やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
「流星群?」
「そう!なんとなんと、今日の夜にはこと座流星群が流れるのです!小町も是非見にいきたいけど女の子が夜に一人なんて危険がいっぱい!ああ、どこかに暇でいざという時に盾になってくれる兄が欲しい!というわけで一緒に見に行こ!」
「見に行くのはいいけど当日に言うのやめれ」
今日も今日とて日が暮れ始め、世界がオレンジ色に変わりつつある時。ふと思い出したとばかりに小町が話題に上げてきた。しかもなんとも卑劣な脅し文句だ。小町を夜に一人で外出なんて危険な事させようものなら親父と母さんに殺されてしまう。むしろ自分を自分で殺してしまう。くっ、姑息な手を!
「……でも見に行くってどこにだ?ここらへんのいい場所でも知ってるのか?」
「モチのロン!というかこの話も少し前にその場所を響さんに教えてもらったの思い出したからだしね!」
どうやら小町は小町で立花との関係は続いているらしい。他校でしかも年上だが、波長が合うのか度々会話に登場する程度には仲がいい。
学校の友達に他校の友達にと我が妹はその交友関係をどうやって維持しているのか甚だ疑問である。
「そしてお兄ちゃんを連れてけば自転車の後ろに乗っていけるから移動の労力も0!やったね!」
「相変わらず労働力扱いなのね、知ってた」
知ってた…。
☆☆☆
展望台
「ここ!街を軽く一望できるおすすめスポットなんだって!」
「へえ、高くていい場所だな」
小町のナビに従って辿り着いたのはよくある、普通の展望台。とはいえ小町の言う通り街を一望でき、空を見上げるのに妨げる物のない中々のポジションだった。
「……それで流星群って何時ころから見られるんだ?」
「もう!せっかちだなぁお兄ちゃんは。こういうのは待つところから楽しむものなんだよ?ジュース片手にダラダラお喋りしながら時間を待って、お喋りに夢中になっていたら空に降る一筋の光!そこでテンションは最高潮へ!という定番の流れがあるのです!だからあそこの自販機でジュース買ってきて!」
「絶対最後が本音じゃねえか…」
しかし早く早く!と背中をパシパシ叩いてくる小町は可愛い。そして可愛い妹は甘やかせと古事記にも書いてある。仕方ない、我が家の天使様の機嫌を損なわせない為ならジュースの出費くらい安いものだろう。
財布の中身を思い出しながら自販機へ向かう。ジュース二人分くらいはちゃんとあるので問題ないが、明日の昼飯に使う分や新刊を買う分を考えると少しばかり軽くなるなぁ。
「えーと取り敢えずマッカンマッカン、っと。少し寒いしホットで…」
「……あれ?比企谷くん?」
……知ってるぞ。ここで振り向くと呼び方的に小日向が居て、当然のように立花も隣に立ってるんだ。そしてこの時間、この日に外に出ている時点で小日向達の目的も流星群に違いない。そして流れるように立花が一緒に見ようと提案しながら小町も乗る。そこから逃げられない俺もそこには居るのだろう。
ふっ、ここまで予知ができているのなら対策も簡単だ。
「こんばんわ。こんな所で会うなんて珍しいね」
「…そうだな。小日向に…って立花はいないのか?」
「……うん。響は、大事な用が入っちゃったんだって。だから、今日は私一人」
対策は諦めること、とかの流れかと思っていたら。なんの僥倖かむしろ初のエスケープ成功の可能性が出てきた。わざわざ一人で星を見に来るなんて一人で居たい人間以外いないだろう。これは、いける…!
「……ほんとはね?前から一緒に流星群見ようって約束してたんだけど、当日に抜けられない用事が入っちゃうなんて。ほんと響ったらそそっかしいよね。…あはは」
…いける、はずなんだけどなぁ。手持ち無沙汰に会話を続けようとするような理由づけ。そのくせ当たり障りのない話題に見せかけた会話に、どうしても本心が混ざるような笑い。
……多分、ここで話を切り上げて妹が待ってるからと言えば小日向は何も言わないのかも知れない。小日向の姿をその場しのぎの笑顔で傍観することができれば、俺は何も知らずに明日もヘラヘラ笑っていられるのだろう。
「……なあ、なんか飲むか?」
……だけどそんな笑顔ができるのなら、俺はぼっちなんてやっていない。俺ができるのは引き笑いと引かれる笑いくらいなもんだ。
対人において、俺が取れる行動なんて限られている。逃げるか、逃げられないか。黙るか、黙らされるか。だから俺が選ぶのは、逃げるを選択して逃げられない現実に直面するいつも通りを謳歌する以外ないのだから。
「急にどうしたの?」
「いや、なんつーか、なんか寒そうな格好してるから飲み物買いに自販機近くにきたのかと…」
「あ、そうだったんだ。…だけど私今お財布持ってきてなくって。何も準備せずに来ちゃったから…」
「………寒くないのか?」
「……少しだけ」
「…ん」
「…ありがと」
新しく買ったレモンティーを差し出すと、小日向はそれだけ言って受け取った。それだけなのにどことなく気恥ずかしくなった俺は小町用のミルクティーを一本買い、それをポッケに突っ込むと既に買っておいたマックスコーヒーの缶を開けて呷る。
それを待っていたのか、小日向もレモンティーをチビチビと飲み始めた。
「……おいし」
「……うまい」
奇しくも被ってしまった感想に、小日向は小さく笑い俺は小さく頭をかく。相手の調子が前と違うせいか、こちらの調子も崩れているように感じる。いや大体こちらの調子が崩されるのはいつも通りか。誰かと喋るだけで調子ガタガタの足はガクガクだ。ぼっちは騒がしいと死んじゃうからね。主に精神的に。
「ね、比企谷くん。見晴らしのいいところに移動しよっか」
「そうだな。小町を待たせ続けるのもアレだし」
「あ、やっぱり小町ちゃんも一緒なんだ」
「そりゃこんな所まで星見に来るのは、な。そのためだけに遠出するのは中々の変人だ」
「あはは。それ、私のこと言ってる?それとも遠回しな小町ちゃんへの非難だったり?」
「なんのことやら」
少し明るくなった小日向と雑談しながら元の位置に戻るがそこに小町の姿はない。待ちきれないからって帰るわけが無いし、どこ行った?取り敢えず携帯に連絡を、と思ったら既にメッセージが届いていた。
『お兄ちゃん戻って来るの遅いし、少し寒いから先に帰るね!
P.S未来さんを一人で帰さないように!』
「あんにゃろ…」
「…?小町ちゃん?」
「ああ、寒くなったから帰るとか書いてある。しかも自転車ねえし…」
「あ、あはは。また突然だね。比企谷くんはどうするの?」
「………ここまで来たしな。星くらい拝んどかないとやってられん」
「……じゃあ、独りぼっちどうし。一緒に見よっか」
「…そだな」
展望台の
「……ねえ比企谷くん。秘密ってさ、誰にだったら話してもいいって思える?」
「また急だな」
「最近ね、響って一人でいることが多くなったんだ。それに何か悩んでることも多いの」
悩んでることとは、まあ十中八九風鳴先輩の事だろう。前より良い関係になったとはいえ、やはりどうしても仲良しこよしとまではいかないらしい。遠慮や昔のジレンマの全てを捨てて、とまではまだいかないようだ。だって立花から爆撃されるメールの殆どが風鳴先輩のはなしだったし。
「……まあ立花にも悩み事の一つや二つあるだろ」
「うん、そうだよね。分かってる、んだけどね。分からないことばっかりなの。どうして話してくれないんだろうとか、響が困ってるなら助けたいのにって思うの。なのになんで私は響にそれを聞かないんだろうって。
……親友なのに」
「……さあな。その親友に迷惑かけたく無いから、とか?」
「迷惑かけて欲しいの!
……心配させて欲しいの。親友だから迷惑かけて、困らせて、それで最後に笑いたいのに…」
「………」
「親友だから隠し事しちゃいけないわけじゃない。そんなのわかってる!だけど…」
顔を俯かせる小日向の、言葉が一瞬止まる。ちらりと横を見れば街を眺め、瞳に涙を溜める横顔が見えた。…俺たち以外誰もいない展望台。照明だってそこまで多くない。それでもその横顔は、霞む事なく瞼に焼き付いた。
「……したくないの。私が、響に隠し事をしたくない。その気持ちを、響も持ってるって信じたいの…」
……そして俯かれた顔と違い、どこまでも真っ直ぐな想いは。きっともう、俺から失われたナニカなのだろう。だから俺は、小日向に向けて言える言葉を何一つ持ち合わせていない。
子供のような理想を語り、それが現実であって欲しいと信じられる強さ。この薄汚れた目から入る光景、悪口ばかり聞き止める耳からでは言い表せない。この捻くれた口からは出すことのできない、小日向達の関係を。敢えて言葉にするのなら……。
……いや、無粋が過ぎるか。
「………」
「……ごめんね。こんなの、ただの我儘だよね。うん、全部私の我儘。………ほんと、ごめん」
「……小日向、空」
「え?」
スッと空に一つの線が渡る。それは一つに収まらず、まるで波を起こさんばかりに輝きが一筋の光を刻み続ける。目線を落としていた小日向の顔は自然と上を向いていく。
ああそうだ、忘れていた。俺は、俺たちは流星群を見に来ていたんだった。
「……わぁ、綺麗」
「…ああ、そうだな」
溢れそうな涙を一つ拭き、その目を天へと向けた小日向の顔はさっきよりも輝いていた。何も解決していない、何も答えは出ていない。だけど、この光景は苦しい問題を忘れさせる力があるのだろう。ヒュルッと風が吹けば空の星々もまたシュンと動き出す。まるで星が音楽となっているかのようだ。
「……流れ星、響にも見せたかったなぁ」
そしてこの音楽を前に、親友と共感したいという願いが言える小日向は、やはりどこまでも立花のことを想っているのだ。人助けが趣味で、シンフォギア奏者で、少し頭の緩いコミュ力おばけ。その程度しか知らない俺とは違い、きっともっと立花の良いところを、そして変なところも知っているのだろう。
「………なあ、小日向」
「……なに?」
「変わった友人を持つと苦労するな」
「……ほんとにね」
肯定をし、腕を手摺にもたれ掛けるようにして顔を埋める。
「…だけど。やっぱり、大好きなんだ」
「……そうか」
響と未来が一緒に出てこない…。
花咲く勇気好き。最近一推し。