やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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コッテリ系にするはずがあっさり系になった手触り。どうしても八幡の状態的に脂身が薄くなりがち。

あ、小説の話ね?


背負う言葉、燃える心

………この状況、どうしたらいいんだ。妹を名乗る少女に黒歴史暴露されながら抱きつかれた件について。売れないラノベのタイトルだろうか。タイトルだけで黒歴史が暴露されることを暴露されてる主人公の気持ちを思うだけでそっと本棚に戻しそうだ。

 

 

「………ずずっ」

「……(盛大に鼻水拭いてらっしゃる)」

 

 

がっちり背中をホールドされてるせいで逃げようにも逃げられない。というか突撃されたから避けたはずなのに、完全に見切られた。シンフォギア纏って戦い出してから反射神経も上がったはずなんだがな。俺がスロウリィだったのだろうか。

 

…しかし気まずい。女子に抱きつかれるとか初めてだし、なんかアホ毛がぴょこぴょこしてて絶妙に邪魔なんだけど。あとここ街中だからさ。人通りが多いとは言えないけど居ないわけじゃないから視線が、痛い。通報とかされないかしら。されないよね?僕悪い不審者じゃないよ!テロリストの一味だったわ。

 

 

「…なあ、そろそろ離れてくんない?」

「…や」

「やて…」

 

 

背骨でも折ろうとしてんじゃないかと思えるくらいギュッと抱き締められ、ここまで強情にされると抵抗することもアホらしくなってくる。話の通じないくらい小さい子を相手にしてる気分だ。

 

…目の前のちょうどいい位置にある頭を軽く撫でる。

 

 

(…なんか、手触り似てるな)

 

 

普段は意識していないが、ふと自分の髪を触った時と似たような感触。ペタッとした猫っ毛で、細くて柔らかい。顔はしっかり見ていなかったが可愛い系だった。なにより目が腐ってないのが良かったな。腐ってたら目と目が合う瞬間に妹だと確信してたかもしれない。

 

……こんなこと言ってる時点で、認めてるようなものかも知れないけど。

 

 

「なあ、お前…」

「…小町は小町だよ」

「えぇ…。なんか改めて記憶喪失っぽい実感湧いてきたわ」

 

 

病院でここはどこ、私は誰ってなってから家族が来た人ってこんな感じなのかね。声も顔も姿も格好も、匂いも趣向も過去も関係も知らない赤の他人が自分の為に涙を流す。

 

 

それはとても……()()()()()

 

 

「…小町、いい加減終わりだ。悪いけど急いでんだわ。割と真面目に」

「………お兄ちゃん。ほんとに戻って来れないの?せめてお母さんやお父さんに…」

「無理だ」

 

 

言葉を交わすたびにたくさんの情報を与えられる。俺の父親と母親が存命だってこと。妹との関係は悪くなかったらしいこと。二課の装者も知り合いだったらしいことから、きっと記憶を失う前の俺はこの辺りで生きていたであろうことも。

 

普段だったら信じられないはずだ。知らない女が突然抱きついてきたり兄呼びしたりしてきても。触れもせずに距離を取ろうとしたはずだ。涙を操ってこその女という偏見もちゃんと持ってるし、美人局の可能性だって忘れちゃいない。

 

…けれど驚愕も拒絶も自然と消えて。そのくせ女の子特有の匂いに嗅覚は鈍感で、頭を撫でる手にロマンスは沈黙し、触れ合う互いの胸にすら高鳴りはしない。そのくせただ流れる涙に罪悪感と自己嫌悪だけは潰れたくなるくらい心を押しつぶしてくる。

 

それを受け取っただけで、十分だった。二度と下ろせない重さを一つ、渡されたようだ。

 

 

「………悪い」

「……」

 

 

肩に手を置き軽く押す。背中に回されていた手は解け、一歩下がれば触れる箇所は無くなった。名残惜しむように立てられた爪も脇腹を過ぎる頃には滑り落ちる。

 

改めて向き合えば、うん、酷い顔だ。整ってるのに涙と鼻水でぐちゃぐちゃで。その残骸を俺の服に爪痕のように残してある。拭ってやりたいところだが、生憎ハンカチなんて上等なものをテロリストな俺は持ち歩いていなかった。

 

 

「……」

 

 

涙を拭う資格はない。近づく理由さえありはしない。心配する意味も、優しい嘘をつく暴挙も犯さない。ただ目の前の少女とは反対側に向けて足を進める。

 

 

「………ねえ。お兄ちゃん」

「…………」

 

 

霞む声に返事を返すことはもうない。それがどれだけ優しくても、どれだけ思いやりに満ちていようと、昔の俺がどれだけの寵愛を授けられようともだ。

 

…生きると決めた。俺の人生を生きると決めた。それは記憶を持っていた過去の自分じゃない。失くして欠けて、きっとあらゆる物が偽物な俺だとしても。恥の多い人生と蔑まれようと、人生を奪われた愚か者だと笑われようとも。

 

例え……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちゃんと、元気でいないとダメだよ。…あと全部終わったら、記憶戻ったらとかしたら、家に帰ってきて欲しい。それに他にも……他にも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

…例え掠れる涙声で喉を締められようと。届かなくなっても語り続く願いの連鎖を振り切って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー

 

ーーー

 

 

 

 

 

prrrrr!

 

 

 

 

 

『八幡、聞こえますか?』

「…ああ、聞こえる。聞こえ過ぎる。もはやマムの声しか聞こえないまである」

『………何かありましたか?』

「…別に。あったのはそっちでしょう?」

『………。ドクターの反応を感知しました。そこからそう遠くはないでしょう。座標を送ります、至急ドクターの回収を』

「了解」

 

 

…よかった。とりあえずドクターがいつの間にか野垂れ死んでたなんて展開はないようだ。残念ながら聖遺物への理解が薄い俺では、このレールの外れた世界救済計画を再始動する方法がない。

 

転んでタダで起きるほど綺麗な人ではないはずだ。汚く泥だらけの手だろうと何かを掴んできてくれるだろう嫌な確信がある。願望とも言う。少なくとも月の落下を防ぐまではしないと、死んでも死に切れない。

 

 

「…はっ、なに正義の味方気取ってんだか」

 

 

 

 

 

 

♪Builder Excalibur knight tron♪(輝く未来へ屍を背負う)

 

 

 

 

 

 

変わらない灰色のインナーに薄汚れた鞘のアームドギア。戦う力がこの手にある。そしてこの力を振るう先は、世界の救済後にある世界の破壊。キャロルの目的を果たす為にある。

 

……それはいいんだ。彼女の目的のため、俺を使い捨てようが使い潰そうが責め立てる気はない。元々俺が望んだ道に、言い訳を重ねるのは自分勝手な言い分だから。

 

…それでも。生きると決めてから、誤魔化しきれない疑問が湧き上がる。仕方ないと諦めるのではなく、こうしなければという責任感でも強迫観念でもない。

 

ただ見てきただけだ。生き足掻くあいつら装者を。誰かのために自分を盾にする大馬鹿野郎を。その大馬鹿野郎が守った奴のために涙を流す姿を。ただ呼び続ける姿を。

 

 

 

 

…俺は、進んでもいいのだろうか。

 

 

 

…世界を、滅ぼしていいのだろうか。

 

 

 

……壊してもいいのだろうか。アイツらのいるこの世界を。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

side響

 

 

 

 

 

「いやー!やっぱフラワーのお好み焼きは絶品だったね!」

「ええ、つい食べ過ぎでしまいましたわ」

「ヒナとビッキーも久しぶりだったんでしょ?最近慌ただしかったもんね」

 

 

 

…八幡くんと、そして奏さんと邂逅して。暴走もしたけれど退院までは早かった。痛むところもなければ食べられちゃった腕まで戻っている。それがどうしてなのかは分からないけど、こうやって帰り道にみんなとお好み焼きを食べられるくらいには元気だ。

 

だけど問題も確かにあって。伸ばしても伸ばしても、繋ぐこの手が八幡くんに届かない。調ちゃんにも切歌ちゃんにも、マリアさんにもだ。ただ誰かを貶めようとするんじゃなくて、あの子達にも信じて握った正義があると思った。

 

……戦う必要なんてないはずなのに。どうして苦しんで痛くて泣きたくなるくらいの戦場で武器を振り回しているんだろう。

 

 

「……ねえったら!」

「うぇ!?あ、ああうん!最近ちょーっと忙しくて…」

「ま、ビッキーも少しは元気出たんじゃない?その為に誘ったようなもんだしね」

「…え?」

 

 

安藤さんに板場さんに寺島さん。そして未来が私を心配そうに見つめていた。今日ずっと一緒にいたのにそんな事にも気づかなかった。だけどどうしてそんな目で見てくるんだろう?

 

 

「……はぁー。アンタってばハーレムアニメの主人公並みに鈍感よね」

「小日向さんにどうにか立花さんを元気づけられないかと相談されましたの」

「ビッキー愛されてるねえ」

「未来が…」

 

 

……私そんなに分かりやすかったかな?悩みも迷いも、いつだって照らし乾かしてくれる陽だまりがいる。それはとても恵まれていて、感謝の気持ちだって絶えない。

 

だからその陽だまりの翳りを拭い去りたくて。全国放送されたマリアさんに文化祭に来ていた調ちゃんと切歌ちゃんのことは未来も知っている。だけど八幡くんの存在だけは伏せられていた。それだけじゃなく月のことも。

 

開示できる情報にも限りがあると司令は言っていた。知らない方が良いこともあると。知らせては行けないことがあると。誰かが居なくなってしまうことは、人が陰り曇る理由には有り余るほどの理由になるから。

 

 

「…そっか。ありがとう、未来」

「ううん。これくらいしかできなくてごめんね?」

「そんなことないよ!すっごく嬉しい!」

 

 

こうして気遣ってくれる未来の為にも、はやく八幡くんを連れ戻さないと。小町ちゃんも未来も、八幡くんが消えてしまった傷は癒えていないはず。だから諦めない。何度でも、今度こそはと。この胸の歌がある限り。

 

決意を胸に前を向いた。

 

それと同時に三台の黒い車が通り過ぎる。それに自然と目が向いた。同じ車種、同じ速度に統率されて制限時速を軽く破る違和感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキッーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか!」

 

「…!響!?」

 

 

ちょうど死角となる曲がり角をその車が曲がった瞬間にブレーキ音、さらには爆発音まで連鎖していく。

 

人命救助にしてもシンフォギアは活躍できる。だけどこの時には確信に近い嫌な予感がしていた。

 

 

「……ふゅへへ。誰が来ようと、こいつを渡すわけには…」

 

 

嫌な予感程よく当たる。走って爆発音の発生源まで走らなければ、先程まで原型を留めていた車達は丸も無残に壊れ、それどころか周囲には灰が舞っていた。

 

ノイズ特有の死亡現象。そしてそのノイズを操る杖が、今のこの街には存在している。

 

 

 

「………ウェル、博士」

 

 

 

そこには消息不明となっていたウェル博士がソロモンの杖を右手に、左手に球体状の何かを大切そうに抱えていた。白衣は土だらけで髭も伸びっぱなし。昨日からずっと彷徨っていたような汚れた格好のまま、ウェル博士は死を振りまいていた、

 

 

「…ゔぁ、な、なぜお前がここに!?ひ、ひぇぃ!」

 

 

…そして此方を見つけると、躊躇いもせずにノイズをけしかけてきた。

 

誰かを殺す兵器を操る杖。もうこれ以上戦禍を広げるわけにはいかない。ここには友達もいて、そしてこの手には誰かを助ける力が備わっている。

 

この手でこの先も、誰かを救う歌を世界に。シンフォギアで、胸の歌で!きっと陽だまりを照らしてみせるから!

 

 

 

 

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

 

 

 

 

 

…拳でノイズの初めの一体を殴り飛ばす。いつも通りの、武器たるアームドギアを拳の形とした私の半身。

 

武器を持たないその意味を、繋ぐこの手のその意味を。誰かを助けて繋ぎ紡ぐためにあると言う誓いを胸に!腹の底から叫ぶんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この拳も!命も!

 

………シンフォギアだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳を一層強く握りしめる。拳が貫いたその先で、開くべき掌があるはずだから。

 

 

………その決意に応えてくれたのだろうか。胸からどんどんと力が溢れ、そして。

 

 

 

 

 

…身体が燃えるように、熱かった。

 

 

 

 

 

 








原作沿いに戻りそう…。いやでもGのできごとだいたい全部意味があり過ぎて削れないし足しづらいし。締めるとこ締めれば原作に全てを委ねても良いよね…。

良い感じに原作飛ばすスキルが欲しい。

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