やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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祝100話!初めて到達しました。他の作品とか普通に終わってたりするのになんでまだGなんですかね。

くどい文体ですけど雑に噛み砕いてやってください。これからもノロノロギタギタな小説書いてきます。




溢れはじめる秘めた熱情。

……迫る。ネフィリムの口が迫る。

 

よだれを垂らしながら、牙を、食欲を、飢餓を剥き出しにしてこちらに向かってくる。

 

…避けるのは、無理だ。あまりに他の事に気が取られすぎていた。

 

 

「……歌」

 

 

…歌が聞こえた。聞こえないはずの、歌が聞こえた。一つしか聞けない、歌が聞こえた。

 

かつてないほど揺れ動かされた激情は、引力のような魅力で吸い寄せられた。その結果がこれなのだから救えない。初めて聞く歌声が喰われる寸前にすら耳に焼き付いているのだからお笑いだ。

 

 

「…………まあ…」

 

 

……だけど、これでもいいと思った。ギアペンダントをネフィリムに食わせようという案、それ自体は初期からあったものだ。戦力ダウンを嫌って二課の装者からペンダントを奪おうという話にはなったが、別に一人こちらの戦力が減ることを許容すればリスクなく遂行できる作戦だった。

 

さすがに殺されたくはないのでドクターの協力を仰いで離脱できれば、命くらいは助かるだろうという甘い算段を立てる。この身に宿るのは完全聖遺物。餌として足りないってことはないだろう。

 

……受け入れる、というよりはここから打開する方法がないことへの諦めに近い妥協。それをただ前向きに捉えるための現実逃避。

 

 

「……いいか」

 

 

……一種の走馬灯だったのだろうか。嫌にゆっくりと進む時間を呪いながら、目の前の怪物の捕食を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バグン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………血が、弾け飛ぶ。顔にまで飛んだ血が目に入ったのか、視界が真っ赤に揺らぐ。口に飛び込んできた血が鉄の味を、触れてもいない鼻にはその匂いが強烈に刺激する。

 

しかもなんて因果だろう。あの兵士と同じ、ネフィリムが噛り付いたのは左腕だった。グチュリと鈍い肉を削る音を、ゴキリと骨を砕く音を、そして最後に。

 

 

ブチリ、と。

 

 

二の腕とその先端を乖離させる決定的な音。

 

 

……その音と共に…。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぅぅぁあああああッ!、!!」

 

 

 

 

……呆然と、しかし歴然と。俺の身代わりとしてネフィリムに腕を食い千切られた立花響が目に映る。

 

…理解できなかった。目の前の光景が起こる理由も、起こした動機も、腕をなくしてまで庇った理由が一つだって理解できなかった。

 

 

「……なにしてっ……!」

「………………へいき…」

「はぁ!?」

「……へっちゃら、だから…」

「…………へっちゃらなもんかよっ」

 

 

…見えなかった、見ようとすらしてなかった。俺が向かった場所は立花響のもとで、ネフィリムが飛び出したのはその手前。元々こいつを狙ってたかは定かじゃない。だけど大口開けたモンスターの前に自分から体差し出す馬鹿がいるかよ…っ。

 

アームドギアを一部パージし立花響の腕に巻きつけ圧迫する。簡易だが止血にはなるはずだ。ネフィリムが腕を咀嚼している間に立花響を抱えて距離を取る。

 

…ネフィリムを視界に入れつつ立花響の顔を覗けば、激痛に耐えながら冷や汗を噛み締めている。右手でフラフラと左の腹をさする姿は、本来あるはずの左腕を探すように彷徨い続ける。

 

……そのあまりに痛々しい姿は、想像していたはずの光景だ。ネフィリムと戦うなら起こりうる姿で、それを自分の手で引き起こす事を理解していたはずだった。

 

原因も、結果も変わらず、ただ過程が変わっただけ。

 

…なのに、彼女に守られたという事実が心を乱して止まない。立花響が、人が、守るために支払う対価の価値が上がるほど、守ったものの価値が上がる。そのことを認めるほどに。自分の価値が不当に上げられる現象に、恐怖が止まらなかった。

 

 

「…………お前、ほんと、なにしてんだよ」

「……ごめん、でも…、また八幡くんがいなくなっちゃったらって…、思ったら、……いたぁ…」

「…覚えてないって言ってるだろうが」

 

 

…守られていなければ、問題なかった。助けられなければ、問題なかった。ただの敵対者として相手の腕を喰わせたのなら、問題なかった。ただの阿呆として自分の腕が喰われたのなら、問題なかった。

 

………だけどその全てを否定して、五体満足で存在する俺がいる。その全てを否定して、左腕を失ったこいつがいる。

 

…そんな現実で。俺の中の戦意が、どうしようもなく消失していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッたぁぁぁああああ!!!!…パクついたっ、これでえええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………力なく立花響を抱える俺に、無制限に現れるノイズの対処に追われる風鳴翼と雪音クリス。意識も朦朧としている立花響にも聞こえそうな音量でドクターの雄叫びが響く。

 

グチャ、グチャと肉の咀嚼音を漏らしながら、ゴクリとネフィリムが喉を鳴らす。喉元を通るのは消えた左腕。それは細胞に至るまで聖遺物によって変化させるシンフォギアの性質上、端から端までネフィリムの栄養だ。溢れるフォニックゲインは今までの起動していない聖遺物のカケラとは比べ物にならないだろう。

 

 

………巨大化、雄叫び。ネフィリムが、覚醒を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

sideマリア

 

 

 

 

inエアキャリア内部

 

 

 

 

 

 

 

「あんの奇天烈!どこまで人の道を外れてやがるデスか!?」

 

 

カディンギル跡地から少し離れた場所で、ステルス機能によって隠されたエアキャリア。その中で壁を叩きつけながら切歌が叫ぶ。八幡にネフィリムが襲いかかる瞬間も、立花響がそれを庇い腕を喰われる瞬間も、その全てを私達は見ていた。

 

…聖遺物のカケラを、ネフィリムの餌を手に入れる。それは二課に所属する装者からペンダントを奪い取り、それを餌とする作戦であったはずだ。だけど目の前で行われているのはなんだ。

 

人を人と思わない。人そのものを餌と捧げる残虐さ、痛みに苦しむ姿を気にもせずに勝鬨を上げる醜さ。ただただ人の命を弄んでいるだけ。

 

…これが、こんな光景が、私達が進む道だというの?

 

…私達の目的は人類の救済のはず。弱い人達を救う、切り捨てられる無辜の命を守る。その為にこの道を選んでいるはずなのに。

 

 

「……あたし達、正しいことをするんデスよね…」

「…間違ってないとしたら、どうしてこんな気持ちになるの…」

 

 

…溢れる二人の言葉に、胸が締め付けられる。正しいはずの道、正しいはずの答え。正しい行いを、私達はしているはずだ。

 

 

……だって、()()()()()()()()()()

 

 

…それが正しいと、ただ信じて。マムなら、と。

 

 

 

「………その甘さは今日限りで捨ててしまいなさい。私達には、微笑みなど必要ないのですから」

 

 

 

…だけどそんな願いは、ただの甘さと切り捨てられる。

 

……違うの?この気持ちは間違っているの?例え敵だとしても、誰かが傷つく姿に胸を締め付けるのは、正しくないの?

 

 

「……」

 

 

…モニターに視線を向ける。そこには巨大化するネフィリムに、立花響を抱える八幡、戦い続ける雪音クリスや風鳴翼。目を逸らしてはいけない光景が広がっている。

 

……ねえ八幡。敵をその腕に抱えて、あなたは今何を思っているの?襲撃され炎の海でその手を血に汚そうとしたあなたは、この光景を前に何を考えているの?

 

…疑問も、願いも、この場所からでは届かない。だけど昨日信じていた正義を、今日は疑ってしまっている。信じて握りしめたはずなのに、誓った拳が正義を否定する。

 

 

(…何もかもが壊れていく。…このままじゃ、私自身さえ…)

 

 

背負いきれない重みが、私自身を潰していく。信じるべき正義が、私自身を否定していく。弱い自分が、自分自身を嫌っていく。

 

前に進まなくちゃいけない。その決断をするのは、むしろ遅過ぎたくらいだ。フィーネの偶像を演じると決めたけれど、それすらマムの言葉を受け取っただけで自分自身で決めたことじゃない。

 

…このままマムの後ろで、言われるままに嫌なことをやり続けるだけの大きな人形となるか。それとも拒絶したくなるようなドクターの如く、目的の為に全てを捨てて前に進むか。

 

………そしてその全てを投げ捨てることだって、F.I.S.という行き場のない袋小路から這い出た自分には可能だ。

 

…自由になるとは、外に出るとは、そういうこと。自分で全部決めなくちゃいけない。

 

 

(……もう、命令を聞くだけじゃダメなのね)

 

 

ただ頷き続けたF.I.S.との違いが、心の鼓動を通して教えられる。逃げたい、投げたい、諦めたい。世界なんて大きなものを背負おうとしたことがすでに間違いだったんじゃないかと。

 

だけど……それでも……。

 

 

(…それでも、手の届く場所。せめてそれだけは守りたい)

 

 

調に切歌、マムに八幡。手を伸ばせば届く温もりだけは、何があっても失いたくなんてない。

 

その感情は、命令でも誇りでも正義でもない。ただ私の中に純然と根付いている気持ちだから。

 

 

(……怖い、わね)

 

 

……でもそれを守る為には自分で未来を選ばないといけない。それはどこまでも恐ろしくて。言葉を聞いてその通りに動いて、失敗しても成功してもそれを命令した人のせいにする。そんな甘えはもう使えない。

 

自分で選んだ未来は、全部自分の責任として押し寄せてくる。目の前の悍ましい光景もそうだ。世界を敵に回しても正義を成すとは、ああして死にかけることも実際死んでしまうことも当たり前にあり得ることだ。ただシンフォギアという特別に守られているだけでしかない。

 

それが自分の身に降りかかるだけならいい。でもそれはこの場にいる全員に平等に襲いくる可能性。その引鉄を、もしかしたらこれ以降の私の選択によって引かれてしまうかもしれない。

 

 

(……ああ、怖い)

 

 

…襲撃の時に相手の左腕を斬り飛ばした八幡も、こんな気持ちだったのかしら。いえ、きっともっと怖いのでしょうね。選択すると決めることと、実際に選択を迫られる事は違う。

 

その決断を迫られた時に、彼はそれでも選んで見せた。ドクターに止められたけど、結果的に異なる道に進んだけれど、それでも彼はどちらも苦しむ選択肢を選んで見せた。

 

………そしてそれは、昔ネフィリムに絶唱を歌った妹も。

 

 

(……おかしいわね。身体はどんどんおおきくなっているのに、貴女との距離がもっとずっと遠くに感じるなんて)

 

 

今も昔も、情けないお姉ちゃんでごめんなさい。貴女と同じ選択肢を並べられても、カッコいい選び方はできないかもしれないけど。でもこの想いを、やっと自覚できた前へ進む道を忘れない。

 

…心の奥。溢れはじめる秘めた熱情を。

 




.





………祝、100話(2回目)。作中誰も笑顔じゃないな。

…いや一人だけめっちゃ笑顔だわ。一番祝ってくれてるのはドクターだった?

何にせよ感情にパンチ食らった八幡と、進みはじめる(良い方向とは言ってない)マリアさんでした。

「だって、マムがそう言ったから」がしばらくF.I.S.組のトレンドになりそうな予感。精神的に未熟故の葛藤の下地部分。
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