獣の人   作:樫木

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導入のような箸休めのような。
短いです。雑です。


おまけ的なやつ
接触


 

「あのお、うしおさん? 誠に申し訳ないのですけれども、できる限り距離を置いてもらえます? あ、いえ、うしおさんが何かやったとかではなくてですねえ、その、宝具というか魂というか? 玉藻ナイン的にトンでも特攻がついてる気配がビンビンなのでちょっと近寄れないと言うかですね、魂が心からやべえって警鐘を鳴らしてるんですよね? いや、本当に申し訳ないのですが、これ以上近寄ったら即刻座に返されそうなので勘弁してくださいお願いします」

 

いつもみこっとしているキャスターの玉藻は冷や汗を垂れ流し、平身低頭懇願する。いつもの余裕ある姿はどこにもない。

 

「みこっとサマーにお召しかえしたわたくし玉藻、ランサーとして日々邁進しようかと思っていたわけですが、その槍がある限りMVPなんて夢のまた夢ですねえ…あ、こっちに向けないでください。ジュワッって逝っちゃいます、ジュワって。並行世界の玉藻っぽいような九尾っぽいようなのが首降って降参しろって言ってる気がします」

 

水着姿がまぶしい方の玉藻は、パラソルを盾にじりじりと後退り距離を取る。

 

「キャットはなます切りにされるのはごめんだワン」

 

頭がバーサークな玉藻は天井に張り付き毛を逆立てて威嚇する。

 

「お、大江山の首魁であるこの我に…あ、た、戯けぇっ! 近寄るな近寄るなぁ! 即刻去ね!」

 

大江山の首魁は酒吞童子に泣きつく。

 

「ぎゃああああああ‼‼‼ 酒吞‼‼‼」

 

夏仕様となった首魁も同じく酒吞童子に泣きつく。

 

「と、とろかさんといてほしいなあ」

 

暗殺が得意な方は引きつった笑みを隠し切れず。

 

「二度とその面見せないでほしいどすなあ」

 

護法少女は冷たくあしらう。

 

 

「ひいい、姫、引き籠ってただけだから! これといった悪いことしてないから! お城で起きた諸々は勘違いだからぁっ! ま、まじで勘弁、勘弁してください!」

 

引き籠っている方はこたつの中で震え。

 

「姫、アーチャーなんですけど! とんでもないダメージ入っちゃうんですけど!」

 

引き籠りを脱却した方はクラス相性に絶望し。

 

「妖を滅する槍…なるほど、風魔に伝っていた話は本当だったのですね…あ、うしお殿、近づけられると、ちょっと…いえ、だいぶ困るので離れていただくと…」

 

バーソロミュー特攻持ちの忍者頭領は興味津々ながらも距離を置き。

 

「お屋形さまぁ! 千代女、座に帰りたくありません!」

 

美少女忍者は嘆き悲しむ。

 

「な、なんであの槍がこのカルデアにあるのじゃーーーー‼‼‼」

 

のじゃろり皇帝は泡を吹いて気絶する。

 

日本に縁のあるサーヴァントの中で、特に平安や戦国で名を馳せた英雄達は、こぞって蒼月潮とその宝具を恐れた。それはもう、いままで見たことがないほどの怯えようだ。時には中国のサーヴァントも我を失うほどに取り乱す。一騎当千、百戦錬磨、万夫不当の英霊がこぞってこの様なので、マスターと潮は苦笑いするしかない。

 

「うーん…潮君は日本のサーヴァントだから、すぐに打ち解けられると思ったんだけどなあ…」

 

マスターは想定外の事態に頭を悩ませる。

最初期から最前線で戦い、人理救済に死力を尽くしてきた潮だが、打ち解けているサーヴァントは意外と少ない。仲が悪いと言うよりは、一方的に苦手意識を持たれているのだ。

特に、人ならざる者の力を持つものとは相性が悪い。日本も西洋も関係なく、だ。

戦闘時は協力できるのだが、日常生活ではぎくしゃくとしたやりとりとなってしまうことがほとんどだ。

 

「まあ、仕方ありません。『獣の槍』の力は、妖や妖の血を引く者にとってはトラウマですから。いくら潮殿が手綱を握っているといえども、こればかりはどうしようもありません」

「そうなんだよなあ、こればっかりは仕方ないよ」

「でも、巴御前は特に問題なく話せてるけど、なんで?」

「ああ…生前、ちょっとした恩を受けましてね」

「へえ…潮君が何かしたの?」

「いえ、槍と、それにまつわる生き物から、生きる意味を諭してもらったのです」

「ああ…あの『とら』とかいうサーヴァントね」

 

バビロニアの特異点で急に現れ、ソロモンの撃破が終わるとさっさと座に帰っていった不思議なサーヴァントがいた。潮や他のサーヴァントと浅からぬ因縁があるらしいが、詳細については皆が口を濁すため、わかっていない事が多い。基本的には好意的な意見が多いようだが、混沌・悪など、人類とは相容れない関係のものからは辛辣な意見が述べられる。

いまだに何を縁にして召喚されたのか分かっていない潮ととらについては、彼らの話がヒントとして活用されることがあるが、いまだに真実に行き着くことができていない。

 

「なんか、インドのサーヴァントには複雑な顔されるよね、とらの話すると」

「まあ、あの方は何と言いますか…扱い辛いお方でしたから」

「うーん…ちょっと、複雑な事情があるんだ、はは…」

 

巴はくすぐったそうな、どことなく嬉しそうな顔をする。

潮は苦笑いだ。

潮ととらの昔の話を深堀しようとすると、のらりくらりとかわされる。

しかし、藤丸には予感があった。

最終決戦を終え、四つの亜種特異点を治め、カルデアを退去する日をゆるりと待つ今だからこそ、詳細を聞き出せるのではないかと。

そして、事実、その予感は正しかった。

 

「その、さ…複雑な事情って、カルデアに召喚されたことと関係あったりする?」

 

あの決戦の日、潮ととらはたった二人でティアマトを打ち破った。

カルデアに英霊は数いれども、そう簡単に成し遂げられることではない。むしろ、成し遂げてしまう方が異常ですらある。

そんな彼らが、召喚された理由。召喚に応えられた理由。

 

 

「まあ、そうかもしれん。とらの生まれはインドだしね」

「へえ、インド!」

「そして、まあ…とらと深い因縁を持った…誰かと一緒に生きることを許されなかった…俺たちが滅ぼしたのは、そんなやつだったから」

「許されなかった?」

「うん…『白面の者』。俺たちがカルデアに召喚されたのは、こいつと関係があるんだと思う」

 

 




言及されていないサーヴァントがいる?
そんなことはない。そんなことはない。

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