やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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週一か二か。
それくらいの頻度でいけたら良いな!
あと原作にない設定は原作にない設定ですので注意。


やはり雪音クリスは歌を歌う。

side響

 

 

 

♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

♪Emustolronzen fine el baral zizzl♪

 

♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

♪Emustolronzen fine el zizzl♪

 

 

 

 

翼さんの口から紡がれる歌を、私は聞いたことがある。忘れない、忘れられない。二年前のライブの日、奏さんが歌い上げてくれていたものだった。

覚悟を見せると言われた。この間に焼き付けろと言われた。頭は翼さんを止めなければと慌てている筈なのに、身体は何一つとして動こうとしない。

 

 

見惚れていたんだ。

 

 

……私は何の為に拳を握るのか分からない。誰かのために、誰かのために。みんなの為に、みんなの為に。どこかのいつかのいずれかの、誰か。顔も知らない人達のためにこの拳を振るっている筈なのに。

 

 

 

 

 

 

『人殺し』

 

 

 

 

 

 

二年前のライブの後。沢山の人達が亡くなって、その悲しみの矛先はライブで生き残った人達に向かっていった。私もその一人。誰も彼もが私のせいだと、お前のせいだと、何故生き残ったのかと問い詰めるように石を、言葉を、痛みを投げつけてきた。

 

 

 

 

『人殺し』

 

 

 

 

痛かった。頑張ったのに、頑張って生きたのに。リハビリも頑張って、あの惨劇から生き残って日常に帰ってきたと思ったのに。その日常は求めていたものとはかけ離れたものになってしまっていた。

 

 

『人殺し』

 

 

今でも心が叫んでいた言葉を覚えている。母の胸に抱かれた時、生きていてくれただけで嬉しいと言ってもらえた時でさえ。ずっと思っていた。

 

 

 

「……助けて」

 

 

 

 

『人ご『生きるのを諦めるな!』

 

 

 

 

 

だけど、私はいつだってあの言葉に救われてきた。ずっとずっと、奏さんが亡くなった後にだって私は助けてもらってきたんだ。

特技もないし、人助けだってヒーローになんてなりたいわけじゃない。ただ笑って明日もご飯を食べたり笑ったりしたいだけ。

 

 

 

『………別に変わんなくていいだろ、そのままで』

 

 

 

 

だけど、こんな私で良いと言ってくれる人がいる。

だから私は私のまま、拳に正義を信じて握り締めたい。

 

…それこそを、私は覚悟と呼ぼう。

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

 

【一閃】

 

 

 

 

「っぁーーー。があぁあああ!?」

 

 

 

絶唱。命を燃やすその歌を解き放った翼の一太刀は、ネフシュタンの少女を寸分違わず斬って見せた。振るわれた一閃を影縫いで身動きがろくに取れない少女に回避する術はない。

 

 

「ぐっ…、ぁあ…」

 

 

痛い、身体中が痛い。だけど違和感を覚える。翼の絶唱で少女は自身の体が真っ二つに切り裂かれたと錯覚した。だがどういう事か。腹部の欠損、というよりも身体を食い破られた気配がない。だが異常な程鎧にダメージが加えられている。

 

 

「……なに、しやがった…」

「………この身は、防人(さきもり)

 

 

振り抜いた剣を支えにするように、だが二つの足で立ち続ける翼の双眼は、此方を見据え続けていた。

 

 

 

「……想いすらも、守らないといけないのよ」

「…っ!馬鹿に、しやがって…」

 

 

つまりは、そういうこと。()()()()()()()敵を討つ剣。人を傷つける武器を壊し、人に牙向く鎧を穿つ、殺さずの太刀。人が傷つく事を防ぐ、神の剣。

天羽々斬は圧縮されたエネルギーに指向性を持たせて放つ特性を持つ。それを鎧のみにつぎ込めば、その結果は語るべくもない。

 

 

(クソが!後ろで呆ける馬鹿の想いを汲んだとでも言うのかよ!?)

 

 

苛立ちだけが募る。そもこちとらネフシュタンの鎧は無限の再生。例え絶唱のダメージであろうと回復してのけることが翼にだって分かっているはずだ。今もこうしてバキバキと音を鳴らしながら再生している、はずなのに…。

 

 

 

「あっ、がはっ!何で、こんなにも再生が遅い…!」

「……ネフシュタンの鎧は、シンフォギア同様使用者との細胞レベルでの同調がある。ネフシュタンの鎧の組織は、元より使用者の身体を支配してしまうリスクを背負っての運用が危険視されていたのを、知らぬわけではあるまい?」

「て、めぇ!」

「崩壊レベルのネフシュタンに、健常なお前の細胞という齟齬。

…………鎧に、食われるぞ?」

 

 

ビキビキと、傷口のない肌をネフシュタンが再生しようと食いついてくる。体のパーツは足りているのに余分に鎧が増やそうとする不快感。それは間違いなく鎧の侵食で、全身にその支配が行き渡る可能性だってあるのだ。

 

 

 

「………。…クソッタレ!ぶっ飛べ、アーマーパージだ!」

「っ!?翼さん!」

 

 

侵食しようとするネフシュタンの鎧をアーマーパージ、周囲に弾きとばす事でその侵食から逃れた。あわよくば翼と響を倒すことができればと思ったが、まあそう上手くもいくわけがない。響が盾となり翼に当たる軌道の鎧を弾き飛ばしてみせた。

 

 

(…ちっ。鎧の侵食は防げたが、まだあの鈍臭いのが残ってる。生身じゃさすがにシンフォギアからは逃げられねぇ。……やるしか、ないのかよ!)

 

 

唇を噛み締め、アーマーパージで全裸になった少女は土煙の先の翼と響を無言で睨みつけた。

 

 

「翼さん、大丈…」

「……心配は、無用よ」

「……つばさ、さ、血が…」

 

 

翼は絶唱後、一歩も動かずに立っていた。…いや違う。動けないのだ。目からは血涙を流し、口からは吐血。身体のアーマーはヒビ割れが走り、身体の震えは立っていることすら限界である事を如実に示している。

 

 

「……戦場で仲間が傷ついたとして、血が流れるたびに駆け寄るつもり?私は、まだ、倒れていないわ」

「……だけど、その傷じゃ…」

「覚悟を胸に、歌を歌ったわ。……あなたの務めを、果たしなさい」

「……はい!」

 

 

翼に向けていた視線を、目の前の少女に向け直す。人助けの力で、人間同士が戦うなんて間違ってる。誰かを傷つけるために、この拳を握るなんて間違ってる。だけど翼が歌った覚悟を、今もなお倒れることなく戦士であり続ける翼の為にも、この場を納めなくては。翼がその足で立っている間に。

 

 

「……ゴチャゴチャと…」

「え?」

「青クセェ演劇で、この雪音クリスを馬鹿にしてんじゃねえぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

Killter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)

 

 

 

 

 

 

 

 

魔弓・イチイバル♪

 

 

「………歌!?」

 

 

少女、雪音クリスから紡がれたのは紛うことなく聖詠。翼が、響が、シンフォギアを起動させる為に必要である特殊な波形パターン。それを目の前の少女はその喉で震わせた。

 

 

「………歌わせたな」

 

 

まず目に映るのは鮮やかな赤。そして恐ろしくなるようなガトリングが二丁。スカートのような装甲は、目が痛くなるような輝きを放っていた。

 

 

「…あたしに歌を歌わせたな!」

 

 

だがそれよりも、響の目はクリスの瞳から目が離せなかった。憎々しげに目元を歪め、ネフシュタンの鎧により隠れていた整った顔立ちもそこに鬱屈とした表情が滲み出ている。

 

 

「教えてやる!あたしは歌が大っ嫌いだ!」

「…歌が、嫌い?」

 

 

クリスの握るガトリングに掛けた指が震えてくる。

歌は嫌いだ。昔の事を、死んだ両親を思い出す。歌は嫌いだ。特に壊すことしかできない、何も救えない自分の歌が。歌は嫌いだ。歌で平和を、なんて馬鹿な事を考えさせた歌なんて…。

 

 

「………ぺっ」

「……クリスちゃん」

 

 

口に溜まった血を地面に吐き出す。それを見て、拳を解いて此方に心配するような顔を向けるこいつに腹が立つ。こいつらに付けられた傷ごと抉って丸ごと焼き払いたくなるが、今の自分にそこまでの余力はないことは自分がよく分かっている。ネフシュタンの侵食を早い段階で食い止めたとはいえ、完全聖遺物の侵食はクリスの体内を少なからず消耗させていた。

 

 

(内側から発破されたみたいな重量感…。シンフォギアを纏ってこれだ。生身で動けるとは思えねぇ。これ以上戦って撤退する体力すら無くしてお縄になりましたーなんて、フィーネに晒す顔がなくなる…か)

 

 

少なくとも、本来の目的である響を誘拐してくるなんて今のクリスには不可能だ。恐るべきは翼の絶唱か。それとも絶唱を放って未だなお倒れずさっきを向けてくる気概……いや、『覚悟』か。

 

 

「………ケッ」

 

 

……痛み分けだ。

影縫いの際に後ろに落としていたノイズを操る聖遺物、ソロモンの杖を拾い上げる。どうやらソロモンの杖は無事らしい。直撃していなかったとはいえ、破壊されていないというところは此方も流石完全聖遺物といったところか。

 

 

パシュンパシュン!

 

 

「っ!?またノイズが!」

「お荷物背負ってな!」

 

 

ノイズをばら撒きこの場を離脱する。ノイズを無視して此方を追うことは出来るだろうが、あいつがその選択肢を選ぶことはないだろうと走り去る。だが、体が重い。覚悟していたことではあるが、間違いなくアジトである屋敷までこのまま走りきることなどできないだろう。どこかで休まないと、人目のど真ん中で倒れる事になる。そんな事になれば二課の連中は容易に嗅ぎつけて捕縛されてしまうだろう。

 

 

「……はぁ、はぁ。ここで、いいか…」

 

 

息絶え絶えで座り込んだのは戦闘を行った公園からそこそこ離れた路地裏。人の気配もないので運が良ければ誰にも見つからずに一眠りくらいはできるだろう。

 

 

「……最悪の最悪だが、これが奪われなかったのは幸いか。…いや、なんにせよ大失敗だな」

 

 

手のひらに歪な白い球体状のネフシュタンを地面に置いて溜息をつく。ノイズをばら撒くと同時に回収は行えたが、パキパキと小さな音を立てながら未だ形を変えていくこの聖遺物を纏ってアジトに戻る気にはどうしてもなれなかった。

 

 

「……………ああ、クソ」

 

 

もう、言葉も浮かんでこない。疲れと後悔、悔しさに口惜しさ。どれもこれもが頭にこびりついて離れない。頭を振って空を仰げば、何も無い星空が見下ろしてくるだけ。だけど、最近は空を見上げる余裕もなかったのをこうしていると思い出す。

 

 

「…………。流れ星…」

 

 

ジーッと夜空を見上げていると、空に一筋の光が流れる。こんなに空を眺め続けた事など初めてだし、もしかしたら存在を知っているだけで流れ星を見たのは初めてだったかも知れない。良いものを見た、という感想だけでは終わらない。一つ、二つと流れ星は増えていく。生まれて初めての光景に、クリスは思わず見惚れていた。

 

 

「………♪〜」

 

 

流れる星は、白く美しい雪のよう。天に降り注ぐ星々に合わせるように、自然と口から歌が漏れ出た。眉をしかめることも、昔を思い出すこともない。

嫌いで嫌いで…大好きな歌が。

 

 

「………zzz」

 

 

そして、いつの間にか、眠っていた。死ぬほど疲れた体を休めるように、眠りは深く深く落ちていく。クリスの眠りを邪魔するものは誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え、酔っ払い?」

 

 

ただ一人、目が腐った男以外は。

 

 

 




感想で八幡の出番が、という声があったので出したよ(量は知ら管)
最近思ったけど夏シンフォギア5期くるし俺ガイルも三期決まったのになんでこんな微妙なタイミングで投稿し始めたんだろうか。


烈槍・ガングニール好き。OKですガングニール!



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