やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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…お気に入りが100人くらい増えてる。ランキングってやっぱ偉大なんですね、評価ください。

…あと誰かハーメルンで重ね字のやり方知ってる人いませんかね?少し調べたんですがたどり着けなくて…。

今すぐは使わないんですけどたぶん切調あたりで使う可能性があるので知ってたら教えてくださいorz。


やはり彼女は明るく笑う。

side奏

 

 

 

 

 

 

 

 

──VANISH∞ALCOR──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、ぁぁ……」

 

 

 

…戦場を引き裂く歌声と共に、ドクターウェルの掠れる声だけが残響となって夜に溶けていく。

 

腹に突き立てられた大剣がネフィリムごと回転し、他の部位に刺さる西洋剣が回転に逆らうように不動を貫いた結果。ネフィリムはミキサーにかけられたように肉片となってあたりに散らばっていった。

 

そのあまりな勢いに、残されたのは頭のみ。それすらもビクビクと僅かな痙攣を見せただけでその活動を永遠に停止した。

 

 

「……ふぅ」

 

 

ネフィリムの残骸を足蹴にため息をつく。一仕事終えたような充足感、そしてもはや誤魔化しきれない倦怠感に包まれる。ドクターウェルが洗脳装置を切ってからずっと、自分の存在感にブレを感じ続けていた。

 

…限界が、近いのだろう。

 

 

「奏…」

「奏さん…」

「………たく、揃いも揃ってなんて顔してんのさ」

 

 

手に持っていた黄金のアームドギアが霧散する。維持するだけの力も湧かず、心配そうな顔で近づいてくる翼と響に笑いかけた。

 

 

「あたしはもう死んでる。だからこうやって話せるのも、姿を見ることだって奇跡みたいなもんなんだよ?」

「…それでも。それでも、私は、奏にずっと会いたかった!…会うだけじゃなくて、もっとずっと、一緒にいたいんだよ…」

「あはは、贅沢だな翼は」

 

 

涙を浮かべ、縋り付く翼の頭を撫でる。

 

……そりゃあそうさ。あたしだってずっと一緒にいたいよ。歌って踊って、両翼揃ってどこまでだって飛んでいきたいに決まってるじゃん。

 

だけど永遠に見えた有限は終わりを迎え、無くした時に気づいた価値はもう取り返しがつかないくらいだ。残した側も、残された側も、それは変わらない。

 

……でも残された側には、まだ新しい希望がある。

 

…ほら、あたしじゃなくてあんたが並ぶべき隣を見てごらんよ。ずっと心配しながら、信じてくれている子がいる。遠巻きでそっぽ向きながらも、心配そうに見ている優しい子がいる。

 

 

「……翼、良い後輩ができたみたいだね」

「…うん。私なんかには勿体無いくらい、できた後輩だわ」

「そっか」

 

 

絶対に無くさない価値。それに気づけたなら、もう二度と同じ道を選ばないようにしなきゃ。翼にはまだ守るべき人がいる、守るべき世界があるんだ。

 

 

「………だったらさ」

 

 

…少なくともそれはもう、あたしじゃない。

 

 

 

 

 

「シャキッとしな!」

 

 

「ぃいっだぁ!?」

 

 

 

バチンッと月まで届きそうな勢いで引っぺがした翼の背中を叩く。翼もギアを纏ってるとはいえ、結構本気で叩いたから相当痛いと思う。

 

だけどそれでいい。痛いくらいの想いを込めた一撃。この先の未来に持っていってくれよ。まだ暫くは八幡の中にいるだろうけど、きっとあたしはずっとは留まってられないだろうからさ。

 

 

「か、奏?」

「ほら、情けない顔は辞めな。ちゃんと守ってやんなよ?後ろの子たちも、こいつもね」

「……うん。わかってるわ」

 

 

………さて、限界だ。

 

最後に、最期まで後悔してたことだけ済ませなきゃね。

 

 

「……翼!」

「…奏」

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

「…バイバイ」

「……うん、さよなら。…ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はー歌った歌った!」

「自分で作ったムードまるごとぶっ壊しやがった…」

 

 

どこかもわからない空間で、あたしが歌うと豪語したまま勝手に出ていった人がラーメンたらふく食べた後みたいなテンションで帰ってきた。相棒らしき風鳴翼と御涙頂戴の顔をしながら戻ってきたら、吹っ切れたのかこの有様だ。今も泣きそうなお相手に謝れよ…。

 

しかし名状し難い感情に包まれてるのはずっとなのでそれも気にする必要もないのかもしれない。彼女が消えてから音も聞こえるようになり、会話も戦闘音もこちらに届くようになった。

 

…………そして、当然歌も。

 

 

「……で、どうだった?あたしの歌!」

「…ああ。…まあ、良かったよ」

「ありゃ、随分素直じゃん」

 

 

ボーッと、前を見ながらさっきまでのことを夢想する。だけどそこには立花響も戦闘すらも抜け落ちて、ただただ天羽奏の歌声だけが耳に張り付くように残されていた。

 

力強くて、芯が通い、なのに望み翳るような不思議な音。立花響以外の歌を聞いたことはないが、当たり前のように全然違う歌声で。背中を押すような、むしろ蹴っ飛ばすような。そんなニュアンスを振動のままに叩き込まれ、歌詞すら一度で脳細胞に刻まれている。

 

…世界には70億の人間がいる。もし一人一人違う歌声を持っているなら、少なくとも世界には70億の歌があることになるのか。それらをいくつも組み合わせたら、歌には無限の数が存在していることになるんだよな。

 

…………聞いて、みてえな。

 

 

「……」

「…なんだ、そんな顔できんじゃん」

「………なんだよ、そんな顔って」

「ワクワクした顔。欲しいものができたような、子供みたいな顔さ。そんな顔されたら、あたしも歌った甲斐があるってもんだ」

「自分が歌いたかっただけだろ」

「はは、違いない」

 

 

快活に笑いながら隣に腰掛ける。…いや近いな。胡座かいた足がこっちの足に触れている。互いに足を脱力させた時どうしても当たる距離になってしまっていた。

 

…うん、離れよ。サッと腰を浮かせて位置をスライドさせる。すると露骨にこっちに顔を向けた天羽奏が、ニタァと嫌な笑みを浮かべた。

 

 

「なーんだよ、照れんなって!あたしとあんたの仲だろ?」

「う、うぜえ…。てかほぼ初対面だろうが…あと近い…」

 

 

距離を離したはずなのに、むしろ近づいてきて肩まで組んできやがった。陽キャ特有の距離の詰め方とか俺の辞書に載ってないのでさっさと離れて。いやほんと、何がとは言わないけど大きいですね当たってるからちょっと!?

 

 

「……っぷ、あはは!そんだけ元気なら大丈夫そうだね!」

「…けっ、ビッチが」

「なんだいなんだい、さっきまで萎びた顔してたのに言い返せるくらい元気じゃないか!」

 

 

引き剥がそうとしても単純な腕力で負けているせいでそれもできない。だけどそもそもこの手に力が入ってる事実に、実は少し驚いていた。

 

…歌を聞いた、求められる声を聞いた、望まれる存在を見た。そんな感情を向けられる天羽奏という存在が、何故か俺と入れ替わるように顕現できた。

 

……だったら、俺なんか別にいらないんじゃないかと。俺がいるよりも天羽奏が現実でただ当たり前に生きていくだけで、それでいいんじゃないかと。

 

 

……………俺は、思えなかったんだ。

 

 

「……それでいいんだよ。それでいいんだ」

「……」

「…あんたの目、あたしは好きだよ?翳って曇ってやさぐれて、それでも前を向いてる目だ。ほんとに諦めてるやつは進もうとなんかしない、ほんとに優しくない奴は誰かを気にかけたりなんかしない。…ほんとに腐ってる奴は、立ち上がろうとなんかしないんだ。

 

 

 

……あんたはちゃんと、生きようとしてるんだよ」

 

 

 

…………どう、なんだろう。

 

それでも。活き活きと、生きとし生けるものとして躍動する天羽奏を見ても。過去の繋がりを持って想いを確かめ合っていても。

 

…それでも、ここで消えたいなんて思えなかった。キャロルの命令、「世界を壊すために世界を守る」。それを果たせなくなるからかとも思った。でも違った。

 

「欲」が、出てきたんだ。でもそれは明確な形を作り出してくれなくて、歌がもっと聞きたいとか、過去の自分のこととか……。

 

 

 

……立花響のこと、とか。

 

 

 

……いや変な意味じゃなくてね?

 

ただ俺にも聞こえる歌を歌ったこととか、ネフィリムから庇っちゃうアホさとか、あのバカみたいな真っ直ぐさとかが。

 

…妙に焼き付いて、離れない。

 

…ほんと。

 

 

「……どうなんだろうな」

「そいつを見つけるのだって生きる楽しみなんじゃない?」

「…かもな」

 

 

肩を組まれたままぐしゃぐしゃと頭を撫で回され、ようやく解放された時には随分と身体が軽くなっていた。身体だけじゃなく、心も随分と落ち着いている。

 

 

「……はぁ。ま、行くわ」

 

 

ずっと座り込んでいた場所から、ゆっくりと立ち上がる。未だにこの謎空間が何処なのかは分からないけど、ここで進む勇気を貰ったとこは間違いない。

 

その勇気は、それこそなんの変哲も無い歌声だったけど。

 

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 

胡座のまま座り込んで手を振るそいつは、もう振り向きもしない。俺の手にはあまりある勇気だけをぶっ込んで、あとは好きにしろときた。

 

この自分勝手様には、最後に一言言ってやらないとこちらの気もすまないってもんだ。

 

 

 

 

「……サンキューな」

 

 

 

 

背中越しにヒラヒラと手を振られ、ここから出て行く。

 

…もう少しだけ。

 

……もう少しだけ、ちゃんと生きてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

side翼

 

 

 

 

 

 

ドサッと、奏が地面に倒れる。別れの挨拶をしてすぐだ。

 

言葉を交わし、少しだけ肌にも触れ、そして倒れた時にはもう比企谷に戻っていた。まるで泡沫の夢のようで、誰かに頬を引いて欲しくなる。

 

だけど背を叩かれた痛みと、心に染みる歌声がここが現実だと知らせてくれる。

 

 

「……こうしていても仕方ない、な。比企谷を保護しよう」

「あ、はい!……っ、たぁ…」

「無理すんなバカ。左腕食い千切られて暴走したばっかなんだぞ。私はこのバカ連れてくからアンタはそいつのこと頼む」

「ああ、了解した」

 

 

立花に肩を貸す雪音に、顎でさされた比企谷に目を移す。慌ただしい時間だったが、とても安らかに眠る比企谷に笑みが漏れる。

 

奏に出会い、比企谷を連れ戻せる。総合して、いい一日と言えるのかもしれない。目的を全て果たし、特大のおまけ付き。妹君の信にも応えられよう。

 

………あ。

 

 

「……そういえばウェル博士は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとぉ、イガリマァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

♪獄鎌・イガリマ

 

 

 

 

 

♪警告メロディー 死神を呼ぶ!

 

絶望の夢、Death13!

 

 

♪レクイエムより、鋭利なエレジー!

 

恐怖へようこそ!

 

 

 

 

「てめえは!」

「暁!?」

「切歌ちゃん!?」

 

 

周囲を見回す前に、凶刃が目前に迫り来る。比企谷との距離を無理矢理離されるように、歌声と大鎌が割り込んだ。

 

 

「八幡は渡さないデス!」

「どのツラ下げて言いやがる!お前らがそいつにやったこと、さっきの今で忘れたとでも…」

「わかってるデス!…わかってるデスけど!

 

……だけどこんなの!」

 

 

悲しげに顔を歪め、倒れ伏す比企谷を見る。

 

 

「…こんなの、誰も望んでないデスよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪……不条理な『未来』 叫んでみたけど、

 

ほんとは自分が許せないっ!

 

 

♪…すべて刈り取り、積み上げたなら、

 

明日(あした)へと変わるの…?

 

 

 

 

 

 

 

………猛々しく轟いた奏の歌声とは違う。残響にすら思わせる旋律。

 

 

…まるで悲鳴のような歌声が、鳴り渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪…いますぐに just saw now!

痛む間もなくっ!

 

切り刻んであげましょう!!

 




.



イガリマ流すタイミングなかったから歌わせられて嬉しいけどメンタルがなんとも。

…なーんでこう、同時刻の落差が激しくなるんでしょう。こっちは落ち着いたのにそっちで大混乱というか。安寧がないな?

あと奏さん出番そんなに多くなくてごめんね。でもやっぱり生きてる人たちで今を生き抜かなくちゃいけないので…。奏さんの出番と出会い、大事に書いてきます。




p.sバニーと箱を漁りにいきます、探さないでください。

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