やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。 作:亡き不死鳥
てかやっぱお気に入り増えるのはランキング入りが一番なんですね…。評価が増えた時はいつも拝み倒してます。赤は無理でもオレンジ目指して書き続けたい。
飛ばしても大丈夫な話ではある、かな?まあ話半分にどうぞ
コツ、コツ、と二課本部の廊下に生まれる靴の音が嫌に大きく聞こえる。この場所に思い入れがあるわけじゃない。この場所に置き忘れたものがあるわけじゃない。だけどここに来るのが最後という事実が、俺の足を遅く、そして重くさせていた。
『貴方の言う通りこの仕事はそれ自体が機密であり、小さくないものを抱え込むことになります。…そんな彼女を支えられる存在は、とても大きいと思いますよ?』
…思い出すのは初めてこの場所に来て、そして緒川さんに言われた言葉。きっとあの時、俺は間違えたのだ。中途半端に手を出すのではなく、例え巻き込むことになっても小日向に話を通すべきだった。
…立花を『支えられる』存在を、そこに据えるべきだったんだ。支えられないくせに一丁前に手を出そうとする半端者をのさばらせる意味がなかった。だからそこを小日向に差し替えた事に後悔はない。
………だったら、何がこんなにも足を重くしているのか。
「………。もう…立花の歌は聞けないのか」
…そう、こんな事をやらかしておいて、いざ最後に思うことはこんなくだらないこと。どこまでも卑しく浅ましい自分本位の想いだけが、妄執に囚われたように胸の奥底から湧き出ていた。
僅かなこと、些細なことかもしれない。でも立花と出会って、俺にとっては何より衝撃的な出来事だった。
…『歌』が聞こえた。
…聞こえないはずの、『歌』が聞こえた。
…一つしか知らない、『歌』が聞こえた。
ノイズと戦っている衝撃的な光景。現れる忍者。リディアンの地下の巨大施設。頭を占めるような出来事はその後幾度も起こっていたはずなのに、俺の耳には何一つ欠けずに残り続けていた立花の歌が、今だって音として残っている。
…知らなかったんだ。声と歌が違うものだったなんて。煩わしさしか感じなかった人の声をもっともっと聞きたくなるなんて、今までの人生でただの一度だってなかったんだ。
だからこれは後悔ではなく、二度と聞けない歌への嘆きなのかもしれない。だとしたら…
「………昨日倒れて歌を聴けなかったのは一生の不覚になるかもしれない…」
聖詠は聞こえた。BGMも聞こえたんだが、肝心の歌が始まる前に胸が苦しくなって倒れてしまった。しかも新曲っぽかったのに!やっぱこれ後悔かもしれない…。
「頼めば歌ってくれるんじゃない?あの子なら」
ビクッと体を跳ねさせながら振り向いてしまう。独り言に入り込むのほんとやめて、心臓が止まるし目も腐る。
「………櫻井女史」
「ハロ〜♪なーによ、元気ないわねぇ」
「……普通ですよ」
振り返った先にはいつものように何が面白いのかニコニコと笑う櫻井女史が立っていた。足音が大きく聞こえると思っていたのに自分の音以外は聞こえていなかったらしい。視野が狭まっているという教唆だろうか。
「昨日倒れたと思ったら急に辞めたいなんて言い出したから、みんな心配してたんだからね。悩み事があるなら、お姉さん聞いちゃうわよ?」
「……いえ、いいですよ。もう無関係なんで」
「可愛くないわねぇ。私じゃ無理かもだけど、響ちゃんも未来ちゃんも相談すればキチンと答えてくれるでしょう?」
「…その資格も、さっききっちり捨ててきましたよ」
「……ほんとうに可愛くないわね」
「よく言われます」
溜息をつく櫻井女史から目を背けるように前に歩き出す。まだ重くなりそうな足もこの場から逃げ出すためなら軽くなってくれるようだ。出口であるエレベーターだって遠くないし、逃げ帰る最後の場所というのも俺らしいだろう。
「……で、なんで櫻井女史も乗ってるんです?」
「私も外に用事があるのよ。ついでに家まで送って行ってあげるわ」
「え、遠慮しときます」
「いいから。それに、歌が聞こえない耳のことも話しておきたいしね」
「……それも、もう無関係じゃ…」
「最後、なんでしょ?大人しく聞いておきなさい」
「………うっす」
身体にかかるGにも既に慣れ、櫻井女史が話を振ってこないならこちらから話すこともない。エレベーターという狭い密室が沈黙に包まれながら上階へ上っていく。それすらも、最後なのだ。
「ほら、これよ」
「真っピンク…」
エレベーターを降りて向かったのは教員用の駐車場スペース。それも生徒達が立ち寄るような場所にはなく、人目の少ないスペースに存在していた。事実俺も今日まで知らなかった場所だ。
………ただピンクだ。目立たない場所にめちゃくちゃ目立つ車があった。世の中にはオープンカーにスポーツカーなど目を惹く車も多いが、単純に目に沁みるようなピンクはとにかく目立つ。
……俺今からこれに乗るのか。男だし見られそうだし乗りたくねぇ…。
「ほーら!早く乗りなさい!」
「…うす」
☆☆☆
in何処か
「……あの」
「んー?なぁに?」
「俺の家こっちじゃないんですけど…」
「知ってるわよ。ドライブよ、ドライブ。私の車に乗って私のドラテクを見ないで降りるなんてできるわけないでしょー」
「か、帰りてぇ…」
真っ直ぐ家に送ってもらえるかと思いきや、櫻井女史の車はあっちこっちと高速や峠道など様々な場所を車で走り続けていた。しかも早いし乱暴と言いたくなるような車回しを度々見せるので軽くグロッキーになってきた。これ絶対歩いて帰った方が早いまである。出発してすぐコンビニで飲み物を買い始めた櫻井女史を見た時に察するべきだった…。
そんな事を思っていたら車はようやくその回り続ける足を止めた。ようやく家に着いたのかと思い外を見たが、大きな橋の上であるという事以外なんの情報も得られなかった。
「………で、ここどこすか?」
「さあ?適当に飛ばしてきちゃったから、もしかしたら千葉県ですらないかも…」
「マジかよ…」
車を降りて外に出る櫻井女史の手招きに従い俺も車を降りる。外は既に夜の帳を下ろし終え、橋の向こうでは街灯が眩しいくらいに輝いている。その光を浴びながら目の腐った男と天才美人が橋の上に二人きり。映画のワンシーンを気取るには俺の方が役者不足なのが申し訳ないくらいだ。
「………それで、なんでこんなとこまで?」
「最後最後って格好つけちゃう少年への今までのご褒美、かしらね」
「…と、いうと?」
「君の耳について、知りたかったんでしょう?」
「……っ」
食いつくように櫻井女史の方へ顔を向け、ニヤリと笑っている彼女が目に入った瞬間目を背ける。だが一度見てしまった以上その抵抗はなんの意味も持たない、子供の所作だった。
「んふふ〜♪まあ喜ぶのも無理ないわよねぇ。生まれつきの悩みだもの」
「……やっぱ聖遺物関係だったんですかね?」
「話を逸らせないくらいには興味津々かしら。…ま、その通りだけどね」
やっぱり、あそこまでパーツが揃っているのにこれで聖遺物じゃなくただの病気でしたー!なんて言われたら今までの医者連中全員にこのヤブ医者と吐き捨てるところだった。原因不明の病の怖さを分かってくれ。
「そ、それなら治療出来たりとか…」
「うん、それ無理」
「…マジかよ」
「残念ながらね」
ここまで来たらと食い気味に行ってみたが、その前にはたき落とされた。辛い。希望を与えられそれを奪われると人間は一番美しい顔をするらしいので、今の俺はさぞ美しい顔をしている事だろう。自分の目の腐敗が進んでいくのが自分で分かるもの。…ハハッ。
「……哲学兵装」
「へ?」
「シンフォギアのようなウタノチカラではなく、コトバノチカラによってその意味を歪められ、あり方すら歪められた聖遺物や武装を私達は哲学兵装と呼んでいるの」
「哲学…」
気分が垂直落下の一途を辿り始めた俺に、まだ話は終わっていないとばかりに櫻井女史が続けた。
「あなたに宿るソレもその一つ。かつて一つだったはずの聖遺物が二つに別れ、そのまま歴史から姿を消したことだけが語り継がれたの。だけどそれがいつのまにか人々によって捻じ曲げられ、二つが重なり合うことで再び姿を表すようになったと、ね」
「……それと歌が聞こえないことになんの関係が?」
そう、俺にとっては哲学兵装やら捻じ曲がっただのはどうでもいいことだ。なんらかの原因を取り除けば希望が見えてくるかもしれないという、ほんの僅かな希望を欲している。
「…その聖遺物の厄介なところが『歴史から姿を消した』ことで、人間の輪廻に紛れ込み、一つと一つが一人ずつの人間にその存在を刻み込むことにあるの。つまり地球上に必ずその二つは人間として存在しているの」
「……その一人が、俺だと?」
「その通りだけど、あまり怖い顔しなくていいのよ?さっきも言ったけど輪廻に紛れ込んだのであって人間のフリができるわけじゃないの。あなたが人間じゃないとか、人間じゃなくなるとかそういう事はないわ」
「…そうですか」
「重要なのは聖遺物という存在だから、起動には歌を必要とするという事。そのためにその起動するスイッチを聞き逃さないための機能なのかも知れないわね」
「………」
…俺の耳が聞こえないのはその哲学なんちゃらの片割れであるから。つまり俺の耳に聞こえる歌は起動に必要な歌であるという事。ということは、だ。もう答えは出ていると言ってもいいのではないだろうか。
「……つまり。立花がもう一つの聖遺物の片割れってことですか…」
「違うわよ」
「え、違うの?」
はっず!え、めちゃ恥ずかしい!したり顔で分かった気になって言っちゃった自分が恥ずかしいんですけど!
「それなら治療出来ないなんて言わないわ。その歌が聞こえない耳が聖遺物によるものなら、完全に起動させてしまえば自ずと聞こえるようになるはずだもの」
「……な、ならなんで立花の歌だけ聞こえるんですかねぇ?」
「さあ?」
「さあって…」
「実際分からないのよ。データがある以上、この聖遺物は何度か起動しているの。聖遺物を魂に持つ人間の歌でもう一つが呼応し起動するのは取り寄せたデータで確認済み」
「………」
「だけど貴方達のは起動しなかった。響ちゃんにはデュランダルを一人で起動させられるフォニックゲインもあるから、二人がその聖遺物を魂に宿しているなら起動しないなんて考えられない」
「…でも実際には起動してない」
倒れたあの時、胸の奥から熱が湧き上がった記憶がある。何かが溢れ出そうな感覚があった。だけど思い返せばそれは溢れでなかった。必要な出力が足りていないような、不十分な暴走。
「つまりは何かしらの関係があっても、響ちゃんはその魂に聖遺物を宿してはいないの。縁者か祖先に聖遺物を宿した近親がいるのかも、程度の推察しか出来ないわ」
「………そう、ですか」
「………落ち込んじゃったかしら」
「……まあ」
落胆、それが正しいのだろうか。世界のどこかには俺の耳を治す歌を歌える人間がいるのかもしれないが、数十億分の一の人間が俺の為に歌を歌ってくれるなんて現実味が皆無だ。つまり俺にあるとされる聖遺物が起動することなど、ありえないことなのだろう。
「……っ」
歌を知らなければ、こんな感情にも至らなかったのかもしれない。歌を聴かなければ、聞こえない事実を嘆くこともなかったのかもしれない。だけど、それでも歌を聴きたいという想いが溢れ出すのは、何故なのだろう。
「………これ、君にあげるわ」
「……これ、は、シンフォギアのペンダント?」
落ち込んでいる俺の目の前に、黒い首飾りが写り込んだ。見覚えのあるそれは、いつも立花や風鳴先輩が付けているもの。それを持っている櫻井女史が、随分と優しい顔をしている。
「似たような、ちょっと違うものね。聖遺物の入っていない、集音機能付きのシンフォギアペンダントよ。ちょっと改造して使用者の発するフォニックゲイン減衰効果もあるわ」
「減衰?というか装者でもない俺にこんなもの…」
「なんの因果があるにせよ、響ちゃんの歌で八幡ちゃんの聖遺物が中途半端に起動してしまうのは事実。歌を聴くたび倒れてしまうと思ってもいいわね」
「……それは…困ります?ね?」
「……聞く機会がもうないと思ってるのかもしれないけど。もしノイズが近くに現れて響ちゃんが来た時、君が近くにいて倒れるなんてことがあったら大変でしょ?それがあれば響ちゃんの歌を聞いても問題なく動けるわ」
「な、なるほど」
「だから受け取っておきなさい。今回私だけ何も出来なかったから、お別れの餞別よ」
「……ありがとう、ございます」
…リディアンの敷地外に出ればもう二課の人と関わる事も、迷惑をかける事もないと思っていたのに。わざわざこんなものまで用意してくれていたのか。
……本当にあそこの大人たちには頭が上がらない。
「それを付けていれば中途半端な聖遺物の起動なんて押さえつけてくれるわ。響ちゃんのフォニックゲインでも耐えられる程度には強力よ!響ちゃんが5人とか10人とかで歌ったらどうなるか分からないけどね!」
「はは、笑えねえ…」
あのコミュ力お化けが5人も10人もいたら死んでしまう。喜ぶのは小日向くらいじゃないだろうか。
…だけどまあ、ここまで気を遣われてしまうと自分のことしか考えていない自分に嫌気がさしてくる。だからこれ以上落ち込むのは辞めよう。いつも通り、歌の聞こえない生活に戻るだけだ。変わるものなんて何もない。
そんな想いで顔を上げた瞬間、狙いすましたような強風が顔面を叩いた。ヒュルリラヒュルリラと空中暴走族のような風音は、何故かどうして心地良く聞こえる。
「……今日はいい風ね」
「そうっすね」
「……ねえ。世界で初めての歌って、何か知っている?」
「世界で、初めての歌?」
「そう、始まりの音楽。始まりの歌」
流れ続ける風が櫻井女史の髪を撫で上げ、橋の向こうへ通り過ぎていく。憂いではなく、儚さすら浮かべる櫻井女史は小さく微笑みながら、その答えを紡いだ。
「始まりの
視線は空へ、高く昇る月を見上げている。それにつられるように見上げれば、月の周りには星が写り、下には海がさざめいている。風が鳴り、波が奏で、光が作り出す。まるで、一つの音楽のように、世界が音を作り上げていた。
「……歌が聞こえないなら、風の音を聞いてみなさい。何かに迷ったり、何かで立ち止まったら、その歌はよく聞こえるわ」
「……」
「もしかしたら、星も寂しがってるのかもね♪」
「…最後のは意味わかんないっす」
「あら、可愛くない子ね。…そろそろ帰りましょうか」
「…ええ、もう暗いですからね」
車に乗り込むと、今までの運転が嘘のように丁寧に出発した。だがもし急に発進したとしても、気にならなかったかもしれない。
始まりの歌、始まりの音楽。今日俺は二つ目の歌を聞いたのかもしれない。同じ場所、同じ時間なら、同じ音が聞こえるのだろう。だけど今日の『歌』も、きっと忘れられない音になると、確信が持てた。
「さよなら、八幡ちゃん」
「ええ、さよなら」
そして、お世話になった二課の人達も。デリートした人間関係は数あれど、忘れられない人達はあまりに少ない。だから今日という日を覚えておこう。
失くして、貰って、押し付けた苦しい一日。もう直ぐ終わる、今日という日を。
俺はきっと忘れない。
聖遺物の説明はまた今度(いつになるか分からない)
その時には忘れられてるのでもう一回説明挟みます(1話に挟むの疲れた)
GUN BULLET XXX好き。変えられない昨日、変えたい昨日が特に多いクリスの前を向く歌はほんとキュンとくる。