ゆるしてね
カルデアは静かだ。
ほんの数週間前まで至る部屋にサーヴァントが常駐しており、日によってはどんちゃん騒ぎにトラブル三昧と、一日一日がほんの一瞬で過ぎ去っていったのに。
今ではカルデア職員と数えるほどのサーヴァントの姿しか見えない。
魔術王との戦いを制し人理焼却を防いだ面々は、時は来たのだと座に帰って行った。
そんな人気もなく、寂しくなっていく大食堂で食事を取る潮の姿があった。
「みんなカルデアを退去していくけど、潮君は最後まで残るんだね」
「うん、まあ、やっぱりお世話になったお礼は最後までちゃんとしなきゃなぁと思ってさ。みんなの手伝いをしてたら最後になっちまった」
「そっか、ありがとうね。いや、お世話になったのは私達だからお礼をするべきはカルデア側だと思うんだけど」
「いいんだって。だってとらがメーワクかけちまったしよ、それなのにとっととどっかに行きやがってさ!その尻拭いをするのはとーぜんだって!」
朗らかに笑うも、その笑顔には影も見える。
冬木から始まり、7つの特異点を超える長い旅を終えた少年は皆と深い絆で繋がっていた。
日に日に姿が見えなくなる仲間のことを思うと、やはり心にぽっかりと穴が空いたように感じてしまうのだろう。
「いつか潮君ともお別れがくると思うとさ、寂しいよ」
「そう…だな。いつか俺も戻らなきゃならねえ時が来ちまう…それまでにできる限りの恩返しをするよ!」
「…うん」
藤丸は言葉に詰まった。
ずっとそばにいて戦ってくれた彼には、どれだけ感謝しても足りないほどの恩義があるのだ。
それを思うだけで胸がいっぱいになり、簡単な言葉にしかできなくなってしまう。
「…いつか、潮君を訪ねに行くよ。並行世界の君だったとしても、きっと蒼月潮であることには変わりないでしょ?君はきっと、どんな君でもお人よしで、涙もろくて、誰よりもかっこいいから。そんな君を探すのなんてすごく簡単だと思うんだ。誰もが知っているヒーローだと思うんだ」
「そんな、面と向かって褒められると恥ずかしいぜ…でも、ありがとう。俺たち、きっとすぐに会えるよ!」
すぐそこに迫った別れ。
でも、涙はいらない。
なぜだかわからないけど、またすぐに出会えるだろうと根拠もなく信じることができた。
-------------------------------------
そんな話も一週間ほど前のことだったか。
「潮君は、どうして退去しないんだい?」
「…ダヴィンチちゃんは気づいてたんだね」
「ま、天才だからね。わからないことなんてあんまりないのさ!」
ダヴィンチは明るい声だが、目は真剣だ。
いつか座に帰ってしまうだろうとは思っていた。
しかし、一向に帰る気配を見せない潮に違和感を覚えたのだ。
「帰らないんじゃない、帰れないんだ」
「座が帰還を拒否しているということかい?」
「たぶんそういうことなんだろう、と思う。きっと、帰っちゃいけない理由があるはずなんだ。それが何かはわからないけど」
「理由か…色々と考えようはあるけれど、この人理修復以外にも君にはやるべきことがあるのだろうね。君の世界がこちらからなされる何かしらの干渉を恐れているんだろう。そう考えるのが妥当かな?」
確証はなかった。
しかし、人理修復は謎と超神秘的出来事の連続だったのだ。
何が理由になろうとおかしなことはない。
「なんだかわからないけど、ざわざわするんだ。槍が教えてくれてるんだと思う。備えろって」
「備え?」
「あぁ。何が起こるかわからないけど、きっと悪いことが起きる。その時まで、俺はここにいなくちゃいけないんだって、そう言ってるんだと思う」
「なるほど…確かに、君の槍ならそうやって助言を与える可能性も考えられるね」
獣の槍は超神秘的存在であり、蒼月潮と三心同体の宝具。
彼を幾度となく危機から救ってきたからこそ、何かを報せているかもしれぬとダヴィンチは考えた。
「…今後、監査が入ることになっているからそこで何かが起こるのかもしれないね。勿論、それ以外にも突発的なトラブルも考えられるけど、警戒度を上げるに越したことはなさそうだね」
「そうかもな。ねえ、俺はこのまま残り続けることって大丈夫かな?」
「ルール違反だけど、この天才に任せたまえ!ちょちょっとシステムを改ぞ…改善して君が残るのをオッケーな状態にしておくよ!」
「ありがとう!俺、この心配事が解決できるように頑張るぜ!」
カルデアにサーヴァントが残るのはルール違反だが、そこは天才。
ルールの穴を掻い潜り何かをしでかすつもりである。
------------------------------------------------
「わたし! カルデアに行くのやめまーす!」
「コヤンスカヤ君!?」
「私も」
「言峰神父!?」
その影響か何か。
動乱が起きずに済んだらしいのは、また別の話。
つぎはいずれ、ね