やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

16 / 122
やっぱ感想も評価も貰えると嬉しいですね。感謝です。

ほぼ原作沿いでも書かないわけにはいかない話です。


やはり雪音クリスは苦悩する。

sideクリス

 

 

 

「……来やがったか」

 

 

ネフシュタンの鎧を纏い望遠鏡を覗き込みながら呟く。一台の派手なピンクの車を四台の黒塗りの車が囲みながら誰もいない道を駆け抜けていく姿がそこには映っていた。完全に封鎖された道路にその編成は逆にどうなんだと思わなくもないが、元々フィーネから作戦の詳細は横流れで聞き及んでいる。多少派手にやらかしても問題ないことは承知してもらっている。

 

 

「さーて、徒花咲かせの時間だ!」

 

 

手に握るノイズを操る聖遺物であるソロモンの杖を起動させる。あの中心の車の中には目的のデュランダルに立花響。更にはフィーネ本人が乗っていることも知っている。奏者はシンフォギアがあれば事故程度で死ぬはずが無いし、フィーネがくたばるところなんて想像もできない。だからとりあえず容赦なく攻撃を行おう。ルートは知っているのでノイズをあらかじめ配置してある。地下道から地上へと噴き出るノイズは五台程度の車を直ぐにスクラップにできるだろう。…普通であれば。

 

 

「まあ、ならねえよな」

 

 

しかし車を運転しているのは櫻井了子を扮したフィーネ。なんの関係があるか知らないが卓越した運転技術でゴミを蹴り飛ばし空飛ぶ車を紙一重しながら走行を続けている。気付けば黒塗り車は一台もいなくなっていた。だがこれでいい。二課が保有する奏者は立花響と風鳴翼のみ。そして一人は死に体でおねんね中。邪魔する者がいないなら毛の生えたトーシロに負ける道理はない。

 

立っていた建物から飛び立ち、薬品工場に滑り込む車を目指す。爆発させてデュランダルがぶっ壊れました、では多分ムチや電流では済まないだろうから。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

 

 

「はっ!」

 

 

蹴り飛ばす音、殴り飛ばす音が響き渡る。薬品工場に入ったが、そこの配管で横転してしまった車から抜け出した響と櫻井了子は襲いくるノイズを撃退していた。もちろん戦っているのは響だけであるが。

 

 

「よぉ!今日こそモノにしてやる!」

「クリスちゃん!」

「気安く呼ぶなデコッパチ!」

 

 

この薬品工場ではそれらが爆発するような大規模な攻撃は使えない。ノイズだって下手に使って制御を誤れば爆発しかねない。だからここはネフシュタンを使うか少数のノイズにひたすら襲わせるくらいしかない。だがここでノイズに延々と襲わせるという手段は取れない。何故なら上空には風鳴源十郎がいるのだ。ただの人間と侮りたいところだが、あのフィーネをしてなるべく戦闘を避けるよう言われる相手である。聞けば風鳴翼の渾身の一撃を触れずに退けたなどとボケが始まったかのような戯言をあのフィーネがいい始めるのだ。フィーネが虚言などと思うが、もしかしたらいい関係の相手かもしれないので万が一にも介入されないようネフシュタンで速攻を決めるのが手っ取り早いだろう。

 

 

「さっさとデュランダルを渡しな!それとも諸共吹き飛ぶかい!?」

「クリスちゃん!なんでデュランダルを、私を狙うの!?ちゃんと話し合おうよ!私たち、同じ人間なんだよ!?」

「何だかんだと聞かれて、答えてもらえるなどと思ってんじゃねえ!」

 

 

ムチを振るいただただ追い詰める。周りにはノイズの壁を作ることで一定範囲以上の行動を封じ、尚且つ櫻井了子というデュランダルを守る術と間接的な人質を使うことで逃亡を封じる。しかしそこまで自分で自分のお膳立てをしたとはいえ、ムチという広範囲に縦横無尽に駆け回り完全聖遺物というスペックをもつネフシュタンにはこのフィールドは狭すぎた。横薙ぎの払いはできず、自前のシンフォギアの影響や響がアームドギアを形成できない事実を踏まえての遠距離安置の攻撃がメインなので決定打が打てない状態だ。

 

 

(…こいつ、前より迷いがない。人と戦う心構え……いや、覚悟か?)

「ぅぉおおおりゃぁあああ!!」

 

 

バキィン!とパワージャッキを引き絞った響の一撃が鎧のムチを砕いた。パワーの乗せ方、人と向き合う姿を見せる響にギリッと歯を噛みしめる。成長、覚醒、何か前向きな進化を見せる目の前の存在に、拒絶反応のような黒い感情が湧き上がってくる。そして悲しい事に、それを押し留める術を、クリスは既に知っていた。

 

 

(……こいつ相手ならネフシュタンよりも)

 

 

「…………チッ。♪Killter Ichaiv…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コォーーーン

 

 

 

既に割れたネタだ。今までのように昔の傷ごと抉って目的を達成しようとするクリスと拳を構える響の耳に甲高い音が飛び込んできた。第三者の襲撃ではない。この場に唯一存在する両者以外の人間、櫻井了子の仕業でもなかった。

 

 

 

コォーーーン

 

 

 

この音の下手人は人ではなかった。その正体はこの戦闘を作り出している元凶であり、目的物でもある運んでいた完全聖遺物デュランダルからの音だったのだ。

 

 

「……覚醒?まさか…」

「なに、これ?」

「……へっ、そいつが…」

 

 

それに対する反応は三者三様。事態の正体にいち早く気付いた者は原因の究明をするために頭を回し、事態に何一つ付いてこれていない者はただ立ち往生するのみ。事態はともかく目的第一の者はデュランダルへと飛びついた。完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要なのでなぜこのタイミングで起動したのかは分からないが、確保するチャンスであることは間違いない。先端が欠け、僅かしか輝きを浴びていない姿であるこの聖遺物はまだ完全に起動してはいないが、ここまでくればもう一押しフォニックゲインを注ぎ込んでやれば起動まで押し切れるだろう。

 

 

「させない!」

「っ!邪魔立てを!」

 

 

飛びつくクリスに、さらに飛びつくように押しのける響。空中でバランスを崩したクリスよりも先に響はデュランダルの柄を掴んだ。

 

 

 

 

ゴォーーーン!!

 

 

 

それと同時、先程よりも力強い覚醒の鼓動が鳴り渡る。淡い輝きは激しい金色に冴え渡り、欠けていた剣先は撫でるような弧を描いて天を指した。完全聖遺物デュランダルが、起動した証明である。

 

 

「………ぁ、アア…」

 

 

だが異変が起きたのはデュランダルだけではない。それを手にした響の身体が何かに飲まれるように漆黒に染まり、その瞳からは理性を削ぎ落としたような獣の目が浮かんだ。デュランダルが輝きを増すほどに、響が闇に溺れるように黒々と染まっていく。だがそんな異常事態でも溢れ出るエネルギーを、響はたしかにその手に収めていた。

 

 

「……そんな力を私に見せつけんじゃねぇー!」

 

 

そしてその力の全容を一番手前で見せつけられていたのは襲撃者である雪音クリスだった。もう一人の傍観者である櫻井了子…フィーネは熱に浮かされた様な目で響を見ている。目の前で自分の命令を実行している自分の姿は、フィーネの視界では瓦礫の石ころと同等であると響に送る視線から察してしまったのだ。

 

 

(くそっ、クソッ!なんで、なんであいつなんだ!平和ボケしてヘラヘラ笑ってる奴が!あたしの持ってないもん全部持ってる奴が!最後の居場所も!夢すらも奪おうってのかよ!)

 

 

伊達に何年もフィーネと一緒にいるわけじゃない。もうフィーネの中では起動したデュランダルの確保よりもあいつの優先順位が上になっている。だってそもそもだ。シンフォギアに、完全聖遺物。それらを使ってまで身柄の確保なんてことをさせるくらいフィーネはあいつにご執心だった。だからきっとあいつがフィーネの手元に渡ったら…。

 

 

(あたしはまた、一人ぼっちに……っ!?)

 

 

クリスはヤケクソ気味にソロモンの杖をぶっ放したが、それが引き金になったように黒い響は此方を標的と定めた。完全聖遺物は起動すれば適合者でなくても扱う事ができる。だが使う事と使い熟すことは別問題だ。ネフシュタンの鎧が振り回すだけでなくエネルギーを砲弾としてぶつけられるように、ソロモンの杖からノイズを出すだけでなく細やかな命令を下せるように。完全聖遺物とは扱いが難しくある。ただの素人が一日二日で使いこなせないはずの代物だった。

 

 

「ゥォオオオオ!!!」

 

 

だが叫びながらデュランダルを振り抜く響はデュランダルの力を扱っていた。光の柱が巨大なエネルギーとなって振り下ろされる。デュランダルは無限のエネルギーを発生せしめる。それは元の刀身からは考えられないほどの質量と破壊力を持ってクリスへ振り抜かれた。

 

 

(…あれは、まともに喰らえない!)

 

 

だが振り抜くといってもその巨大な力をブンブン触れるわけもなく、大振りで直線的。クリスにとって避けるのは難しい事ではなかった。しかしそのエネルギーは薬品工場を起爆させるには十分過ぎるもので、誘爆を起こしながら周囲を破壊していく。

 

 

(…ま、まだだ!まだデュランダルの確保なら…!?)

 

 

しかしただの爆発ならネフシュタンで耐えられる。それにあの威力の攻撃を放つのに素体である響の損耗が少ないとは思えない。だからネフシュタンの力に任せれば行けると踏んで、響の元へ駆け出そうとした。そんなクリスの視界に映るのは、『シッシッ』と手を払い此方に視線を寄越すフィーネの姿だった。

 

 

『撤退なさい』

 

 

伝わるのは、それだけ。チャンスはあるのに!まだ戦えるのに!そんな視線を向けようが、もうフィーネは此方を見てすらいない。ただデュランダルを起動と使用してみせ、力尽きたのか倒れ臥す響を愛おしそうに眺めるだけだった。

 

 

「………っ!くそっ!」

 

 

文句があろうと、命令されたら撤退するしかない。歯が削れるかと思えるほど噛みしめるが、頭のモヤモヤは増していくばかりだ。この感情の正体は分かる。…悔しさなんて高尚なもんじゃない、ただの嫉妬。

 

完全聖遺物であるソロモンの杖を起動させたのはクリスだが、杖の起動には半年かかったのに対しあいつは一瞬で起動してみせた。雑用の様に使われるクリスに対し、あいつは聖遺物を使ってでも手に入れたくなるほどフィーネの関心を引いている。ただ独りで戦場に立つクリスに対し、あいつは風鳴翼という戦友だっている。守ってくれる大人がいる、命を救っている、誰かに頼られている。

 

……忌々しい、苦々しい、羨ましい!

 

 

 

「………(にげ)ぇ。(つれ)ぇよ」

 

 

…人生が、世界が、締め付ける様に、(にが)い。




この話書かないでクリスちゃん視点の『デュランダル奪還に失敗し…』で始まるわけにはいかなかったのでほぼアニメ通りで心象だけ書いた感じです。勘弁。


PRACTICE MODE好き。
不器用でごめんなさいがもう究極にエモい!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。