やはり俺の戦姫絶唱シンフォギアはまちがっている。   作:亡き不死鳥

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一週間以上更新が開くと遅れたという気になる。いい傾向だ。
でもFGO四章やってたから仕方ない。

というか一週間かけてようやく響未来の和解回を考えついたとも言う。


やはり少女の悩みは尽きない。

side未来

 

 

 

「……」

 

 

朝、着ていたパジャマを脱いで制服に着替える。歯を磨いて、ご飯を食べて、支度を済ませた鞄を持ち上げて、雨が降っているから傘をさして、学校へ向かって歩き始める。そんないつも通りの今日。

 

…だけどいつもと違う。並んで歩いていたはずの片側が、いつもよりも広く見える。話しながら歩いていたはずの道を、いつもより静かに歩いていく。隣と前を見ながら歩いていた道で、下を向いて進んでいる。

 

響を置いていつもより早い時間に家を出たけれど、幾度も幾度も頭によぎって消えない映像が流れている。比企谷くんが見せてくれた響の映像。

 

知らない響。見たことない響。私の知らない響。子供を連れてノイズから逃げようとする響。シンフォギアを纏って右往左往する響。翼さんにぶつかっていく響。ノイズに立ち向かう響。鎧の女の子と戦う響。どれもこれも私の想像もしていない響だった。

 

………それなのに、ずっと納得に近い感情が渦巻いている。

 

 

 

…なんて、響らしい。

 

 

 

人助けが趣味だと、自己犠牲のように奔走する響を知っている。本当は臆病で、それをへたっぴな嘘で覆い隠そうとする響を知っている。相手がどんな人でも、真正面からぶつかろうとする響を知っている。だけどその陰で、静かに涙を流している響だって知っている。

 

 

「……私、何やってるんだろ」

 

 

懐に眠っている二課の通信機がズッシリと重量以上の重みを持ってのし掛かる。何故私は昨日これを受け取ってしまったのだろう。不安定な精神で、それでも響を助けたいと思ってしまった。比企谷くんの手に握られた通信機を取ったのは間違いなく自分で、自分が何をしたいのか分かっているはずなのに、それを伝え行動することができない。

 

 

「………へたっぴだ、私」

 

 

誰かの心に踏み込むのが苦手。それが親友だったとしても。今の関係に満足していたい。だから踏み込まない、踏み込めない。私が立ち止まっても、みんな前に進んでいるのに。

 

たった一歩を踏み出せない。この通信機はその一歩のはずなのに。

 

 

「……ぅぐ」

「えっ?」

 

 

下を向いてグルグルと考え込んでいた頭に、小さな呻き声が飛び込んでくる。朝早くで人通りの少ない商店街には不釣り合いなそれは、路地裏で倒れている銀髪の少女から聞こえてくる。雨に打たれ、泥だらけになっている姿に気づけば駆け寄っていた。

 

 

「大丈夫!?」

「……ぁ?…っ」

「痛いの?すぐ病院に…」

「……!病院は、ダメだ…!」

 

 

ダラリと垂らしていた手の力を振り絞るような勢いで腕を掴まれる。だけどその手もすぐ落ちてしまうくらいに弱々しい。それどころか力尽きる様に少女は気を失ってしまった。

 

 

「…どうしよう」

 

 

病院に連れて行くのが一番だがそれは少女が拒んでいる。だったら二課の人達に頼めば助けてくれるかもしれない。そう思って懐から通信機を取り出した。

 

 

「……まだ、ダメだよね」

 

 

だけど、その通信機を使用することがひどく躊躇われる。昨日二課の協力者としてその立場を受け入れはした。だが、その立場にいると自分がはっきり言えるのか。そう自問すると、心は否と返してくる。

 

…響の力になれる、その自信がなくなっているんだ。

 

 

「……だったら」

 

 

通信機ではなく、携帯を取り出す。そしてある人物の元へ電話をかけた。

 

 

「もしもし!すぐ来て!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

in路地裏

 

 

 

 

「……こいつ、行き倒れる趣味でもあるのか?」

「え、比企谷くん知ってる子なの?」

「……。まあ、な」

 

 

雨の日の路地裏。何故俺はこんな朝早くからこんな場所にいるのだろう。雨が降っていれば自転車では登校できないので少し早めに起きなければいけない事実はあった。だが小日向に呼ばれたとはいえ、行き倒れ少女の世話をする事になるとはな。

 

 

「……しかもまた雪音だし」

 

 

切羽詰まった小日向の声に詳しい事情を聴く暇がなかったが、現場に来たら大体の事情を察してしまった。見たことのある顔を見たことある苦悶の表情に染めて気を失っている雪音は、あの日の夜と同じ顔をしている。

 

…二課と敵対してるなんてあの頃は想像もしていなかった。もし事情を知っていたら二課の誰かに報告していただろうに。いや、今もしなければいけない事態なのかもしれないが、もう俺は二課とは無関係。小日向が二課に連絡しないなら俺が口を挟む意味はないだろう。

 

 

「…とりあえずどっかに運ばないとな。屋根があっても体温が下がるだろうし」

「うん…。とりあえずフラワーに行ってみない?おばちゃんなら助けてくれるかもしれないし」

「そういや近いな。そうするか」

 

 

俺が来るまで小日向が傘を雪音の上にさしていたようだが、その前から濡れていたようで服も髪もびしょ濡れだ。ただでさえ行き倒れるような状態なのにこれで体調を崩しては目も当てられない。フラワーまでとっとと運んでしまおう。

 

………まあ問題はどうやって運ぶかってことなんだが…

 

 

「じゃあ私が傘をさすから比企谷くんはこの子をおんぶしてくれる?」

「まあそんな流れだよな知ってた」

「?」

 

 

…いや別に文句があるわけじゃない。女子に女の子担がせて俺は傘を持つ係をやるとか、なんか、色々終わっちゃいそうだし。

 

……だけどほら、ね?

 

 

「……よっと」

 

 

気を失っている人間は重い。水を吸った服は重い。ある程度覚悟を決めて雪音を背負えば、その重みや吸った水を押しつけるように伝ってくる冷たい感触に加えてとても柔らかい感触。雪音の双子山が背中に根を張る感触がぴっちりと伝わってくる。それだけで身体が軽くなると錯覚するなんて…やだ男って単純!

 

 

「……よし、行くか」

「うん」

 

 

歩き出せば落ちないように雪音の足が触れるし、意識がないから双子山は離れる気配がない。隣では心配そうな小日向がいるというのに煩悩が頭の中でサンバを踊り続ける不思議空間。人助けの最中とはいえ男の男たる所以ではあり、いささか顔が熱くなるのは仕方ないことと言えよう。言える。言わせて?

 

 

「おばちゃん!」

「あら未来ちゃん?こんな朝早くからどうしたの?」

「女の子が倒れてて…。少しだけ休ませてあげられないかな?」

「んまっ!大変じゃない!早くおあがり!布団敷いちゃうから」

「ありがとうおばちゃん!」

 

 

煩悩滅却すれば火もまた涼し。防ぎきれない雨を冷却装置にしながらフラワーに辿り着けばあれよあれよと雪音の病床が出来上がった。濡れた体は丁寧に拭かれ、濡れた服は小日向の体操服に変えられている。暖かい布団に包まれた雪音の顔色は次第に良くなっていた。

 

……あ、もちろん着替えやらの間俺は叩き出されてました。近場のコンビニまであの夜のようにあんぱんやら牛乳やらマックスコーヒーやらを買いに行っている間に大体の行程が終了していたあたり、おばさんの手際はとても良かったのだろう。

 

…雪音の下半身が未だポンポンスーであることを伝えてくれたことも含めて。いや必要な報告ではあったのだろうけど。おかげで雪音が寝ている部屋に入る事が出来なくなってしまっている。部屋の外で座禅を組む自分が妙にしっくり来てしまった。

 

……というか。

 

 

「……ここまでなったら俺いらなくね?」

「もう、すぐそういう事言って。友達が倒れちゃって心配とか思わないの?」

「いや友達じゃないし」

「………。…友達に友達じゃないって言われるの、人によってはすごく傷つくよ?」

「いやほんとに友達じゃないんだが…」

 

 

こいつ行き倒れるの二回目なんだよーと言ったら小日向はどんな顔するのだろうか。一応雪音と小日向はすれ違い通信レベルの出会いを一昨日してはいる。だが雪音はあんなフルフェイスで、しかも立花の変身に俺の気絶。どったんばったん大騒ぎの中で顔を事細かに覚えていろというのは無理な話か。

 

 

「うっ……ん?」

「あ、よかった。気がついたのね。濡れてたから着替えさせてもらったわ」

「勝手なことを…!………っな、なんでだ!?」

「さ、さすがに下の替えは持ってなくて…」

 

 

 

心頭滅却煩悩退散焼肉定食悪行即瞬殺。聞こえない。俺には何も聞こえない。雪音のポンポンスーが多分ご開帳されてそうな室内の声なんて聞こえない。何故俺は透明人間じゃないのだろう。煩悩が足りてないのだろうか。

 

 

「比企谷くん、彼女目が覚めたみたい」

「お、おう。聞こえてる」

「…ひ、比企谷だと!?」

「あっ!布団からでちゃダメ!」

「………」

 

 

わたわたギャーギャーと静かなはずの一室が姦しく音を立てているあたり雪音もだいぶ回復はしているらしい。水浸しのままではこうはならなかったろうし結果オーライなのだろう。

 

しかし今の反応で俺が覚えられている事が確定してしまった。この間は気絶してしまったせいで勘違いかとも思ったが、やはり俺も認識されていたようだ。

 

 

「……もう入ってもいいよ」

「そ、そうか」

「……」

「……よう」

「……ん」

 

 

部屋に入れば布団を鎧のように全身くるまった格好の雪音が顔を赤くしながら出迎えた。小日向も少し赤いのでまたポンポンスーがご開tyゲフンゲフン。というか体操服に書いてある【小日向】の部分が可哀想なことになってるのはツッコんだら負けなんでしょうか。いや社会的に負け、むしろ死か。見ないようにしよう。

 

……それにしても俺は雪音を覚えているし、雪音も俺を覚えている。だからといって何を話せばいいのかはイマイチ分からない。リア充なら「よう!また行き倒れたのか!?」なんて明るく切り出せるのかもしれないが、俺と雪音はよくて知り合い、そうでないなら他人程度の関係。そんな人間との関わり方はこの人生習ってなどいないのだ。

 

 

「……」「……」

「……えと、二人は友達なの?」

「違う」「違え」

「……えぇ…」

 

 

ハモるように否定すれば小日向に胡乱気な目で見られる。というかなんだそのジト目。コッチミンナ。

 

 

「……前に一回…。二回?会った程度だよ」

「……本当?」

「おう」

 

 

じーっと見られても嘘をついてないし、後ろめたいことも何もない。初めて会った時は赤の他人。二回目はギリギリ二課の人間かもしれないが気絶したのでノーカン。現在はもう二課の人間じゃないので俺と雪音を繋げる関係性なんてものはない。

 

……雪音も意識が戻った。なら早々に立ち去ろう。

 

 

「……ああ、そうだ。これ見舞いのやつ」

「……サンキュ」

 

 

コンビニの袋を渡せば二回目ということもあり、あっさり雪音は受け取った。というか少し食い気味に奪われた気もする。ガサゴソと袋を漁っては首を傾げ、またガサゴソと漁る。猫かよ。

 

 

「……アレはないのか?」

「アレ?…あるっちゃあるけど」

「くれ」

「……いいけどよ…」

「アレ……ってなに?」

 

 

不思議そうに見つめる小日向を放置して鞄からアレ、マックスコーヒーを取り出す。自分用に買ったつもりだったが飲まなくてよかった。煩悩と戦って忘れていただけだったが、それも意味があったということか。

 

 

「あった」

「…黄色…黒…。すごい色してるね」

「千葉県のソウルドリンクだ」

「私見たこともない…」

「最近置かないところも増えたからなぁ。ほらよ」

「……っ」

 

 

今度こそ奪い取られ、雪音は我慢できないように忙しなくカチッカチッとプルタブを空振りながら開けると、まるで初めてあった時の焼き増しのように一気に缶を傾けた。

 

…ごくっごくっと雪音が喉を鳴らす音だけが部屋に響く。前のように吹き出すような事はしない。何かを振り払うように、何かを流し去るように、雪音は勢いよくマックスコーヒーを飲んでいく。

 

だが然程大きくない容器は、あれだけ一気に飲めばすぐに空になる。名残惜しむように空の容器を振り、ようやく全部飲み干したと認めて体勢を元に戻した。

 

………そんな、子供のような飲み方でコーヒーを飲み干した雪音の瞳からは、一筋の涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………あぁ。あまいなぁ…」

 

 

………俺も、小日向も。何一つ言葉を紡ぐ事が出来なかった。隠す事のない雪音の顔を、正面から見てしまったから。

 

 

…噛み締めるような、悲しい笑顔を。

 

 

 




とりあえずイベントが起きたら八幡突っ込んでおこうのスタイル。
マッカンは世界を救う。


ジェノサイドソウ・ヘヴン好き。
二期:だからこんな世界は切り刻んであげましょう

三期:切り刻むことない世界に夢抱きキスをしましょう。
分かりやすい変化と成長がわかるワンフレーズは推し。

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