールド大学の顧問なのだ。

 

 顧問は、広いけれど薄っぺらな胸板をここぞとばかりに反らした。

 

「更に付け加えるなら、其奴の知る最深部とは、すなわちスノーエルフの探し物のありかだ。私たちはこれ以上余計な労力をかけることなく、目的の場所に到達できる」

 

 わたしは胸が高鳴り、頬が紅潮するのを感じた。きっとその先に、わたしが求めてやまないものがある。わたしの中の、わたしであってわたしではない誰かがそう言っている気がした。

 

 テルドリンは顧問とわたしとドラウグルに代わる代わる視線を注ぎ、諦めたような深い溜息をついて、剣を鞘に収めた。

 

「そいつを叩き斬るのは今のところはやめておく。だが私の主人の周りには纏わりつかせるな。死臭が移ってはかなわん」

 

「ふん。本人は満更でもなさそうだが。いずれにせよ呑気に手を繋いで歩かせるつもりはない」

 

 顧問が右手で手招きをすると、ドラウグルがわたしの背中から離れて顧問の隣に立った。

 

 テルドリンは慎重な口ぶりで続けた。

 

「それから、そいつはドラウグルとしてはかなり低級だ。重要な宝のありかを知っているとは限らない。あまり無駄足を踏みたくはないんだがな」

 

 顧問は肩をそびやかした。

 

「いいや、此奴は宝のありかを知っているとも。少なくとも、ありかを知る別の者のもとまでは案内できる。この程度はドラウグルに関する研究書を二、三読んでいれば自ずと浮かぶ推論だ。ま、たかが傭兵の貴様では思い至らぬのも無理はないか」

 

 顧問は左手の魔力をドラウグルに撃ち込んだ。ドラウグルは軽くよろけて、すぐに体勢を立て直した。どことなくぼんやりしていた表情が引きしまっていた。ドラウグルは建物の出入口にのしのしと向かっていった。

 

 顧問はそれを満足そうに見送って言った。

 

「彼奴の後を追うぞ。間違っても斬らないように。魔法を一からかけ直すのは手間だ」

 

 テルドリンがわたしの顔を窺った。わたしは頷いた。後を追わないという選択肢はなかった。


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