やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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……おかしい、翼さんの気配が薄い。ついでにクリスちゃんの気配も薄い。同じ空間にいるのに表現するタイミングがないや。




.


やはり彼女は、まちがっている。

side響

 

 

 

 

激痛に苛まれながらゆっくりと瞳を開く。痛みと寒気が全身を駆け回っていたけれど、視線の先にある顔を見て少し安心する。最近になるまで見ることすらできなくて、話すことすらできなかった人が居てくれたから。

 

独特な目をして頭頂部にはアホ毛を揺らしていて。見慣れた顔色を悲しいくらい歪める彼に手を伸ばそうとしても、腕がなくなっていて触れることもできない。

 

…だけど抱えられて触れられている温かさは、感じられる。朦朧とする意識の中で彼の顔から目を逸らす。顔一つ動かすのも難しい中で、必死にソレへと手を伸ばした。

 

 

「……っ」

 

 

お腹に添えるように置かれていた八幡くんの手を、残っている右手で握る。不意をつかれて手を引っ込めようとするのを拒むように、少し爪を立てて引き留めた。

 

…逃げずに留まる手を、改めて握る。

 

………うん。ちゃんと、温かい。

 

 

「……よかった。…生きてる」

 

 

…姿を見て、言葉を交わして、それでも実感が持てなかった。それくらい、死んでしまったと思い込んでいたから。

 

……ふと、昔を思い出す。ツヴァイウィングのライブで生き残って、リハビリをして、そして家に帰って。ライブで生き残ったことで始まった街ぐるみとまで言える迫害の数々。

 

石を投げられ、教科書を裂かれ、陰口罵倒を受け続ける日々。

 

…その一つに、家に悪口を貼り付けるというものがあった。紙に書きなぐったなような暴言、帰るたびに目に焼き付けられた文字達。

 

 

 

『人殺し』『金ドロボウ』『死ね』『出ていけ』

 

 

 

私が生きていることを望まない言葉の数々。辛くて苦しくて泣きそうで。それでもお母さんとお婆ちゃんは、生きているだけで嬉しいと言ってくれた。

 

その言葉に励まされた記憶。そして今その気持ちを全部理解できる。

 

…生きていてくれてよかった。忘れてても、敵になっても、きっと直接傷つけられたとしても。

 

 

……生きていてくれただけで、嬉しいんだ。

 

 

だから守れてよかった。こんな痛みを感じさせなくてよかった。傷つかなくて、よかった。

 

………でもほんとは、私も傷つかないで助けられた方が良かったよね。それだけ少し、後悔してる。

 

昔の言葉、昔の暴言、昔の張り紙。さっき思い浮かんだ言葉で、どれも傷ついたけど一番心に残った言葉があった。人の悪意に満ちた日々、陰口を叩かれ後ろ指を指されて。そんな中で、一つだけ。

 

 

 

 

 

 

 

『お前だけ助かった』

 

 

 

 

 

 

 

………この言葉だけは、心に泥のように貼り付いている。家族を亡くした涙のように、行き場のない感情の総括のように。きっと私がライブの日に死んでいたら、お母さん達がそんな気持ちを生き残った人に抱いてしまったかもしれない想い。

 

でも私の力じゃ全部を守れないから。だからせめてでも。

 

 

『きみだけは助けられた』と、思えるように。

 

 

……そして私も最後まで、生きることを諦めないから。

 

 

 

 

「………だから笑って?」

 

 

 

 

手を伸ばして、八幡くんの頬に触れた手はやっぱり温かい。それだけで胸の奥が熱くて、熱くて、熱くて。

 

……その熱が、私の意識ごと呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

………ドクン、ドクンとネフィリムの全身を走る鼓動が巨大化していく。全身を走る赤いラインは更に赤みを増し、巨大なヒルのような姿は尖り、更に巨大に姿と出力を増していく。

 

 

「うひゃははぁー!完全聖遺物ネフィリムは、言わば自立稼働する増殖炉!他のエネルギー体を暴食し、取り込むことで更なる出力を可能とする!この力が、フロンティアの浮上を可能とする!…ははは、ひゃーはっはっはぁ!!」

 

 

ネフィリムの進化が進むほどドクターのテンションも更に上がる。つまるところ、成体への成長に成功したということだろう。

 

……望んでいたはずだ、それが目的だったはずだ。ネフィリムの覚醒によってフロンティアを操作し、月の落下を止められる。世界を救えるはずだった。

 

…………世界を壊すために、世界を救う。それだけのためにF.I.S.で過ごし、これまで戦ってきたというのに。

 

俺がする事はこうして立花響を支える事じゃなく、ドクターの横でネフィリム回収のタイミングを計ることが正しい。そうでなくても、ライブに餌やり、ギアペンダント確保の為に駆け回ったF.I.S.の成果として喜ぶべきだ。

 

………なのに。

 

 

(……なに絆されてんだよ)

 

 

自分の現状がよろしくないことは自覚してる。敵対組織に情を持つなんて大抵ロクな目に合わない。そもそもネフィリムの暴走かドクターの指示かは知らないが、どちらにしても俺が喰われかけたのは F.I.S.(こちら)側のミスで二課(あちら)からしたらただの自爆だ。

 

…その自爆に飛び込まれてこうなったわけだが。

 

 

(……成長した以上、戦う意味はない、よな?)

 

 

テンションブチ上げなドクターも、ネフィリムばかりに熱中していてもはや二課の装者の姿は視界から失われているようだ。今のうちにこいつを二課に返して治療をしてもらわないと…。

 

 

「……っ」

 

 

キュッと、手を包まれた。温かく慣れない人肌に、咄嗟に腕を引こうとする。

 

それを見透かされたように、爪を立てたその手が俺を引き止めた。ピリッと鋭い痛みが走り、その手が腕の中にいる立花響のモノであると理解する。

 

……なにを望んでそんな事をしたのかは分からない。それでもここで腕を振り払う選択肢は浮かんでこなかった。逃げるのをやめると、もう一度立花響は改めてキュッと掴み、弱々しい力で握りしめた。

 

 

「……よかった。…生きてる」

「………それお前のセリフじゃないだろ」

 

 

ニヘラと痛みに苛まれながらも笑うこいつに、悪態をついても聞こえてるのか聞こえてないのか反応はない。意識レベルが低下しているし、顔色だってどんどん悪くなっていく。

 

…目の前にはネフィリムが、腕の中には立花響が。どちらにせよ早く動くべきなのに。僅かに動く唇に、薄っすら開く瞳に、見逃してはいけないのではないかと身体が動かない。

 

 

「…………ぇ」

「……なんだ?」

 

 

コヒュッと漏れ出る呼吸から、声にならない言葉が聞こえた気がした。口元に耳を近づけようとして、頬に伸びてくる手が邪魔をする。手を握っていたはずの立花響の右手が今度は俺の顔に向けて近づいて。

 

 

「……だから、笑って?」

「…………だからって、なんだよ。…ほんと、なんなんだよお前」

 

 

頬を撫でられて、別段親しくもないやつにやられたって何かを思う事なんてないはずなのに。それだけで心地いい事実が信じられなくて。

 

…ああ、ダメだ。心乱されるだけの空間なのに、感じた事ない感情に振り回されてしまう。それを受け入れてしまっていることが、何よりも度し難い。

 

 

「…おい、動くぞ」

 

 

早いところこいつを手放さないと。なによりこんな危険な状態で放置し過ぎた。

 

離れた場所で戦っている風鳴翼も雪音クリスの元へ向かおう。それで撤退してくれればそれだけで……っ!?

 

 

「……ぅぅ…っ。ァァァアア!!」

「…おいどうした!?……おい、立花!」

 

 

…熱い!さっきまで体温が下がり続けてたのに、今度は逆に熱を持ち過ぎている。炎症、とはまた違う。それこそこんな熱を人体が持ってたら焼けてしまいかねないような熱。

 

それどころか胸の中心から、まるで闇に飲み込まれるように立花響の身体が黒に染まっていく。ギアの異常現象、というよりもこれは…。

 

 

「暴走っ!?」

 

 

その闇によってギアや一部の形が上書きされるように変化していく。頬に触れられていた指先がまるで獣のように尖り、その切っ先が俺の頬を切り裂いた。

 

 

 

「ヴォオオオオオアアア……!」

 

 

 

立花に支えていた体を殴り飛ばされる。よりにもよって、なくなったはずの左腕でだ。血飛沫のように左腕から闇のエネルギーが放出され、止血に使っていた俺のアームドギアを吹き飛ばす。そして身体を覆うエネルギーが、まるでアームドギアを形成するかのように腕の形に固定された。

 

この瞬間だけ切り取ってみれば、左腕を失ったことが嘘のように指を握り関節を動かしてみせる。獣のような呼吸に、真っ赤に染まる目がネフィリムを見据えた。

 

腕を喰い千切った恨みを覚えているように、吹き飛ばした俺には目もくれない。

 

 

 

「ヴォァァァアアアア!!!」

 

 

 

咆哮、そしてぶん殴った。

 

成体と化したネフィリムを真正面から。殴られたネフィリムのノックバックに追撃をかける立花。巨体を一撃一撃で難なく揺らし、その素早さは留まるところを知らない。

 

 

「や、辞めろ!やめてくれぇぇえええ!!」

 

 

…間違いなくネフィリムが押されている。それはドクターから見ても一目瞭然だったのだろう。せっかく成長したネフィリムを破壊される。それは最早計画の失敗を意味する。

 

一度成長させるだけでもこれだけの時間と聖遺物のカケラが必要だったんだ。もう一度なんてやる余裕はない。

 

……止めないと。

 

…止めないと、世界を救う手段が無くなってしまう。だけどネフィリムと戦ってるのは立花響で…。今でこそ腕があるように見えるが、庇われ守られ、腕を失わせた張本人がなにを持って刃を向けられるのだろう。

 

 

「と、とめるんだ!早く!その聖剣で彼女を!」

「……っ、あ、ああ」

 

 

殴られ続けるネフィリムからこちらにドクターの怒声が向けられる。頬の血を拭い、アームドギアを持つ。だけど戦意は湧かなくて。

 

それどころか、ネフィリムと立花。どちらに向けてこの武器を向ければいいのかすら疑問を抱いてしまう。そんなの、決まってるはずなのに。

 

……こういうのは返報性の原理だ。助けられたから、助けなきゃと思う人間の心理。感じてしまうのは仕方がない。だけどここでネフィリムを守ることの方が正解だ。そのはずだ。

 

早く止めないとネフィリムが壊される。だから早く、早く動かないと……っ。

 

 

「……くっ。【full百of八…」

「おそぉい!これ以上ネフィリムを好きにさせるかぁ!」

「!?」

 

 

…アームドギアを構え、攻撃の動作を始める。でもその行き先はどちらかを傷つけるのではなく、攻撃の手を受け止めるために放つはずだった。

 

なのに視界に突如ノイズが走り、意識が揺らいだ。それどころか操作などまるでしていないアームドギアが手元から飛び立ち、立花響を殴り飛ばした。

 

 

「……っ、?なん、だこれ。……目が…」

「戦わないというならその聖剣すら宝の持ち腐れ!使わないなら、正しき使用者に!そう、僕が!」

「ーー◼︎◼︎◼︎ーーなに◼︎ーー!?お◼︎ドクーー!」

 

 

…ザザザーッと意識が揺らぐ。それどころか、まるで操られるように…。

 

 

「ネフィリムはこれからの世界に必要不可欠な存在!それを、それをぉ!失ってなるものか!予定よりも早くとも、英雄の道へとぉ!」

 

 

手元から黒い端末を取り出し、まるで見せつけるように掲げる。それを見続けられるほど、意識は残ってはくれなかった。

 

…まるで導かれるように、集められるように、呑み込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起動!コードBc_Fine_E!

女狐の置き土産、僕が十全に使いこなしてあげましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー暗転ーー

 

 

 

 

 




.


この展開もう少し後の予定だったけどお告げが降りたのでぶっ込みます。原作まんまのはずが…。

というか敵のスパイを庇って後々味方にする王道展開を敵視点でみてる感がすごい。

ところで本題なんですがif調可愛くないですか!?ボブカット丸眼鏡萌え袖バッテンネクタイで切ちゃん匂わせとかなんだお前属性かよって魅力な尊みがエモみ可愛い感じですよね!?

切ちゃん一見変わらない気もしますがどうなるのか、ほんと早くイベント見たいわ!
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