獣の人   作:樫木

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さとりの話、いいよね


打ち砕くべきもの

 

 ティアマトとの決戦は、絶望的なものだった。

 

 ウルクの都市は既に壊滅、残存兵は見当たらず。

 キングゥの決死の足止めによって一度態勢を立て直したものの、あと一歩のところでとどめを刺せず。ティアマト側とて無傷でないことは確かなのだが、戦力差が歴然としすぎている。どうしても、最後の一手が打てない。

 あと少しなのだ。しかし、もはや敗北が濃厚なものとなった。

 それでも、ティアマト側も決定的な一撃を出せずにいる。

 

「おぉぉおぉぉぉぉぉおおおお!」

「ええい、そろそろ倒れんか!」

「とらあ!さぼってんじゃねえぞ!」

「さぼっとらんわ!数が多すぎて捌き切らんのじゃ!はやく手伝えってんだ!」

「こっちも手一杯なんだよ、くそう!」

 

 最前線を縦横無尽に駆け回る獣が二匹。

 たったそれだけの戦力が、侵攻を食い止めている。

 当然、他にも戦っている者はいるが、誰が主戦力でありこの戦いを左右するのかは分かり切っている。そして、もはや限界が近いことは明白であり、最後の砦もいよいよ崩れ去るだろう、時間の問題だ。

 それでも、ただ一人、王城から二人をまるで見定めるかのようにしている男がいた。

 

「…なるほど、我の瞳をもってしてもとらえきれぬのはそういう道理か」

「ギルガメッシュ…?」

「面白い、面白いぞ!よもやこれほどの、我を戦場に駆り立てるに足る豪傑が現れるとはなあっ!」

 

 この絶望的な状況でもくつくつと笑っている。

 瞳がらんらんと輝き、致命傷を負ったとは思えないほどの生気が溢れている。

 けっして虚勢ではない、けっして見掛け倒しなどではないと、肌で感じる。

 最古の英雄が、最古の王が、ふたたび戦士として目覚めたのだ。

 あの二匹が。

 

「さて、異界の者よ。真髄を見せよ、そして討ち果してみせよ。その因縁に見事決着をつけるがいい!」

 

 彼の声が聞こえたのだろうか。

 閃光が奔り、雷鳴が鳴る。ほんのひと瞬き。

 たったそれだけの間に、地も空も埋め尽くしていた大群が消し飛んだ。

 あのティアマトも体勢を崩した。

 突風が吹き抜ける。遅れて血の匂いが漂う。そして、千切れてしまった飛行型のラフムが城壁に叩きつけられる。あまりの数に城壁が真っ黒になった。海からここまではそうとうな距離がある筈だ。先ほどの攻撃が一体どれほどの威力だったのか、夥しい数の骸が雄弁に語っていた。

 

「うそ…」

「なに、出し惜しむ必要はないぞ。我が何の備えもしていないと思うか、獣よ」

 

 横に立つギルガメッシュが不敵な笑みを浮かべて呟いた。

 すべてを見た人。彼には、何が見えたのだろうか。

 この声が聞こえているのだろうか。

 それは疑わしいが、どう見ても二匹の動きが先程よりも激しい。ティアマトを守るかのように集合したラフムを蹴散らし、ただただ真っ直ぐ突き進んでいる。

 風のように速く、激流のように呑み込み、嵐のように巻き上げ、雷のように轟き、獣のように激しく。

 そして、決着は一瞬だった。

 

「白面―――――!」

 

 二匹の槍が、胸に穴を開けた。

 彼女にとっては、それほど大きな傷ではない。先の戦いでも、同じような傷をつけたが、すぐに塞がった。一切勝負にならなかったというのに。

 

「-----------!」

「泣くな、決別は済ませたであろうが」

 

 ティアマトが崩れていく。その体は灰のようにボロボロと朽ちていく。

 あの二匹がやったのだ。

 

「ギルガメッシュ…」

「労うならばあの二人だ。我を称えるのは当然のことだが、戦場にて武功を上げた戦士に褒美を与えるのが先だ」

「あ、はい」

「しかし…白面か。面白い名を聞いたな」

「白面、ですか」

「二人に聞け、我ではすべてを見るには遠すぎる故な」

 

 うしおととらの二人は、ボロボロの様相で戻ってきた。その顔は、いつもの特異点解決を喜ぶ顔ではなく、しかし笑みを浮かべている。

 

「ありがとう、二人とも」

「よせやい…王様とキングゥがいなくちゃいっぱいいっぱいだったよ…俺たちはそのおかげでたどり着けただけさ」

「それでも…」

「へへ…俺たちは相当強いって言ったろ。俺じゃなくて、俺ととらだからでもなくて、みんなが強かったから勝てたのさ。だから、みんなにありがとうだ」

「うしお…」

「王様も、最後までありがとう。あんたのおかげで、賭けに出れたよ」

「当然だ。いつ突っ込むのかと待ち構えていたのだがな」

「…そっか」

「なに。白面との決着がついたのだからよかろう」

「…ああ」

 

 神妙な顔をして二人が見つめあう。張り詰めた空気が漂うが、カルデアからの通信で緊張の糸は切れる。

 

「一帯の魔力が安定してきてよかった。そろそろ戻れるからね」

 

 うしおがへらりと笑い、ギルガメッシュが苦笑して話は流れた。

 白面という言葉について聞くことはできなくなってしまった。

 そんなことがありつつ、バビロニアの特異点は幕を閉じた。

 新たな謎を残して。

 

 「ティアマトと白面、だっけ。なにか因縁でもあるの?」

 

 ソロモンが待つ時間神殿に向かう数日前、なんとなく聞いてみることにした。

 純粋な疑問である。彼らは少なくとも近代の英雄だ。神代の終わり、神との決別に関わっているとは到底思えない。東洋と西洋だ。そもそもとして生まれも違う。無関係だとしか考えられない。

 

「因縁、に近いもんだろうな。いろいろと複雑だから、説明してもチンプンカンプンになるとおもうんだよなあ」

「そうなんだ」

「うん。まあ、そんなに重大なもんじゃあないし、気にしないでくれよ」

「気になる」

「まあ、そうだよなあ…」

 

 うしおは苦笑いだ。

 いつもはそんなに質問を嫌がることは無いのだけれど、今日は渋々と付き合っている感じが滲み出ている。珍しい。

 それを察したのか、ふわふわと辺りを漂っていたとらがにんまりしながら口を挿んできた。

 

「うしおは馬鹿だからよおー、説明できないんだよ」

「とらっ!」

「なんだよ!ほんとのことだろうが!」

「本当のことでも言わんでよろしい!」

「だー、槍をしまえ槍を!そんなに怒らんでもいいだろうが!」

 

 退散ー、と叫びながらとらはどこかへと行ってしまった。

 うしおは槍を持ってとらを追いかける。

 ちびっ子たちが一緒に走り回っているのか、かわいらしい声が響き渡る。

 遠くからエミヤの怒鳴り声が聞こえてくる。

 カルデアの廊下はいつも騒がしい。

 

「はぐらかされちゃったか…」

 

 私といえば、ポツンと取り残されてしまった。

 真相を知るのは、まだ先になりそうだ。

 いつか、教えてくれるだろうか。

 いや、多分そんなことは起こらないのだろう。

 

 「なにせ、白面は大陸を破壊しつくした化物ですから」

 

 なんて話、人様に進んで話すようなものではないし。

 




戦闘描写が全然書けなくて、形容詞で誤魔化すという逃げ。
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