My Companion, My Dearest   作:春日むにん

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6. 最後の関門?

 アンカノ顧問のドラウグルに導かれて、わたしたちは同じようないくつかの空間を通り過ぎ、サールザルの奥深くへと進んでいた。

 

 なぜ奥深くへ進んでいると分かったかと言えば、例の感覚がますます強くなっている気がしたのもあるが、それよりも、敵の強さが増してきたからだ。斧の一振りが重く、弓の一撃は速く、シャウトを使うドラウグルも現れた。

 

 顧問のドラウグルは、見た目には敵のドラウグルたちと変わらないのに、わたしたちと同じように標的にされていた。どうやらドラウグルたちは見た目以外にも敵味方を判別する方法を持っているらしかった。顧問のドラウグルは先頭を歩いている分、攻撃される確率も高く、テルドリンが悪態をつきながら守っていた。

 

 今はちょうど、空間から別の空間へと繋がる狭い通路へ入って、顧問のドラウグルが仕掛けられていた雷の罠の魔法を踏み、大ダメージを受けて通路の隅で膝を突いてしまったところだ。魔法の発動音に引き寄せられて前後から二体ずつのドラウグルがわらわらと詰めかけてきた。

 

 顧問の指示で一番後ろを歩いていたわたしは、テルドリンが召喚してくれた炎の精霊の背後に隠れて、死者の町の方から駆けてくるドラウグルに向かって犬の使い魔を召喚し、聖者の光を撃った。使い魔の方は成功したものの、聖者の光はあらぬ方角へ飛んでいった。

 

「役立たずが!」

 

 顧問の罵声とともに、弓の弦のような形の、聖者の光に似た白色の魔法がわたしと炎の精霊の体を通り抜けた。魔法はドラウグルたちに命中し、彼らをよろめかせ、元来た方へ逃走させた。

 

 顧問は金色の目と端正に並んだ歯を恐怖で剥き出しにして、肩で息をしていた。ドラウグルに遭遇するたびにこの顔になるのでいつか倒れないかと心配だったが、宣言していた通り、少しずつ慣れてはいるようだった。そしてそんな状態であってさえ、彼はわたしよりずっと戦うことには長けていた。

 

「左へ避けろ、老いぼれ!」

 

 顧問は言うなり前方にチェインライトニングを連続して放った。身をよじったテルドリンの胸当てのすぐ横を青白い電流が立て続けに貫いた。テルドリンとの戦いで既に体力を失いかけていた一体目のドラウグルが倒れた。貫通した電流にやられたもう一体のドラウグルがふらふらの状態でなおも向かってくるのを、炎の精霊のファイアボルトが怯ませ、とどめにテルドリンが斬って捨てた。

 

「走れ。後ろの亡者どもを撒く」

 

 顧問は息の荒くなっているテルドリンに命令した。テルドリンは黙ってその命令に従った。顧問はわたしを顧みることもなくテルドリンに続いた。

 

 わたしは彼らを追いかけようとして、通路の隅で膝を突いたままの顧問のドラウグルに目を留めた。ドラウグルはまだ体力が戻らないようで、青い目を心なしか不安げに瞬かせてわたしを見上げた。

 

「治癒の魔法は……効かないよね」

 

 迷っている時間はなかった。わたしはドラウグルの腕を自分の肩に回させて立ち上がらせた。死後に干からびてしまったからなのか、ドラウグルの背丈は、ノルドにしては低すぎると言われるわたしよりも低く、体の重さもわたしとさほど変わらないと思われた。

 

 テルドリンがわたしの名前を叫んで通路を逆走してきた。わたしはドラウグルと一緒に歩き出したところだった。テルドリンはわたしがドラウグルに肩を貸しているのを見て、不快そうに顎を引いた。

 

「何をやっている」

 

「助けてるの。この方が速く歩けるでしょう。道案内がいなくなったら困るし、あと、その、かわいそうだったから」

 

 最後の一言の方が本音だった。テルドリンにはばっちり見透かされて、遠巻きにされたまま文句を言われた。

 

「さっきから、かわいそう、かわいそうとそればかりだが、そんなふうに思うのがそもそも馬鹿げているんだぞ。そいつはただの死体だ、アンカノの死霊術で動いているだけのな」

 

 それは分かっているつもりだ。けれど、こうして敵対もせず一緒に歩いたり戦ったりするのを見ていると、どうしても邪険にはできない。

 

 通路を抜けたそこにあった空間は、これまでとは雰囲気が違っていた。天井までの高さは、ちょうど達成の間のわたしの部屋くらい、幅はわたしの部屋の二倍くらいだ。空間はその幅と高さのまま、途中に巨大な男の頭の彫像を二つずつ挟んで奥にまっすぐ延びているが、それほど長いわけでもない。小走りで行けば、すぐに一番奥の大きな落とし格子に阻まれる。その先には、この位置からでは、崩れた土砂が見えるだけだ。

 

 行き止まりだろうか? いや、そうではないと思う。顧問のドラウグルの目指していた場所だし、わたしの中の燃えるような感覚は相変わらずわたしを急かしている。そして扉の前にはノルドの遺跡でよく見かけるレバーと、腰くらいまでの高さの四つの石碑がある。

 

 顧問は四つの石碑の間を思案顔でせかせかと歩き回っていた。

 

 わたしはテルドリンの非難がましい視線に応えて、顧問のドラウグルに肩を貸すのをやめた。

 

 ドラウグルは一人で歩ける程度には回復したようだった。よろめきながら奥へ歩いていき、落とし格子の前に立った。それきり、固まった。ドラウグルがそこに立ったことで落とし格子が開くことも、隠し通路が姿を現すこともなかった。鎧を着た背中になんだか哀愁が漂っているような気がした。

 

「どうしたのかな?」

 

 わたしの問いに、テルドリンは軽く肩を回しながら答えた。

 

「親切な誰かが開けてくれるのを待っているんじゃないか? 私だったらあの石碑とレバーをどうにかしようと思うがな。ただの死体では、所詮そこまでの知恵は働かないんだろうよ」

 

 「ただの死体」という言葉を彼は特に丁寧に発音した。

 

 わたしは通路の方をまだ警戒しているテルドリンを置いて、四つの石碑を調べることにした。ノルドの遺跡によくある仕掛けだった。三つの面に動物の絵が描かれていた。全ての石碑の正しい面を目印に合わせ、レバーを引けば落とし格子が上がる仕組みと思われた。……だが、今までに解いてきた他の遺跡の仕掛けと比べると、何か違和感がある気がした。

 

「さしたる考えがないのであれば、私の周りをうろつかないでくれたまえ。目障りだ」

 

 顧問が氷のような声と視線をわたしに浴びせた。わたしは腰が引けてしまいそうになったが、なんとか抑えて尋ねた。

 

「この仕掛け、どこかに手がかりがないでしょうか」

 

「君の目は節穴か? 左右の壁を見たまえ。そこにかつてあったものが手がかりだったのであろう。しっかり消されているがね」

 

 石碑を挟んで向かい合わせになっている左右の壁には、広い範囲にわたって何かが削り取られたような跡があった。更に、その痕跡とは無関係に、ところどころに穴が開いていた。石碑の正しい面を選ばなければ毒矢か何かが飛び出してくるのかもしれない。

 

 テルドリンがこちらに歩いてきて、右手前の石碑の周りを巡った。

 

「狼に、蝙蝠に、魚か。珍しい組み合わせだな。私の記憶では、この手の仕掛けで出てくる動物は蛇、鳥、魚くらいだったと思ったが」

 

 そうか。テルドリンのおかげで石碑の違和感の正体が分かった。描かれている動物の種類が多いのだ。蛇、鳥、魚の他に、狼、蝙蝠、蜂、熊など、見たことのない種類が混じっている。更に、描かれている動物の組み合わせが石碑によって違う。

 

 右手前の石碑は狼、蝙蝠、魚、右奥は馬、狼、蜂。左手前は熊、兎、鳥、左奥は牛、鳥、蛇。

 

 どうしてわざわざこんな組み合わせになっているのか、考えてみよう。

 

 ここはサールザル。スノーエルフによって滅ぼされたノルドの都市だ。

 

 スノーエルフはノルドが持っていた何かが欲しくて「涙の夜」を引き起こした、と顧問は推測している。もし、それが今もサールザルの奥に眠っているのならば、そこへ辿り着く鍵も「涙の夜」にあるのかもしれない。

 

 上層の町の広場にあった、例のおどろおどろしい壁画。あの中では、四体の動物が、ノルドの勇者たちと一緒にスノーエルフに立ち向かっていた。

 

 わたしは四つの石碑のうち二つを狼、もう二つを鳥の面にした。それから顧問に言った。

 

「これで開かないか試してみます。危ないので、下がってください」

 

 顧問は切れ長の目をきゅっと細めた。

 

「何を思いついたか知らぬが、まあ好きにすればよかろう」

 

 彼は高みの見物とでも言わんばかりに取り澄ました顔で空間の手前側へ下がった。

 

 テルドリンがレバーの前に進み出た。

 

「レバーは私が引く。問題ないな?」

 

 彼は、失敗して毒矢や槍が飛んできたら貧弱なわたしではひとたまりもないからと、いつもこの役を引き受けてくれる。

 

「うん。お願い、テルドリン」

 

 わたしはそう答えて、顧問の隣に並んだ。

 

 テルドリンが、ふっと軽く息を吐きながら、レバーを引いた。

 

 頭上から岩を転がしているような大きな音が響き、落とし格子が引き上げられていった。落とし格子の前で立ち往生していた顧問のドラウグルはもう居ても立ってもいられない様子で、落とし格子が上がりきるや、すぐに歩き出し、右に曲がって見えなくなった。道はそちら側へ続いているらしい。

 

 テルドリンが感心した様子で聞いた。

 

「どういう理屈だ?」

 

 わたしが説明すると、彼は皮肉っぽく笑った。

 

「なるほど。『涙の夜』の惨劇を頭に叩き込んだお利口さんだけが先に進めるというわけだ、え? なかなかよくできているじゃないか」

 

 不愉快そうに金色の瞳をぎらつかせて黙り込んでいた顧問が、無理やり唇の端を吊り上げた。

 

「馬鹿馬鹿しい。怪しげな組み合わせを選べば、当て推量でも正解できるではないか。ノルドどもも間抜けな仕掛けをこしらえたな。この程度のものが障害になると思ったのか?」

 

 顧問は片手をさっと進行方向へ差しのべた。

 

「先を急ぐぞ。これがノルドどものとっておきのネズミ取りなら、もうすぐ私たちは目的地に到着するであろう」

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